旧トーレストのアジト。今はキュヴァちゃんのアジトとなっているその場所に、訪問する。
………まずは、キュヴァちゃんとの仲直りからだ。
手荷物は………OK。道中で買った”アレ“は、ちゃんと持ってきている。
………拒絶されるかもしれない。だって俺は、どうして急にキュヴァちゃんの態度が変わったのか、全く分からないんだから。
心当たりがあるとすれば……。
【うそつき】
幹部会議の時の、あれくらいだろうか。
………まあ、とにかく当たって砕けろだ。
俺はキュヴァちゃんの元まで、一直線に進む。キュヴァちゃんのアジトは大きな地下の階段を降りた先にあって、地下に降りるとだだっ広い空間が広がっている。
多分、前の幹部だったトーレストが巨体だったから、その巨体を収められるだけの大きさに設計されているんだろう。
俺はまっすぐ進み、おそらくキュヴァちゃんがいるであろう部屋をノック。
返事がない。けど、引き返すわけにはいかない。
俺はそのまま、無遠慮に部屋に立ち入る。すると、そこには……。
「…………何の用?」
………いた。キュヴァちゃんだ。
「キュヴァちゃん、話したいことがある」
「キュヴァ様、の間違いでしょ。モルモットの癖に、幹部を呼び捨てにしていいと思って……」
「私は……! ………キュヴァちゃんのこと、友達だと思ってる。………組織の幹部とか、そういう目を抜きにして。………友達として、キュヴァちゃんと話したい」
「っ………」
俺の言葉に、キュヴァちゃんは一瞬動揺したような表情を見せる。友達、という言葉に、反応していたようにも見えた。
「………お願い、キュヴァちゃん。私は、キュヴァちゃんと仲直りがしたい。また一緒にゲームがしたいし、街の襲撃だって、あんなギスギスした感じでやりたくはない。だから………」
「……う……るさい。そうやって、距離を詰めて、絆してしまえばどうにでもなると思ってるんでしょ? 私のことなんて、どうでもいい癖に………善人ぶって、そうやって………」
キュヴァちゃんは、俺のことを突き放すかのように言う。
拒絶。だけど、それは、心の底から俺を嫌っているから出たものとは違うように見える。やっぱり……。
「………キュヴァちゃん、ゲームしない? ………仲直りするために、ゲーム機も持ってきたんだ。………だから……」
「キュヴァちゃんなんて呼び方、許可してない。………私は一度も、私のことをキュヴァちゃんと呼んでいいなんて言ってない」
「言ったよ。キュヴァちゃんでいいって。幹部になる前に」
「……冗談抜きで、言ってない。私は、キュヴァで良いって言っただけで、キュヴァ”ちゃん“で呼んで良いとは一言も言ってない。記憶を捏造しないで」
「あれ? そうだっけ?」
「うん。そうだよ。証拠は残ってないけど、確かに私はキュヴァで良いとしか言わなかった」
………えーと。言われてみればそうだった気がしなくもないような……?
え、じゃあ俺、本当に勝手にキュヴァちゃん呼びしてただけだったの?
無許可だったの? あ、あれあれあれぇ?
「………やっぱり、ルーイは嘘つきなんだね。そうやって私を騙して、懐柔して。都合の良いように使いたいんだ。………私との思い出とか、どうでも良いと思ってるんでしょ。……だから、私との会話も、曖昧な形でしか覚えてないんだよ」
「ち、違うって。私は、キュヴァちゃんと過ごしてて楽しかったし、キュヴァちゃんとの思い出は大切なものだって、そう思ってるから! だからここに来たし、仲直りしたいと思って……!」
「本当に私と仲が良いと思ってるなら、何で隠し事なんてしたの?」
「え……?」
「ジェネシステネーブルの件。私は一切知らされてなかった。後から、ヒンナを問いただして事情を把握しただけで、ルーイからは一切、ジェネシスの話を聞かなかった。………話してくれるかなって、待ってたのに……」
「それは……」
確かに、そうだ。ジェネちゃんの一件を、俺はキュヴァちゃんに話してなかった。
キュヴァちゃんだって、ジェネちゃんのアジトにちょくちょく通ってきてたくらいだし、交流はあったんだから、報告するのが自然な流れだっただろう。
なのに俺は、キュヴァちゃんに何も……。
「ごめん。それは……確かに私の落ち度だよ、ジェネちゃんの件、キュヴァちゃんにも、私の口から話すべきだったと思う」
「皆………私を裏切るんだ……。ラフ君も、ジェネシスも……ルーイも………皆、皆……!」
キュヴァちゃんは、頭をくしゃくしゃと掻きながら、冷静さを失った、焦ったような声を漏らす。………その様子は、まるで癇癪を起こした子供みたいで。
「キュヴァちゃん……。本当にごめん。騙すつもりはなくて、ただ……」
「………うるさい。皆、私を利用することしか考えてないんだ。………ラフ君も、一緒にゲームしたのに……結局私を支配することしか考えてなかった! ……ジェネシスも、私を利用するだけ利用して……。イコルだってそうだ。一緒に戦ったことだってあるのに、私のことを一切信頼してなかった。……皆、皆……」
…………そっか。
もしかしたら、キュヴァちゃんは。
………孤独だったのかもしれない。
悪の組織に生み出されて、クロマック君は、自分を利用することしか考えてなくて。
