魔法少女は、私の憧れだ。
私は、小さい頃から体が病弱で、そのせいか友達も少なく、中々外で遊ぶ時間が取れなかった。
そんな私にとって、空を自由に飛び回り、悪い奴らを成敗する魔法少女という存在は、キラキラと輝いていて………。
……どうだったんだっけ。
やっぱり、記憶には曖昧な部分がある。
けど、私が昔から、魔法少女に憧れていたのは事実だ。
……初めて魔法少女として、実戦を行った。
忌々しい“魔女”の手からキューティバースを守護するべく、私は立ち上がったのだ。
そういう意味では、私は“魔女”に感謝しているかもしれない。
魔法少女の力を手に入れたばかりで、戦場にいても変身する勇気が出てこなかった。
1人で変身して、クールに見てもらいながら魔法を試したりはしていたけど、存外私はコミュ障で出不精だったものだから、中々戦闘に加わることができなかったのだ。
だから私は、戦うことを諦めた。
キューティバース達の活躍を陰から見守り、こっそり写真も撮って、私は“推し活”に励んでいた。
たまに私と同じように“推し活”に励んでいるだろう外国人の少女を見かけることがあった。まあ、彼女の場合一瞬いたと思っても少ししたらすぐ消えてたし、魔法少女に変身できないから安全のために泣く泣く逃げていたんだろう。………日本の魔法少女は海外でも人気なのかもしれない。
ただ、そのせいで私が人質として、“魔女”に利用されてしまったんだけれど。
人質に利用された私を、必死に救出しようとするキューティバースが見れたのは正直嬉しかった。一般人のふり生活も、案外悪くないのかもしれないなと思った。もう魔法少女であることはバレてしまったけど。
どちらにせよ、それがなければ、私が魔法少女としての初戦闘を行うのは、どれほど先送りになっていたことだろうか。
それでもやっぱり、“魔女”に感謝するなんてあり得ないか。
“魔女”のせいで、私と同じような被害者が増えてしまうかもしれないのだから。
……そうだ。私は、ただの魔法少女ファンというわけではない。
私は、悪の組織『ワ・ルーイ』の……。あの触手野郎の、被害者だった。
私は奴らの大義を知っているわけではない。大まかな目的を知るわけでもない。それでも、1つだけ知っていることがある。
それは、奴らは私のような少女を誘拐・拉致しようとしているということ。
私も、何度か奴らに狙われていた。
私が出歩けば、3分の2くらいの確率で怪人と遭遇する。私が病弱であり、人よりも外出する機会が少ないからというのもあるが、それにしても、だ。
奴らは、少女を狙う。
理由は知らない。ただ、推測を一つ立てるとするならば、邪魔をしてくる魔法少女を排除するために、魔法少女に覚醒する可能性がある少女を攫っている、とかだろうか。
クールに聞いてみたところ、魔法少女の力を奪うことが目的なんじゃないか、との推測も立てていた。
まあ、どちらにせよ、私は奴らを許すつもりはない。
………奴らのせいで受けた被害は、未だ私に大きな影響を与えているのだから。
一度、私の脳にあの幹部の男の触手を侵入させてしまったことがある。
体は別の触手に拘束され、身動きは取れず、頭の中を何かが掻き乱す、気持ちの悪い感覚。
逃げ出すこともできず、ただひたすらに自分の中の大切な何かを蹂躙されていく感覚。尊厳を踏み躙られ、大切なものを壊される感覚。
不快感と、嫌悪感。何より、恐怖が。今でも私の中に根強く残っている。
あの触手の男は、そのまま私を連れ去ろうとしていた。頭の中を蹂躙されながら、抵抗できないように拘束され、どこかへ拉致されそうになる恐怖は、味わったことがなければ想像もできないほどのものだ。
私は、2度とあんな思いはしたくないし、誰かにして欲しくもない。
結局、駆けつけたキューティバース達によって助けられはしたものの、あの出来事があってから、私の記憶力は低下し、過去の記憶も時折曖昧になることが増えた。
かつての私は、穏やかで、人を傷つけたり、悲しませたりしてしまうことに、抵抗を感じるような性格だった。けれど、その出来事があってからは、私の倫理観は壊され、悪であればどれほど傷つけても、心が痛むことはないと、そう感じるようになっていた。
今でも悪夢として、時折夢で体験してしまう。
だから私は、クールと契約するときに誓ったのだ。
もう2度と、私のような被害者を出さないと。
あの気持ちの悪い触手の被害者が、これ以上増えないように、尽力すると。
もし、同じような目に遭っている子がいたら、絶対に助けると。
同時に。
私のような被害者を出す悪の組織『ワ・ルーイ』を、絶対に許しはしないと。
私は急いで苺達の元へと駆けつける。
怪人と戦闘しながら、私は一部始終を把握していた。
ブラックルーイが、人質を取ったこと。
その人質が、魔法少女であったこと。
そして、ブラックルーイが………千夜が、上空から落ちて、死にそうになっていたこと。
その、全てを。
私は、何もできなかった。
ブラックルーイが人質を取ったとき、私は怪人の相手しかできず、人質を助けるように立ち回ることができなかった。
結果的に、人質が魔法少女であったから良かったものの、もしそうでなかったらと思うと、ゾッとする。
「キューティ、状況は………?」
「………前に私達で撃退した幹部が、介入してきて、それで……」
『捕らえていたブラックルーイを連れ去ったんだっきゅ。キューは見ているだけで、何もできなかったっきゅ』
……千夜が連れ去られてしまったことに、少しの悔しさと、同時に安堵を感じる。
千夜に変身を解除して、光聖歌としての姿を見せて対話するチャンスを逃してしまったという悔しさと、もし私の姿を見て、千夜が私を拒絶してしまったら……そう思い、不安で仕方がなかった状態を一旦落ち着かせることができた。という2つの感情が、私の心を支配していた。
「……逃した……」
「それで、貴方は……?」
「気にしないで。私は背景。通りすがりの一般人。空気だと思ってくれていいから」
「?」
よく分からないが、彼女も魔法少女で、苺達に加勢してくれたんだろう。
千夜を殺す寸前にまで追い込んだこともあって、私も彼女を否定的な目で見てしまいそうになったが、人質を取るという最悪の手段を取ったのはブラックルーイなのだ。悪いのはブラックルーイの方だ。私が否定的な目で見てしまうのは、お門違いというものだろう。
ただ……。
あの千夜が。
誰にでも分け隔てなく、明るく優しく接して、決して弱いものイジメなんてしなかった千夜が。
人質を、取るなんて……。
信じられなかった。
街を壊すというのも、確かに本来の千夜ならあり得ないし、悪事であることには変わりない。
けど、人に危害を加えるような真似は、しないと思っていた。
けど、そうじゃなかった。
千夜は、ブラックルーイは、人に危害を加えることを、是としていた。
……私が、見捨てたから、あんな風になってしまったんだろうか。
私が、千夜を置いて逃げたから…。
なら……。
なら、千夜がああなった責任は、私にあるというのなら………。
「キューティ、ムーン。少し、いいかしら」
「先輩、どうしたんですか」
「……いいよ。何でも言って」
ここで私が日和っていたら、きっともう、2度と私は、千夜の姉を名乗れない。
だから……。
「次にブラックルーイが現れた時…………ブラックルーイは………私が………。私が彼女を倒すわ」
私は姉として、正しい道を歩まなければならない。
それが例え、最愛の妹を傷付けることであったとしても。