私は戦場へと急ぐ。薬深ちゃんと、聖歌と一緒に。
キュートは、未だに夏場夕音の一件を引きずってるみたいだった。
幹部キュヴァの話では、夏場夕音は幹部マインドライフなんかじゃなかった。むしろ彼女は、千夜ちゃんを守るために、私達の前でわざと……。ということらしく。
「………本当だとすれば……」
「千夜に叔母を殺させた、その話も真実だということになるわね……。酷い話だわ」
「………ブラックルーイは、私の手を取らなかった。使命があるって、そう言って………。あの時、無理矢理にでも、あそこから連れ出していれば……」
薬深ちゃんは、後悔したような声色で言う。
多分、千夜ちゃんはもう手遅れだと、幹部キュヴァにそう伝えられたことが、相当ショックだったんだと思う。けど……。
「………まだ、分からないよ。千夜ちゃんのこと、救えないって決まったわけじゃないでしょ? ………諦めちゃダメだよ。私達が諦めたら、誰が千夜ちゃんを救えるの?」
「そう、だね……。まだ、可能性が消えたわけじゃない。………私は、絶対にブラックルーイを組織から救い出す。………あの組織の好きなようにはさせない」
「………不思議ね。苺が言うと、本当にまだ大丈夫な気がしてくるわ。………こういう時の苺の言っていることは、大抵当たることが多いからかしら?」
私達は互いに励まし合いながら、戦場へ向かう。私と薬深ちゃんはクールの力で魔法少女に変身し、聖歌は妖精の力を借りずに魔法少女へと変身を遂げる。
できれば、聖歌にはあまり単独での魔法少女の変身を行ってほしくはないんだけど、千夜を取り戻すまではって言って聞かないから……。
………戦場へ着くと、丁度怪人が2体ほど暴れ回っているところだった。
といっても、被害はそこまで大きくない。街の破壊も、小規模の物に留められているし、民間人は既に逃げ去ることができているみたいで。
スターチスやライオネルが先に戦場に来ていたので、彼女達の功績かとも思ったけど、どうにも2人ともさっきこの場所に着いたばかりらしく…。
……幹部クラスや、ブラックルーイが来てないからだろうか?
そんな風に考える私だったが、その予想は大きく外れることになる。
「………魔法少女……」
「お前は…! 幹部キュヴァ……!」
戦場にやってきていたのは、怪人だけじゃなかった。悪の組織『ワ・ルーイ』の幹部の1人、キュヴァも戦場に出てきていたのだ。
私達は警戒する。ムーンが戦えない今、キュヴァの模倣魔法は私達にとってかなり厄介だ。この前は不意打ちだったからなんとかなったけど、同じ手が通用するか……。
「待って。私には戦うつもりはない。妖魔を寄越したのは………貴方達を呼び寄せるためで、積極的に街を破壊しようという意識があったわけではないから」
戦闘態勢を整えようとする私達に対して、幹部キュヴァは両手を挙げ、戦闘意思がないということを全身で示してくる。
………どういうこと?
本当に、戦う意思がないってことなの……?
「騙されないから。この前キューティに負けたから、それでビビってるだけだ! キューティ、油断したら駄目。『ワ・ルーイ』の奴らに、良心なんてない。どいつもこいつも、クズで外道の塊だから」
「………今までのことは、謝る。だから、お願いしたいの。私とルーイを、助けて欲しい」
本当に、そうなのだろうか?
私に怯えているのなら、わざわざ戦場になんて出てこないはず。だとしたら、幹部キュヴァの言っていることは……。
「………どういうこと? 貴方とブラックルーイを助けて欲しいって、貴方は一体……」
「………私もルーイも、組織から抜け出したいと思ってる。けど……。それができない理由が、私達にはある。だから、貴方達を……魔法少女を頼るしかない」
幹部キュヴァも、組織を離反しようとしている?
どうして、何故……?
「そんなの、嘘に決まって……!」
「ルーイは、私を助けるために動いてくれてる。………多分、私を助けるまで、ルーイは組織に残り続ける。ルーイのことを助けるつもりなら、私のことも助けて欲しい。………どう? これなら、私を助けることにメリットが提示できていると思うけど」
「………ブラックルーイが…?」
ホワイトは、幹部キュヴァの発言に心当たりでもあるのか、彼女を責める言葉を止め、思考を巡らせているようで……。
「……ブラックルーイは、使命があるって言ってた。………あの時の彼女は、誰かを助けるために、組織に残るかのような……そんな雰囲気を醸し出していたけど、まさか………」
そうか。ホワイトは、千夜ちゃんのことを助けるために、彼女に手を差し伸べた。
けれど、その手が取られることはなくて……。
それがもし、幹部キュヴァを、組織から救い出すという目的があってのことなのだとするならば……。
「……けど、不可解だわ。貴方には、どんな魔法も模倣できる『模倣の魔』がある。……組織に逆らうなんて、簡単なことのように思えるけど…?」
シャイニングの言うことも納得できる。
けど、私には、幹部キュヴァが嘘をついているようには思えなかった。
彼女は他者を傷つけることに楽しみを感じることのできる残虐性を備えている。
簡単には分かり合えない。そう思っていたけど。
不思議と、今の彼女には嘘がないように思える。
何か、心変わりする出来事でもあったのか。もしや、千夜ちゃんとの交流で、何か変わったのだろうか……。
「……私は、組織に命を握られている。私の中に埋められている“魔核”。これは、私の心臓の代わりのような物なんだけど……。『ワ・ルーイ』の首領、クロマックは、この“魔核”をいつでも停止することができる。私が逆らえば、私の命はない」
