何で、何でキュヴァちゃんが……?
か、幹部様が、キュヴァちゃんを、な、何で……?
「幹部様……な、なんですか、これ、へ、へへへえ!! な、なにこれぇ?」
「イグニスさんとメェナさんに魔法少女の相手は任せてあります。少し2人で話しましょうか、ルーイさん」
「でも、きゅ、キュヴァちゃんが、倒れて、へ、へふへ……助けないと……ひ、しんじゃうよ、か、幹部様、キュヴァちゃんがしんじゃう……!」
ジェネちゃんみたいに、また……。あ……やだ。いや、いや……むり、無理無理無理。
「はいはい。落ち着いてくださいルーイさん。まずは深呼吸でもしましょうか?」
「で、でも……キュヴァちゃん……きゅゔぁちゃんが……! あ、やだ……いやだぁ………」
血が……ちがでてる……。あ、ひろがる……。だ、め、こぼれる……キュヴァちゃんの命が……溢れちゃう……。
「集めないと………死んじゃう……命が……ああ………」
「ふむふむ、効果覿面ですねぇ。やはりジェネシスの死がトラウマになってましたか。……いえ、ジェネシスの死そのものは乗り越えているようですが………。今回は耐えられなかった、という方が正しいでしょうか?」
血、これ以上広がらないようにしないと……。
「キュヴァちゃん、血、こぼしちゃ駄目だよ……。ほら、またゲームするんでしょ? あ、あれ、ホラゲー克服したいからさ……だから………」
「ルーイさん。無駄ですよ。………貴方は、“光堕ち”なんて出来ないんですから。………これで身をもって知れたでしょう。貴方がどれだけ無力で、ちっぽけで、どうにもならない存在なのか。身の程を弁え、組織の一員として、モルモットとしての自覚を持ちましょう」
キュヴァちゃんの血が溢れないように、必死にかき集めようとしている俺に、幹部様が声をかけてくる。触手をこちらに向けてきているようだけど、気にしない。はやくしないと、血が……。
「キュヴァちゃん……起きて……………」
キュヴァちゃんの体から、どんどん血が溢れていく。
キュヴァちゃんの生命が、失われていく。
「……可哀想ではありますね。私も、本来ならキュヴァさんに手を出すつもりではなかったのですが……。ジェネシスが亡くなられた以上、こうせざるを得なかったんですよ」
「……や………だ………やだぁ………」
「……………もう私の声も届いていませんか。余程ショックだったのでしょうね。………さて、それでは、そろそろ。…………私の触手で、完成させてあげましょうか」
嫌だ……。嫌だ……。見たくない……。こんなのを求めて、俺は『ワ・ルーイ』に身を置いていたわけじゃ……。
「その不快な触手をしまっていただけますか?」
「………ほう……?」
「私に気安く触れないでもらえる? オクトロア様」
「へ……?」
キュヴァちゃんの血をかき集めていることに夢中になっている間に、いつの間にか俺と幹部様の間に立つように、2人の少女が立っていて。
1人は、知ってる。もう1人の俺、光千夜だ。けど、もう1人は……。
「エンシェント、お願いできる?」
「幹部程度、私にかかればどうとでもなります。気がかりなのはそちらの血まみれの少女なのですが……」
『ひえー。ありゃもう助からねえな……』
「そっちに関しては大丈夫! ヒンナさんが用意してくれたアレさえあれば!」
エンシェント…?
分からない。とにかく、魔法少女がもう1人この場にやってきているみたい?
「愛結ちゃん、キュヴァちゃんのことだけど、今から、エンシェントの『雲外鏡』でヒンナさんのところまで運ぶ。そこで、とりあえず延命はできるはずだから」
「……状況が、わかんなくて………えと、どうすれば……」
どうすればいいのか分からなくなっている俺に向かって、千夜ちゃんは微笑みながら、自信満々の表情で、言う。
「光堕ち計画、だよ。………キュヴァちゃんを光堕ちさせる。そのために、まずはキュヴァちゃんの命を延命させないといけない」
光堕ち計画……。
そっか、キュヴァちゃんを、光堕ちさせようって、そういう話をしてて……。
そうだ、光堕ち計画だ。
俺は誓ったんだ、キュヴァちゃんを光堕ちさせるって。
組織に囚われた、孤独な少女を。暗闇の底から救い出すんだって。
……キュヴァちゃんは、血まみれだ。とてもここから生存できるとは思えない。
けど、そうじゃない。
俺は、何のために光堕ちを目指してた?
