師匠の自殺願望。
それが真実か否か、はっきりはしていない。けど、キュヴァちゃんが言うならきっとそうなんだろう。
そう思い、俺はどうにか師匠の自殺願望を取り除く方法がないか、頭を悩ませていたのだが……。
「……失礼致します。ヒンナ様はおられますでしょうか?」
「湿島さん?」
師匠のアジトに、幹部イコルの執事的存在、湿島さんが、何の用なのか、訪問してきていた。
先日幹部様が来た時にはイコルと湿島さんはいなかったし、キュヴァちゃんの件、というわけではなさそうだ。そもそも、イコルってキュヴァちゃんの件知ってるのかな? まあ師匠が伝えてるか。
「……どうしたの? 突然訪れて」
「伝言を預かっておりまして。……オクトロア様のアジトに、魔法少女達が襲撃しにやってきたようです」
「幹部様のところに?」
「はい」
アジトバレしちゃったの? 何で? いつ?
………もしかして、スターチス? 確か、師匠がアジトを破壊しちゃったあの時は、俺にスターチスが発信機を付けてたから、それでアジトバレしたんだったよな。
………またぁ? マジ?
いや、そうと決まったわけではないけどさ。
………うん、一回やられた俺なら、発信機対策もある程度できたかもだけど、幹部様はそういうのできないだろうからなぁ。
だって、俺が発信機付けられてたことは隠してるし……。あの一件に関しては、なぜかアジトがバレて魔法少女がやってきて、その魔法少女の対処に師匠が暴れて、結果アジトが崩壊しちゃったって感じで組織内じゃ伝わってるからね。
もしくは、発信機を付けられてたのは幹部様じゃない、とかね。幹部様がそう簡単にヘマをするとは思えないし、イグニスか白髪少女の子に発信機がつけられて、それで位置が割られた、とかかもしれない。うん、そっちの方がしっくりくる。
「……そう、今度はオクトロアのアジト、か。もしかして、夕音の娘が…? いや、だとしても、オクトロアが今使ってる、元ピュアのアジトをあの子が知っているとは……」
「アジトの所在地が向こうに知られた経緯は不明です。現状判明しているのは、魔法少女側にオクトロア様のアジトを知られてしまったということ。そして現在、オクトロア様が魔法少女からの襲撃を受けているということです」
幹部様、魔法少女達と戦ってるんだ。
……大丈夫かなぁ…。幹部様、キュヴァちゃんの件で落ち込んだりとかしてるかもだし、魔法少女の……特にホワイトポイズナーなんかは幹部様に結構敵意剥き出しだろうから、容赦なく殺しに来そうなんだよなぁ……。
加勢した方が良いんじゃないだろうか?
「……幹部様のところ、加勢した方が良いんじゃないですか?」
「仰る通りです。オクトロア様お1人では、魔法少女達のお相手は厳しいでしょう。それに、会議の上で、ルーイ様はオクトロア様の管理下にあるとされています。つまり、形式上はオクトロア様の部下にあたるので、形だけでも、加勢はしておくべきかと」
「分かった。それじゃあ幹部様のところ、すぐに向かうよ」
幹部様にも結構お世話になってるからね。最初に俺の面倒見てくれてたのも幹部様だし、ピュアのセクハラ(実際本人がどう思ってたのかは知らないが)から身を守ってくれてたのだって幹部様だったから。
だからまあ、幹部様には死んでほしくはないかな。
倒される悪党なのかもしれないけど、俺は幹部様のこと、結構好きだからさ。
「師匠」
「私は行かないわ」
「え、どうして?」
「キュヴァと、千夜を残していけないでしょ。………キュヴァの身の保証は、まだ完全に担保されたわけじゃないんだし」
そうだろうか?
