突然私の前に現れた、かつての親友、遊美。そして、その隣には、私に謎の呪文を投げつけてきた、素性の知れない魔法少女の姿があった。……よく見てみれば、魔法少女には見覚えがある。私がイコルと共に出撃した際に敵対していた魔法少女の1人だろう。エンシェントと共に行動していた魔法少女の1人であったはずだ。
「なっ……フィルバー?」
「エンシェントも来てたんだ。でも、私の邪魔はしないで。私は先輩を正しい道に導くためにここにいるんだから」
「なるほど。自分の欲望のために動くことに決めたんですね。妖精が納得して協力してくれているのは、上手く言いくるめたんですか?」
「……さぁ? 私の目的は先輩を助けることだよ。これって、正義の魔法少女らしい行動だよね」
『全くもってよくわからねえが、まあ、ラブリーがそれでいいってんならオレは気にしないぜ』
エンシェントと、エンシェントがフィルバーと呼んだ少女は、一言二言、言葉を交わしている。フィルバーと呼ばれた魔法少女の言うことはよくわからない。よくわからないが、私を助ける、というのなら、敵ではないと思っていいのだろうか。
「ちっ……。余計なことを……」
遊美達の乱入はイコルやイグニスも想定外だったのだろう。軽く舌打ちをして、遊美達の方を憎々しげに見つめている。
「これ以上状況がややこしくなるのは困るんだが……。仕方ない。湿島、頼む」
そう言われると、湿島さんは、何か無線のようなものを取り出し、連絡を取る素振りをする。結局、イコルは何が目的でこんなこと……。
「千夜、間違っても死のうだとか、そんなこと考えないでね。もしもう一度そんなこと言いだしたら。千夜の全部、私のモノになるから」
私がこうしている間にも、私から生えた触手は暴れまわっており、その対処を、エンシェントと先程この場にやってきた少女、フィルバーが行ってくれている。
私は、戦うことすらできない。そんな中、私と同様、戦うこともできず、その場にたたずんでいた遊美が、私に声をかけてきた。
「遊美……」
「千夜に与えられたのは、2択だけ。私のモノになるか、何があっても生き延びて、『ワ・ルーイ』のモルモットになるような人生を回避するか。それ以外は、認めないから」
遊美の真意は計り知れない。けれど、もしかしたら遊美は、私を助けるためにここにやってきてくれているのかもしれない。何故私が『ワ・ルーイ』にいることがわかったのか、何故魔法少女の知り合いがいるのか。聞きたいことはたくさんあった。けれど、今はこの”親友”を信じてみようと思う。
とにかく、遊美は味方だ。そして、遊美と協力しているフィルバーもまた、私の味方だと思っていいはず……。
実際のところ、どうなのかはわからない。わからないけど。まあ、いい。キュヴァちゃんを殺そうとしてくるイグニスと敵対してくれるのなら、どちらにせよ私にとって好都合であることに変わりはないのだから。
「鬱陶いな。おいエンシェント、増援を呼ぶなんて聞いてねェぞ!!」
イグニスは敵の戦力が増えたことにいら立っているのか、エンシェントに無意味に切れ散らかしている。
「敵に情報を渡す奴がいるとでも? それに私は、フィルバーがここにやってくるとは聞いていませんでしたからね。思いもしない増援ですよ。……ですが、そうですね……増援なら……」
エンシェントはちらりと、誰もいない虚空を見つめる。その行動に、イグニスや私は疑問に思い、様子をうかがう。
「そろそろ、ですね」
瞬間。
エンシェントの見ていた方向から、炎のようなものが沸き上がり……。
「ごめーん待った? なんて、ちょっと言ってみたかったんだよね~!」
場にそぐわないほど明るい声で、炎に包まれながら登場した少女は、元気に話す。
彼女は……。
「バーニング、待ちくたびれましたよ」
「ごめんごめん! ちょっと家の用事がね。あ、シューティも行けたら行く、だって」
「それ来ない奴じゃないです?」
「うーんどうだろ? 来ないかも?」
「はぁ……」
エンシェントは、少しあきれた様子でため息をついている。だが、エンシェントが彼女を見つめる視線には、とてつもない信頼が込められているような気がした。
思えば、その少女には見覚えがあった。フィルバーと同様、私がイコルと出撃した際に相対した魔法少女。その一人なのだろう。
つまり、エンシェントが自分の仲間に、告げていたのだろう。手を貸してほしいと、協力してほしいと。
「次から……次へと……!」
イコルが焦りをにじませたような表情を浮かべる。本気で私のことを殺そうと?