ここでキュヴァちゃんを光堕ちさせれないなら、俺に生きてる価値なんて、光堕ちする資格なんて、ない。
だったら、やるしかないだろ。
怯むな光千夜。前世を思い出せ広井大介。
どうして俺は光堕ちが好きだった?
どうして俺は光堕ちに魅入られた?
決まってるだろ。
光堕ちは奇跡! 光堕ちは運命!
つまり、どんな状況からでもキュヴァちゃんは光堕ちできる!
「………そっか! 了解! とりあえず師匠のところに運べばいいんだよね?」
「………え? 急に元気……。あの………本当に大丈夫? さっきまですごい酷い表情になってたけど……」
「光堕ち計画のこと思い出したから大丈夫! とりあえず、キュヴァちゃんを救うよ!!」
俺はキュヴァちゃんの体に、そっと触れる。………まだ息はある、大丈夫、全然光堕ち射程圏内だ。
「約束通り、救うよ。キュヴァちゃん」
「『雲外鏡』はそちらです。鏡を潜れば、幹部ミステリアスさんのところに行けると思いますよ」
「幹部ヒンナさんね!」
「そういえばそうでした。ミステリアスの押し付けが凄まじかったので、つい……」
師匠、見知らぬ魔法少女にもミステリアス布教してたんだね。
………というか、よく見たらあの魔法少女、見たことあるな。ジェネちゃんの最後の時にいた気がする。もう1人の俺の友達かなんかだっけ?
…………俺には魔法少女の友達いないのに、千夜ちゃん魔法少女のお友達いつの間にか作ってたんだね……。
あれ? 俺遅れてる?
まあいいや。とにかく、キュヴァちゃんを運んで……。
「……ルー……………イ……………」
「大丈夫だよ、キュヴァちゃん。言ったでしょ。光堕ちは、奇跡みたいなものなんだよ。キュヴァちゃんは死なないし、死なせない」
「………………う………ん………」
「…………キュヴァさんはもう虫の息です。ここから生存できるとでも?」
「……虫の息でも、息は息。息しているのでまだ生きてますよ」
「……何を言ってるんですか?」
『本当に何を言ってるんだ?』
「………諦めるのはまだ早いということです。…………ナイトルーイ、ブラックルーイと幹部キュヴァに流れ弾が行かないようにお願いします。私は彼の対処に全力を尽くすので。あとスマイルは今後3週間おやつ抜きです」
「了解!」
『は!? お前、オレのささやかな楽しみを!!』
「スマイル君のおやつ抜きも了解!」
『了解すんな! オレから娯楽を奪うんじゃない!』
俺とキュヴァちゃんは、2人が幹部様を足止めしている間に、『雲外鏡』を通っていく。
……にしても、千夜ちゃんてばこんな便利な魔法が使える魔法少女に協力を取り付けてたなんて、びっくり仰天だなぁ。
「………来たわね。………急いでやるわよ」
『雲外鏡』を潜り抜けた先には、師匠がいた。
師匠は、テキパキとキュヴァちゃんの体を、手術台のようなものの上に置いていく。
「………ったく、オクトロアの奴、何考えてんだか……」
まあ、びっくりしたよね。幹部様がキュヴァちゃんのこと、あんな風にしてくるなんて。
……流石の俺も、ちょっと頭に来てしまったな。まあ、幹部様には幹部様の目的があるんだろうけど、それでも、俺はキュヴァちゃんの友達なんだ。目的があるなら、素直にそれを俺にも話してほしかった。
………キュヴァちゃんを、無許可で傷付けるなんてこと、して欲しくなかった。
「………それで、師匠。キュヴァちゃんの様子は?」
「……………集中してるから、ちょっと待ってて」
師匠は必死の表情で、テキパキと行動する。キュヴァちゃんに何かしらの器具のようなものを取り付けていき、手際良く、キュヴァちゃんを救う準備を整えていく。
「………ルーイ………」
「キュヴァちゃん、大丈夫だよ。キュヴァちゃんは光堕ち射程圏内だから」
「ぶ………なに、それ……」
キュヴァちゃんは俺の言葉に、少し吹き出したかのように笑う。良かった。まだ、笑う余裕が……。
「ちょっとルーイ! 何してるの! あーもう! キュヴァが笑ったせいでバイタルが……!」
「え!? 私が笑わせちゃったせいで、キュヴァちゃんが!?」
やっばいやらかした!! そっか、重体なんだからちょっと笑うだけでも体に支障が……。やばいやばいやばい!
