135転生少女は混沌にのまれる
私の触手は、未だ暴れ続けている。
無防備で、無力なキュヴァちゃんの命を、なきものとするために。
そして、キュヴァちゃんを守ろうとしている妖愛ちゃんという脅威を、取り除くために。
「『ろくろ首』」
妖愛ちゃんは……エンシェントは、妖怪を出現させ、私の猛攻を耐える。が、私の触手は勢いを失うことなく、その上……。
「オレを忘れるなよ! エンシェントォ!!!」
幹部イグニス。彼の猛攻によって、魔法少女エンシェントカラミティは、徐々に追い詰められていた。
「『迷わし神』」
「死ねェ!」
「『アッコロカムイ』」
「焼き尽くしてやンよォ!!」
「『見越し入道』」
「見越したァ!!!」
エンシェントは次々に妖怪を召喚する。が、そのどれもが、イグニスの手によって葬られてしまう。
「何回テメェと戦ってると思ってンだァ? こっちは対処法くらい用意してンだよ!!!!」
「……っ! 面倒ですね……!」
『だから言ってたんだよ! 手札は隠しながら戦えって! それをポンポンポンポン自慢げに使うから!』
どうやら、イグニスとエンシェントは何度か戦闘を行ってきたらしく、そのおかげか、エンシェントの妖怪への対処法は、イグニスにはお見通しらしい。
…………これは、まずいかもしれない。私の触手の対処をしながら、イグニスの相手をするなんて、そんな芸当……。
「っ……! イコル……! どうして……!」
「悪く思うなヒンナ。これが僕の選んだ道だ」
このままじゃ、誰も私を止められない。
キュヴァちゃんを、私が……私が殺してしまう……!
どうすれば……どうすれば……!!
「……光千夜。僕がお前に選択肢を与えてやる」
「……イコル………様……」
イコルとは、仲良くやっていたつもりだった。
けど、そうだ。彼はあくまで、ヒンナさんが好きだから、それで私に協力してくれていただけで。
……私自身に、好意なんて一切なかった。
だから………私が死んでも、キュヴァちゃんが死んでも、彼にとっては、どうでも良かったのかもしれない。
「選べ。自身の命か、キュヴァの命か。………お前が自害すれば、キュヴァが死ぬことはない。キュヴァの命は、僕が保証する。だが………もし、自身の命を守ること……保身に走るのであれば、僕はもう止めない。自分自身の手で、キュヴァを仕留めるといい。………選べ」
イコルは、私に究極の二択を迫ってくる。
自身の命か、キュヴァちゃんの命か。
………そんな、酷い選択肢を……。
「ダメよ千夜!! イコルの言うことを信じちゃ………いや……でも……」
………ああ、ヒンナさんも知ってるんだ。
イコルは、誠実をモットーにしてる。
今回の裏切りは、誠実とは言えない行為だ。けど、この選択の提案に、嘘は混じってないと、私はそう感じている。
私が死ねば、きっとイコルは、キュヴァちゃんの命を保証してくれるんだろう。
それは、確かで……。
キュヴァちゃんの命か……私の命。
どちらか。
………そん、なの……。
「………ヒンナさん……愛結ちゃんに……もう1人の私に伝えて」
「千夜……! 何を言って……」
「私、どうやら光堕ちできないみたい。………ごめんって」
「なっ! 千夜ちゃん! はやまらないでください! 私はまだ戦えます! 『酒呑童子』! 『九尾の狐』! 『八岐大蛇』! 『土蜘蛛』! 『海坊主』!」
「千夜! 私のために自分を犠牲にしないで! そんなことされても、私もルーイも嬉しくない!! やめて!」
「考え直すのよ千夜! エンシェントがまだ戦ってる! 希望はまだ……!」
……これでいいんだ。きっと。
光堕ちしようだなんて考えて、自分の欲望のために悪の組織に所属し続けて。
そんな自己中な私だから、こんな結末しか待ってなかったんだよ、きっと。
けど、不思議と後悔はないかな。
だって、キュヴァちゃんのこと、無事光堕ちさせることができたし。
私が光堕ちできなかったのは、残念だったけど。
………でも、きっと、もう1人の私が……愛結ちゃんが……。
もう1人の、光千夜が、きっと、光堕ちを果たしてくれるだろうから。
だから私は、光千夜は、安心して逝くよ。
………うん、覚悟は決まった。
私は、私の命を断つ。
これ以上、キュヴァちゃんを危険に晒さないためにも。
私は、私を終わらせる。
……だって、そうだよね。
光千夜が2人もいたら、きっと皆困るだろうから。
だったら、私が死ねば……。
「………千夜………!!!!!!!」
あ、え………?
