………あれ? 俺は何して……。
「目が覚めましたか、ルーイさん。出撃お疲れ様です」
「幹部様、あの……」
確か、キュヴァちゃんと一緒に街の襲撃をしに行ってて……。それで俺、確か……。
半殺しにしろ、だっけ。そんなことを言われて、拒否したら……。
「えと、私って何してたんですか? 街の襲撃に出て行ったことは覚えてるんですけど……」
「キュヴァさんと共に帰ってきていましたよ。まあ、意識はない状態でしたが」
意識がない状態だった? どういうこと?
戦闘中に頭でも打って気絶したのかな。だから途中の記憶がなくて、混乱するような状況に陥ってる、とか…。
「……あのぅ……は、はじめまして……」
「へ? あ、はじめまして」
突然声を掛けられたから何事かと思えば、幹部様の隣には癖っ毛なふわふわボブな白い髪を持った、少しぽわぽわとした女の子が立っていた。
……こんな子いたっけ?
「ああ、ルーイさん、こちらはメェナさんです。以前組織に所属していたんですが、訳あって離脱していまして。最近再スカウトしたので、アジトに連れてきているんですよ」
「へ、へえ……」
まあ、幹部が立て続けにやられてる訳だし、そりゃ人員の補充はしたいか。
俺頼まれたら組織の幹部やるのになぁ……。お仕事頑張るよ? 頼まれれば。
「え、えへへ、私、どうやら有能らしいんですよぉ。まぁ、私が来たからぁ、『ワ・ルーイ』はますます発展すると思いますよぉ」
全然そんな風には見えないけどなぁ。まあ、幹部様がスカウトするくらいだし、何かしらの能力はあるんだろうな。有能って感じはしないけど。
「メェナさん、頼んでいた業務は進めていますか?」
「はい。進めてますよぅ。だって私、有能ですからぁ」
「では、引き続きよろしくお願いしますね。計画は順調に進んでいますから。それでは、ルーイさん、少し話しましょうか」
幹部様はメェナに指示を出し、部屋から退室させる。
俺と2人きりになった幹部様は、俺に正面から向き合う。……何か、話しておきたいことがあるんだろうか。
「さて、脳の異常はなさそうですね。まあ、廃人化されては私も困りますから」
「えーと、幹部様、脳の異常って……」
「街の襲撃時の記憶が一部欠けているでしょう? それはキュヴァさんの仕業ですよ。キュヴァさんが貴方に掛けた『支配の魔』が、貴方の記憶の空白を生み出しているのです」
キュヴァちゃんが? それに、『支配の魔』って一体……。
『支配の魔』、この単語、以前にも聞いた覚えがあるような……。
「混乱するのも無理はないですね。ゆっくりでいいですよ。説明は全てしますので」
流石は幹部様。できる上司は違うな。触手、手入れされててかっこいいですよ。よっ、イケメン。絶対モテますやん。
と、持ち上げるのはこれくらいにして。
「……あの、それじゃあ、『支配の魔』っていうのは……何なんですか?」
「文字通り他者を支配する魔法です。対象に暗示をかけ、思うがままに操ることができます」
「えーと、洗脳みたいな?」
「少し違いますね。洗脳は脳に干渉し、思考や価値観を書き換えるものですが、『支配の魔』は暗示をかけて一時的に行動を支配するに過ぎません。とはいっても、脳に多少は負荷がかかってしまうので、多用は危険ですがね」
……そんなものを、キュヴァちゃんは俺に……。
もしかして、俺が魔法少女を半殺しにすることを拒否したから?
………何で?
