イコルと湿島さんのは、要検討。
とある日のこと。
いつも通り、ヒンナさんのアジトでなんとなーく過ごしていた、その時だった。
「……盗んできた」
「何してんのぉ!?」
キュヴァちゃんがアジト目掛けて車を突撃させ、建物の一部を破壊するというとんでもない暴挙に出たのだ。
最初は何者かの襲撃かと思い、もう1人の私が様子を見に行ったのだけど……。
「………それで、どういう状況だったの?」
「いや……それがさぁ……」
「………車取ってきたから、ドライブでもしようかと思って。それで盗んできた」
どうやら、キュヴァちゃんは車を盗んで持ってきてしまったらしい。
いや、マジか。組織で生まれた子だから、買うとか売るとか、窃盗罪だとか、そういう概念を知らないのだろうか。
「キュヴァちゃん、あのね。人のものを盗んだらいけないんだよ」
「今更何を……。私は悪の組織“ワ・ルーイ”に所属している大悪党。何故律儀に社会のルールに縛られなければならないのか、これがわからない」
自信満々に、キュヴァちゃんは誇らしげに言う。いや、でもさ……。
「キュヴァちゃんってもう“ワ・ルーイ”の構成員じゃなくない?」
「ほえ…?」
“魔核”は失ってるから戦闘できないし、オクトロア様から自由の身であると告げられてるしさぁ。
「無職の少女が車を盗んだ。文章にすると、こういうことになるよね」
「……し、しまった!! そうだ! もう“ワ・ルーイ”バリアは使えないんだった!! く………。罪を全部“ワ・ルーイ”に擦りつけてやろうと思ってたのに……!」
『ワ・ルーイ』に生み出されて自由がないことを嘆いていた割には、結構『ワ・ルーイ』を私利私欲のために悪用しようとしてない……?
この子が悪の組織で生まれたの、偶然とかではなく元々悪の素質があったのでは……?
「……千夜ちゃん、これは矯正のための“光堕ち”が必要だね」
「あ、愛結ちゃんもそう思う? やっぱり、今のキュヴァちゃんは“わからせがい”があるよね」
「は……? 2人とも、な、何を……」
そう。私の起源は、不良の更生。
私が“光堕ち”という癖に気付いたきっかけは、クラス内の不良を学内で十の指に入るほどの優等生へと育て上げたこと。
最初は、人を育てることそのものでドーパミンを得ているのだと思っていたけど、不良の更生。闇から光へ。
それこそが私の起源であると、何人か“堕”としているうちに気づいたのだ。
キュヴァちゃんの行動は、不良のそれと似ている。
だったら、私の専門分野だ。
確かに、私達はキュヴァちゃんを一度救った。けれど、完全な光堕ちはまだ達成していなかったのだから。
キュヴァちゃんを“更生”させる。そうして初めて、キュヴァちゃんは完璧な“光堕ち”ができるのだから!
「……よーし。さて、まず車についてだね。どこから取ってきたのかな?」
「………イコルのところから」
ほーん。
イコルって車乗ってるんだ。悪の組織の幹部なのに?
車に乗って運転してるの? 面白いね。んまあ、見た感じ奇跡的に車は大破したりはしてないし、外見上特に問題はなさそうだ。これならイコルも許してくれるだろう。
……車の弁償とか、そういうのは考えなくても良いと。ただ、盗み出したのは事実。まず謝罪をさせることは必要だね。
「イコルのところに謝りに行こっか」
「いや、私は拒否する。だって、私が盗んだのはイコルの車! 悪の組織の幹部の車であるからして、どうせ盗品でしょ? 良からぬ手段で得た車なんでしょ? だったら、私が盗もうが、元々正当な車の所有者ではないのだから、返す必要は……」
「もしもし湿島さーん。はいはい。えーと、この車のことなんですけど〜」
「………何を……」
「ちゃんと契約してるみたい。買ったんだって。正当な車の所有者、だったね〜」
「バカ……な………!」
「残念だったねキュヴァちゃん。君の理論武装じゃ、私を崩すことはできない」
「くっ………かくなる上は……!」
キュヴァちゃんは再び車に乗り込み、エンジンをかける。
……さては逃げるつもりか……!
「させない!」
私も慌てて助手席に乗り込む。
これでキュヴァちゃんがどこへ車を走らせようと、私を払いのけることはできない!
