TS魔法少女は光堕ちしたい!!   作:布団から出られない

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13悪役魔法少女は勉強する

 

先日の戦闘で大敗をかまし、なんとか幹部君に助けてもらってアジトへと帰ってきた俺こと光千夜は、幹部君から与えられた休暇を満喫する………はずだった。

 

しかし現実は休暇という体裁を取っているだけで、俺は自由に街を出歩く時間を与えられず、殺風景な組織のアジトで過ごすことが決定されたのだった。

 

今は幹部君が資料片手に誰かと連絡を取っているところらしく、俺は大人しく座っている状態だ。

 

「ええ、ではよろしくお願いします。さて………」

 

と、ちょうど連絡が終わったのか、幹部君は俺の方に顔(ほぼ触手なので判別が付きにくいが)を向ける。

 

「幹部様、あの……私はどうすれば?」

 

「そうですね。まず、今まで貴方が行ってきた戦闘の記録についてですが……」

 

戦闘の記録?

どういうことだろう?

もしかして幹部君、ずっと俺のこと見守ってたりした? 俺が魔法少女と戦ってる様子を記録してたりしたの?

 

………全然気付かなかった。

 

「き、記録ですか」

 

「はい。はっきり言って酷かったですよ。貴方の戦闘は」

 

「え……」

 

俺は俺なりに頑張っているつもりだったのだが、面と向かって幹部様に言われるとショックである。うーん、もう少し頑張った方が良かったのだろうか。

 

「まず、どうして怪人と共に街を破壊しないのか。希望の象徴である魔法少女が街を破壊することで、人々に絶望と、魔法少女に対する疑念を植え付けることができます。それをどうしてしないのか」

 

「え、いや、だって……」

 

それは、光堕ちするときに一般市民に受け入れられるようにしたいから………。

なんて言えるわけもない。確かに、組織目線で考えれば、俺が暴れ散らかした方が好都合なのだろう。

………どうやって言い訳するべきか……。

 

「まあ、これについては許しましょう。希望の象徴たる魔法少女が、人々の希望の象徴でなくなってしまってはそれはそれで困りますからね。やるにしても、どの程度やるか、見極めが難しいでしょうし」

 

「そう、ですか………」

 

よく分からないけど、なんか許された。

……大丈夫だよな? 多分まだ、幹部様も失望しきってはないと思う。だからまあ、お前クビな! はないはずだ。

ひとまず安心、と。

 

「次に逃亡の仕方について、です。ルーイさん、貴方、逃亡の度に怪人や妖魔を囮にしていますよね? 怪人や妖魔も、我々に取っては立派な戦力です。貴方が我々にとって比較的重要な戦力であることは事実ですが、だからと言って怪人や妖魔を無闇矢鱈に使い潰す行為は、いただけないですね。もう少し慎重に、怪人や妖魔を利用していただきたい」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「次からは気を付けてください。では次」

 

「は、はい………」

 

幹部様からのダメ出しが止まらない。

……悪役ひゃっほいってなってたけど、俺全然『ワ・ルーイ』のためになることしてきてなかったんだなって改めて思う。

どうやら俺は、勝手に悪役して盛り上がってただけの人だったらしい。

 

「貴方の態度について、です。振る舞い方は改めた方が良いかと思われます。貴方は、まるで魔法少女達を挑発するような言葉ばかりを吐いていますが、あれでは魔法少女から“敵意”しか得られません。我々が欲しいのは、“絶望“、”恐怖“です。”敵意“は必要ありません。魔法少女達を煽るような真似をやめろとは言いませんが、相手の”絶望“や”恐怖“を得るために、貴方にはそれ相応の振る舞いをして欲しいわけです」

 

「はい……」

 

「例えば、相手を恐怖させる上で最も有効な手段は何だと思います?」

 

最も有効、か…。

恐怖といえば、お化けとか? でもお化けなんて用意できないしなぁ。

じゃあ、他に何があるんだろ?

怖いといえば……。

 

「……生命の危機を感じさせる、とか?」

 

「ええ、それも”恐怖“でしょう。死という終わりへの。では、死への恐怖を相手に抱かせるには、どうすればいいか。死ぬかと思わせるには、どうすればいいか」

 

……俺は純白の魔法少女に迫られたときに、死の恐怖を感じた。

あの純白の魔法少女、魔法が結構ズルいというか、強めのものだったし、タイマンで勝てる気があまりしなかった。

つまり……。

 

「圧倒的な強さでねじ伏せれば、死ぬかもって思う気がする」

 

「そうです。まず貴方に必要なのは、強さ、です。貴方は無様にも新たに戦場に参加した魔法少女にあっけなく敗北しました。そんな相手に、果たして恐怖心を抱くことはできるでしょうか? いいえ、抱きません。魔法少女達からすれば、”あいつは雑魚だから大丈夫だ“としか思われないのです」

 

「仰る通りでございます……」

 

ざ、雑魚ではないんじゃないかな? 多分……。

 

「強さ、についてはこれくらいでいいでしょう。まだありますよ、改善点は」

 

「へ?」

 

「強さで恐怖を抱かせようとも、魔法少女達の精神は強靭。簡単には恐怖しないでしょうし、むしろ自身を鼓舞する理由付けにされてしまう可能性すらあります。さて、ではどう恐怖させればいいか。これは私の持論ですが、恐怖において最も有効なのは、”未知“です」

 