だって、キュヴァちゃんは組織の仕事に忠実な子じゃなかった。魔法少女を半殺しにしなくたって良かったはずだ。俺に強制させる必要なんて、なかった。なのに……。
「幹部様、キュヴァちゃ……様は、どうして私にそんな魔法を…?」
「私は知りません。ただ、そうですね。……キュヴァさんのことを知れば、多少なりとも推測はできるんじゃないでしょうか? 私が独自に調べた資料があるので、そちらを渡しましょう」
幹部様はそういって、自身の作業机の引き出しから、1つの資料を取り出す。
キュヴァさんについて、とデカデカとしたタイトルが表示された資料だった。
「これは………」
「キュヴァさんについてまとめたものです。……ああ、他の幹部に見せたりするのはお勧めしませんよ。………そして、これを読んでどうするかはルーイさんに委ねます。……キュヴァさんとの交流を続けるのか、彼女との深い付き合いを諦め、ビジネスだけの関係にとどめるかは、ルーイさんにお任せしますよ」
そっか。これを読めば、キュヴァちゃんのことが多少は……って。
「幹部様、あの、私とキュヴァ様の関係を……?」
「仲が良いということは知っていますよ。別に、会議の場でなければ呼んでもいいんですよ。いつものようにキュヴァちゃんと」
「え、えぇ……」
か、幹部様、ジェネちゃんのことも知ってたし、一体どこまで情報を持ってるんだ…?
流石に俺が光堕ちしたいってことは知らないだろうけど、ワンチャンもう1人の千夜ちゃんのことは知られててもおかしくなさそうだなこれ。
………まあ、いいか。とりあえず、幹部様は俺の利になる行動しか今の所してないわけだし、優先するべきはキュヴァちゃんだ。
………俺はできれば、キュヴァちゃんとは仲良しでいたい。一緒にゲームできる仲だし、できれば、組織の幹部として、魔法少女達に討伐されるなんて展開は避けたい。
だから、知る必要がある。キュヴァちゃんが、何を抱えていて。
どうして俺を拒絶し出したのか。
俺は、資料を開く。
最初に目に入ったのは、キュヴァちゃんの容姿の概要。他の魔法を模倣できるという情報。そして、勤務態度についてだった。
これに関しては、俺も知っている情報で、特段目につくものはない。
次のページを開く。
……そこに載っていたのは……。
「キュヴァちゃんの……出自……?」
「私や他の幹部も、彼女がどこからやってきたのか、一切知りませんでした。ですので、彼女の出自について、私が独自に調べてみたんですよ」
キュヴァちゃんが生まれたのは、悪の組織『ワ・ルーイ』の中でも、クロマックが滞在している本部。そこで、人工的に生み出されたらしい。
「彼女が生み出されたのは、他の幹部がクロマック様に反逆を企てた際、そのストッパーを行うためです。だから、他の幹部の魔法を模倣できる『模倣の魔』を持っていたんでしょうね。もっとも、ヒンナさんの魔法は強力過ぎて完全には模倣できなかったみたいですが……」
そうか。だからコピーとかいうチート魔法使えてたんだ。元々、他の幹部を相手にできるようにって想定だったんだね。
俺はページを捲る。キュヴァちゃんが組織によって生み出された存在だっていうのはわかった。けど、キュヴァちゃんが何を考えて生きているのか、それはわからなかったから。
「魔核………っていうのは……?」
「キュヴァさんの中に埋め込まれた、まあ、魔力の源のようなものですよ。それがあるからこそ、彼女は他の幹部の魔法を模倣できるんですよ。……逆に言えば、それがなければ模倣はできない、ともいえます」
キュヴァちゃんの中に埋め込まれた魔核。それは、キュヴァちゃんの生命活動を促進するものでもあるらしい。けど……。
「魔核にはいつでも遠隔で機能を停止させることができる細工が施されています。まあ、クロマック様はキュヴァさんが裏切るリスクも考慮していたんでしょうね。絶対に裏切れないように、そういう機能を設けたのでしょう」
つまり、クロマック君がその気になれば、いつでもキュヴァちゃんの命を奪える、と。
