ホワイトは無事に彼女の元にたどり着けたようだ。荒れ狂うように暴れ散らかし、周囲を破壊しつくさんとしていた触手も、ブラックルーイの元にたどり着けたホワイトのことまでは流石に狙えないらしい。自身の主であるブラックルーイに危害を加えることを拒否してるのか、もしくは、あの触手を遠隔で操作しているであろうオクトロアが、攻撃を諦めたのか…。
しかし、ホワイトが彼女のところにたどり着いたところで、私達に対して向けられた触手の猛攻は止まらない。それどころか、ホワイトとキューティが戦えない状態になってしまったことで、私達が不利な状況に追いやられてしまった。
「あの白いの、なにがしたかったんですかぁ?ブラックルーイの懐に潜り込んで、止めようとでもしたんですかぁ?の割には全然攻撃は止んでませんしぃ…。あれぇ?もしかしてぇ、自分だけは助かりたいからって、あえてブラックルーイの懐に潜り込んだんじゃないですぅ?」
先ほどまでびくびくとおびえるように隅に縮こまっていた、ひどく神経を逆なでしてくるような声をした少女が、水を得た魚のように突然元気に発言しだす。
その言葉に、私は少しの苛立ちを覚えるも、確かに彼女の言う通り、戦況はよくなるどころか悪くなる一方であるのも事実で…。
「レディ、どうする?」
『まずは幹部オクトロアを叩くことを優先するのが良いと思いますわ。彼がいる限り、ブラックルーイを助け出すことは叶いませんもの。それに、先程のホワイトの行動の結果、ブラックルーイの傍に彼女が滞在してくれていますの。もしブラックルーイに何かがあったとしても、傍にいるホワイトが、きっとなんとか対処してくれるはずですわ』
「レディ…」
レディの言葉には、ホワイトの行動を肯定する意図も含まれていた。彼女がブラックルーイの元にたどり着いたおかげで、私達はそちらの様子を気にすることなく、ホワイトに一任して、オクトロアとの戦闘に臨めるのだと。
ホワイトの行動は、無駄ではないと、まるであの口の悪いメェナという少女の言葉を否定するかのような言動だった。
「けど、ブラックルーイの触手は、まだ暴れてる。まずはそっちを対処しないと…」
「なら、そっちは私に任せて。スターチスは、シャイニングと一緒にオクトロアをぶっ倒すのよ!」
ブラックルーイの触手への対処に一抹の不安を覚えていた私だったが、そんな私に気が付いたライオネルが、私の不安を取り除くために私に言葉を投げかけてくる。
「…ブラックルーイを、光千夜を助けたいんでしょ?だったら、そのための手伝いくらい、私にさせてよ」
「…ありがとう、ライオネル」
私の言葉に、ライオネルは軽いサムズアップで返してくる。
やはり彼女は私の親友だ。私の気持ちに向き合って、どこまでも私の意思を尊重してくれる。
そんな彼女がいるからこそ、私は冷静でいられるし、物事に合理的に対処することができるのだ。
私はライオネルに背中を預け、オクトロアへと向き合う。そして、私とライオネル以外に、この場でまだ戦闘能力を有している少女、シャイニングシンガーへと目を向ける。
「シャイニング」
「わかってるわ」
シャイニングは、私の言葉に頷く。
2対1。数的有利はこちらがとっている。普通に考えれば、こちら側が勝てる戦いにはなるのだろうが…。
「『模倣の魔』、厄介ね…」
オクトロアには、幹部キュヴァから奪った『模倣の魔』がある。それがある以上、私たちの魔法は、すべてオクトロアにも扱えるということで。
1対1では絶対に勝てない。必ず、2対1で、同時に攻撃をしかける必要がある。そうしないと、おそらく繰り出した魔法はオクトロアに相殺されてしまうだろうから。
「複数で私と戦いますか。正義の魔法少女という割には、ずいぶんと卑怯なんですねぇ」
「幹部キュヴァにあんな仕打ちをした貴方に言われたくはないわ。それに、千夜のことも…」
「ルーイさんのことですか。それに関しては、貴方に私を責める資格はないと思いますが…」
