幹部様との戦いは、俺がジェネちゃんから受け継いだ魔法によって決着がついた。一時はどうなることかと思ったけど、何とかなったみたいで良かった。
でも…。
「幹部様……」
結局俺は、幹部様と戦う以外の選択肢をとることができなかった。幹部様の目的も、思想も、全部知ることができたのに。
幹部様の全てを知った上で、俺は幹部様と敵対するという選択をとることしかできなかった。
それがなんだか、少し悲しく思えた。
幹部様と決別せずに済んだ未来もあったんじゃないかと、そう思うと胸が苦しくなる。
でも、過ぎ去ってしまったものは仕方ない。結局、俺と幹部様は道を違えてしまったのだから。
「千夜ちゃん」
幹部様との戦いに決着がついたことを察したからか、キューティ達が俺の元に駆け寄ってくる。
最初に駆け寄ってきたのは魔法少女キューティバースと妖精キュート、そして、比較的負傷の少ない魔法少女ホワイトポイズナーこと薬深ちゃんだった。
「オクトロアを倒したんだね! すごいよ。私や聖歌でも勝てなかったのに」
幹部様を倒した以上、これ以上俺が魔法少女と敵対し続けるという展開を続けるのは無理だろう。それに、洗脳していた張本人を倒して光堕ち、は中々熱い展開だし、個人的にありだ。
幹部様の死を無駄にしないために、最大限利用するという意味でも、今ここで光堕ちを果たすのが最善の選択なのかもしれない。
「貴方達のおかげだよ。私一人じゃ勝てなかった。きっとまた、洗脳されて、組織に逆戻りするだけだったと思う。だから、ありがとう」
微笑を浮かべながら、キューティに感謝を述べる。キューティもまた、それに対して笑みを返してくれていた。
「……オクトロアによる洗脳は、もう大丈夫なの? 記憶は?」
薬深ちゃんは心配そうな目を俺に向けてくる。そういえば、彼女も幹部様の触手でちょっといじくられそうになってたんだっけ。
「大丈夫だよ。もう、強制的に従わされることはないし、きっと貴方達と敵対することもないと思う」
「決着がついたところで悪いけど、こいつはどうする?」
戦勝ムードに包まれる中、1人の少女が、小柄な少女をつまむようにして捕まえながらこちらに問いかけてくる。
その少女の見た目に見覚えはなかったが、なんとなく魔法少女スターチススクラッチの面影を感じたため、スターチスなのだろうと察する。そして、彼女が捕獲しているのは…。
「ゆ、ゆるしてくださぁい…。私も脅されて、無理やり組織に従わされてただけなんですぅ…。え、えとえと、洗脳も受けててぇ…逆らえなくてぇ…。私本当は虫も殺せないくらい臆病で、弱っちいんですよぉ……。なのに洗脳によって無理やり従わされて、えっと、悪口とかいっぱい言いましたけどぉ、それも洗脳でそう発言するように強制されてたからでぇ……。本当はそんなことしたくなかったんですぅ……。私、こんなひどいことしたくなかったんですぅ……。信じてくださぁい…!」
幹部様がどこからか連れてきていた少女、メェナだった。彼女は先程から言い訳ばかり並びたてていて、自身の命を守るために必死な様子だった。
洗脳されて仕方なく、なんて言っているけど、彼女の場合嘘を並び立てているだけなんだろうなと感じる。
「そいつがオクトロアの洗脳を受けているようには思えない。それに、組織の連中は生かしておくと何をしでかすかわからない。即刻始末して……」
メェナを見て、薬深ちゃんは悪即斬な姿勢を示している。が、正直俺自身メェナに対してそこまで悪感情を抱いているわけではないし、彼女自身から直接害を受けた記憶も特にない。加えて、本人が必死に生きたいと懇願しているのを見て、このまま即刻処分というのはあまりにも可哀そうだなと感じてしまう。
だから。
「……見逃してあげてもいいと思うよ。彼女は元々、かんぶさ……オクトロアが捕まえてきて酷使してただけで、組織に元々いたわけじゃないから。オクトロアを倒した今、彼女が組織に協力する理由はないし、それに、もしかしたら洗脳を受けていた可能性がないわけじゃないから」
俺はメェナに助け舟を出しておいた。俺を救うという選択を選んだ魔法少女達のことだ。俺がメェナのことを見逃してやってほしいと頼み込めば、素直に聞き入れてくれるだろう。
「そ、そうですぅ! も、もう『ワ・ルーイ』に協力なんてしませんからぁ! つつましく生きていきますからぁ! 許してくださいぃ……!!」
