私は2人の魔法少女と対峙する。片方は夕音叔母さんの娘である夏場夜風が変身した魔法少女、サマーハリケーン。もう片方は、何やらよくわからない理論をこちらに語り掛けてくる少女、魔法少女フィルバーグレーネだ。
「先輩! 多分先輩は誤解してますよね? 信じてください! 私達は先輩の味方です!!」
「あー。まあ、そういうことらしいよ? ま、大人しくしといてくれると、こちらとしても助かるんだけどさぁ」
サマーとフィルバーはそれぞれに主張する。
サマーの目的は、私への復讐、だったはず……。なのにどうして遊美に協力しているのか……。
一応、遊美の目的は私達を救うことではあるはず。復讐を目的としているサマーとは、どう考えたって目的が合わない。
それに、フィルバーもフィルバーだ。闇堕ちがなんだのどうだの、よくわからないことを話しているが、彼女の目的も、私達を救うことからほど遠いように感じてしまう。
「ねえ。二人の目的は何? 私にどうしてほしいの?」
「んー? 復讐ー。なんちゃって」
「先輩にとって都合の良い環境作りをしてあげたいんです。私は先輩の敵じゃないんです」
二人に尋ねてみても、曖昧な答えしか返ってこない。目的は不明瞭。だけど、遊美の様子もおかしかったし、このまま大人しく彼女らに従うわけにもいかない。
なら、戦うしかない。
2対1は不利だけど、やるしかない。
「『風読み』」
サマーが魔法を発動させる。が、こちらを攻撃するためのものではないらしい。何かの布石か。
とにかく、2対1の戦況ふりを覆すためには、片方を戦闘不能に追い込む必要がある。とすれば。
「『ブラックハンド』」
私は、『ブラックハンド』によってサマーを拘束しようとする。が。
「読んでたよ」
サマーは、まるで未来予知でもしていたかのように、いともたやすく『ブラックハンド』を避けてしまう。
「わあ……」
ここで『ブラックハンド』に捕まってくれてたら楽だったんだけどなぁなんて思いつつ、仕方ないと気持ちを切り替える。
サマーに関しては、ここに来る直前に戦ったし、なんとなく使う魔法も理解できる。けど、フィルバーは本当に未知数だ。警戒しておくべきかもしれない。
「それで、次の手は?」
サマーはウキウキといった表現が似合うくらいに私の魔法を待ち望んでいるみたいだ。
私の手札を切らせようとしている?
……さっき『風読み』という魔法を使っていたし、未来予知じみた行動はそれによる効果?
だとすれば、『風読み』の効果が発動している間に、私に魔法を使わせて、全て回避しようという算段なのかもしれない。
その考えならば、今この場でサマーを狙うのは間違っているのかもしれない。
『風読み』の効果が切れるまでは、フィルバーに魔法を使う。
……けど、私は魔法少女フィルバーグレーネについてそこまで詳しくない。サマーを狙うのは、『風読み』のことを考えると正しくない。けど、フィルバーを狙うのもまた、私にとってはリスキーだ。とはいっても、その選択を取らざるを得ないのだけど。
ま、しゃーないかな。
「『闇の炎』」
「『グレーシャット』」
そう思い、私はフィルバーに対して魔法を放つ。が、その魔法もフィルバーによって相殺されてしまう。
「先輩のことは散々研究させていただきました。ですので、先輩の使う魔法も、使うタイミングも、大体のことは把握していますよ。だから先輩、諦めてください。私には先輩の行動も、魔法も、全部読めているんですから」
どういうわけかは知らないけど、フィルバーは私のことを慕ってくれているらしい。といっても、私の出撃経験はそこまで多くないから、魔法や行動パターンについて把握しているのは愛結ちゃんの方なんだろうけどね。
そう考えると、諦めるのはまだ早いかな。確かに、私と愛結ちゃんは思想も行動もある程度似通った部分はあるけど、でも、全く一緒ってわけじゃない。違う部分も存在しているんだから。
「❘詠唱風傷《ウインドシンフォニー》」
私は再度、魔法をフィルバーに使う。私の魔法が予想外だったのか、フィルバーは少し驚いたような表情を見せながら、私の魔法を避ける。
「その魔法……。知らない……。なんで……? まさか、先輩は今まで本気じゃなかった? 実力を隠して……」
なるほど。❘詠唱風傷《ウインドシンフォニー》は、私達が夕音叔母さんから譲り受けた魔法だ。夕音叔母さんが亡くなる以前は使ってこなかった。もし、フィルバーが観察してきたのが、夕音叔母さんが亡くなる以前の私達だったら?