「未知……?」

 

確かに、知らないということは、怖いということに繋がるような気もする。

例えば、暗闇。暗いと何も見えなくて、そこに何があるかわからない。”未知“が広がっている。だから、怖いと感じる。

 

海洋恐怖症とかも、根幹を辿れば”未知“があったりするような気もするし、幹部君の言ってることも正しいのかもしれない。

 

「そうです。”未知“です。相手の底が知れない。何をしてくるか分からない。故に、恐れる。警戒する。そして、勝手に不安を抱いて、恐怖する。”未知“というのは、恐怖に繋げやすい。強さという単純なものよりも、人間の心という複雑なものに影響を与えやすいと思うのです。つまり……」

 

「常にミステリアスでいろ、ということよ」

 

俺と幹部君の会話に、突如として混ざる女の声。

俺はびっくりして思わず後ろを振り返る。

 

そこにいたのは……。

 

「ヒンナさん、もう来られたのですね」

 

「そうね。それがどうしたの?」

 

灰色の髪をツインテにした少女だった。

彼女は、肘や膝の稼働部を覆わないタイプの装甲を身に纏い、顔には勇ましい顔をした機械の面をつけていて、何だかメカメカしているなという印象だった。

 

……魔法少女がいる世界でメカメカしいのを見るとは思わなかったな。

 

「いえ。ともかく、ルーイさん、お会いするのは初めてでしょう。互いに自己紹介をしては?」

 

俺は幹部君に促されるままに、女の方へ体を向け、挨拶をする。

 

「ブラックルーイです。魔法少女として、組織に………できてないですけど………協力してます」

 

「私はヒンナ。『ワ・ルーイ』の幹部の1人で、魔法科学の研究中ってところよ」

 

俺達は互いに自己紹介をする。

 

組織の幹部、か。

つまり、触手型の幹部君と同格。あんまり偉そうな態度は取れないな……。

 

「えと、それでミステリアスでいろ、とは?」

 

「オクトロア………そこの男が言ったように、”未知“は恐怖に繋げやすいわ。じゃあ、具体的にどう”未知“を演出するのか。それはね、正体を悟らせないこと、なのよ」

 

「正体を悟らせない?」

 

それでいうと、俺も正体は悟らせていないはずだけど……。

俺の場合はミステリアス…………ではないか。

 

「その点でいうと、貴方のミステリアス指数は低いわね。貴方の魔法少女としての強さ、底はもう相手に知られてしまっているし、目的もはっきり言葉に出して答えてしまっている。今の貴方は、強さも思想も、全てが相手に割れている状態。こんなのミステリアスでも何でもないわ」

 

ミステリアスさ、か。

光堕ちする上では必要ないんじゃないかな?

と思ったり思わなかったりするわけだけど……。

 

でも現状、幹部様のために何もできていないし……。組織に貢献しておくことも大事だから、アドバイスはちゃんと受け入れた方が良いのかもしれない。

 

「それじゃあ、私はどうすればいいですか? ミステリアスは到底できそうにないですし……」

 

「………オクトロアがまとめた戦闘記録を読ませてもらったけど、貴方の振る舞いは、少し小悪党じみてるのよ。人質を取るも、空中から落とされ敗北。敵であるはずの魔法少女に助けられ、最後はオクトロアの腕に抱かれながら捨て台詞。これに”恐怖“や”未知“の感情を抱けという方が無理あるわ」

 

「じゃあ、ミステリアスはできないですね。うーん」

 

「そう、今の貴方には足りていないの。ミステリアスさが。そこで、よ」

 

ヒンナちゃんは胸を張り、顔は見えないがドヤ顔しているかのような雰囲気で、自信に満ち溢れた声で宣言する。

 

「私のミステリアスを見せてあげるわ! 私との研修を経て、ミステリアスを学び、私と共に魔法少女にミステリアスを披露しに行くのよ!」

 

「……は、はい?」

 

言ってることがよく分からないが、でも仮にも彼女は幹部。

触手の幹部様と同格の存在なのだ。彼女の言う事に、あまり間違いはないのだろう。

『そうですよね? 幹部様?』と心の中で思いながら、俺は幹部様の表情をチラリと覗き見る。

 

………呆れていた。

ため息をついて、呆れた表情でヒンナちゃんの方を見ていた。

 

え、これ大丈夫そう?

 

「………まあ、何もしないよりはマシでしょう。本当は他の幹部の方が良かったんですけど」

 

「幹部様、幹部様? これ、本当に大丈夫なんですよね?」

 

「まあ、多少は学ぶものもあるでしょう。本来ならジェネさんの方が適任なんですが…」

 

本当に? 信じるよ?

……うん。まあ、これで上手くいかなくても、俺は俺の目的があるわけだし、別に構わないか。

 

「まあ、私の腕を信用しなさい。立派なミステリアス少女を養成して、この世界を未知の恐怖で震えあがらせてあげるから」

 

「私の当初の依頼は、ブラックルーイを強くすること、だったんですけどねぇ……」

 

「そっちは解決済みよ。とにかく、今ブラックルーイに必要なのはミステリアスなの。だから、マンツーマンでミステリアスが何たるか、私がみっちり仕込んでやるわ」

 

と、いうわけで。

俺の休暇は、俺が『ワ・ルーイ』で活躍するために。

ミステリアスを目指すための時間として、使い潰されることになるのだった。




そのうちしぬー
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