俺はミステリアスを学ぶためにヒンナちゃんについていき、彼女の持つ研究所のような場所へと足を運んでいた。
「さて、それでミステリアスについてだけれど……」
「その前に、ルーイさんの強化について。具体的にどのようなプランがあるのか、見せてもらっても良いでしょうか?」
そして、当たり前の如く、触手の幹部君もこの場にやってきていた。
元々ヒンナちゃんに任せっきりにするつもりだったらしいけど、どうしても不安が勝ってしまったようで、片手に(おそらく仕事の)書類を持ちながら、俺とヒンナちゃんの様子を見守ることにしたようだった。
「強さ強さって。そんなものばかりにこだわっていては、質の良い“絶望”や“恐怖”は得られないわ。大事なのは、質。ミステリアスは、その質を高めるために必須のテクニックなのよ」
「……ヒンナ様、ミステリアスも興味はありますけど、とりあえず強くなる方法から聞いても良いですか?」
幹部君の突っ込みに、俺も乗っかることにした。というのも、正直現状の俺にミステリアスムーブができるとは思っていない。
思想も手札も、ある程度見せてしまっているし、今更ブラックルーイとは一体何者なんだ!? な展開に持っていくのって難しいと思うんだよね。
だからこそ、俺は手っ取り早く強さの方を求めたい。
「そんなに言うのなら、仕方ないわ。言っておくけど、別にそんな大層なものではないわよ?」
まあ少しでも強くなれるのなら、それで構わない。
強敵ライバルポジを俺は目指したいんだ!
「はいこれ。魔力量を増強させる液体状の薬ね。これ飲めば、魔力量が2倍になるわ。ま、数回同じ魔法扱っても問題はなくなるかなってくらいの代物よ」
「おお! 結構良いものが……! 幹部様、これで私も強くなれますね!」
「……ふむ、それで、リスクは?」
「へ?」
り、リスク?
魔力量2倍になってハッピー! じゃないの?
まあ、そっか。薬飲んだだけで強くなれるなんて、そんな甘い世界はないか。
「単純に、持続時間が3時間程度と短いのと、魔力量は増えても魔力保有量、まあ、言えば魔力を保有するための器みたいなものが大きくなるわけではないから、体への負担は大きいし、多用するとグロッキー。最終的に死ぬわ」
「え、死んじゃうんですか?」
「使いすぎたら、ね。まあ3回使ったら普通は死ぬかな」
さ、3回だけ?
「使い物にならないじゃないですか! 欠陥品ですよそれ」
「まあまあ、そうならないパターンもあるし。魔力を受け入れる器に、本来入らないはずの魔力量をぶち込むことになるから器が崩壊して死ぬっていう話であって、器がでかければ何回使っても大丈夫だから。というか洗脳で『ワ・ルーイ』のためなら命も惜しまないって話じゃなかったっけ? 命が惜しいの?」
やべ、そうなるのか。
洗脳されてるふりしとかないと、洗脳装置の故障がバレて、じゃあ、洗脳装置作り直してもう一回洗脳しましょうね〜になる可能性が高い!
それだけは避けねばなるまい。
「いえ、全然全く。『ワ・ルーイ』のために命を捧げることができるなんて光栄だなー。クロマック様のために働けるなんて嬉しくて死んじゃいそう。むしろ死んでしまいたいなー。死んで組織に貢献したいなー」
「じゃあ4回目だろうと5回目だろうと、しっかり薬使ってね。命惜しくないなら、使えるわよね?」
あ、はひ……。
し、死にたくないし、薬使うのは基本的に避けとこ…。
「ヒンナさん、余計なことを言わないでください。ルーイさんに死なれると、私が困ります。それと、洗脳に関しては問題ないです。本当に洗脳できてるのか、疑いたくなる気持ちもわからないでもないですが、彼女が私を裏切ることはありませんので」
幹部様、フォローナイス。
これで俺の命の安全は保証されたも同然である。俺の管理権限は、ほぼほぼ幹部様にあるからね。
「それに、器に関しては基本的に本来自身が持っている魔力量と比例しています。つまり、今最大で使える魔力量は魔力を受け入れる器の大きさと=の関係にありますから、器が魔力量よりも大きくなるということはあり得ないです」
というか、器云々の話、よく分からないけどとりあえずヒンナちゃんは嘘ついてたってこと? 嘘ついてたってよりかは、必要な情報を話してくれなかったって感じか。
器がでかければOKだけど、器が元々持ってる魔力量よりも大幅に大きくなることはないのでOKパターンは起こり得ませんってことでいいんだろうか?
