いやー最高でしたね。見逃し配信されてるので、皆さんもぜひ見に行ってください。本当に良いですよ。
好き勝手やってやるぞー!と意気込んだ私だったけど、気が付けば全然見知らぬ場所にたどり着いていて……。
「千夜、起きた? ……ごめん、少し、強引な手を使っちゃって」
閉じていた目を開けて、まず第一に視界に入ってきたのは、私の顔を心配そうに見つめる、私のかつての親友、遊美の姿だった。
「遊美……?」
「久しぶり、千夜。3年ぶりかな。やっと、やっと再会できたね……」
心底嬉しそうに、遊美は言う。確かに、再会はうれしいんだけど……。
「あの、さ。遊美は何であの場にいたの? どうして、魔法少女と一緒にいたの?」
あの戦場は、混沌としていて、何が起きているのか私にもわからなかった。各人が話した目的も、真実かどうかはわからない。だから私は、遊美の真実が知りたかった。遊美が何を知っていて、何者になっているのか。それを知りたかった。
「話せば色々と長くなるけど。私は、千夜が攫われた後に、魔法少女になったんだ。それで、なんだかんだあって、千夜が『ワ・ルーイ』の魔法少女として酷使されてるってことを知って。助けたいって思ったんだ」
その言葉に、嘘偽りはなさそうだった。となれば、遊美は私のために、アジトの情報を突き止め、私を救い出そうとした?でも、それじゃあ。
「遊美は魔法少女に変身してなかったけど、それはどうしてなの? あんな乱戦状態で、変身しないのってかなりリスキーだと思うんだけど……」
「あーそれは。色々あって変身能力を失っちゃったから。それに、私の姿を見せれば、千夜も信用してくれるかもしれないって思って」
確かに、遊美のことを疑うことはないし。でも、最初に私の前に現れたときに言ってたあの発言は正直かなり怖かったんだけど。
でも、思い返せばあれも私を想っての事だったような気がする。あの状況で私は、自分の命を本当に絶とうとしていたわけだから。
きっと、遊美は私の死をとめるために、わざとあんなヤンデレみたいな発言を私に向けてきていたのだろう。そう考えると、かなり納得できる。
「それで、遊美の隣にいた魔法少女は?」
「ああ、それなら」
遊美がそうつぶやいた瞬間、私の耳に、とてつもなく大きな声で、それでいてねちっこく、マシンガンのように止まらないトークが披露される。
「初めまして先輩! 私の名前は恩智寧魅夜です! 先輩にあこがれて! 闇堕ち魔法少女を目指して日々奮闘しています! 先輩の事情は色々と知っていますよ。拉致されて、洗脳されて、組織に使いつぶされた魔法少女……にみせかけて、実際は拉致されたことを利用して、闇堕ち魔法少女ライフを満喫しているんですよね!? わかってますよ! 悪の組織の洗脳なんてへっちゃらで、確固たる自身の意思で闇堕ちライフを満喫しているんですよね! 本当にあこがれてます! 光千夜さんの在り方、立ち振る舞い、すべて見習って、私も素晴らしい闇堕ち魔法少女になりたいと思ってるんですよ! でも許せないですよね。先輩は先輩の意思で闇堕ちを狙っているというのに、『ワ・ルーイ』は先輩の望まない形での闇堕ちを提供しようとしていると聞いて……いてもたってもいられなくて…。あ、安心してください! 先輩の邪魔をするつもりはないので! 先輩が先輩らしく振舞えるよう、私が全力で先輩をサポートします! 先輩が望むのなら、0から悪の組織を設立して見せますし、先輩が望むのなら、必要な戦力は私が調達します! なので、先輩! どうか私を頼って……」
「魅夜、私ちょっと千夜と大事な話してるから、あとにしてくれる? それと、夜風を呼んできて」
「……はぁ、そうですか。そんなに先輩を独り占めにしたいんですか? まあ、別にいいですけど。悔しいですが、私よりも先に先輩と知り合っているあなたの方が、私より先輩と話す優先順位は高いと思っているので」
遊美が抑えてくれたことで、ようやく魅夜という少女は私の元から去っていく。……よかった。正直、何を言っているのか全然わからなかったし、なんか変にテンション高いしで、この子どうしてあげたらいいんだろうなぁって困惑していたのだ。勿論、テンションを合わせることはできるし、それっぽく話を合わせることができないわけじゃないんだけど。
それでも、疲れるものは疲れるからなぁ。
それにしても…。
「夜風って?」
「夏場夜風。魔法少女サマーハリケーン。彼女も戦場にいたでしょ?」
確かに、私のいとこにあたり、夕音叔母さんの娘である夏場夜風も、あのとき混沌と化していた戦場に来ていた。けど、彼女の目的は、私を復讐対象として、私に復讐を行うことだったんじゃ…。
「ああ、起きたんだ。おはよう、はやいね」
「夜風、ありがとう、協力してくれて」
「まあね、私としても、そっちの提案は悪くなかったし」
ど、どういうこと? 話が見えてこないんだけど…?