な、んで……。
どうして……。
「………遊………美………?」
なんで、黄瀬遊美が………。
私の親友が、こんなところに……?
「………千夜、やっと見つけた」
「なんで………遊美が……?」
「………私、色々調べたよ。千夜のこと。拉致された後のこと。………引っかかる点が、多すぎたから」
どうして……?
私にとっては、遊美との思い出は、昨日のことのように思い出せる。けど……。
遊美にとっては、私なんて、3年も前に疎遠になった、もう親友でもなんでもない、昔の友人でしかないはずなのに……。
「……色々と面白いことになってたみたいだね。……ややこしすぎて、頭おかしくなりそうだった。………本当に、私の頭の中は今でもぐちゃぐちゃだよ。けど……」
遊美は、私の目をまっすぐ見つめる。
私の触手は、未だ暴れ続けて、キュヴァちゃんの命を奪おうとしている。
このままじゃ、遊美にも……。
……私が生きてる限り、周りに迷惑を振り撒いちゃう。なら、イコルの言った通りに……。
「………ねえ、千夜はもう、自分の命を投げ捨てようとしてたよね?」
「へ……?」
「死のうとしてたよね? 命を投げ捨てて、その人生を終わらせようとしていたよね?」
遊美は、私のことを詰めるように言う。
そこ冷えしたかのような声で、有無を言わさぬような圧を出しながら、私に向かって……。
「いらないなら、その命、頂戴よ」
「遊美…………?」
「私のために生きてよ、千夜。だって、いらないんだもんね? その命、必要ないんだもんね? だったら、私のモノにしたって、構わないよね……?」
「ひっ……!」
あんなに仲良くて、大好きな女の子だったのに……。
今はただ、目の前の彼女が、怖い……。
魔法少女でもない。組織の幹部というわけでもない。エンシェントの出す妖怪というわけでもない。
にも関わらず、彼女の底冷えするような視線は、ひどく恐ろしくて。
「あ、いや………やっぱやめる………やっぱやめる! 死ぬのやめる! キャンセル! 却下却下!!!」
思わず私は、キュヴァちゃんのことも忘れて、自殺を拒否してしまう。
………あ、違う、これすると、キュヴァちゃんが……!
「っ!」
私の触手が、キュヴァちゃんに襲いかかる。
もう、エンシェントも疲弊してきてる。
これじゃあ、本当に……!
「フィルバー」
「『グレーシャット』」
けど、私の触手がキュヴァちゃんを貫くことはなかった。
灰色の魔法少女が、私の触手からキュヴァちゃんを守ってくれたからだ。
「え……と……」
「っ!! 先輩! 私はフィルバーグレーネと言います! 事情は大体把握してます! 先輩は、自分の意思で、自主的に闇堕ちしたいのに! 周りが勝手に闇堕ちさせてこようとしてるんですよね! ダメですよそんなの! 先輩は確固たる意志を持って闇堕ちしようとしてるんです! 周りが強制する必要はないんです! 安心してください先輩! 私は先輩のこと、ちゃんと理解ってますから! 先輩にとって、最適な闇堕ち環境を提供します! 『ワ・ルーイ』なんかよりも、もっと良い環境を用意します! だから、待っててください! 『ワ・ルーイ』の用意した、そのへなちょこ触手闇堕ちセットは、私が破壊して、私のハッピー闇堕ちプランのレールに先輩を乗せてあげますから!!!!」
な、なにこの子……?
闇堕ちってなに……? 私に何させようとしてるの……?
も、もうわけわかんない!!!
どいつもこいつも何がしたいんだよ!!!!!
目的語れよ!!!!!!
私にはもう何もわかんないよ!!!
ふざけんなばかやろー!!!!!!!!
全員光堕ちさせるぞコラ!!!!!
もーーーーーーう!!
わけわかんなぁあああああああい!!!!!!