まあ、どのみちあんまり使うもんじゃないな。2回くらいに留めとこう。
「まあいいわ。今回は強さについてはそこまで重視してないし」
「そう、ですね。ミステリアスでしたっけ?」
ぶっちゃけそこまで興味があるわけじゃないけど、まあ、何もしないよりはいいか。
「そう。ミステリアスよ。“未知”を演出するために必要なのは。それで、どうミステリアスを演出するか、それはね」
ヒンナちゃんはガサゴソと机の引き出しを漁り出す。
あれでもないこれでもないと言いながら目的のものを探している彼女の姿からは、あまりミステリアスさを感じることはなかったが、それを言うと怒られそうなのでお口はチャックしておいた。
「はい。このミステリアス仮面があれば、貴方のミステリアス指数は大幅に上昇し、魔法少女達を“未知”の恐怖へと陥れることができるわ」
「…………はぁ………」
幹部君がクソデカ溜め息を吐いていらっしゃる……。
うーん。これは駄目そうですね。
「そうですね。ミステリアスさを演出したいのなら、まず余裕を崩さないことです」
「ちょっと、私が話してる途中なんだけど?」
「ルーイさんの管理を任されているのは私です。そもそも貴方を呼んだのも幹部の中で1番暇してそうだからであって、元より期待などしていな……」
「暇そうですって? 暇そうって言った? 紙と睨めっこして働いてる風吹かしてるだけの癖に、偉そうに……」
「事務は立派な仕事ですよ。あとちゃんと仕事はしています。ともかく、私が貴方に求めるのは、ブラックルーイの強化のみです。立ち振る舞いについては、私が直々に指導しましょう」
俺としてもヒンナちゃんにミステリアス指導を受けるよりも、幹部君に直接指導してもらった方が効果的だと思うし有意義な時間を過ごせそうだから、ぜひそうして欲しいと思う。ヒンナちゃん、どことなくポンコツ臭がするんだもん。
「譲れないわ。ブラックルーイをミステリアスにするのは私よ。いい? ミステリアスをする上で大切なのは、余裕よ。動揺しないこと、相手の攻撃も、まるで予測していたかのように、悠然と対処すること。それが、ミステリアスに求められるものなの」
「私が言おうとしたことと被ってますね。というか、それをしたいのなら“強さ”は外せない要素では?」
「幸いなことに、人類が生み出したミステリアスの教本はたくさんあるわ。色々な作品を見て、ミステリアスが何たるか、私と学ぶのよ!」
そう言いながら、ヒンナちゃんはダンボール箱に入ったたくさんのDVDと書籍を取り出す。
「このアニメと漫画、小説を読んでミステリアスが何たるかについて学ぶ。それが、貴方がミステリアスに至るために今必要なことよ」
「は、はあ……」
「…………まあ、付き合ってあげてください。彼女、多分一緒にアニメを見る人が欲しかったんですよ。普段は部下に全て仕事丸投げして、1人で娯楽を漁っているような子でしたから。………あとでジェネさんに頼みますかね……」
ヒンナちゃん暇人って割とマジだったっぽいなこれ。
……結局ミステリアス研修って何なんだろうか……。
まあ、一応今って俺休暇中って扱いっぽいし、その間にアニメとか漫画に触れられるなら、案外悪くない日々になりそうだ。
ミステリアスな振る舞いができるかどうかは分からないけど。
まあ、それなりに頑張ってみますか。