「いろいろと困惑しているかもしれないけど、まず情報を共有しておかないとね。まず、私は千夜が分身の魔法を持ってることを知ってるの。それで、千夜ともう1人の分身、広井愛結の存在を認知してる」
「あ、愛結ちゃんのこと知ってるの?」
驚いた。魔法少女側で私の分身の魔法について知っている人がいるなんて。それどころか、私と愛結ちゃんで、独立した存在として認識してまでいるなんて。ヒンナさんやイコルみたく、私と同じように悪の組織で過ごしているのなら、気付く機会もあるかもしれないけど、魔法少女の側についていて、その事実に気付く人がいるとは思わなかった。
正直、私達は一心同体。互いのやりたいこと、やろうとしていることは理解しているし、どう振舞うかについては互いに一致している。私と愛結ちゃんの振る舞いは完璧だし、正直、分身について気付かれてしまうような、そんなミスは一切していない。私は徹底して、分身魔法がばれないようにふるまってきたと思う。
あ、いやそりゃ、初戦闘のときはちょーっとミスしちゃったかなーなんて思ったけど、それ以外で私達の分身魔法に感づかれるような要素は残していないはずだ。うん、そのはず。
いや、まあ私自身は分身の魔法を行使したことはないし、過去に愛結ちゃんがどういう場面で、どのように魔法を行使していたのかも知らないから、どこかのタイミングで知られていたのかもしれない。
それに、遊美は昔から本好きで、いろいろな知識を本から吸収しているような子だった。物知りだし、なんだかんだで頭も回るし、上手いこと私達の正体を探り当てたのかもしれない。
「オクトロアが残していったものから考察して、正体にたどり着いた。まあ多分、オクトロアは私が違う結論に至ることを期待していたんだろうけどね。でも、そんなことはどうでもよくて」
遊美は言いながら、りんごジュースを取り出して私に差し出してくる。
ちょうどのどが渇いたなぁなんて思っていたので、ありがたく受け取り、ストローをさしてごくごくと飲み干す。
「千夜を救い出した後、分身についてどうするのか、という話が問題になってくると思って。それについて、夜風と一緒に話し合いたいと思ったんだ。ま、夜風も千夜と同じように組織に属していた時期があったからね」
なるほど。確かに、私と愛結ちゃんを今更元の1人の存在に統合する、というのは考えづらいというか、私と愛結ちゃんは似て非なる存在ともいえるんだよね。だから、どっちが光千夜としてふるまうのか、という問題はどうしても生じてくるし、そもそも戸籍はどうするんだ、とか、どこで過ごすのか、とか、いろいろと生活面の問題もある。
これに関しては、光堕ちする前にじっくりと話し合っておく必要があるかもしれない。
「まあ、これに関して、少し提案があるんだけど…」
「提案? 提案って、何?」
「広井愛結の身元に関しては、私達に任せてくれないかな?」
そう話す遊美の瞳は。
なぜか、ひどく淀んでいるように見えた。