「何を…………」
「私が光千夜さんを拉致させたあの日、貴方は光千夜さんの傍にいたはずです。妖魔は、貴方達姉妹に目を付けていたはずですから」
「それは……」
「どうして、千夜さんだけが組織に拉致されたんでしょうねぇ?どうして貴方は、妖魔から逃げることができたんでしょうねぇ?」
「それ、は……」
「知っていますよ。それは貴方が、千夜さんを見捨てて逃げたから。自分の命欲しさに、姉に助けを求めていた妹を、無感情に、自己の利益のために、見捨てたんですからねぇ」
「っ………!」
シャイニングの精神が、揺さぶられている。これはまずい、オクトロアは多分、少しでも自身の勝率を上げるために、精神攻撃を行うことにしたのだろう。オクトロアの思い通りにさせるわけにはいかない。シャイニングにも、冷静さを取り戻してもらわないと。
「シャイニング、落ち着いて。オクトロアの言っていることは戯言。一番悪いのはあいつらだから。組織が街の襲撃なんて行わなければ、そもそもこんな悲劇は起こっていない。悪いのは全部、『ワ・ルーイ』なんだから」
「そう、ね……。そうよ、悪いのは、千夜を食い物にした、あいつらなのよ…」
シャイニングは言い聞かせるようにつぶやく。自分の中で、妹を見捨ててしまったという罪悪感を完全に拭うことはできていないのだろう。その顔は真っ青になっており、とても精神が安定しているとはいえない状態だった。
「貴方もそうですよ、スターチス」
「…。何?」
「貴方の身代わりになって、ルーイさんは一度ピュアによって洗脳を受けてしまいましたからね。貴方がピュアにつかまったせいで、ルーイさんは貴方を守るために、組織の洗脳を再び受けることになってしまったんですよ。脳への負荷も凄まじいですし、私としても、あまりルーイさんの身体を損傷させたくはなかったんですけどねぇ…」
確かにそれは、私の失態だ。私のせいで、ブラックルーイは洗脳装置にまたかけられて…。
私があの時、ピュアに拉致されていなければ、防げていたことだった。あの時、ブラックルーイの洗脳は、確実に解けていたのに……。
「確かにそうですぅ。だってそうですよね?貴方が余計なことしなければぁ、それも防げたんじゃないですかぁ?ほら、余計なお世話ってやつですよぅ」
メェナがオクトロアに乗っかるように私を煽る。が、その言葉は全く私に響くことはなかった。
彼女の言葉は、確かに他者をあざ笑うような、悪意に満ちたものだ。しかし、それには中身が伴っていない。
説得力もないし、ただ薄っぺらいのだ。彼女の言葉には、何も詰まっていない。
「メェナさん……」
良くも悪くも、メェナの薄っぺらい言葉で、私は冷静さを取り戻せた。奴らは私の精神を揺さぶりたいだけ、耳を貸す必要はない。そう再認識させてくれたのだ。
それにオクトロアも気づいたのだろう。メェナに呆れた視線を向けていた。
そうだ。私は、ブラックルーイを助ける。彼女は確かに、私の身代わりでピュアの洗脳装置にかけられた。それは私の失態だ、明確な失敗だ。でも、同時に。彼女は私を助けてくれた。私のために、自身の身を差し出したのだ。そんな彼女の想いを、無駄にするわけにはいかない。私を助けてくれた彼女のためにも、私は彼女を助けなければいけないのだ。
それこそが、きっと、合理的な判断だと思うから。
それに、ライオネルは、私に託してくれた。なら、こんなところで立ちすくんでいるわけにはいかない。
オクトロアを倒して、洗脳を解き、二度と、ブラックルーイが悪事を行わさせられないように。
「オクトロア、貴方はここで仕留める」
「二度と千夜に手を出させないわ」
私はシャイニングと共に、オクトロアへと攻撃を開始する。
光千夜を救う。その目的のために。
「ふむ、仕方ありませんねぇ」
しかし、そんな私たちを前にしても。
オクトロアはなお、不気味な笑みを浮かべ続けていた。