割とハピエン厨。
「……ホワイト、大丈夫…?」
目の前で、幹部キュヴァが……キュヴァちゃんが殺された。そのことにショックを受けてしまったのか、ホワイトはずっと青褪めた表情をしながら、口元を手で押さえている。
吐き気でもあるのだろうか。……無理もないかもしれない。あの光景は、誰が見ても残酷なものだったから。
「『ワ・ルーイ』……本当最低な組織ね……! 離反しようとした者を、容赦無く殺すなんて…!」
「でも、合理的ではあるよ。組織の情報を握った者を野に放つと、情報が漏洩するリスクが生じるから」
「でも……!」
「ライオネル。今は戦場に出てる。憤る気持ちはわかるけど、冷静になって」
『冷静さを欠けば、それだけ敵に付け入る隙を与えてしまいますわ。相手は幹部と、得体の知れない者が1名。数ではこちらが優位に立っていますが、油断はできませんわよ』
スターチスは、怒りを抑えられないライオネルを宥めている。
ライオネルは感情を表に出しやすく、直情的な人だ。今回の件でも、ひどく心を痛めているのかもしれない。
そして、シャイニングは……。
「シャイニング……」
「キューティ、私は大丈夫よ。………ただ」
「ただ…?」
「………千夜も同じようになるかもしれないと考えたら……それだけで……気分が……」
………そっか。千夜ちゃんが離反しようとした場合も、同じように触手幹部……オクトロアがやってきて、キュヴァちゃんのように始末しようとしてくるかもしれないって、そう考えたんだ、シャイニングは。
そう考えると、確かに気分は悪くなりそうだ。でも……。
「繰り返させないよ。……二度も同じ過ちは。……キュヴァちゃんのことを助けられなかったのは………残念だったけど、でも、せめて千夜ちゃんだけでも、私達の手で救おう。……キュヴァちゃんだって、きっと、私達が千夜ちゃんを助け出すことを望んでいるだろうから」
「そう………ね……」
もう少しはやく着いていれば、間に合ったのかもしれない。私達が、もっとキュヴァちゃんに寄り添っていれば……。そんな後悔は、尽きない。
でも、だからこそ。
もう後悔しないように。私達は、同じ過ちを繰り返さないようにしなきゃいけない。
もう二度と、あんな残酷な光景を繰り返させないために、私達は戦わなくちゃいけない。
「戦いって……私血生臭くてあまり好きじゃないんですけどぉ………イグニス様はいいですよね……だってぇ……戦うこと好きなんですよね? 他者を傷付ける加虐性を持ち合わせてるんですよね? 私は穏やかな性格だからぁ、他者を傷つけたりとかそういうのぉ、苦手なんですよぉ………」
「じゃあ黙って見てりゃいい。どうせお前に期待なんかしてねェからなァ」
「うぅ……やっぱり私のこと無能扱いしてるんじゃないですかぁ……だから嫌なんですよぉ……勝手に私に役立たずのレッテルを貼り付けてぇ、私やればできるのにぃ………」
幹部オクトロアは………。
別の魔法少女と戦ってるみたい? 誰だろうあの子? 見たことない子だ。
ブラックルーイは、その様子を後方で見守っているようで、戦闘に参加する様子はない。放心しているのだろうか。よく見ると、キュヴァちゃんの遺体は消えていて、その場にはキュヴァちゃんの血だけが残されていて……。
「………消滅、したの…?」
「一部の怪人と同じね。倒せば消滅する。幹部キュヴァも、似たような存在だったのかもしれないわ……。だって、怪人は、千夜から生み出された……。………っ、だとすれば、幹部キュヴァも……」
シャイニングは、何かハッとしたような表情をした後、悔しさからか、拳を握りしめる。
「シャイニング」
「……大丈夫。私は大丈夫よ。……もう、折れたりしない。………でも、1人じゃやっぱり心細いから。……だから、“親友”として、頼むわ。……私に力を貸して。キューティ」
シャイニングは、私に全幅の信頼を寄せて、そう言ってくれている。
前までの、面倒を見られるだけの関係じゃない。
互いに頼って、互いに頼られる。私達は、そういう関係になれた。
本当の意味で対等で、正真正銘の“親友”に。
「うん、勿論だよ、聖歌!」
「………キューティ、本名……」
「あっ………!」
シャイニングからの信頼が嬉しくて、ついつい本名の、聖歌の名の方で呼んでしまった……。向こうには届いてないっぽいから多分大丈夫だろうけど、こういうの気をつけておいた方が良いよね。
「まあ、いいわ。今後は気をつけてね」
「うん、ごめんね、せ……シャイニング」
「……キューティ?」
「うん! 大丈夫! つ、次は大丈夫だから…!!」
あ、危ない危ない!