ラフの件はよく知らないけど、ジェネちゃんの一件で、誰も自分に情報を教えてくれなくて、幹部会議で初めて知ることになって。
自分の味方がいないんじゃないか、良いように使われてるんじゃないか、とか、段々とそういう思考に支配されて………。
それで、俺のことも敵とみなすことしかできなくなったんだろうな。
「キュヴァちゃん……」
俺は、キュヴァちゃんの体を抱きしめる。
俺は、キュヴァちゃんの味方だと示すために。
かつてジェネちゃんが、俺の体を抱きしめてくれた、あの時のように。
今度は俺が、キュヴァちゃんを。
「はなして………」
「………私は、キュヴァちゃんのこと、裏切らないから。………キュヴァちゃんの味方だから。……だから……」
「………じゃあ………じゃあ、何で……何で嘘をついたの……?」
キュヴァちゃんは、縋るような口調で言う。まるで、親に置いて行かれた子供みたいな口調で。
「へ?」
「幹部会議の時……どうして、ジェネシスの正体を知らなかったって……言ったの…?」
そっか。
あの時から、キュヴァちゃんの様子はおかしくなってた。
あれがきっかけで、俺がキュヴァちゃんの味方じゃないって、そう思わせちゃったんだ。
「………ごめん、そんなつもりじゃなかった。その……あの時は他の幹部もいたし、当たり障りのないように回答しなきゃと思ってたから。……あと、そこまで嘘もついてなかったような気がするんだけど……」
「………いや、嘘はついてた。『公正の魔』が反応してたから」
「? 何それ?」
「………何でもない」
嘘、ついてたっけなぁ。
あの時、何て答えたっけ。
確か……。
【……知らなかったよ。私がジェネシス様がマインドライフだったって知ったのは、ししょ………ヒンナ様が彼を始末した後のことだったから】
………あ。
そっか。嘘、ついてる。
俺がジェネちゃんの正体を知ったのは、ジェネちゃんは死ぬ前だった。
ジェネちゃんが死んだ後じゃない。それに、師匠がジェネちゃんのことを始末したわけでもなかった。
………嘘、ついてんじゃーん。何で気づかなかったんだろ?
というか、知らなかったよ、でとどめてたら、嘘じゃなかったくない?
あほなん?
いや、そりゃ嘘判別する方法なんてないだろうから、大丈夫だろうけどさ。でも、実際キュヴァちゃんには嘘ついてると思わせてしまったわけで……。
「ごめんキュヴァちゃん、嘘ついてたっぽい……。本当に、騙そうとか、そんなつもりじゃなくて……」
「………だったら、隠してること、全部話して」
「へ?」
「隠し事、今、この場で、全部私に話して。私の味方なら、私に秘密を全て打ち明けてよ。………もしできないなら、ルーイは、私の敵だから」
隠し事、全部かぁ……。
俺、何隠してるっけ。
まず、光堕ちするってことは隠してたね。んまあ、これくらいならジェネちゃんにも話してるし、まあ……。
他は、あるかな?
……………基本隠してないと思うけど、どうだろ。
そういえば、前世の話とかはしてないなぁ。でも、変にこれ言って嫌われたりしたら…。
……………………いや、何考えてるんだ。
キュヴァちゃんは、全部話してほしいって言ってるんだ。
それに対して、誠実に応えなきゃ。じゃないと、キュヴァちゃんに対する裏切りになる。
全部話すべきだ。もちろん、後でもう1人の俺には説明しなきゃだけど。
「………えと、まず、私には前世の記憶があります」
「…………前世の、記憶……?」
「魔法少女アニメ好きの男性でした。魔法少女大好きだったんだよ。けど、アニメ視聴中、とあるキャラが光堕ちする姿を見て、あまりの興奮に尊死してしまったんだよね」
「…………あ………えと、まず、前世があるのは分かった。別にそれは良い。けど…………光堕ちって何? 尊死って?」
「光堕ちっていうのは………」
俺は、キュヴァちゃんに光堕ちについてと、尊死について全て説明する。
時折キュヴァちゃんがは? みたいな顔をしていたが、一応は納得してもらえたみたいで…。
「………わかった。そんなこと、隠してたんだ。…………びっくりした」
うん、ちょくちょく、光堕ち………尊死……みたいに呟いてて、まだ咀嚼しきれてないんだろうなって感じはするけど、一応は納得してくれたみたいで。
「じゃあ、キュヴァちゃん。仲直り、してくれる……?」
「…………………うん。わかった。いいよ。仲直り、する。けど………」
「けど………?」
「………その代わり、光堕ちは諦めて」
「え?」
「光堕ちか私。どっちか選んで。………もし、光堕ちを選ぶなら、仲直りはできない」
ど、どうしよう………。
普通に考えたら、キュヴァちゃんを大切にするべきなんだろうけど……。
やだ。
やだやだやだ!!
オデ、ヒカリオチ、シタイ。
ユメ、アキラメタクナイ。
光堕ちを諦めるなんて無理だよ!! だって俺光堕ちのために生きてるんだから!
光堕ちエネルギーがなかったら、枯れて萎んでまう! 無気力になって死んでまう!
く、キュヴァちゃんを裏切る、とか、そういうので正直に前世の話とかしちゃったけど………。でもここは譲れないんだ! ごめんキュヴァちゃん!
「わかった。光堕ちよりも、キュヴァちゃんを大事にするよ」
「……うそつき」
何でぇ!?