わからない。どいつもこいつも、目的がわからなさすぎる。
「バーニング、任せてもよいですか?」
「うん、任せて」
エンシェントは炎の中から現れた魔法少女、バーニングと呼ばれた彼女にイグニスの相手を任せ、私の元に突撃してくる。
「フィルバー、援護は任せましたよ」
「エンシェント? 何を?」
私の触手は、自身の意思に反してエンシェントに襲い掛かる。それを見て、少し驚いた顔をしながら、フィルバーがエンシェントを守るために触手をなぎ倒していく姿が見えた。
「千夜ちゃん、逃げましょう。キュヴァちゃんを連れて」
エンシェントが提案してきたのは、逃避行だった。イグニス達の脅威から、私とキュヴァちゃんを逃がしたいのだろう。
「でも……」
「貴方の触手は、私が何とかします。キュヴァちゃんに危害が及ばないよう、妖怪を使って全力でサポートします。だから、逃げましょう。味方が多いとはいえ、守りながらの戦いは……」
「そーいうわけにもいかないんだよねー」
突如、エンシェントの体が横合いへと大きく吹き飛ばされる。まるで、大きな突風にでも遭ったかのように、唐突に。
私は何が起きたのかわからず、呆然とする。そして、おそらく、エンシェントは攻撃を加えられたのだろうと遅れて理解し、それを行ったであろう、声の主を見つめる。
そこには。
「こんにちはブラックルーイ。いや、ナイトルーイと言った方が正しいのかな。私の事、覚えてるかな?」
彼女は、確か……。
「魔法少女、サマーハリケーン」
「ご名答! 私の名前は魔法少女サマーハリケーン。さてさて問題です。私の目的は何でしょう?」
突如現れて、状況をよく理解もできないうちに、クエスチョンを投げかけられた私は、フリーズしてしまう。何を言えばいいのか、彼女は何をしに来たのか、それが理解できずに、困惑してしまう。
「だんまりはよくないなぁ。仲良くなるには対話が必要でしょ? ま、別にいいけど。じゃあ、答え合わせをするね。私の目的は、君を地獄に落とすこと、だよ。さあ、地獄への片道切符へご案内しようか、ドーン、行くよ」
「オイラ、こいつには興味ないんだけどなぁ」
いつの間にか傍らにいた小人の少年と共に、サマーは私に襲い掛かってくる。幸か不幸か、私の触手の矛先が彼女にも向いてくれたおかげで、私が攻撃されるまで猶予が生じ……。
「させません!」
その猶予のおかげで、再び立ち上がったエンシェントが、サマー達に対応することができた。
私の命は、いまだ刈り取られることはない。けれど、状況は混沌としていて……。
「……怠い状況になってるね」
突如、私の背後から、生気を搾り取るような、何もかもやる気を失ってしまいそうな、そんな、気分の沈むような声が聞こえてくる。
新たな刺客の登場かと、私は急いで背後を確認する。
そこにいたのは、真っ黒な髪を地面についてしまうくらいまで伸ばし、服はぶかぶかで、手は袖に隠れてしまっており、履いているスカートも冗長で引きずってしまっていて。一言でいえば、物凄くだらしないと、そう感じさせる印象の女性だった。目にはクマができており、目は眠たそうなたれ目で、今にも寝てしまいそうな勢いだった。
「だ、誰……?」
「……」
「あ、あの……」
「……はぁ。ルーシア。…………各々が、やりたいように動いてるんだよ。イコルも、目的のために変な方向に突っ走ってる。だからこんなことになってる。怠いね」
「えーと」
多分、ルーシアというのが名前で、後から続いた言葉は、今の状況について話しているのだろう。イコルの名前を出していることから、彼女はイコルの知り合い……?
「会話にテンポはいらない。ただ、イコルが身勝手な欲望で暴走して、そこに他の目的を持った奴らが乱入してきて、収拾がつかなくなってるだけ。怠いけど、事故で死なれたりしたらもっと怠いから、私は止めるつもり。だから来た。それだけ」
ルーシアは淡々と告げる。……よくわからないけど、彼女はイコルの目的を知っているらしい。
「…………全然、よくわからないんですけど、結局どういう…」
「怠い」
「は?」
「この状況、怠い。いろんな思いが交錯してて、全員が自分勝手に動いてて、ぐちゃぐちゃ。本当に、怠い」
「それは…………」
確かに、戦況はカオスを極めていて、もはやだれが味方でだれが敵なのか、それすら正確に把握できないほど、わけがわからない展開が続いてる。正直、私もふざけんなー、全員光堕ちしろー!って叫んでやりたい気分だ。
「私は、私のやりたいようにしかやらない。やりたくないことをやっても、怠いから。君も、そうしたら? 私は、私のために動く。より状況が混沌に塗れようとも、自分の我を通す。だって、私だけ我慢するのは、おかしいから」
確かに、そうだ。
どいつもこいつも、自分勝手な目的で行動して。
私とキュヴァちゃんは、このカオスな状況に巻き込まれっぱなしだ。
他の奴らは、自由にふるまっている。なのに私は、好きなように動けない。
「やりたいことしかやりたくない、だって怠いから。でも別にそれでいい。だって怠いから」
うん。そうだよね。もう、怠くなってきたもん。
どんどん戦場に参戦して、守るだの、お前を地獄に落とすだの言って。
どいつもこいつも、怠くて仕方がない。
だったら、そんな怠いもん、全部ぶち壊しちゃえばいいんだ。
「ありがとう、ルーシア」
「?」
「私、やりたいようにやるよ。自分の我を通すよ」
「怠いね」
うん、全部怠いよ。だから、全部引っ掻き回してやろう。
全員ぼこぼこにして、全員私がまとめて光堕ちさせてやる。
闇堕ちがどうこう言っている少女もいたが、そんなのクソくらえだ!
私は私の我を通してやる!
「うおりゃ! 突撃ー!!」
触手が暴れまわるとか知らない。触手の事なんて気にしない。私は私のやりたいように動く!
そう考えると、不思議と体は軽くなって、自由気ままに動けるようになってきて…………。
「地獄に落としてあげるよ! ナイトルーイ!!」
「地獄とか知らない! 光堕ちしろーーー!!!!!」
私は、私から生えた触手を自由自在に動かし、サマーの相手をする。
私の意思に反して動いていた触手も、今や私の制御の下だった。
「闇堕ちとか、地獄に堕ちろとか、そんなのしーらない!! 全部ぜーんぶ! 光堕ちしてなかったことにしてやるから!!!!!!」
私のボルテージは。
限界を突破した。