……キュヴァちゃんの光堕ちのために動く。
そう決まったのはいいものの……。
「……心臓を探し出すと言っても、具体的にどうするんですか? 辺りを散策すれば、適当な場所に転がっている、というような代物ではありませんし……」
「……あれは? ドナーとかいう奴! 臓器移植とかしてもらえれば、キュヴァちゃんの心臓もどうにかできるんじゃないかな?」
キュヴァちゃんの心臓。
どう調達するのか、解決策は全く思い浮かばないままであった。
ちなみに、当事者のキュヴァちゃんは、さっきまでの疲れで完全に眠りについてしまったみたいだった。
「………ドナー提供といっても、キュヴァには戸籍もないし、世間的には認められない存在よ。病院の手は借りられないわ」
師匠は、臓器移植の案をバッサリと切り捨てる。
「………そっか……」
あからさま、もう1人の俺……千夜ちゃんがしょんぼりとした顔をする。
……まあ、仕方ない。悪の組織に所属しておいて、堂々と公的機関に頼るなんてこと、まかり通るわけがないんだから。
「……何か手掛かりでもあればいいのですが……」
手掛かり、手掛かりね………。
キュヴァちゃんは今まで、“魔核”を心臓代わりとして生きてきた。だから、最悪心臓じゃなくても、“魔核”に近いような何かで代替できれば、それでいいような気もするんだけど……。
例えば。
「師匠、怪人の仕組みを、キュヴァちゃんに流用するとかってできるんですか?」
怪人。組織が俺を実験台にして生み出した、街を破壊する怪物。アレも一応、無から、一種の生物として生み出している存在のはずだ。なら、怪人の原理を利用すれば……。
「無理ね。………まあ、できないことはないでしょうけど。そもそも、怪人の運用年数はよくもって4年が良いところで、基本的には1〜2年使えれば十分とされているわ。キュヴァに普通の人間としての寿命を与えるのなら、また別の手段を取らなきゃいけないのよ」
「じゃあ、妖魔は?」
「妖魔はもっとダメよ。1年もてば万々歳。基本的には3ヶ月で使い物にならなくなるような代物なんだから」
そっか……。それじゃあ、怪人の技術流用作戦も通じない、と。
いや、待てよ。でも……。
妖魔は最大1年。怪人は最大4年。
確かに、寿命として考えれば、短く感じるかもしれない。
けど、妖魔から怪人になるにあたって、大幅に寿命が上がっていることも事実。
……そして、その原因は……。
「……確か、怪人って私を実験台にして生まれてきたんですよね」
「そうね。ルーイが来るまでは、妖魔を使って活動していたから」
そうだ。なら……。
「………私の体、実験台にすれば、怪人の寿命をもっと延長させれる可能性はないですか?」
俺でさらに実験すれば、怪人の寿命を延ばせるのではないか。もしそうなのだとすれば。
実験によって怪人の寿命を延長し、寿命を延長させた怪人の技術を、そのままキュヴァちゃんに流用すれば。
キュヴァちゃんは、普通の人並みの寿命で、これから生きていくことができるんじゃないだろうか。
「ルーイ……それは……」
「そうかも…。それに、今の私達は2人分…。愛結ちゃんと私、2人で同時に実験すれば、成果が上がる速度は2倍に…!」
……千夜ちゃんの方もノリノリみたいだ。よかった。一応この体、俺だけのものじゃないし、千夜ちゃんの賛成を得られなかったら却下な案だったから。
「……それは、けど………」
「……あれでしたら、私の妖怪も実験台にしましょうか? 私自身、私の魔法がどういう仕組みで成り立っているのかは知りません。ですが、役に立つ可能性はあるので」
『おいやめろ! 魔法をそう簡単に実験台にするんじゃない! 解析は断固拒否する!』
「おやつ禁止延長ですかね……? 3年ほどに」
『是非是非! いやー、うちの自慢の魔法、いくらでも研究しちゃってくだせぇ……!』
スマイル君、君にはプライドとかないんか…?
