「………どう………いう……こと……」
床に倒れ伏していたシャイニングが、まるで信じたくない、否定してくれとでもいいたげにしながら、言葉を漏らす。
「簡単なこと。ブラックルーイの脳は、度重なる洗脳による負荷で、壊れた。もう2度と戻らない。今度こそ、永遠に」
「う………そ………」
シャイニングの顔が、絶望に染まる。
私も、彼女と似たような気持ちになってしまっている。
…………ブラックルーイを、救えない?
私と同じ、いや、それ以上に酷い目にあって。組織に食い物にされてしまった、そんな彼女を……。
「ふざ……けるな…! そんなことをして、許されるものか!! 私は……私は認めない!! 『クイックポイズン』」
「『クイックポイズン』。……相殺したよ。………どうして、そう助けようとするのか。……無駄だから、さっさと諦めて」
諦めたくない。助けられないなんて、認めたくない。
………彼女を……光千夜を、私は救いたい。だから……。
「私は、諦めない!」
「……………ああ、本当に。絶望を知らないんだ。なら、いいよ。………私が教えてあげるから。『ドラゴンバースト』」
幹部の彼女が唱えた途端、巨大な炎の龍が私の目の前に現れる。
直接触れていないのに、その龍から感じる熱気は、私を溶かしてしまいそうなほど熱くて。
「うっ………」
「逃げないと死ぬよ。別に死にたいならそれでもいいけど」
近づけない……。炎の龍、倒せるビジョンも浮かばない。
目の前に、光千夜がいるのに。私は、手を伸ばすことすら許されない。
……私じゃ、組織の暗闇から救い出すことも、できない……。
「……なんで……なんで!!」
自分の弱さに反吐が出る。どうして私はこんなにも無力なのか。せっかく魔法少女に変身できたのに、私は……病弱だったあの頃の私と、何にも……。
「平和ボケした頭だから、そんなことが言えるんだよ」
「何を……」
「救いたい、なんて、それは既に救われているものしか吐けないセリフなんだから。満たされて、足りている。そんな君だから、平然と他者を助けたいって言えるんだろうね」
「何が言いたいの……?」
「救えない存在もいるってこと。救われたくても救われない。そんな奴だっている。だから、諦めなよ。どうせ全部、無意味なんだから」
諦めたような口調で、彼女は言う。まるで、最初から何もかも無意味であるとでも言いたげな様子で。
………無気力。そんな言葉が、正しいのだろうか。目の前の彼女は、どこまでもやる気を感じられなくて。
一体、彼女は何を……。
「『リリースサイクロン』!」
「『フライングフェザー』!」
目の前の幹部の少女について考えていた、その時。横合いから、2人の声が聞こえてきた。
………スターチスとライオネルだ。加勢に来てくれたんだろう。
けれど…。
「『リリースサイクロン』、『フライングフェザー』」
少女は、どちらの攻撃にも、同じ攻撃で相殺する。
他者の魔法を模倣する魔法。これがある限り、私達に勝機はない。どころか…。
「な、何よあの大きな龍は……」
「私達の攻撃も相殺された上、あの龍も相手しないといけない…。たとえサマーが加勢してくれたとしても、これじゃ…」
『ドラゴンバースト』と唱えたことで出現した、大きな炎の龍。これをどうにかしない限り、私達はブラックルーイ達に近付く事すらできない。
『リリースサイクロン』や『フライングフェザー』のように、遠距離からの攻撃を狙える魔法でも、向こうが模倣して同じ魔法で返されてしまえば、それでその魔法は対処されてしまう。
「……どう、すれば……魔法を模倣されたら、それだけで……」
「………なら、対処されない方法を考えればいいのよ」
「ライオネル?」
「私には『インビジブルガンパレード』って魔法があるわ。これがあれば、不可視の弾丸を敵に叩き込むことができる。………仮に模倣されたとしても、どこにどの弾丸があるのか、向こうには見えない。だから、対処される心配はないわ」
「けど、向こうに模倣されたら、向こうも同じ魔法が使えるようになる。そうなったら……」
「だから、一発で決めるのよ。……2人には、私が『インビジブルガンパレード』を使う隙を作って欲しい。安心して。決まれば、確実にあいつを仕留められるから」
ライオネルはそう言って駆け出す。
………この状況は絶望的だ。炎の龍を倒す手段は、全く思いつかない。
……なら、彼女の提案に乗ってみるのも、アリかもしれない。
「スターチス、隙を作るよ」
「分かってる」
私達は炎の龍と幹部の少女の気をひく。スターチスが幹部を、私が炎の龍の相手をし、ライオネルが『インビジブルガンパレード』を放つ隙を作る。
最大限引き寄せる。私とスターチスに注目させる。その目的で、魔法を次々と放つ。魔力切れは気にしない。どのみち、ライオネルの『インビジブルガンパレード』で決め切らなければ、負けるのだから。
そう思い、全力で魔法を行使していると、ライオネルの準備が整ったようで。
「2人とも、いけるわ! さあ、行くわよ! 『インビジブルガンパレード』!!!」
