まずはサマーハリケーンの対処からかな。あからさま私に敵意を向けてきているように見えるし、地獄に堕ちろだなんて物騒な発言をこぼしながら魔法を放ってきて正直怖いので、一旦ぼこぼこにして黙らせてましょう。
「なんでその触手を自分の意思で動かせるのかなぁ!?」
サマーは私が自在に触手を操っていることに戸惑っているらしい。なんでと言われても、私にだってその理由はわからないしなぁ。まあ、私に備わっているものなんだから、私が好きなように扱えて何か問題あるのかって話だよね。
「ドーン! やるよ!」
「なんでそんなムキになってるんだ? まあ、いいけどよぉ」
サマーは傍らにいた小人の少年に話しかけ、物凄い勢いで私をにらみつけてくる。正直、サマーがどうしてそこまで私をにらみつけてくるのか、全然わからない。彼女との関わりは全然なかったし、恨まれるような行動をした覚えはない。悪の組織に所属している魔法少女だから、敵意を向けられているのかな?という理由しか思いつかない。
…………まあ理由なんてどうでもいいかな。とりあえず、立ちふさがってくるならぶん殴るだけ。殴った後に理由は聞けばいい。
「『ブラックハンド』」
「『濃縮飛風』」
「『詠唱風傷』」
『ブラックハンド』でドーンとかいう子を拘束しつつ、『詠唱風傷』でサマーの放った『濃縮飛風』を相殺する。
「その魔法…………」
「ん?」
「その魔法は、幹部ジェネシステネーブルが使っていたはずのモノだよね? どうして君が使えてるのかなぁ?」
サマーは訝しむように私に問うてくる。なるほど、どうやら彼女は夕音叔母さんのことをよく知る者らしい。そして、夕音叔母さんが……魔法少女ジェネシステネーブルが『詠唱風傷』を使うことを知っていたんだろう。それなら、疑問に思うのも当然だ。他者の魔法を扱えるのなんて、かつてキュヴァちゃんが持ってた『模倣の魔』くらいのモノだろうし。
そういえば、オクトロア様が使っている魔法を私も使えたような……?
まあ、そういうこともなくはないんだろうか。
ともかく、私が夕音叔母さんの……幹部ジェネシステネーブルの魔法を扱えるのには、ちゃんとした理由がある。
「夕音叔母さん……魔法少女ジェネシステネーブルから、魔法を受け継いだんだよ。だから私は、彼女の魔法を扱える」
愛結ちゃんほどじゃないにしろ、私にとって夕音叔母さんの存在はありがたかったし、それなりに好意も抱いていた。一時は勘違いで敵意を向けてしまっていたけれど、それでもやっぱり、私の中で夕音叔母さんを終わらせたくないという思いもあって……。
だから私は愛結ちゃんが知ったという幹部ジェネシステネーブルの研究資料の情報を元に、夕音叔母さんの魔法を受け継いだのだ。
「へぇ……なるほどねぇ……。ジェネシステネーブルの魔法を……それはますます……」
「ますます?」
「好都合だよぉ!!」
サマーは、何故か嬉々とした表情を浮かべながら、私に向かって突撃してくる。私はサマーの突進をひらりと避ける。
「ナイトルーイ、私も……」
「大丈夫、私一人でやれるよ。エンシェントはキュヴァちゃんを守ってて」
一人でサマーと対峙しようとする私に、エンシェントが心配そうに駆け寄ってきたが、私は彼女の手を借りないことにした。
私はもう触手の制御ができている。守られる必要はない。けど、キュヴァちゃんはどうだろうか。
今のキュヴァちゃんには、戦う手段がない。『模倣の魔』を失い、また、自身が魔法を行使することもできなくなった。今は、ただの無力な少女でしかない。それに、そもそも事の始まりはイグニスがキュヴァちゃんを狙ってきたことからだったし。だから、エンシェントの護衛をキュヴァちゃんにつけておくのが、一番合理的だと思うし、キュヴァちゃんを守れると思ったのだ。
「わかりました。キュヴァちゃんのことは私に任せてください」
『あんま無理すんなよ。危なくなったらいつでもエンシェントをこき使えばいいからな!』
「まあ、千夜ちゃんのためなら別に構いませんけど、私が手を貸せない状況にあるかもしれません。そういう時は、ぜひスマイルを身代わりにして自分の身を守ってください。スマイルはどうせ戦えませんし、壁として使う方が有意義だと思うので」
『誰のおかげで変身できてると? オレがいなきゃ頭のいいふりをした無能力の厨二少女がその場に残るだけだぜ』
