幹部様に植え付けられた触手の暴走、それを抑えるのに必死で、周りの状況を良く見れていなかったけど、いつの間にか皆やられててびっくりというか、何ならお姉ちゃんの事倒したの俺だし…。
隣にいた白沢薬深ちゃんが落ち着いてくれてたから、取り乱さずに済んだけど。
でも。
キューティバースがピンチに陥ったその時、俺はふと思ったのだ。
正義の魔法少女が負けるなんて、ありえなくないか?と。
こんなに良い子が、あのまま殺されてしまって、それを許容していいのか?と。
いいわけがない。そもそも、正義の魔法少女とはいえ、未成年の子供が命の危険にさらされているという状況そのものがおかしい。それは許されていいわけがない。俺は許容できない。
それに、正義の魔法少女が完全敗北してしまったら、俺はどうやって光堕ちすればいいのか。
今まで完璧に光堕ちチャートを進め、着実に光堕ちフラグを建設していったというのに、それがすべて崩れ去るなんてもったいなすぎる。こんなにも好条件で、最適な光堕ちレールが敷かれているというのに…。
それがなくなるなんて、俺は耐えられない。最高の光堕ちを、最高のタイミングで。
そう思う俺にとって、それが取り上げられるのは死よりも恐ろしい。光堕ち没収と死なら死を選ぶね。でもそれだと光堕ちができないか。光堕ちしてから死ぬじゃだめですか?
とまあ、そんな風に思っていたら、硬直して動かなくなった体が、自然と動いていて。
気づけば、自分で自由に動かすことのできなかった触手を、好きに操ることができるようになっていたのだ。
まあ、ともかく。
俺は最早、組織の従順なモルモットではいられない。俺は幹部様と敵対し、魔法少女側につく必要がある。
これまで完璧なチャートで進んできたが、肝心の光堕ちのタイミングについては、場の流れに任せるしかないようだ。
「幹部様」
「ルーイさん、何の真似です? これは、組織への裏切りですよ」
「裏切りだよ、幹部様。申し訳ないけど、私は魔法少女側につく」
幹部様にこれ以上好き勝手させるわけにはいかない。魔法少女を殺されては困るし、何より、魔法少女の中にはお姉ちゃんがいるからね。
「そうですか。今までは表でだけでも従順に振舞っていたというのに、もうやめるんですね」
「さあ? 何のことか」
幹部様は多分、俺のことを色々と理解しているんだろう。組織の洗脳がちゃんとは機能していなかったこと、光堕ちを目的として行動していたこと、そして、分身の事や、キュヴァちゃんとの関係性も。
さっきキューティが言ってたことを参考にすると、幹部様の目的は、俺を支配すること。
多分それは、肉体的なものだけじゃなくて、精神的なものも含まれると思われる。
今までの行動から考えても、幹部様は、俺の心を折ろうとしていた瞬間があった。
キュヴァちゃんの殺害。あの時、幹部様は確かに言っていた。
【ルーイさん、無駄ですよ。………貴方は、”光堕ち”なんて出来ないんですから。………これで身をもって知れたでしょう。貴方がどれだけ無力で、ちっぽけで、どうにもならない存在なのか。身の程を弁え、組織の一員として、モルモットとしての自覚を持ちましょう】
あの時、幹部様は初めて俺の前で”光堕ち”という単語を発した。それに、自覚してモルモットでいろという発言。
幹部様は、俺の心を折って、精神的に屈服させて、支配したかったんだ。
俺に対して優しく誠実に振舞っていたのも、俺からの反感をなるべく買わないため。反抗心を育む隙を与えないためだったのだろう。幹部様へ好意を抱かされているとはいえ、その好意は絶対的なものではないのだろうから。
「………」
「幹部様は、私を支配したかったんだね」
「自己分析したところ、私の原動力は他者の支配にあると感じましたからね。ですが、貴方を支配するのは中々難しい」
幹部様は、心の奥底を吐露するかのように、ゆっくりと語る。
「ヒンナさんも幹部マインドライフも、キュヴァさんも。貴方がいなければ、本来は私の言いなり、私に逆らえないはずでした。悪の組織『ワ・ルーイ』は、既に私が掌握していたはずでした」