「『
ライオネルが『インビジブルガンパレード』を放つ。
不可視の弾丸は、そのまま幹部の少女に……。
「な………んで……」
「………え………?」
幹部の少女は、無傷だった。確かに、ライオネルは『インビジブルガンパレード』を放ったはずなのに。
けど、それに反するように。
なぜか、スターチスの方が、まるで無数の弾丸を喰らったかのような傷を負っていて。
「は……?」
「『インビジブルガンパレード』」
追い討ちをかけるように、幹部の少女が『インビジブルガンパレード』を放つ。
「やったわ! うまく決まったわよ、スターチス、ホワイト!」
そして今度は、なぜか喜んでいるライオネルの体に。
不可視の弾丸による攻撃が、叩き込まれる。
「……あ………ひっ………」
私以外、全員やられた。
しかも、わけもわからないうちに、こんなにもあっさりと。
「……あ、どう……したら……」
『ホワイト……こうなったら、取れる手段は一つしかないクル』
そうだ。このまま戦っても、私じゃアレに勝てない。
私1人の力じゃ、何にも……。
「わ、かった。クール、お願い」
私がそう言うと、クールは私の変身を解除する。
生身の人間となった私の様子を見て、クールは戦場から去っていく。
「……? どうしたの?」
「降伏する。私にはもう、魔法少女として戦う力はない。契約妖精も逃げたし、抵抗する術は持ち合わせてない。だから……」
命乞いをするしかない。どのみち、ブラックルーイとの戦いで、私の……白沢薬深の素性はバレている可能性が高いのだから。ここで姿を曝け出すことのデメリットは、少ないだろう。
そう思い、私は両手を挙げて降伏の意思を伝える。が、どうにもその様子が、幹部の少女にとっては気に食わなかったようで…。
「当然のように命があると思ってるの? 見逃してもらえると? ……浅はかだね。それもそうか。きっと、心のどこかで思ってるんでしょ? 死ぬことはない、見逃してもらえるはずだって。……確かに、『ワ・ルーイ』は効率的な負のエネルギーを求めてるし、その上で魔法少女の存在が必要なことは認めてる。だから、積極的に殺すことはない。けど……」
幹部の少女は、炎の龍を宥め、その場に留めさせた後、私の方へゆっくりと歩き続けながら、言う。
「別に、1人や2人殺したところで、何ら問題はないんだよ。結局、効率の良し悪しの問題でしかないし、君1人がいなくなったところで、魔法少女は他にもいるわけだから。………代替なんて……模倣なんて、いくらでもできる、いくらでも、代わりはいる。そこに価値なんてない。そいつ自体に、意味なんてない」
口調は、淡々としているように聞こえる。けど、その声は、心の奥底で、どこか怒っているかのようにも聞こえてきて…。
「だから、殺すね。言ったでしょ? 本当の絶望を教えてあげるって」
言って、彼女は私の首を掴む。
「じわじわと殺してあげるよ。当たり前のように平和に生まれて、生きることが当たり前だった君に、死という終わりを与えてあげる」
「ぐっ………あ………ぅ……」
ゆっくり、ゆっくりと、少女は私の首を絞めていく。
段々と、呼吸ができなくなっていく。
息が……くるし………
あ………
「『白蛇』」
「っ…!?」
意識が沈みかけたその時、突如私の首を絞めていた少女の手が、私の首から離れていく。
「がはっ………げほ……ぐぇほっ……!」
必死に呼吸を繰り返しながら、私は何が起きたのか、状況を把握するためにも、顔を上げる。すると、そこには……。
「………ごめんね。待たせちゃって」
桃色の装飾があしらわれた綺麗な純白のドレスに。
白蛇が巻き付いた白いステッキ。
そして、先の方だけ桃色の入った、ほぼ純白に近い、美しい銀の髪に。
皆に好かれそうなくらい、元気をもらえるような、太陽みたいな笑顔。
そうだ、彼女は……。
「だ……れ……? それに、この蛇……いったい……」
「その蛇は、毒を持ってる。魔法を使えば使うほど、その毒は進行するよ。………解毒して欲しかったら、もう皆には手を出さないこと。それが約束できるなら……私は許すから」
「………くそげー…………。分かった。今日のところは引く」
幹部の少女は、舌打ちをしながら、そう言う。
………助かった。彼女が来なければ、後もう少しで、私は……。
『薬深! 怪我はないクル!? 大丈夫クル!?』
クールが、私のことを心配して駆け寄ってくる。私は、クールのことを心配させないように、笑顔で大丈夫と伝えておく。
そして……。
「……ありがとう。助かった」
「私も、もっと早くに来れなくてごめんね。………こうなる前に、来られたらよかったんだけど」
「仕方ないよ。クールはこっちにいたし。生身でこの戦場にやってくるのは、危ないから」
「それを言うなら、薬深ちゃんだって!」
そう、目の前の彼女は。
私の命の恩人で、大切な友人。
「……苺ちゃん、ありがと」
「え、う、うん。どういたしまして?」
桃乃瀬苺。
彼女が、クールと契約して魔法少女に変身した姿。
魔法少女、クールキューティだ。