キュヴァちゃんの命は、組織が握ってる。だから、キュヴァちゃんがもし、組織を抜け出したいと思っても……。
クロマック君が裏切ったことを知れば、魔核の機能を停止させてしまうから、裏切れない。
………キュヴァちゃんは、この事実を、どう受け止めているんだろう。
俺はページを捲る。
キュヴァちゃんは、いつでも代替可能な存在でもあるらしい。用済みだと判断されれば、簡単に処分され、また新しい“模倣少女”が生産される。魔核さえ取り出せば、無限に“模倣少女”を作成することができるから。
「………奴隷みたい………」
「実際そのつもりでクロマック様はキュヴァさんを作ったんだと思いますよ。まあ、キュヴァさん自身は自由に生きてますからねぇ」
確かに、サボったり、ゲームしたり。好きなように動いているように見える。
けど、こうして縛られて、逃げ出すこともできない状況に置かれたら。
………それは本当に、自由と言えるのだろうか。
何より、俺が1番気がかりだったのは……。
「……幹部様、キュヴァちゃんの余命が、僅かだっていうのは……」
「魔核で生命を支えるには、限界がありますからね。……キュヴァさんの寿命は、せいぜい1年ほど。しかし、魔核を酷使しすぎれば、その余命が縮まったっておかしくはありません。まあ、だからこそ仕事をサボりがちなんでしょうね。自身の寿命を縮めることを進んでやるような自殺行為はしたくないでしょうから」
………また、余命。
ジェネちゃんの時も、そうだった。
残り僅かしか生きられなくて、悪役として死のうとしていて……。
キュヴァちゃんは、どうなんだろう。
悪役として、死のうとしてるのかな。
……でも、そんな風にも思えなかった。あの時のキュヴァちゃんは、どこか感情的なようにも思えて……。
【………愛してる】
………もう、嫌だ。
あの時みたいな、悲しい思いをするのは、もう。
また失うなんて、そんなの、嫌だ。
「………幹部様………」
「どうしたんですか、ルーイさん」
「キュヴァちゃんを助ける方法、ないんですか…?」
もう、ジェネちゃんみたいに、犠牲にしたくはない。
キュヴァちゃんと仲直りしたいし、キュヴァちゃんに生きていてほしい。
一緒にゲームした仲の子が死ぬなんて、そんなの辛いから。
「……なるほど。ジェネシスの死、それなりにこたえてたみたいですね。だからこそ、もう2度と同じ思いはしたくないと。顔にそう書いていますよ。……まあ、助ける方法ならなくはないんじゃないでしょうか」
「………本当?」
「要は、魔核以外に、キュヴァさんの生命を繋ぐ“何か”を用意すればいいんですよ。つまり、魔核の代わりの心臓を用意してあげればいい。ま、具体的にどうするかと言われても、分かりませんがね。実際、キュヴァさんの出自は特殊ですから。心臓を用意したとして、それがうまく彼女に適合するかは別問題ですし」
………そっか。ジェネちゃんの時は、俺の体をあげるくらいしか、多分助ける方法はなかったし、俺がジェネちゃんの真実を知った時には、もう手遅れだった。
……けど、キュヴァちゃんの場合は、心臓さえ用意してあげれば、まだ助けられる。
ジェネちゃんの時とは違う。まだ明確に、助ける方法が残ってる。
「………ありがとう幹部様。ちょっと考えてみる」
けど、その前に。
キュヴァちゃんと、仲直りをしたい。結局、どうして俺にあんな態度を取っていたのか。それはわからないから。真正面から話して、仲直りして。
キュヴァちゃんのことを助けたいって、ちゃんと伝えよう。
死んでほしくないし、これからも仲良くしてほしいって、伝える。
だから……。
「幹部様、私、ちょっとキュヴァちゃんのところに行ってきます。………後悔したくないので」
「………まあ、そうなるだろうとは思ってましたが。構いませんよ。私は私で、やることがありますから」
俺は幹部様に一言告げて、アジトから出ていく。
……目指すは、旧トーレストのアジト。
キュヴァちゃんがいる、その場所へ。