あっという間だった。
ルーイが私を救うと決意して、それから。
私が、救われるまでは。
「お疲れ様キュヴァちゃん。どう? 違和感とかない?」
ルーイは、平気そうな顔で、何でもないことのように言う。
私を救うための実験、それは、ルーイにとって苦痛を伴うものだった。
近くで様子を見ていた私にも、その苦しみが伝わってきて。
私が救われる側のはずであるのにも関わらず、ルーイがあまりにも苦しい思いをしているものだから、止めに入ろうかと思ったくらいだった。
でも、きっとルーイは、そんな苦痛にも。
私を救うために、耐えてくれたのだろう。
私が救われるのであれば、多少の自己犠牲は厭わないと。
そう決意してくれていたのだろう。
だから私は。
「……うん。滅茶苦茶元気だよ。……ルーイのおかげ。本当に、ありがとう」
最大限の感謝を、彼女に伝える。
「うん、どういたしまして」
それにルーイは、なんてことないかのように、当たり前のように、答える。
……感謝しても、足りないくらいだ。
「……無事、成功したみたいですね。………私の妖怪が何の役にも立たなかったのは、ちょっぴり残念ですが……」
『だからやめとけって言ったんだ。はーあ。オレの言う通り、妖怪を実験に使わなきゃよかったのに。そしたら無駄な時間を使わずに済んだんだから』
「……おやつ抜き」
『は!? せめて期間を提示して!?』
「永久に」
『独裁政権断固反対!!』
……千夜の方……もう1人のルーイの友人である魔法少女とその妖精は、仲が良いらしい。妖精と人、手を取り合えてるのは、良い事なんだろうなと思う。
私も、ラフ君とはそうなりたかった。
「………ラフ君」
『……キュヴァちゃん、よかったね』
………ラフ君は一度、私とルーイを裏切った。だから、もう仲良くなれない。
そう思ってた。けど。
………ラフ君は、今はルーイのために行動しているように見える。
ジェネシスに頼まれたから、というわけでもないだろうし、何故ルーイに好意的なのか、さっぱりわからないけど。
………今からでも、きっと遅くないよね。
ラフ君と、また一緒に仲良くゲーム、しても良いよね。
この前だって、もう1人のルーイ、千夜の方と一緒に、ラフ君とは話してた。
だから、多分大丈夫。私は、もう一度。
ラフ君と友達になれる。
「ラフ君、また一緒にゲームしようね」
『え、う、うん……』
「………『支配の魔』の件は、もういいよ。……私、もう一度ラフ君と仲良くなりたいから」
『キュヴァちゃん………。ごめん……。ぼく、あの時は……。……プライドなんて、捨てるよ。ぼくに寄り添ってくれる人が、こんなにいるのなら。ぼくも、それ相応の態度を取らなくちゃね。………これから、よろしくね、キュヴァちゃん』
私はラフ君と握手を交わす。
良かった。もう一度、ラフ君とはゲーム仲間に戻れそうだ。
「………キュヴァちゃん、良かったね」
「うん。千夜も、ありがとう。私のために動いてくれて」
「どういたしまして!」
もう1人のルーイ、千夜にも、世話になった。彼女が友人の魔法少女を連れて来なければ、私は今頃オクトロアの触手によって、死んでいただろうから。
それに、彼女とのゲームは楽しい。ルーイの方より、彼女の方がゲームが上手だから。
………一応同一人物なのに、微妙に差がついているのは何故なのだろうか。
もしかしたら、ラフ君がゲームを教えているか、教えていないか、その差が大きいのかもしれない。
千夜の方は、ラフ君にゲームを教えてもらっているらしいから。
そして。
「ヒンナ、ありがとう」
「………やっぱり呼び捨てなのね」
「私も幹部だから」
幹部ヒンナ。彼女がいなければ、私の命を繋ぎ止めることはできなかっただろう。だって実際、あの時点での私はもう虫の息で、いつ死んでもおかしくないような状況だったから。
「……まあ、良かったわ。何ともなさそうで」
「おかげさまで。………あとは、ルーイだね」
「………ああ………そうね」
私は、ルーイに救われた。だから、その恩返しとして。
今度は私が、ルーイを救いたい。……この、組織から。
ヒンナも、きっとそれには賛成してくれるだろう。
少なくとも、ジェネシスはそのつもりだっただろうし、そのジェネシスから、ヒンナへ、意思は受け継がれているはずだから。
「………ルーイを救う方法、思いついた?」
「……まあね。要は、ルーイを魔法少女に押し付ければ良いのよ。向こうもルーイのこと、救いたがってるみたいだから」
「……まあ、私もそれで良いと思う。魔法少女にコンタクトを取った時も、その意思は変わってなさそうだったから。ルーイの受け入れ先として、魔法少女側は安泰だと思う。ただ、分身をどうするか。それだけが気がかり」