「っ! けどっ!!」
「ま、まあ、本人もこう言ってるみたいだし、私達が二度と悪さをしないように見張る必要はあるかもしれないけど、何も命まで取らなくたっていいんじゃないかな? 本当にその子が組織の被害者だったって可能性も捨てきれないし……」
反発する薬深ちゃんを宥めるようにキューティが言う。キューティがそう言ったことによって、薬深ちゃんも一応は納得してくれたのか、メェナに対する敵意を内にしまう。
うん。物騒なことにならなくてよかったよ。流石に目の前で殺されちゃ可哀そうだし、夢見も悪いからね。それに…。
「私は悪くない私は悪くない私は悪くない……」
こういうちょっと悪い子、更生しがいがあるって感じだからね。もう一人の俺……千夜ちゃんが教育したくなるような子なんじゃないかなぁって思ったから。だからまあ、千夜ちゃんに更生を任せてあげるって考えもありかなって思ってるんだよね。
救いようがない悪ってわけじゃないし、メェナの場合、自己保身と自己愛、自己尊重の塊というか、良くも悪くも自己中なだけで、それが行き過ぎて他責や他者の利益を踏みにじることに繋がってるのかなぁって感じがするから。
といっても、彼女と深く関わったことはないし、顔を合わせた時間も少ないわけだから、彼女の本質が極悪人という可能性も捨てきれないわけではあるんだけどね。まあ、とりあえずは様子見という選択でもいいんじゃないかなーって個人的には思うわけですよ。
『丸く、収まってよかったですわね……』
「ふぅ……。最初はどうなることかと思ったけど、なんとかなってよかったわね」
一件落着の雰囲気を感じ取ったのか、また一人の少女と妖精が近付いてくる。片方はレディとかいう妖精だったはず。そして、少女の方は……。
「えっ……」
「? どうかした?」
「……ぃえ。なんでもないです」
知っている少女だった。
まあ、考えても見れば当然か。俺やゆーちゃんに襲い掛かってきたドイツ人の魔法少女は、スターチスと関りがあるってことはわかってたし。ってことは、リーベルがライオネルだったってことだね。まあ、冷静に考えてみれば以前から導き出せた話ではあるし、今更驚くことではないかな。なんとなくではあるけど、予想していないこともなかったわけだし。
『クルー……』
「クール。大丈夫?」
戦闘が終わって一件落着、ではあるものの、戦闘で負傷した傷はそのままだし、皆消耗しているようだった。薬深ちゃんの契約妖精のクールは目をくるくると回してダウンしているし、他も皆再戦闘を行うだけの体力は残っていなさそうだった。
目をくるくる回す妖精クール。目がクールクール。なんちゃって!
……。
…………。
さて。
これでもう、敵役の魔法少女ロールは終了、かな。
ふむ。リザルトとしては、まあまあよかったんじゃないだろうか。
いい感じに強敵を演じられたし、きっと魔法少女達も、”驚異の魔法少女ブラックルーイ!!”くらいには思ってくれていたはずだ。うんうん、ミステリアスムーブも完ぺきにこなしたし、まさかの魔法少女側にお姉ちゃんがいるという衝撃展開もあったし。
まあ、よかったんじゃないでしょうか。中々美味な光堕ちの流れだったんじゃないかなと思いますねわたくしは。
幹部様和解ルートで考えていたからか、まだ少しもやもやとした感情が残ってはいるけど。
でも。お姉ちゃんと再会できて、日常に戻る。そんな未来には、少し魅力を感じてる。だから……。
「……へ?」
そんな風に思って、魔法少女への変身を解除した、直後だった。
俺の腰回りに、高速で触手のようなものが巻き付いてきて、そのまま……。
「うわっ!」
ずるずると引きずられていく。
誰がやったかなんてのは明白だ。触手を扱えるのなんて、この場じゃ俺か……。
「なっ! オクトロアっ!!」
幹部様しかいない。
「勝手に死亡扱いされては困りますねぇ。申し訳ないですが、こう見えて私、プライドが高い方なんですよ。やられっぱなしで満足できるほど、できた性格をしていないんです。だから最後まで足掻かせてもらいますよ」
皆消耗してるし、もう限界だ。
俺だって、幹部様と満足に戦えるほど体力が残っているわけじゃない。
でも。それでも。
「幹部様、諦めが悪いねっ!」
俺の口角は、自然と上がっていた。
うれしいのか、たのしいのか。
それはわからない、けど。
胸に広がるもやもやは、今はもう感じなかった。