【本編完結】TS魔法少女は光堕ちしたい!!   作:布団から出られない

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156転生少女は再び攫われる

 

 

私は目を覚ます。周囲を見渡すと、そこにいたのは私だけではなかった。

 

「千夜、大丈夫?」

 

キュヴァちゃんに、妖愛ちゃん、そして、ヒンナさんにラフ君が、その場にはいた。どうやら先程まで愛結ちゃんと共にいた場所ではないようだ。

 

「愛結ちゃんは……?」

 

私は周りにいたキュヴァちゃん達に、愛結ちゃんの安否を尋ねる。けど、皆顔を伏せて、言いづらそうにするばかりで……。

 

「……現場には、手紙が残されていました。彼女の姿はどこにも見えませんでしたが、それもおそらく……」

 

言いながら、手紙を手渡してきたのは、妖愛ちゃんだった。愛結ちゃんは、遺書でも残していたのだろうか。

私は妖愛ちゃんから手紙を受け取り、静かに手紙に書き記された文章にすらすらと目を通していく。

 

そこには、分身の解除に伴うリスクを避けるため、自身の命を利用して、分身による代償も、リスクも、何もかも帳消しにすること。それに伴って、自身の肉体は塵1つも残らずに私の体へ統合されてしまうこと。そして、愛結ちゃんの記憶は、私には受け継がれないこと。

 

「ルーイ達を探しに行って……。私達が…見つけたのは。その場に倒れる千夜と、周囲に大量にこびりついた血痕だった。……多分、ルーイはあそこで、千夜への移植を…全部済ませたんだと、思う」

 

キュヴァちゃんは、心底辛そうにしながら、ぽつぽつと告げる。

 

「な、何かの間違いじゃ、ないの? 愛結ちゃんは、今もどこかで生きてたりは……」

 

「あの量の出血をして、生き残っていられるとは到底思えません。私も生きている可能性は考えたいところですが、状況が状況ですから。千夜ちゃんの体を調べて、分身による代償の存在が感じられたりしない限りは、死亡したものとみなすのが自然な流れだと思います」

 

妖愛ちゃんは、はっきりとそう言う。多分、私に無駄に希望を抱かせる必要はないと、そう思っているからこそ、現実を見ようとしているのかもしれない。

 

「……」

 

ヒンナさんはずっと黙り込んでいる。愛結ちゃんの死に、どう感じているのだろうか。

愛結ちゃんは言ってた。これは、ヒンナさんのためでもあるって。

 

愛結ちゃんの死で、ヒンナさんから自殺願望がなくなってるといいんだけど。

 

「そっか。愛結ちゃんは、逝ってしまったんだね」

 

正直に言うと、悲しい。文字通り半身がいなくなってしまったんだから。でも、愛結ちゃんは言ってた。

引きずらないでほしいって。

 

だったら、きっと私も、前に進まないとダメなんだ。愛結ちゃんの死を無駄にしないためにも、私は、日常に戻らないといけない。

 

愛結ちゃんが用意してくれた、光堕ちへの道を、私は進まなければいけないんだから。

 

「ルーイ……」

 

目に見えて愛結ちゃんの死にショックを受けているのは、キュヴァちゃんだった。ずっと暗い表情をしていて、ヘアピンすらも外して、髪で顔を隠してしまっている。

 

「キュヴァちゃん、大丈夫?」

 

「…………。大丈夫じゃ、ない。ごめん。しばらく、休む」

 

そう言って、キュヴァちゃんはトボトボとその場から立ち去っていく。私は、立ち去っていくキュヴァちゃんに、何も声をかけることができなかった。

 

『やっぱり、血は抗えない、のか』

 

ラフ君もラフ君で、何か思うところがあるみたいだ。

 

誰もかれも、普段の明るさを取り戻せそうにはない。

その場の空気は、まるでお通夜のようだった。

 

「私、ちょっと外の空気吸ってくるね」

 

その場の雰囲気に耐えられなかった私は、そう告げてその場から立ち去る。ヒンナさんも妖愛ちゃんも、立ち去る私のことを止めようとすることはしなかった。

 

外に出ると、辺りはすっかり夜だった。

周囲は静まり返っていて、周りには誰もいない。

 

騒がしさを感じさせられず、ただ冷たい空気に充てられるだけの空間は、私の心を落ち着かせる。ざわついていた心は、周囲の静けさに合わせて鎮まり、私に冷静な思考を取り戻させてくれる。

 

「愛結ちゃん……」

 

私を生かそうとして、自らの命を投げうつなんて。

 

確かに、愛結ちゃんは、光堕ちさえできれば、己の生死について一切気にしてなさそうな雰囲気があった。

だったら、目的を達成した後、私のために命を投げうつという選択を取ったっておかしくはない。

 

理解はできるし、説明もできる。愛結ちゃんならそんなこと絶対にしないなんて、そんな風には言えない。

 