「なら、今どうして私達とこうして会話してるの? 裏切りがバレれば、貴方の命はないのでは?」
スターチスが、疑いの目を向ける。
……皆、簡単には彼女のことを信頼できていないようだった。
けど、私は……。
「待って、皆。幹部キュヴァが、私たちの敵だって意識が拭えないのはわかるよ。けど、私には、彼女が嘘をついているようには思えないんだ。…………ねえ、貴方は、ブラックルーイと、千夜ちゃんと触れて、何か変わったの? 千夜ちゃんと交流して、どう思ったのか、それを私に教えて欲しい」
私の予想が正しければ、きっと……。
「………そう、だね。………ルーイは、私を救ってくれた子で、大事な友達だよ。誰も信頼できない、信頼しちゃいけない。……孤独で疑心暗鬼だった私に、友情を与えてくれて、私を救ってくれるって約束してくれた。………腐っていくだけだった私を、変えてくれた子だよ」
やっぱり、そうだ。
………私は、幹部キュヴァとわかり合うことなんて出来ないと思ってた。彼女の中には、他者を傷つけ、それを楽しむことのできる残虐性が備わってた。理解できない怪物。放置してはおけない、理解を超えた化物。そんな風に、私は心の中で勝手に彼女にレッテルを貼り付けていた。
けど、千夜ちゃんは違ったんだ。
幹部キュヴァの残虐性を目にしても、諦めることなく、彼女に寄り添って、彼女を改心させたんだ。
「私は、もともと組織に生み出された存在だったから。ずっと孤独だった。………でも、ルーイのおかげで、今はそんなに寂しくない」
彼女に備えられていた残虐性は、彼女生来のものではなく。
組織に植え付けられたものだったんだ。
それを、千夜ちゃんが解消した。
彼女と交流を交わすことで、彼女の歪みを、千夜ちゃんが取り除いた。
「……私には、できなかったな」
「キューティ…?」
「……なんでもない。けど、これではっきりしたよ。幹部キュヴァの言ってることは、嘘じゃないって。千夜ちゃんが、彼女を変えたんだよ」
「………まあ、千夜ならやりかねないわね。地元じゃ有名だった不良女子を更生させたことだってあったし……」
そうなんだ。千夜ちゃんって、凄い子だったんだなぁ……。
「………確かに、冷静に思い返してみれば、ブラックルーイと一緒に私の前に現れたあの時、幹部キュヴァは、ブラックルーイのことを悲しげな目で見つめていた気がする……。少なくとも、ブラックルーイに対して好意を抱いているのは、納得できるかも……」
皆、キュヴァの話を聞いて、段々と彼女が嘘をついていないと、そう確信し始めていた。
彼女が助けを求めてきたことも、きっと本当のことなのだろうと。
「………キュヴァちゃん、私、キュヴァちゃんの話、信じるよ。だから、教えて。私達は、どうすればいい? キュヴァちゃんや千夜ちゃんを助けるために、協力したいから」
私は、幹部キュヴァ……キュヴァちゃんに寄り添う。分かり合えないと思ってた。けど、今、私はそんな彼女と、手を取り合おうとしている。
これもきっと、組織にいた千夜ちゃんのおかげなんだろう。
……彼女の努力を無駄にしないためにも、私は、キュヴァちゃんと協力して……。
「ちゃん付け……。急に距離詰めてくるね、君も。………けど、わかった。私も、ルーイも、一緒に組織から抜け出したいから。………まず、私は、オクトロアに……」
「私に、何ですか?」
……………え?
「ゴフッ………」
キュヴァちゃんの口から、赤い液体が流れ出る。
見ると、彼女の胴体は、一本の太い触手によって、貫かれていて……。
「あははははは! あと一歩遅かったですねぇ! 魔法少女に頼ろうなんてぇ、無駄なんですよぉ。だって、貴方は、組織に生み出されたぁ、モルモットなんですからぁ!」
「キュヴァが裏切ろうとしてるって話は本当だったンだな。ま、前から気に食わねェ奴だとは思ってたンだ。精々するぜ」
キュヴァちゃんの体から、触手が引き抜かれる。
彼女の胴体には、大きな穴が空いていて……。
「“魔核”は無事取り出せましたね。さて、メェナさん、イグニスさん、魔法少女の相手をしましょうか」
キュヴァちゃんの体を見る。
………どうみても、助かるような怪我じゃない。だって、もう、体に穴が空いて……。
「………どうして………」
せっかく、分かり合えそうだったのに。手を取り合えそうだったのに……。
「どうして!!!!」
「……目的のために必要でしたので。………あぁ、貴方達のせいでもあるかもしれませんね。貴方達が彼女のことを疑わず、最初から受け入れていれば、こんなことにはならなかったかもしれません」
「ガキの癖にぃ、一丁前に誰かを助けることができるなんて思わない方が良いですよぉ? これ、私からのアドバイスなんですけどぉ、子供は黙って自分のことばかり考えておけばいいんですよぉ。面倒臭いことは大人に押し付けてぇ、ママのおっぱいでも飲んでおけばいいんですよぉ。だって、どうせガキにできることなんてたかが知れてるんですからぁ。それにぃ、どうせモルモットですよ? 死んだところで誰も悲しみませんしぃ」
駄目だ……。やっぱり、こいつらとは……。
分かり合えない……!
「メェナさん、余計なことは喋らなくて良いですよ。………さて、キュヴァさんの死、この事実をどう受け止めるんですかね。ねぇ、ルーイさん?」
オクトロアがブラックルーイの名前を出す。まさか、この場に千夜ちゃんが…?
そう思い、私は周囲を見渡す。
予想通り、この場所にブラックルーイはやってきていて……。
「キュヴァ………ちゃん………?」
キュヴァちゃんの死を見て、絶望の表情を浮かべる彼女の姿が、そこにはあった。