つい気が緩んじゃった……!
やっぱり、今まで甘えてきた分、シャイニングの前だとちょっと雑になっちゃうところがあるのかも…?
「……さっきから、いちゃいちゃいちゃいちゃ……。なんなんですかぁ? 友達のいない私への当てつけですかぁ…? うぅ……これだからリア充は嫌いなんですぅ……。自分達は幸福だからってぇ、幸せオーラを撒き散らしてぇ……それで傷付く人がいるってことに気付かない、本当に自分のことしか頭にない奴らなんですからぁ……。はぁ……どうしてあんな自己中な連中には友達がいてぇ、私には友達がいないんですかぁ? 世の不条理ですよぉ……おかしいです。この世の中は狂ってますぅ……。もっと他者に配慮しましょうよぉ。イケメンがモテて女を独占したりぃ、美少女がモテて男を独占するのってぇ、一夫一妻制において非合理的じゃないですかぁ? だからぁ、独り占めってダメなんですよぉ。取っ替え引っ替え友達作ってぇ、深く関わる訳でもないくせに、仲良しごっこしてぇ……そのせいで私と友達になってくれる方が減ってるんですよぉ? 私に割いてくれていたかもしれない時間をぉ、対して仲良くもない、表面上の友達付き合いのための時間で浪費させられるんですよぉ? 友達の輪を変に広げようとしなければぁ、余り者同士で自然と仲良くなるはずなんですぅ……。そしたら、皆ハッピーじゃないですかぁ。リア充って、そういうところありますよねぇ。欲が深いっていうかぁ……もう十分友達がいるのにぃ、私と友達になってくれるかもしれない余り者の子にまで手を出してぇ………ふざけんなってんですよクソビッチが!! そういう奴らのせいで不利益を被るのは誰かって話なんですよぉ!! 本当にイラつきますよぉ……私には話しかけないくせにぃ……」
「余り者の子が話しかけられてンのに、お前が話しかけられてねェって時点でお察しだな。オクトロアの奴、何でこんなナヨナヨしたキメェ奴を勧誘したンだ? 理解できねェ」
私がシャイニングと話していたら、目の前の幹部達が、私達に向けて敵意を放ってくるのを感じた。
………キュヴァちゃんを始末するためだけに来たのなら、ここで敵意を向ける必要はないはずだ。
だって、もう目的は達成されているのだから。
だとすれば、やはり……。
「シャイニング、来るよ…!」
「分かってるわ!」
「ま、いいかァ! 戦えりゃ何でも!! 『ドラゴンバースト』!!」
幹部の男がそう叫ぶと、巨大な炎の龍が空を支配する。
遠くからでも、その熱気は私達を焦がさんとばかりに伝わってきて…。
「………な……あの、魔法は……」
「嘘でしょ……何であいつも使えるのよ……!!」
スターチスとライオネルは、男の『ドラゴンバースト』を見て、声を荒げる。
「……あ………う………ああ………」
ホワイトに関しては、完全に腰が抜けて、地面に座り込んでしまっている。
やっぱり、これ以上ホワイトに戦わせるのは無理そうだ。
「シャイニング、ホワイトをお願い。……多分、とても戦えるような状況じゃないだろうから」
「分かったわ」
私はシャイニングにホワイトのことを頼んでおく。
戦力を減らしたくはない。けど、ホワイトを無理に戦場に立たせるわけにも行かないから。
………それにしてもあの魔法、確か、キュヴァちゃんが使っていた……。
「ひぇ……あ、熱いぃ……。い、イグニス様ぁ……。私の毛、焼けちゃいますぅ……! あの、も、もっと別の魔法、ないんですかぁ? このままじゃ私、焼け死んじゃいますよぅ……」
「うるせェ! ………戦いの邪魔すンじゃねェよ。お前はオクトロアのところにでも行っとけ。戦えないなら喚くな」
「ひぃ! ………そ、そんな言い方………。や、やっぱり『ワ・ルーイ』はクソボケの集団ですぅ……。当たり前にパワハラしてきますしぃ……私は何にも悪いことしてないのに怒鳴ってきましたしぃ……。はぁ……私が有能だってことも見抜けない脳筋おバカ幹部がぁ……戦闘ができるからって生意気な口を聞いてくるなんてぇ……馬鹿なくせにぃ……」
「聞こえてんだよクソガキ!! 愚痴愚痴言わずにさっさと失せろ!!」
「ひぃ!! すみませんぅ!!」
会話内容は聞こえてこない。が、どうやら幹部の男が少女のことを怒鳴りつけ、少女を後ろに下がらせた、ということだけは分かった。
少女には戦闘能力がないのだろうか?