確かに、組織の業務は、ほぼすべて幹部様が行っていた。クロマック君に関しては、幹部集合会議にすら出席しないし、俺だって顔を合わせたのは1度だけだ。
組織の管理は、幹部様に一任されていたのだ。
「クロマック様は臆病で慎重でした。だからこそ、周囲を恐れ、ひきこもり、業務を私に一任していました。クロマック様もまた、私に屈服していたのですよ。私に歯向かうものなど、誰もいない状態でした。しいて言えば、イコルさんくらいでしょうか。しかし彼も、ヒンナさんを経由すれば間接的に支配できる。取るに足らない存在のはずでした」
幹部様は、淡々と語っているように見えて、その言葉の節々からは悔しさのようなものが感じられた。
「貴方がすべてを崩していったんですよ。ヒンナさんを絆し、キュヴァさんと絆を紡ぎ。幹部マインドライフを光に堕とした。貴方のせいで、私の完璧な組織は、次々に崩されていったのですよ」
幹部様は、いつも余裕な態度で、俺や師匠がなにかやらかしても、その尻拭いを、なんてことのない顔でやってのけてみせていた。けど、その裏では、きっと………。
「幹部様、私はずっと、気づけなかった。幹部様が、裏で、そんな風に悔しい思いをしていたなんて。……そんなつもりはなかったって言っても、言い訳にしかならないかもしれないけど……。その、ごめんなさい」
幹部様に、悲しい思いをさせてしまっていたんだと思うと、心が痛む。
いくら幹部様が、俺を拉致して、洗脳を施した張本人だったのであろうと。幹部様に世話になってきたことは事実だ。そこに、嘘はない。俺は本当に、幹部様に助けられてきたのだから。
「ほう。まだ、私への好意を捨てていないのですか? それは、私に植え付けられたものでしかないというのに」
確かに、そうだ。幹部様に対して、どうしても好意的に捉えてしまうのは、幹部様がそうなるように俺を洗脳、支配したからだ。そんなことはわかっている。けど、それでも。
「幹部様に植え付けられたものだとしても、私が幹部様と過ごした時間は嘘じゃない。たとえ、最初は偽りのモノだったのだとしても。私は、幹部様への好意を捨てる気はないよ。この気持ちは、私のモノだから」
「愚かですね。貴方と私とでは、絶対的に分かり合えないのですよ。貴方の望む、”光堕ち”は、私は絶対にお断りですからね。かといって、貴方は私に支配されるつもりはないのでしょう? それならば、たどる結末は一つだけです」
そうだ。俺と幹部様は、敵対する道しか残されていない。幹部様を説得するには、状況が危機的すぎる。
余裕のある状況であれば、また違ったのかもしれないけど…。
「ここで貴方を倒し、貴方の姉を含めた魔法少女を殺害し、貴方の心を壊しましょう。そうすれば、貴方の支配は完了する。私の”組織”は、再び正しい姿を取り戻すのですから」
幹部様の理想とする、”支配された組織”。それを奪ったのは、俺だ。俺がいなければ、幹部様は、自身の理想とする”組織”で、ストレスなく過ごせていたのかもしれない。幹部様が魔法少女を殺そうとしたのも、そんな”支配できなかった存在”を支配するためで。
つまるところ、幹部様の今の行動は、全部俺の過去の行動が原因となってしまっているわけで。
だとすれば、その行動の責任は、俺がとるべきだろう。
「幹部様、幹部様のことは、私が止めるよ。これ以上、被害者を出さないように」
薬深ちゃんが俺に寄り添ってくれていた時に、彼女は俺に、幹部様から受けた被害について詳しく教えてくれた。その時の彼女は、幹部様に絶大な憎悪を向けていた。
薬深ちゃんの話を聞いていて、正直俺は心が痛んだし、二度と被害者を出したくないと思った。
それと同時に。
これ以上、幹部様が誰かに憎悪を向けられて欲しくないなんて、そう思ってしまってもいたんだ。
きっともう、幹部様は止まらないんだろう。
だったら。幹部様がこれ以上罪を犯す前に。
俺が幹部様を止める。
これ以上、悲しみと憎しみの連鎖は起こさせない。