「……残念だったねキュヴァちゃん。どうやら、私の勝ち、みたいだよ」
「……それはどうかな? 千夜、貴方はどうやら、まんまと私の罠にハマってくれたみたいだね」
「……何……?」
「もう遅い。出発進行……!」
キュヴァちゃんは車を発進させる。私が乗っている以上、どこへ車を走らせようと、逃げることは叶わないのに。
それに……。
「キュヴァちゃん、車の運転免許持ってないよね? そんな状態で公道を走るなんて。いーけないんだーいけないーんだー!」
「……いいよ。いくらでも言えば? ……あ、そうだ。この辺りに美味しいアイス屋さんあるから、寄る?」
「ふむふむ。まあ、いいよ?」
私はキュヴァちゃんを監視しなきゃいけないからね〜。キュヴァちゃんがアイス屋さんに寄るなら、私もそれを尾行しなければならない。
ということで、キュヴァちゃんが駐車場に車を停め、アイス屋さんに向かうのに、私も続く。
「千夜、見て。駐車は完璧。事故も起こしてない。周りの車が走行を行う上で邪魔をしてもいない。……どう? これでも私は運転しない方が良いと言える?」
「うん。だめだよ。だって免許持ってないじゃん。運転できるから別に良いじゃん、じゃダメなんだよ。それが罷り通るなら、免許なんていらないんだから。免許っていうのはね、証明書なんだよ。私は資格を持っていますって、安全ですって示すためのものなんだ。それを持っていない人が運転したら、周囲に不安を与えるでしょ?」
「真面目ちゃんめ。少しは気楽に生きようよ」
「ざんねん。ルールはルールだから」
私とキュヴァちゃんは言葉を交わしながら、アイス屋さんへと向かう。
普通のソフトクリームもいいけど、今日はチョコの気分だなぁ……。どれにしようかな……。
「………これとこれ、ください」
「はーい、ちょっとまってね〜」
キュヴァちゃんは既に注文を終え、店員さんからアイスを受け取っており……。
「はい、千夜。千夜はこれ、でしょ?」
「あれ? 私の分も頼んでくれてたの? ありがとう」
「うん、代金はもう支払っておいたから」
車は盗むのに、アイスはちゃんと買うんだ……。金額の違いかな? というか、はやく止めないと。事故が起こってからじゃ遅いんだし。
そんな風に考えながら、私とキュヴァちゃんはアイスを貪る。
「………うん、美味しいね、キュヴァちゃん」
「でしょ? 私のお気に入りだから」
いやぁ、今日ちょっと暑かったし、アイスで体冷やせるのはちょうど良かったかも!
ふぅ……満足満足っと。
まあ、アイスは美味しかったよ。
「…アイスを食べれたのは良かったんだけど、でも、ダメなものはダメだし。キュヴァちゃん、運転はもうやめよう。それで、車もイコルに返して……」
「……………千夜、アイスの恩を忘れたの? 私がアイス代を支払ってあげたのに、恩を仇で返すなんて………。なら、私も千夜の言うことに従う義理はないね。車運転するよ」
「ちょまっ!」
キュヴァちゃんは再び盗んだ車に乗り込み出す。
私はキュヴァちゃんを見失わないためにも、助手席に乗り込み、逃げ道を塞ぐ。
「無免許運転は許さないからね! 絶対に止めさせるから!」
「ふっ……いくらでも吠えるといい。だが良いのかな? 千夜も私の……盗品の車に乗車している。……残念だけど、助手席に乗った時点で、千夜も同罪。つまり、私を責めることはできない!!」
「はっ!? ま、まさか……そ、そんな!!」
「千夜は私のこと、“わからせがい”がある、なんて言ってたよねぇ……? けど、本当に“わからせ”られるのは、どっちかな…?」
「し、しまったぁ!!!!」
その通りだ。
盗品である車の、それも助手席に乗ってしまった時点で、私はキュヴァちゃんと同罪。
だってそうでしょ? 盗品の車を利用して、移動してしまっているんだから。
私は、別の場所に移動し、その上でアイスを食べるという利益を得てしまった。
「もう遅い。千夜、私を“わからせ”ようとしたみたいだけど、無駄に終わったみたいだね。安心してよ、このまま私はアジトに帰るから。………“罪人”になってしまった、千夜と一緒に」
キュヴァちゃんはニタニタしながら、勝ち誇るかのように私に言う。
堕とされたのは、私の方だった。清廉潔白優等生完璧美少女だった千夜ちゃんは、もう地に堕ちてしまったのだ……。
そのまま、ヒンナさんのアジトへと、キュヴァちゃんは車を停車させる
ああ、愛結ちゃん、私、堕ちてしまったよ。もう、愛結ちゃんと一緒に、光堕ちさせる側になれなくなっちゃったよ……。
うぅ…………汚れてしまった………。私の光が、どす黒くなってしまうぅ……。
「……あ、帰ってきた」
「愛結ちゃん、私は……私は……」
「ふっ、ルーイ、残念だったね。千夜は既にこちら側に引き込んだ。安心して、ルーイもすぐにこちら側に来させてあげるから。さあ、さあ!!」
キュヴァちゃんの魔の手が、愛結ちゃんの方にも及ぶ。まずい、逃げて愛結ちゃん! キュヴァちゃんは、愛結ちゃんも闇へ引き摺り込もうと…!