もしそうなのだとすれば、私達目線、とてもありがたい話なんだけど……。
「オイ、魔法少女。名を名乗れ。………オレは幹部イグニス。炎の魔法を扱う」
幹部イグニスは、私達に向けて自己紹介をしてくる。
……怖い人だと思ってたけど、意外と礼儀正しいのだろうか……?
「私は魔法少女スターチススクラッチ。以上」
「……え、えーと、魔法少女ライオネルグレーテよ。……こ、これでいいの…?」
スターチスとライオネルは、幹部イグニスに自己紹介を行う。
ホワイトとシャイニングは、戦線を離脱していて、自己紹介どころではない。となれば、次は私かな。
「魔法少女キューティバースあらため、クールキューティです。………毒と回復の魔法を得意としていて……」
「……敵に魔法の情報を伝えるのは合理的じゃない」
「そもそも、キューティバースなのかクールキューティなのかって、分かりにくくない? 一貫してキューティバースで通した方がいいんじゃ……」
…………意気揚々と自己紹介を行ったはいいものの、スターチスとライオネルにダメ出しをくらってしまった……。うぅ……確かに、魔法の情報を伝えるのは良くないかもしれないけど……。
く、クールキューティはちょっと名乗ってみたかったというか……その……。
「と、とにかく! やるよ、2人とも」
「………まあ、いいか」
「……とりあえずクールキューティでいいのね? ………そういうことにしとくわ」
「そうか。それじゃあ…………死ね!!!!!!!」
私達が自己紹介を終えた途端、幹部イグニスは暴言を放ちながら襲いかかってくる。
私達は、その強襲から逃げるように横合いへと避け……。
「逃げんじゃねェよ臆病者が!!!!」
「臆病って……」
「弱ェ奴は死ね!!!」
「っ………何それ!!」
私はイグニスの攻撃を、杖で受け止める。
……にしても、最初は誠実な人なのかなと思ったのに、弱い奴は死ねって……。
「弱い奴に生きてる価値はねェ。オレはナヨナヨしてる奴が1番嫌いなンだ。………特に、キュヴァなんかはそうだった。組織に生み出され、自由がないと悲観ぶりやがって……。悲劇のヒロイン気取りってかァ? ふざけんじゃねェ!! 悲劇のヒロインだからって、仕事をサボっていいわけがねェだろォが!!」
仕事をサボる……というと、街の襲撃とか、それを、キュヴァちゃんはサボっていたって、そういうことなのかな……。だとしたら……。
「…………間違ってるよ……。キュヴァちゃんは、無理矢理組織に生み出されて、無理矢理利用されてたんだよ? 従う義理なんてない。組織のために働く義務なんてない」
「あァ?」
「………キュヴァちゃんに………街の破壊を強制させてたのは、貴方達だったんだね……。キュヴァちゃんの人格を歪ませたのも、全部……!」
キュヴァちゃんは、人を殺すことに快楽を得ていた。
けど、それはきっと、本来の彼女のものじゃないんだと思う。
だって、彼女は、ブラックルーイの身を案じていた。
自分だけじゃなくて、ブラックルーイのことも救って欲しいと、そう願っていた。
誰かの幸せを、心から願える子だった。
そんな子が、はじめから狂っていたなんて思えない。
キュヴァちゃんが、あんなにも歪んでいたのは、きっと……。
「貴方達みたいな奴の、せいなんだ……!」
「へん。くだらねェ。人格を歪ませた? 知らねェよ。なンのことだ? つーか、人格が歪んじまう弱い心を持ってるのが悪いんだ。もしオレのせいでキュヴァの性格が捻じ曲がったんだとしたら、所詮その程度の奴だったってことだ。オレは責任を取らねェ。というか、取る義務がねェ」
「……本当に……貴方達は……!」
自分達のことしか、考えてない…!
