「スターチス!」
私はスターチスに向けて声を張り上げる。私の意図を察したのか、スターチスはオクトロアに向けて魔法を繰り出す。
「『リリースサイクロン』!!」
「『リズライド』!!」
スターチスが放った風の魔法を、私の『リズライド』の譜面の上に載せ、オクトロアの背後に譜面を伸ばす。『リズライド』の譜面に乗った魔法は、そのレールを外れることはない。敵の元にたどり着くまで、『リズライド』に従い、その譜面の上を走り続けるのだ。ただ、『リズライド』は敵にも視認できる魔法だ。譜面に乗せたからといって、必ずしも攻撃が命中するというわけではない。
当然、オクトロアは『リズライド』に乗った『リリースサイクロン』の方に注目する。だが、それでいい。
私はスターチスに視線を送り、連携をとるようにアイコンタクトを交わす。
アイコンタクトを経て、スターチスは私と共にオクトロアへと突撃する。
「『リジェクトクロ―』」
「『ポッピンメロディ』」
オクトロアは今、私の『リズライド』に乗せた『リリースサイクロン』に注目している。そちらの対処に夢中で私達二人の攻撃への対処まで気を回せないはず。
「覚悟!」
私達は同時に攻撃を行う。
そして。
「『リリースサイクロン』」
オクトロアは私達を無視して、『リズライド』に乗せられた『リリースサイクロン』を、自身の『リリースサイクロン』で相殺することに決めたらしい。
好都合だ。これで私達の攻撃が、オクトロアに……。
「そう簡単に通すとお思いで?」
が、私達の攻撃がオクトロアに届くことはなかった。
オクトロアの触手が、私達の攻撃を防いだからだ。
「くっ……」
「私の優位性は、何も『模倣の魔』だけで担保されているわけではありませんよ。『模倣の魔』による手数の多さに加え、文字通り、私自身の”手”の多さこそが、私の優位性を担保してくれているのですから」
私達が対処するべきは、オクトロアの魔法だけではなかった。オクトロアが大量に有している、触手。魔法とは関係ない、オクトロアの身体的特徴。それこそが、オクトロアと戦闘する上で最も警戒しなければいけない要素だったのだ。
でも、私の策はまだ終わってない。触手で私達の攻撃を止めたところで。
『リズライド』に乗せられた『リリースサイクロン』は無視できないはずだ。
案の定、オクトロアは私達への対処を自身の触手で行い、『リリースサイクロン』を『リリースサイクロン』で相殺しようとする。『リズライド』はオクトロアの背後に向けられている。だから、オクトロアは背後に来るであろう『リリースサイクロン』に備え、背後に魔法を放つ準備をしていた。
これなら、意表を付ける。
私は、『リズライド』を解除する。
『リズライド』の譜面に乗った魔法は、そのレールを外れることはない。敵の元にたどり着くまで、『リズライド』に従い、その譜面の上を走り続ける……。
私が、解除しない限りは。
「!」
私が『リズライド』を解除したことで、『リリースサイクロン』の軌道が替わる。背後を警戒していたはずのオクトロアに、突然正面から、スターチスの魔法が襲い掛かったのだ。
当然、オクトロアに『リリースサイクロン』を対処できるだけの余裕はなく、彼は無抵抗に、スターチスの『リリースサイクロン』を食らうこととなった。
「これで、一撃……!」
「油断しないでシャイニング。まだ攻撃を1つヒットさせただけ。オクトロアを倒せたわけじゃない」
わかっている。私だって、この程度で攻撃の手を緩めるつもりはない。
「……く…………。流石に、真正面から受けると堪えますね……。ですが……これだけやってやっと一撃。それに、『リズライド』の警戒すべき点も既に把握しました。二度も同じ手が通用するとは思わないことです」
「ええ。だから、まだ手は用意してあるわ。……『氷の牢獄』」
私は『氷の牢獄』を展開し、その牢獄の中に、私とオクトロアを閉じ込める。
「逃げ場を封じたんですね。ですが、良いんですか? スターチスを鳥かごの外へと追いやり、私との一騎打ちに持ち込むのは、無謀なのでは?」
「無謀ではないわ。だって、スターチスを『氷の牢獄』に閉じ込めてしまったら、巻き込んでしまうもの」
「?」
私はオクトロアに向けて、不敵にほほ笑む。
私は先程、『ポッピンメロディ』という魔法を放った。それは、たくさんの音符の形をした魔法弾が、敵を襲うというもので。
その本質は。
「『ポッピンメロディ』はね、壁や床に当たると、とても元気に跳ね回るの。当たればダメージを負う魔法弾が、誰にも予測できない不規則な動きで、周囲を動き回るの。その動きは、私にも制御はできない。誰かに当たるか、他の魔法で相殺されるまで、消えることはないわ」
オクトロアは、物事を筋道立て、計画通りに進める幹部の男だ。少ない邂逅で、私はなんとなくオクトロアのことを分析し、そう感じた。実際どうなのか、私にはわからない。だが、先程の『リズライド』への対処法を見れば、あながち私の分析も間違いではないはずだ。
となれば、誰にも予測できない、不規則な攻撃は、オクトロアにとって最も嫌悪する類の攻撃のはず。
『ポッピンメロディ』は、私にも制御が効かない魔法だ。故に、壁のない屋外での戦闘で、私が行使することはなかった。どこへ魔法が飛んでいくのか、私にもわからないのだ。もしかしたら、民間人にも被害が及んでしまうかもしれないから。
だが、『氷の牢獄』で、敵を閉じ込め、その中で『ポッピンメロディ』を行使すれば?