当然、夕音叔母さんの魔法をフィルバーが知るわけがないし、いくら私達の研究をしていたとしても、その魔法について対処できないのは自然な流れだろう。
よし、そうと決まれば。
夕音叔母さんの魔法を主軸にして、フィルバーを討伐する。そのあと、『風読み』の魔法の効果が切れたタイミングを狙って、残している魔法でサマーに対応する。この路線で戦うと良いだろう。
そう思い私は、再びフィルバーに向き合う。
先程❘『詠唱風傷《ウインドシンフォニー》』を見せたからか、私を警戒しているように見つめている。
かなり集中して私のことを見つめているようだ。なら、その視線を少しずらしてあげようか。
「『❘視線誘導《コントロール・ポイント》』」
『❘視線誘導《コントロール・ポイント》』。これも夕音叔母さんから貰った魔法だ。視線をある1点に集中させる、というものだが、戦闘中において、視界を自由に使えないというのはそれだけで致命的だ。
「さて、これで……」
先程まで私を注視していたフィルバーは、最早私を見つめることすらできない。
これなら、フィルバーを倒すことも容易だろう。よし、このまま……。
「へぇ。もう使いこなしてるんだ? その魔法」
フィルバーを一旦戦闘不能にしようとした私に、サマーが声をかけてくる。フィルバーがやられそうになっているというのに、彼女からは動揺が感じられない。それどころか、笑みすら浮かべている。
「何?」
「いや? よく使いこなしているなぁーと思って。やっぱり血縁関係者だから良く馴染むのかな? どう? 私の母親の魔法の使い心地は」
「中々上出来だよ。夕音叔母さんは、かなり優秀な魔法少女だったみたいだね」
「らしいね。幹部レベルと対等に渡り合ってたらしいし、良い魔法少女だったんじゃないかなぁ? だからこそ私は許せないんだよね。そんな尊敬できる母親の尊厳を踏みにじるような行為はさぁ」
言って、サマーは魔法を私に向けて放つ。元々当てる気がなかったのか、その魔法は私に命中することなく、あたりの壁にぶつかって霧散した。
彼女の思考は読めない。夕音叔母さんに対してどう思っていたのか、夕音叔母さんが亡くなってどう感じているのか。そのすべてを私は知らない。でも、彼女は夕音叔母さんが残した忘れ形見のようなものだから。
「復讐に捉われてるの? それは、夕音叔母さんのため?」
「何憐みの目向けてんの? 私が可哀そうな奴だと思ってるんだ? ははっ! 違う違う! 私はそんな、ありふれた、一般的な人間なんかじゃないんだから。私の目的は、復讐。だけどね、別に私は誰かに対して憎悪を向けているわけじゃないんだよ。私は普通じゃないからね。復讐を楽しんでるの。そして、その口実として、母親を理由にしてるってだけなんだから」
本当に、そうなんだろうか。
復讐を楽しんでるなんて、そんな風には思えない。彼女はどこか。
何かに反発しているかのような、そんな印象がする。
「……憐みとか、そういうのじゃないよ。ただ……。私は、君が君らしく生きていられたらいいなと思って」
「……。あー? そういう感じ? ふーん。調子に乗んなよ。私の事分かった気になって、私より優位に立ったつもり? 許さないから。私を赤子扱いしていると痛い目見るってわからせてやる」
それは彼女が初めて表に出した感情だった。
私の態度が気に食わなかったのだろう。じゃあ、なんで? なぜ、彼女は……?
「お前の魔法は、全部無意味だから。『❘解除《ディスペル》』」
「何を……?」
「先輩。大丈夫です! 安心してください!」
いつの間にか、フィルバーが私のことを羽交い絞めにしていた。私に視線を向けられないはずなのに、今は私をまっすぐに見つめている。
先程の『❘解除《ディスペル》』によって、『❘視線誘導《コントロール・ポイント》』が解除されたのだろう。
「私は母親に復讐しようとしていたんだよ? 当然、その魔法への対応策くらい用意してるに決まってるでしょ?」
サマーは私に不敵な笑みすら向けて見せる。その表情から、『風読み』の効果はまだ有効なのだろうと感じる。
かといって、フィルバーに狙いを定めようにも、夕音叔母さんの魔法にはサマーが対策を講じているはず。
「やっば……」
「あらら~? 余裕がなくなってきたね~? どうどう? どんな気持ち? あはは!!」
サマーはすごく楽しそうだ。
本当に、心の底から。
ああ、そっか。きっと彼女は、誰かに優位に立たれるのが嫌なんだ。
彼女の中には、何かに対する反発心があった。
それは、組織に生まれたときにできた感情なのかもしれない。
都合の良いように生み出されて、普通とは違う人生を歩みさせられそうになって。
それに対して、反発していたのかもしれない。母に対する復讐も、反発心によるものだとしたら。
早すぎた反抗期、ってやつかな。
彼女の根源は理解した。けど、フィルバーの方はいまだに読めない。
なんか、好きなように生きてるだけのような気もするしなぁ。
とにかく、サマーの救い方にはある程度目処が立った。彼女に、教えてあげればいいんだ。
もう、反発なんてしなくていいって。反抗しなくたって、守ってくれる人がいるって。
きっと彼女の反発心は、組織に生み出された、誰もが自分を利用しようとする、味方のいない孤独から出てきてしまった感情だろうから。
とすれば、境遇の近いキュヴァちゃんなんかが彼女に寄り添えるのかもしれないな。なんて、ぼんやりと考えてはいたけど、状況的に私は不利だ。
彼女を救おうとか、そういう話をしている場合じゃないのかもしれない。
「あはは~。あの、見逃してくれたりはしませんかね?」
「別に殺そうってわけじゃないから安心したらいいんじゃない? ま、そこの遊美にでも聞けば?」
サマーは言う。そうだ、元々遊美の言い分では、私を救おうとしているという話ではあった。
ただ、遊美の雰囲気が不穏だったから、愛結ちゃんの光堕ちの障害になりそうだったから反発したってだけだし。
「私は元々、千夜の不利益になるような行動をしているつもりはないよ。そうだなぁ。まだ相互理解が足りていないような気がするし、まずはじっくり話し合いからしない?」
遊美は私に対して、歩み寄りの姿勢を見せてくる。けど、どうしてだろう。目の前の親友が、なんだか恐ろしく感じてしまうのは。
彼女の底が見えなくて、以前と違うように見えて、どうしても受け付けられない。私は……。
「そうだね。それじゃあ、話し合おうか、遊美。いや、ゆーちゃん」
思い悩む私の背後から、聞き覚えのある声が聞こえてくる。それは、私の半身で、同じ存在で。
「あーちゃん…………」
「色々と清算しないといけないことがあるし、親友として相談に乗ってくれないかな? 悪くない提案だと思うんだけど」
魔法少女ブラックルーイ。彼女が、その場にやっているということだった。