誰かが迷惑を被るかもしれないなんて、そんなふうに頭を働かせることがないんだ。
ピュアもそうだった。千夜ちゃんは、彼に嫌悪感を抱いているのに、無理矢理……。
オクトロアも、そう。薬深ちゃんに、深い心の傷を負わせて……。
『ワ・ルーイ』は、そういう集団なんだ。自己の欲望のために、他者を犠牲にする。そんな、自己中心的な連中の集まり……!
「許せない……!」
キュヴァちゃんは、そんな彼らのせいで、犠牲になってしまった。
私達の判断が、遅かったせいでもある。
でも、やっぱり……。
全ての元凶は、『ワ・ルーイ』にある。
「………やっぱり、貴方達は止めないと……! じゃないと、また悲劇が繰り返されることになる!!」
「……あーそうかよ。でも無理だな。お前じゃオレに勝てねェ。悲劇は止められない。オレは何度でも起こすし、何度でも繰り返すぜ? その悲劇って奴をな!」
イグニスの力に、押し負けそうになる……。
確かに、私1人じゃ、『ワ・ルーイ』に対抗できない。でも……!
「『リジェクトクロー』」
「『インビジブル・ガンパレード』」
私には、仲間がいる。
「チッ……」
「……負けないよ。私達は。………キュヴァちゃんの分も、私達は戦わないといけないから」
イグニスは後方へ大きく下がり、スターチスやライオネルの攻撃から距離を取る。
その目は未だ好戦的で、引くつもりはなさそうで……。
私達は、次の攻撃に備える……なんてことはなく…。
「………イグニスさん、終了です」
「あ…?」
「やるべきことはもうありません。ここに長居する理由は、もうないです。……ですから、離脱しましょう。メェナさんも、それでいいですね?」
「はい、オクトロア様。だってぇ、無駄に戦闘する意味なんてないですもんねぇ。熱くなっちゃって、それで命令から背くなんて、そんなのIQ3のバカがする行動ですからね〜」
「………クソが…………」
幹部オクトロア。彼が離脱の意思を示したことで、イグニスも戦闘を終了することになったらしい。
………やっぱり、キュヴァちゃんを殺した時点で目的は達成していた、ということなのだろうか。
「………次会った時は、ボコボコにしてやンよ」
「……私達は、負けないから」
「言ってろ」
オクトロアやイグニス達は、私達の前から去っていく。
深追いは……できない。
シャイニングやホワイトもいれば、追う選択肢もあったかもしれない。けれど、3人で敵のアジトまで尾行するのは、無謀だと思うから。
『………好き勝手にやられてしまいましたわね……』
「……幹部キュヴァ……か……。確かに、ああいう存在を作れるのなら、作らない理由はない、かな」
「………………悔しい……どうして、あんな酷いこと……! もう少しで、手を取り合えそうだったのに……!!」
スターチスもライオネルも、悲しそうに目を伏せる。
………2人とも、戦闘中は気にしていないようなそぶりを見せていたけど、ずっとキュヴァちゃんのことは引きずっていたみたいだ。
……確かに、あの光景は、一度見たら忘れられないかもしれない…。
組織が生み出した少女……。
彼女もまた、組織の被害者だった。
…………『ワ・ルーイ』の存在は、これからも悲劇を生み続ける。
その悲劇の連鎖は、私達が断ち切らないといけない。だから……。
「………『ワ・ルーイ』は、私達で終わらせよう。もう、あんな悲劇を繰り返させないためにも……」
「そうだね」
「当然よ」
……絶対に、繰り返させない。
イグニスの言うことなんて、認めない。
私は、絶対に彼らを止める。