外部に被害を行き届かせず、敵に大ダメージを与えることができる。とはいっても、『ポッピンメロディ』と同時に『氷の牢獄』を展開するのは難しい。故に私は、事前に『氷の牢獄』の下地となる魔法をセッティングしておいた。スターチスを外に逃がす関係上、『ポッピンメロディ』を放ってから牢獄を展開することにはなったが、上手くいったようで良かった。
「確かに、厄介ではありますね。ですが、ご自身でも制御が効かないのでしょう? 自分自身を『氷の牢獄』に閉じ込めてしまえば、貴方も『ポッピンメロディ』の餌食になるのでは?」
「そうね。けど、私は今、ここで、貴方を倒すと。終わらせると決めているの。もう二度と、千夜に手出しできないように。だから私は、確実な手段をとる。より確実に、貴方を終わらせることのできる手を選ぶ。そう、決めたのよ」
「なるほど。覚悟の上、ですか。なら、私もそれに応えましょうか。貴方の覚悟に、敬意を払って。……『ポッピンメロディ』」
「なっ……」
オクトロアは、私と同じように、『氷の牢獄』内で『ポッピンメロディ』を行使する。そうすれば、危なくなるのは自分自身であるはずなのに。オクトロアは、躊躇することなくそれをやってのけて見せた。
やはり、オクトロアは底が見えない。ここまで追いつめてもなお、その腹の内を見せていない。
最後まで、油断はできないということか。
「オクトロア、ここで貴方を終わらせるわ」
「私はそう簡単には終わりませんよ。まだ、私の目的は達成されていないのですから」
私は、牢獄内に飛び交う『ポッピンメロディ』を避けながら、オクトロアへと接近していく。
「『ダイアモンドクレッシェンド』」
「『闇の炎』」
私の魔法に、オクトロアが対処する。それは、かつて千夜が私に対して使ってきた魔法でもあった。
「『ダイアモンドクレッシェンド』」
「『ストロベリーアロー』」
私は再び、『ダイアモンドクレッシェンド』を繰り出す。それに対して、オクトロアはキューティの魔法、『ストロベリーアロー』で対応してきた。私の動揺を誘っているのか、それとも単純に私の魔法に対処する上で、その魔法が最適解だと感じたのか。定かではないが、私のやることは変わらない。
「『ダイアモンドクレッシェンド』」
「『フルーツ・パラダイス』『リズライド』」
「それ、は……」
疑念が、確信に変わった。
『フルーツ・パラダイス』は、色んなフルーツの形をした魔法弾が四方八方に暴れ回る、強力ながらも、制御不能なデメリットを持つ魔法だ。その性質は、『ポッピンメロディ』によく似ている。が、決定的に違う点が1つある。それは、私の『リズライド』の対象になるということだ。
だからこそ私は、キューティと連携して、『フルーツ・パラダイス』に『リズライド』を合わせるという戦い方を、灰燼に対して行ってきた。
オクトロアは、それを理解していて、あえてそれを単独で行ったのだろう。私の『ダイアモンドクレッシェンド』に対応する形で。
「どうしたのですか? そんなに動揺して」
厄介だ。私は、『フルーツ・パラダイス』の対処に当たらなくてはいけなくなった。『リズライド』を使えば、『フルーツ・パラダイス』を対処することは可能だろう。だが、私は先程『リズライド』を行使してしまった。次に『リズライド』を使えば、私の魔力消費は激しくなってしまう。そうなれば、オクトロアを仕留めるだけの体力は残らなくなってしまうだろう。それに、問題はそれだけじゃない。
「『ダイアモンドクレッシェンド』!!」
私が今使っている『ダイアモンドクレッシェンド』は、二度目以降の行使でも魔力消費が激しくない特異な魔法だ。だが、その代わり、『ダイアモンドクレッシェンド』を使い続けなければならないという制約が生じる。その分、使えば使うほど、魔法の威力は上がっていくのだが……。
もし、『ダイアモンドクレッシェンド』の行使をやめ、他の魔法を行使した場合。
私は、『ダイアモンドクレッシェンド』を使った数だけ、倍々の魔力消費を要求されてしまうのだ。
もしほかの魔法を行使した場合魔力消費量は、使用回数が2度目で2倍、3度目で4倍、4度目で、8倍となる。現在の使用回数は4。つまり、8倍の魔力消費量になる。
もう、後には引けない。私は、攻め続けるしかない。