「キュヴァちゃん! 笑わないでね! 我慢して!」
「ひかりおち………しゃていけんない……ぶふぉっ!!」
「ちょっとルーイ!!」
「ぎゃあああああ! 笑わないで!! 笑わないでキュヴァちゃん!!」
笑ったらキュヴァちゃんの体が……! あと普通に笑われてると俺も傷ついちゃうからぁ!
「ふふ………あはは………」
「ルーイ!!!!!!」
「違うんですこれは! キュヴァちゃん! シャラップ! ちょっと黙ろうか!?」
「ふふふ………」
「ルーーーーーーーーイイイイイイイイイイ!!!!!!!!」
「師匠ぉぉぉぉぉ!! 私じゃ止められないですぅぅぅぅ! キュヴァちゃんおねがぁぁぁぁぁぁい! 笑うのやーーーーーめーーーーてーーーー!!!!」
「あはははは……!」
─────────────
「はぁ………疲れた………」
「ルーイ、後で説教ね」
「そんなぁ……」
キュヴァちゃんは一命を取り留めた。途中ちょっと危なかったみたいだけど(主に俺のせいで?)、とにかく、今すぐに死ぬってことにはならなさそうだった。
「もう一度言っておくけど、私の魔法科学の研究成果のおかげで、どうにかキュヴァの一命を取り留めているだけで、”魔核“の代替物はまた探さなきゃいけないわ」
「師匠、分かってますよ。それに、キュヴァちゃんを救うのは私なんで。だから、”魔核“の代わりは、私が見つけます」
キュヴァちゃん光堕ち計画は、まだ完遂できていない。けど、絶対に完遂させる。
キュヴァちゃんを光堕ちさせられないなら、俺に光堕ちする価値なんてないからね。
他人を光堕ちさせられないような奴が、光堕ちできるかって話なんですよ。
「分かってるならいいのよ。…………………夕音の時も、こうしてやれてれば………」
「師匠…?」
「………何でもないわ。とにかく、オクトロアが何を考えてるか分からない以上、こっちも慎重に動かなきゃいけないわ。……”魔核“が目的なら、もうキュヴァの命を狙ってくることはないと思いたいけど………」
幹部様の目的、か……。
正直、キュヴァちゃんを救う上で障害になるのは、クロマック君だと思ってた。元々、キュヴァちゃんは彼の差金だったし、幹部様は俺にキュヴァちゃんの事情を教えてくれたから。
………幹部様は、いったい何を考えているんだろう?
”魔核“を手に入れて、それで………。
「…失礼します。……あら? 無事に済んだみたいですね」
「よかったぁ……。キュヴァちゃんも愛結ちゃんも、何ともなさそうで」
幹部様について考えていたところ、丁度もう1人の俺と、その友達の少女がこちらにやってきたところだった。『雲外鏡』でこちらに来たのだろうか。それにしても……。
「幹部様は?」
「適当にあしらいました。……まあ、1on1なら負けることはないので」
「へー。強いんだね」
「ええ、まあ。それなりには」
『………ますます調子に乗ってんな………』
「まあ、私はそんなすっごく強い妖愛ちゃんにも勝ったんだけどね〜」
『………あー? あれは………勝った……いや、そりゃオレのせいだけど………うーん………』
えー!? まじ? 幹部様タイマンで退けれる子より強いの? ………知らぬ間に千夜ちゃんがどんどん成長していく……。ホラゲーも克服してるし、やっぱ俺置いていかれてるんじゃ……。
「………あーあれね。……ま、いいわ。とにかく、作戦会議といきましょうか」
師匠が言う。
そうだ、俺達は、キュヴァちゃんを光堕ちさせるために、協力者を募っていた。
それぞれで、協力できそうな人を頼って、それで、光堕ちの輪を広げたんだ。
………師匠は、今からその結果を話そうと、そう言いたいのだろう。
「……よし、それじゃあ、話していこっか、各々の進捗について!」
それにしても………。
「ひかりおち、しゃていけんない………く……ふふふ………あはははは………!!」
キュヴァちゃん、あなたいつまでツボってるんですか………?