「はい、現行犯逮捕ね」
「………は……?」
「君、駄目じゃないか。無免許運転なんて。逮捕だよ逮捕。死刑だよ死刑」
「は……え………あ……え………?」
愛結ちゃんに魔の手が及ぶ直前。
突如私達の目の前に現れたのは、警察の制服に身を包んだ成人男性で……。
「……け、警察の人!?」
キュヴァちゃんの手に手錠がかけられる。え、えぇ!?
「し、し………死刑……? あ、やだ………うそ……し、しにたくな……」
死刑……? ど、どういうこと?
無免許運転って、死刑になるの……?
え、そうなの…? ど、どういうこと?
そもそも、なんで警察が……?
「まあ、もう決まったことだから。はい。それじゃあ死刑執行するから、署までご同行願おうか」
そもそも裁判は? 勾留とか、そういうのしないの?
…………え? どういうこと? 偽警察官?
「ごめんなさい! ごめんなさい! 許して、許してぇ! お願い! 反省するから! やだ!! やだ!! 死にたくない!! 死にたくない!!」
キュヴァちゃんは大泣きしながら、必死に警察官に訴える。が、警察官は一切の慈悲を見せる様子もなくて。
「ま、死刑は死刑だから。じゃ、そういうことで」
「やだぁああ!! やだぁ!!」
………愛結ちゃんの様子は普通。警察官の男性に、特に違和感を覚えている様子もない。
…………もしかして、ドッキリ?
じゃあ、これって、キュヴァちゃんを”わからせ“るための……。
『……なぁ、もうこのくらいにしてやったらいいんじゃないか? 泣き喚いてるし……』
「……スマイル?」
「あら、もうやめちゃうんですか? 結構楽しかったのに………」
………あれ? これって……。
「警察ごっこ」
警察官の男性の姿が、私の友人、西織妖愛のものへと変化していく。
もしかして……警察官を演じていたのは、妖愛ちゃんだった……?
「は……え……? どういう………こと……?」
「……ええ、まあ、教育の一貫というやつです」
『”妖の魔“って言ってな。他人の姿に化けることができる魔法なんだ。ま、そういうわけだから、死刑とかそういうのは全部嘘だぜ』
キュヴァちゃんの体が、崩れ落ちるようにして地面へへたれこむ。
「……あはは………」
キュヴァちゃん、本気で怖がってたもんね。まあ、そりゃ元々死にたくないって、自身の死に怯えて助けを求めてた子だったし………死刑とか言われたらビビるよね。
「……さて、これで分かりましたか? 悪い事をしたら、必ずその皺寄せは自分に来るんです。ま、私としてはそれでも自分のしたいことはした方が良いと思っていますが……」
「………はひ………反省しました……」
「ま、キュヴァちゃんさ、そういうことだから。今後は清く正しく生きようねってこと。まあ、今回はちょっとびびらせすぎちゃったかなーと思わなくもないけど……」
「う、わかった。ルーイ。今後は気をつける」
というわけで。
以降キュヴァちゃんが犯罪行為に手を染めることはなくなったのだけど………。
「こんにちは」
「ひえっ……!」
妖愛ちゃんがうちに来るたびにビビり散らかして萎縮するようになったというのは、また別のお話、かな?
私事で大変申し訳なく思うのですが、リアルがしばらく忙しくなりそうなので、更新を一時停止します。
一応完結まで遠くないので、エタることはないとは思います。
再開は7月からで考えていますので、1ヶ月後、またお会いしましょう。
(アンケートで本編優先の項目を設けていたのに更新を継続できず申し訳ないです)
カクヨムの方は更新し続けますが、基本的にハーメルンが先行になるとは思います。以上です。