幹部様は誠心誠意謝ってたし、もうキュヴァちゃんに手を出すことは……。
………いや、けどイグニスとかいるもんな。
イグニス、ずーっっとキュヴァちゃんのこと目の敵にしてるし、私怨でキュヴァちゃんを殺しにきたっておかしくはないか。
そうなると、幹部クラスの護衛はキュヴァちゃんの元に置いておいた方が良くて。
………その上、幹部1人だと、守り切れるかは不安だし、もう1人の俺と、それに……。
「湿島さんも、キュヴァちゃん達についてもらってていいですか?」
「……構いませんよ。何なら、イコル様も呼びましょうか?」
それは頼もしい。イコルは多分師匠を裏切ることはないっぽいし、師匠がいる限りは味方でいてくれるはず。仮にイグニスがキュヴァちゃんを殺しにきても、対処可能だろう。
「……うん、ありがとうございます。………って、キュヴァちゃんの件知ってたんですか?」
「本人がイコル様に伝えにきてましたからね」
いつの間に……。というか、イコルのこと信用して大丈夫だったの……?
1人で行くと危険じゃない…?
「というか、ルーイ様がご友人を連れて一緒に訪れて……いえ、あれは千夜様の方でしたか」
……あーなるほど、千夜ちゃんがキュヴァちゃん連れてイコルに事情説明してたってわけね。ご友人を連れてって、流れ的にキュヴァちゃんのことじゃないよね?
………妖愛ちゃんを連れて行ったのか。まあ、妖愛ちゃん強いっぽいし、その子連れてたのなら仮にイコルが敵でも安心ではあるのか。
「……まあ、ルーイ1人で送り出すのは……ちょっと不安ではあるけども」
「…………どうしましょうか、私がルーイ様に付きましょうか?」
「……いえ、いいわ。少なくとも、魔法少女達がルーイを殺すことはないでしょうし」
そりゃキューティちゃん達良い子だし、俺を始末しよう! なんて思想にはもうなってないはずだ。何なら、光堕ちさせようって思ってるんじゃないかな?
一般人としての……光千夜という存在はもう知られているわけだしね。
一応善良で明るくて良い子だったって噂くらいは残ってるんじゃないだろうか?
当時の同級生がどのくらい覚えていてくれてるか、それと、魔法少女達がどれくらい光千夜の情報を探っているかにもよるんだけども。
「とにかく。ルーイ、あんたはオクトロアに加勢しなさい。………それと、オクトロアに好意的なのは別に良いわ。けど、オクトロアがルーイの身を危険に晒した時は、迷わず自衛しなさい。わざわざオクトロアを、命を張ってまで庇う必要はないから」
「……幹部の立場でそれ、私に言って良いんですか?」
俺はあくまで組織のモルモット。使い捨ての駒で、死んだって特に問題はない。そのレベルの扱いのはずだ。それなのに。
「さあ? 私は合理的に考えて、幹部オクトロアがやられるよりも、魔法少女ブラックルーイがやられる方が、組織にとって損失が大きいと思っただけよ」
そんなわけないんだけどなぁ。
『ワ・ルーイ』ってほぼ幹部様のおかげで成り立ってるようなもんだし、その幹部様と俺を天秤にかけたら、いくら貴重な組織の魔法少女とはいえ、幹部様を失う損失の方が絶対大きいと思うけど。
………まあ、そこは突っ込まないでおくものかな。
師匠だって、分かった上で言い訳を並び立てているんだろうし。
師匠もちょろいよね。絆されやすいっていうか。まあ、そこが師匠の良いところでもあるんだけどさ。
だからこそ、死のうなんて、そんな風に考えて欲しくないなって思う。
…………まあ、その件に関しては、幹部様を助けてから考えることとしよう。
「………それじゃあ、行ってきます」
「気をつけてね、ルーイ」
「うん、師匠も。………あんまり、自分を追い詰めないでね」
「………?」
「それじゃ!」
俺は、旧ピュアのアジトへと向かう。
大丈夫、危なくなれば、腕輪型転移魔法機で師匠のところに帰ればいい。
だから、俺は何も気にすることなく。
ただ、幹部様を助けにいけばいい。
待ってて幹部様。今助けに行くから。
間話について
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イコルの話(重め。暗め)
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湿島の話(重め。暗め)
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キュヴァちゃんのお話とか(未定)
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間話登場のギャル、南根柚月の話
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いらない。必要ない。(or本編優先)
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その他