今、ルーイは千夜とルーイの……組織に拉致される前の記憶を持つ、拉致前ルーイと、拉致された後の記憶を持つ、拉致後ルーイの2人が存在してる。
最初は、2人を融合させ、元の存在に戻すのもありかと考えていたが……。
「あれ、もはや別人よね。まあ、根本的な性格は同じみたいだけど。……ここまで来ると、もはや双子だわ」
2人は、各々で人格を確立してしまっているように思える。だから、融合というのは、どちらの存在も残すようでいて、どちらの存在も消す選択になりかねない。
「……本当にどうしよう。分身魔法でケロッとしているのも意味がわからないし……」
「ま、光千夜の実家に2人ともぶち込めば良いんじゃない? 組織の実験の結果ですとか何とかいえば良いでしょ。戸籍とかの問題は私は知らないわ。専門外だし、親がなんとかするでしょ」
「ヒンナは相変わらず無責任だね。仕事も部下に丸投げしたりするし。何で幹部やれてるの? 親のコネ?」
「…ま、そんなところよ。……仕事、ねえ。まあ、やるべきことやればそれで良いんじゃないかしら」
少々煽ってみたけど、ヒンナはそれをさらりと交わしてみせる。
な、なんだと、これが大人の余裕というやつか……!! ヒンナの癖に……。
「……まあ、ルーイが分身魔法を使ったんだし、その辺は全部ルーイに任せようかな。分身魔法の件で悩んでも、それはルーイの責任だから」
「ま、そうね。分身問題は自分でどうにかしてもらうしかないわ。……私達が干渉しなくたって、死にはしないし。ルーイが魔法少女側へ寝返るプランも、もう用意してあるから」
……なんと。ルーイの光堕ち計画、まさかヒンナが担当だったの?
………いや、ルーイはルーイで、光堕ち計画を進めているはず。だって、ルーイの光堕ち癖は、ヒンナには打ち明けていないはずだから。
「そのわくわく寝返りプランの詳細求む」
「何で勝手にわくわくしてるのよ……。まあ、たいしたものではないわ。私とイコル、まあ、あとはイコルのとこの湿島を連れて、魔法少女を襲撃する」
「……何故?」
別に、魔法少女を呼びたいのなら怪人で十分だと思うけど。魔法少女に引き渡すだけなら、別に普通に魔法少女を呼んで、魔法少女にルーイを渡せば良いだけだ。ヒンナが懸念するのは、オクトロアの件だけで良いはず……。
「……何故って……。魔法少女を呼ぶため。それと、無条件で向こうが受け入れてくれるとも限らないしね。私達幹部が魔法少女を痛めつけて、ピンチになったところを、組織を裏切ったルーイがボコボコにして撃退する。そういうシナリオにするつもりよ」
……?
何でそんな工程を挟むのか、いまいちよくわからない。
やっぱり、ルーイがこっそりヒンナにも光堕ち癖を打ち明けたんだろうか。
……秘密を知っているのは私だけ、とは、とんだ思い上がりだったみたいだ。まあ、別に良いんだけど。
「……まあ、ルーイのためにはなるだろうけど。幹部3名撃退は、やらせを疑われるのでは?」
「ええ、そうね。やらせを疑われる危険性大よ。けど、この点もちゃんと考えてあるわ」
ほほう。
なら、見せてもらおうか。ポンコツヒンナの、ワクワク! ルーイ光堕ち大プランを!
私にプレゼンしてみせるのだ!
光堕ち射程圏内兼光堕ち先駆者たる私が、品定めをしてしんぜよう…。
「私が死ぬのよ」
…………………は……?
「……ヒンナ、どういう……?」
「私が死ねば、流石にやらせは疑われないわ。……湿島とイコルが死ぬのは、やり過ぎだからないとして……。とにかく、私が死ねば、ルーイは魔法少女達に疑われることもなく、魔法少女達の仲間入りができるし」
……何でもないことのように、言う。
私を助けた、ルーイのように。
けど、流石のルーイも、命までは投げ出さないはずだ。
いや、わからないけど。
「……ヒンナ、別に、他の方法でもよくない? わざわざ自己犠牲を行う必要は……」
「より確実な方が良いわ。オクトロアの件があるから、それが片付いてからにはなるでしょうけどね」
何も、考えていないのだろうか。
だって、ルーイは、ヒンナに対して、それなりに好感を持っているはずだ。
そんなヒンナを、ルーイ自らが仕留める。
そんなの、誰も望んでない。ルーイだって、したくないだろう。なのに……。
いや、まさか……。
「……ヒンナ。どうして、死のうとしてるの? まさか、ジェネシスに会いに行こうとでもしてるの?」
「……………ああ、それはそうよ。私が死ねば、ルーイは魔法少女側に寝返れるし、私は夕音に会いに行ける。……どう? 私的には、良い計画だと思うんだけど」
…………ルーイに、今のヒンナの状態を、どう説明すれば良いのだろう。
私は、気付いてしまった。ヒンナは、光堕ち計画を考えていたわけじゃない。
多分、ジェネシスが死んでから、ずっと。
ヒンナは、希死念慮を持ち続けてる。