もう2度と、被害を出さないと、そう誓って、魔法少女になった。
ずっと、救い出してあげたかった。
私と同じように、組織の被害者となってしまった彼女を。
私よりも酷い目にあってきた、彼女を。
「……ブラックルーイ…!」
なのに、彼女に近づくことができない。
彼女の周囲に蠢く触手は、私が彼女に近づくことを阻止してくる。
こんなにも助けたいのに、手が届きそうなのに。
なのに、どうしても、後一歩が足りない。
わかってた。私に、誰かを救うだけの力がないことなんて。
本当の私は、臆病で、病弱で、誰かに助けられないと、動けないような、そんなちっぽけで弱っちくて、みっともない存在だったんだから。
私がここまで動けたのは、私の『ワ・ルーイ』に対する憎悪と敵意で、私の臆病な気質を覆い隠してきただけなんだから。メッキを貼り付けて、強いフリをして。強気に振る舞っていた。
ただ、それだけ。
私に、それだけの力がないことなんて、わかってた。私がそんな大層な存在じゃないことなんて、最初から。
………でも、それでも……。
「……私は、貴方を……光千夜を救いたい……!!」
助けに来たのが、こんな私でごめんなさい。
でも、私は………。
「………こんどこそ、救うから…!」
だからもう、臆病ではいない。口だけの存在にはならない。
私は、本気で、貴方を救うために全力を尽くす……。
「ああああああああああ!!!!!!!!!!」
キューティに、苺ちゃんに頼るだけの存在じゃいられない。
いつまで経っても、周りに助けられているままじゃ、臆病なままじゃ、きっと彼女は救えないから。
……私は、彼女を救うために。
強くなる。普段は頼りない私だけど、今だけは………今だけは私に……。
「私に……魔法少女でいさせて!!」
『了解クル』
私はクールと共に、ブラックルーイ……いや、光千夜が展開する触手の中を進んでいく。
「ホワイト!?」
「貴方、何をして…!?」
傷だらけになりながら、ボロボロになりながらも進む私に、キューティと再び変身したシャイニングが驚きと戸惑いの声を漏らす。そして……彼女も。
「ホワイト……ダメ! 近付かないで!!!」
彼女は私を止めようとする。けど、そんな彼女の意に反して、触手は私を攻撃し続けることをやめない。
『ホワイト……』
「クール、お願い…」
「…………………わかったクル」
ボロボロになっていく私を、クールが心配そうに見つめてくる。
ごめん、それでも私は、ここで止まりたくない。いつまでも停滞したままで、いたくはないから。
「援護するわ!!」
触手を突き進む私の姿を見て、ライオネルが背後から私を援護してくれている。
それに続く形で、キューティやシャイニングも、私のために動いてくれる。
キューティには、いつも支えてもらってきた。
……私が動けない時に動いてくれていたのは、キューティだった。
今度は、私が動く番だから。
「ホワイト……私がブラックルーイまでの道を確保する」
そして、私の隣を並走するように、スターチスもまた、私の進路を確保するために、援護に入ってきた。
「スターチス……」
「行って。全部貴方に託すから」
「わかった」
私は突き進む。
触手の猛攻は止まらない。けど、さっきよりはマシだった。
キューティやスターチス、他の皆が、私を支えてくれているから。
臆病な私だけど。
それでも、皆の力を借りれば、届くものだってある…!
あと……もう少し……。
「届いて……!」
私は、ブラックルーイに、光千夜に手を伸ばす。後少し、後一歩。
光千夜の方もまた、私に手を伸ばしてくれている。
もう少し、もう少しだ。だから、頑張れ私、怯むな私。
病室でずっと寝たきりだったあの頃の私とは、もう違うんだから!