「『ダイアモンドクレッシェンド』」
「愚かですねぇ」
「『ダイアモンドクレッシェンド』!」
「ですが、もう遅いんですよ。私は既に、種を蒔いているのですから」
「『ダイアモンドクレッシェンド』!!」
「そろそろ芽吹く頃ですよ。いいえ、もう芽吹いた後、かもしれませんね」
オクトロアが不敵にほほ笑む。その笑みを見て、警戒を深める私だったが、今の私にできるのは、『ダイアモンドクレッシェンド』を行使し続けることだけ。もう、止まれないのだから。
「『ダイアモンド……」
「残念ですよ。光聖歌さん。結局貴方は、たった一人の妹を救うことすら、できないのですから」
瞬間。
私の体が跳ねる。空中へと、大きく飛ばされる。
「…………は……?」
私は、空中に吹き飛ばされながら、何が起こったのか、現状の把握をしようと、周囲を見回す。
そこで見たのは、驚くべき光景だった。
「な…………にが…………」
スターチスとライオネルが、倒れている。いや、もはや魔法少女としての変身すら解けてしまっている。スターチスの傍らには、ボロボロになった契約妖精レディがいた。
私は、動揺する心を押さえつけながら、何とか安全に着地するために、『ダイアモンドクレッシェンド』を行使し、落下の勢いを軽減して、地面に降り立つ。
「どう、いう…………」
「スターチスが、突然ライオネルを攻撃しだして……。二人は相打ちになって、それで、光千夜の触手が、シャイニングの牢獄を……」
おそらく一部始終を見ていたのだろう、白沢薬深が、私に状況を伝えてくる。
スターチスが? いったいなぜ……?
「『支配の魔』。知っていますか? 目を合わせた他者に、軽度の洗脳、支配を施す魔法です。それを、スターチスに仕込んでおいたんですよ。言ったでしょう? 種を蒔いておいたと」
「そん、な…」
まさか、それじゃあ……。
私は、最悪の可能性を思い浮かべる。
私の脳裏によぎるのは、地面に倒れ伏すスターチス達、友崎鳴達の姿だ。
オクトロアは、最初からスターチスに種を蒔いていた。なら、私の『氷の牢獄』が、外部からの攻撃によって破壊される可能性も考慮していたはず。
もし、予めそのことを想定して、『ポッピンメロディ』を放っていたのだとしたら?
オクトロアは、『氷の牢獄』から解き放たれた『ポッピンメロディ』を、無防備になった友崎鳴達にぶつけるつもりだったのだ。オクトロアのあの行動は、敬意でも何でもなかった。最初から、計画の上で取り組まれたことだったんだ。
「『氷の牢獄』」
オクトロアは、『氷の牢獄』で千夜と薬深のいる場所を覆う。『ポッピンメロディ』の被害から、彼女たち、正確には千夜を遠ざけるためだろう。千夜と薬深の身は保障された。けど……。
「鳴達が危ない…………!」
私は、襲い掛かる『ポッピンメロディ』から彼女たちを守るために、かばうように立ちふさがる。
当然、暴れまわる『ポッピンメロディ』に、私は対処しきれず。
いともたやすく、私の変身は解除されてしまった。
「愚かですね。私を倒すことではなく、仲間を守ることを優先するとは。そんなことをしても、変身を解除した貴方と共に、仲間たちを殺すだけだというのに。貴方は、私を倒すことに力を使うべきでした。それが、妹に対する償いにもなるのですから」
オクトロアが心底馬鹿にしたような声色でいう。その通りだ。私が彼女たちを守ったところで、結局皆オクトロアに殺されるだけ。なら、心苦しいが、彼女たちを見捨て、私がオクトロアに特攻するべきだった。
私は、どうして、いつもいつも……!
「無駄なんかじゃ、ないよ」
「……へ?」
「な……。何故、貴方が立っているんです?」
変身解除に追い込まれ、地に伏した私を守るように。彼女は私の前に立っていた。
「おかげで、私はもう一度、立ち上がることができたんだから」
彼女は、彼女の名前は……。
「聖歌。ありがとう。あとは私達に任せて」
『キュー達が、なんとかするっきゅ』
魔法少女、キューティバース。
一時はクールと契約していた彼女は、再びかつて契約していた妖精、キュートと契約し、魔法少女へと変身していた。
「覚悟してオクトロア。これ以上、貴方の好きにはさせないから。ここからが、私の」
『キューティバースの……』
「
『