「おやつ抜き~♪」
『卑怯者! 卑怯者! 卑怯者ぉ!!』
最初に出会ったときは、妖精との絆が足りてないなんて、そんな評価を下していたけれど……。
……スマイルとエンシェントは、なんだかんだで仲は良いのかもしれない。
私は、言い合うエンシェントとスマイルを背後に、サマーに向き合う。
「ずいぶん余裕なんだね。まあ、安心しなよ。私の目的は、そこのキュヴァとかいうやつではないからさ」
「みたいだね。目的は私を地獄に堕とすこと、らしいけど。私って君に何かしたっけ? 少なくとも恨まれるような行動をした覚えはないんだけど」
ぼこぼこにしてから問おうかとも思っていたけれど、彼女の態度を見るに、割と対話をする気はあるようだったので、私は思い切って彼女の今回の行動の動機について聞いてみる。すると、彼女から帰ってきた答えは、私にとって理解のできるものではなかった。
「うん、そうだね。私は別に、君を恨んでいるわけでも何でもないよ。正直、憎いとも嫌いだとも、思ってない。思ってないけど、ある意味じゃ思ってるともいうかな」
「ん~?」
「誰でもよかったんだ。私はただ、私らしくあるために、それを定めているだけ。私は、そうすることで私欲を満たしているから」
「あの、話が見えてこないんだけど……」
「だろうね。別に理解されようとも思ってないし、されたらされたで気色悪いなって思うよ。そうだね、私はね、復讐がしたいんだ。そう、復讐が」
私は彼女に恨まれるような行動はしていない。だというのに、彼女は私に復讐がしたいと言っている。ちぐはぐで、矛盾だらけで。
私にはまったくもって理解のできない行動原理だった。
「それ、私である必要あるの? 別に、もっと復讐したいって思える相手はいそうじゃない? 嫌いな相手とか」
「んー。まあいないね。ただ、ナイトルーイである必要はあるよ。私の最初の復讐対象は、幹部ジェネシステネーブルだった。私は、彼女に生み出されたし、最初は『ワ・ルーイ』に所属していたからね」
「へー」
生み出されたって、キュヴァちゃんと同じってことかな? いや、でも、『ワ・ルーイ』は魔法少女を生み出すことなんてできないはず……。それができるなら、とっくにできているはずだし……。じゃあ、彼女は一体……。もしかして……。
「だからまあ、復讐対象としてナイトルーイは最適なんだよ。話を聞くに、どうやらジェネシステネーブルはナイトルーイが原因で散ったそうじゃないか。私から復讐対象を奪った。そういう意味で、君は復讐対象として最適なんだ。若しくは……私から母親を奪ったから。そういう理由でも、復讐対象になるのかもしれないね」
サマーは、淡々と告げる。別に理由なんてどうでもいいと、そう言いたげな口調だった。
それに、ジェネシステネーブルを母親と呼んでいる。やっぱりサマーは……。
「ねえ、もしかしてサマーって、私のいとこ?」
「ああ、そういえば、そんな関係性だったっけ。うん、そうだよ。私の名前は夏場夜風。夏場夕音の娘で、君のいとこにあたるね。変身を解除したら、もしかしたら私の顔に夏場夕音の面影が残っていたりするかもしれないねー」
なるほど。やっぱり、夕音叔母さんの娘さんだったんだ。
最初はどうでもいいと思ってたけど、夕音叔母さんの娘っていうなら、正直無視できる存在じゃなくなった。
復讐がどうこうとか言ってるし、多分復讐に捉われちゃった悲しい子なんだよね。
だったら。
私が光堕ちさせて、助けてあげないといけないよね!
「安心して、復讐なんて悲しいことばかり考えなくていいように、私が更生させてあげるから!!」
「は? いや、別に更生も何も、私は復讐が好きだからそれがしたいだけっていうか……」
「自分に言い聞かせなくてもいいんだよ。そうやって、復讐しなきゃいけないって考えに縛られちゃってるんだよね。……夕音叔母さんがいなくなっちゃって、どうすればいいかわからないんだよね。でも、大丈夫だから。私がちゃんと、君のこと導いてあげるから!!」
「あのもしもしー? 話聞いてます~?」
「私が君を助けるからね!」
「なんなんこいつ……。あー復讐対象間違ったなー」
夕音叔母さんは助けられなかった。けど、その娘は。
夏場夜風ちゃんは、私が救って見せる!
だから見ててね、夕音叔母さん!