『……! ホワイト! 危ないクル!!!!』
私が光千夜に手を伸ばしかけた、その時だった。
光千夜の周囲を蠢いていた触手たちが、一斉に私めがけて襲いかかってくる。
スターチスが、他の皆がそれを防ごうとするも、量が多すぎて対処しきれない。
私に向けられた触手は、止まることがなく、真っ直ぐに私を貫こうと直進していた。
…………私の代わりに触手の攻撃の犠牲となったのは、私が契約している妖精、クールだった。
「クール!!」
『ホワイト……行く、クル……それが、ホワイトの、望み、クルから……』
普段は冷静で、落ち着いているクールが。
触手の攻撃によって、息も絶え絶えな声で、弱々しくそう伝えてくる。
気付けば、私の魔法少女への変身は解けていた。
触手の攻撃によって、クールが気絶してしまったのだろう。それにより、私の変身が維持できなくなった、ということだろうか。
振り返れば、キューティの変身も解けていた。クールが倒れたことで、キューティも変身を維持できなくなったのだろう。
もう、キューティに、苺ちゃんには、頼れない。
私を支えてくれていたクールも、今や気を失ってしまっている。
………もう、私を守ってくれるものはない。
私に貼り付けられたメッキは、既に完全に剥がれ落ちてしまった。
臆病で、病弱で。
弱っちくて、ちっぽけで、誰かの力がないと、進めないような、そんな軟弱者の私に。
それでもいい。私は、進み続けるだけ。
「ホワイト……変身が……!」
光千夜がひどく動揺した表情で言う。
変身がなければ、触手が一本でも向けられれば、私は絶命してしまうだろう。
怖くないと言えば、嘘になる。
けど、彼女は……光千夜は、そんな怖い思いをたくさんしてきた。
私が臆病なままでいたら、きっと彼女は、そんな恐怖に塗れた暗い世界で一生を過ごさなければいけなくなる。
そんなの、許されていいわけがない。だから私は……!!
「っ! ………『ブラックハンド』!!」
光千夜は、向かってくる私に焦った表情で魔法を発動する。
別に私を遠ざけようとしたわけじゃない。ただ、私に複数の触手が、彼女の意思に反して向かってきたから、それを阻止するために魔法を放ったのだろう。
「……助かる」
光千夜の放った『ブラックハンド』は、私に向かってきた触手に掴み掛かり、触手が私に危害を加えることを阻止してくれている。
「ホワイト! 死にたいの!? このままじゃ本当に……!」
光千夜が震える声で私に叫ぶ。
生身の私を見て、本気で死ぬかもしれないと、恐怖しているのだろう。
「……大丈夫、死なないから。私は、貴方を助けるまで、死なない」
「………バカだ! 早く逃げてよ!! 魔法少女に変身してない状態で! そんな状態で私のこと助けようとしなくてなんていいんだって! 私は大丈夫だから!! 自分でなんとかする! どうにかできる! その算段も立ってる! 大丈夫! 私は平気だから!!!」
必死な表情で、光千夜は私のことを止めようとする。
私のことを傷つけたくなくて、懸命に強がっているんだろう。
自分でどうにかできるなんて、そんなの嘘っぱちだ。
だって、それができるのなら、自分でオクトロアに植え付けられた触手をどうにかすることなんて、容易いだろうから。
「………ごめん、私は、私の我儘を通したい。私は………貴方を助けないと気が済まない。だから……だから………私に、貴方を救わせて」
私は、光千夜に手を伸ばす。
触手はもう、私を襲ってくることはない。
私を襲えば、私の近くにいる光千夜を……触手を出している本人にも危害を加えてしまうからだろう。触手は、おそらくオクトロアによって強制的に操作されている。
とすれば、オクトロアとしても光千夜に危害が加わってしまう自体は避けたい、ということなのだろう。
「ホワイト………」
「……大丈夫。私が貴方を救うから」
私の手は、確かに光千夜の手を掴み取る。
私はもう、逃げない。
暗闇の底にいる彼女を、救うと決めたから。
「……やっと、届いた」
もう、これ以上犠牲にさせない。
私が必ず、守り切る。