まあいいか。被験体は多ければ多い方が良いからね。ま、具体的にどんな実験をするのかとか、そういうことは一切分からないけど。
『…実際、実験は有効だと思うよ』
キュヴァちゃんの今後について、皆で話し合っていたその時。突然会話に参戦し、そう告げたのは。
「ラフ。おかえり。出かけてたの?」
『まあ、ちょっとね。ぼくはぼくで、調べ物を……。夕音が残した遺産を、探っていたから』
妖精ラフ。かつてのジェネちゃんの契約妖精で、ゲーム好きなところがある子だ。
俺がキュヴァちゃんを光堕ちさせる上で、協力を取り付けたメンバーでもある。
「……そっか。それで、何か見つかった?」
『それが、さっき話してたことにも繋がるんだけど……』
そう言ってラフは、1枚の資料を取り出す。
たった1枚の紙切れ。だけど、よく見ると、文字列はバラバラで……。
「? なんて書いてあるの? 全然読めないんだけど……」
『これはそういうものなんだ。定まった何かが書かれているわけじゃない。けど、この“紙切れ”がもっている情報であれば、尋ねればすぐに示してくれる。そんな代物だよ』
ほーん。紙版スマホ的なものだろうか。検索エンジンがあって、検索すれば直ちに知識をくれるって感じのイメージなんだろうか。
『試しに実験について、聞いてみるね』
ラフは“紙切れ”に向かって、さっきまで俺達が話していたような内容を訪ねていく。すると、バラバラだった文字が、規則的に並んでいき、次第に意味のもった文章へと変化していく。
『………寿命の延命は、可能っぽいね。というか、そもそも組織が怪人を作る上で、寿命を長くする必要性がなかったからしてこなかっただけで、技術的に怪人の寿命を延長させることは既にできるんだとか』
「………そっか。じゃあ、怪人の技術を、キュヴァちゃんに流用する。その方向性で、キュヴァちゃんのこと、救えそうだね」
……よかった。俺の手で、キュヴァちゃんのことを救うことができる。
『とはいっても、怪人とキュヴァちゃんは体の仕組みが若干違うからね。……ルーイちゃんにも、少しやってもらわないといけないことはあるっぽいよ』
「へ? そうなの?」
『うん。皮膚を少し剥いだりとか。………まあ、色々と痛い思いはしてもらう必要があるけど……』
そうなんだ。
まあ、けど別に良いかな。
組織の実験でも、結構酷い目には遭ってきてるし、今更皮膚剥がれたくらいじゃ狼狽えませんぜ。もちろん、痛いのは嫌だけどさぁ。
まあ、それでキュヴァちゃんの命を助けられるのなら軽いもんっていうかさ。
とにかく。
「……じゃあ、早速実験、してみよっか」
『もうするの!?』
「うん。善は急げっていうでしょ?」
何かあってからじゃ遅いからね。今回みたいに、幹部様に腹部貫通されるような事態が、また起こってしまっても嫌だからさ。
『……じゃ、じゃあキュヴァちゃんのこと起こさないと……スヤスヤ寝てるけど……』
「………何? 何か用?」
『起きるのはや!! 行動力の塊か!!』
ラフがキュヴァちゃんの名前を出した途端、これまでぐっすり寝ていたキュヴァちゃんが、一瞬で目を覚ます。
寝起きだというのに、眠そうな表情を一切見せず、キリッとした表情で佇むキュヴァちゃん。
……なるほど、寝起きでこれって、キュヴァちゃん結構朝強いタイプなのかな?
「キュヴァちゃん。キュヴァちゃんを救う方法、見つかったよ」
「………本当?」
「うん。だから今から、キュヴァちゃんのことを救う実験を始める。……これが終われば、キュヴァちゃんは晴れて自由の身だから」
キュヴァちゃんは俺の言葉を聞いて、クスリと笑う。
そして、俺に向けて、一切の疑念のない、絶大な信頼を含んだ、そんな笑顔を向けて。
「……ルーイ、ありがとう。私のために、動いてくれて」
感謝の一言を、述べる。
組織に孤独で生まれた少女は、誰も信頼できず、誰も味方ができず。
寂しくて、真っ暗な。そんな道を歩むはずだった。
けど、今のキュヴァちゃんからは、そんな運命、微塵も感じられなくて。
「どういたしまして」
ああ、そっか。
これが……これこそが。
光堕ち……!!
組織に作られた、人工の幹部、キュヴァは。
こうして、見事に光堕ちを果たした。
その事実に、俺は……。
「っんぅぅぅぅっ! んほっんんんぅぅぅ!」
これまで感じたことのない、異常なまでの幸福を、その身に浴びる。
ああ、誰も信頼できなかった少女が、こうして、誰かを頼り、誰かを信じ、前を向いて進もうとしている。
そんなの、たまらない。
キュヴァちゃんは今、暗闇の底から、間違いなく光の側へと、一歩進むことができている。
ああ、たまらない。これが光堕ち……。
これぞ幸福…!
自分のことではない、なのに、自分のことのように嬉しい。
ああ、たまらない。この感覚、はやく自分でも味わってみたい……。
「ルーイ……?」
「んっ………なんでもないよ。行こっか、キュヴァちゃん」
「そうだね」
………ふぅ。
危ない危ない。
あまり興奮しすぎるのも良くないね。
それに、光堕ちとか関係なく。
「キュヴァちゃん」
「……ん?」
「……これから、幸せになろうね。……今までできなかったこと、たくさん経験して、自分のやりたいこと、縛られずに自由にやって……」
「……言われなくても、そうするつもりだよ。……だから大丈夫。ありがとうね、ルーイ」
「そっか。よかった」
俺は、キュヴァちゃんが幸せへの道を歩めるようになったのが、たまらなく嬉しい。
だって、キュヴァちゃんは大切な友達で、俺のゲーム仲間だから。