それに、私は無意識ながら、愛結ちゃんとの繋がりをなんとなく、感じていた。

言葉を交わさずとも、互いに顔を見合わせれば、ある程度何となく言いたいことが伝わるくらいに、私と愛結ちゃんは不思議な力で繋がっていた。

 

でも、今は、そんな不思議な繋がりは一切感じていない。

それはきっと、私が記憶以外の愛結ちゃんのすべてを受け継いでしまったからで…。

 

「リスクがあったんだとしても、私は愛結ちゃんと二人で生きていく日常の方が、ずっとよかった……」

 

残される側の気持ちも、考えてほしい。

そんな風に考えてしまって、初めて気づく。

 

「そっか、きっと私も…………」

 

私は、組織に拉致されて、お姉ちゃんのことを置き去りにした。

それなのに、私は光堕ちを楽しもうだなんて、ウキウキしてて……。

 

「じゃあ、これはきっと、私への罰だね」

 

お姉ちゃんや、遊美。きっとたくさんの人を、私は悲しませてしまったんだろう。そういう人たちの気持ちを、私はもっと考えてあげるべきだったんだと思う。

 

【千夜がいなくなってから。ずっとずっとずーっとずーーーーっと。…苦しかった。私に初めて話しかけてくれた千夜が、私が他人と関われるように手を尽くしてくれた千夜が。ずっとそばにいてくれた千夜が、いなくなっちゃったんだから。…千夜はさ、きっと軽く見てるんだよね。周りの人にどれだけ好かれてたか、自覚してないんだ。ひどいよ、最低だよ。ねえ、千夜。千夜がいなくなって、それでおかしくなっちゃった人なんて、いくらでもいるんだよ? 私もそう。千夜のせいでおかしくなっちゃった。私の中の大切なもの、全部ぐちゃぐちゃになっちゃった】

 

あの時の遊美の言葉は、きっと真実だ。色々と変わってしまった親友だけど、間違いなく、この時の遊美は、私の知っている遊美だった。

 

私は、たくさんの人を残して、行ってしまったんだ。だからきっと、愛結ちゃんにも置いて行かれることになってしまうんだろう。

 

「……。ちゃんと、お姉ちゃん達と向き合わないと。愛結ちゃんはきっと、それに気づかせてくれたんだよ。だから…………」

 

私は無理矢理にも自分を納得させようとする。けど、やっぱり愛結ちゃんの死は受け入れられなくて…………。

 

「……千夜」

 

そんな風に、1人で愛結ちゃんのことを想っていた私に、1人の少女が声をかけてくる。

聞き覚えのある声。私の知っている声。

 

彼女は、私の親友で……。

 

「……遊美?」

 

「分身の件は、片がついたみたいだね。……記憶は共有されてないの?」

 

「……されてないよ。愛結ちゃんは、分身解除のリスクも考えて、自らの命を使って、私の分身魔法についての問題を解決してくれたんだから」

 

私の言葉に、遊美は驚いたかのように顔をあげる。心底驚いたかのような表情だった。

 

「なに、それ…。それじゃあ、そんなの……!」

 

ひどく動揺したかのように頭を抱える遊美。夜風や魅夜は、来ていないのだろうか?

 

そもそも、遊美の目的って一体……。

 

「おかしい、でしょ。私にあんなこと言っておいて、死んで逃げようっていうの? そんなの、そんなの……。許さない。私をおかしくして置いて、その責任を取らないなんて、そんなの通らないでしょ。ふざけてる。こんなの、全部間違ってる……。ねえ、千夜もそう思うでしょ?」

 

「え……」

 

「私、本当は千夜と純粋な親友として接したかったんだよ。歪な関係でいたくなかった。誰にも恥じなく、自慢できるくらいの関係でいたかった。なのに、なのに、全部おかしくなって……。ねえ、千夜ちゃん、責任、とってよ。ねえ……!」

 

遊美は錯乱したかのように私の胸倉を掴んでくる。何が遊美を狂わせたのか、私には何もわからない。わからないけど。

 

遊美がそうなった原因に、少なくとも私が関係しているのであろうことだけは、確かだった。

 

「遊美、あの……」

 

「千夜、私、もう止まれないから」

 

遊美は私の腹を蹴りつける。愛結ちゃんに殴られた箇所と同じところを蹴り上げられたためか、二重の痛みによって私はその場に蹲ってしまう。

 

「痛っ……!」

 

「倒れこむ姿も…………。ああ、ごめん千夜。どうしてこうなっちゃったんだろう。もう止まれない。ごめんね。本当は、こんなつもりじゃなかったのに、でも、どうしようもないの、もう止まれないの。だから、ごめんね」

 

言いながら、遊美は2度、3度と私を蹴りつける。散々私を痛めつけておきながら、同時に謝罪も行う様子は、まるでDV彼氏のようだった。

 

「遊……み……」

 

「夜風、魅夜。お待たせ。今度こそ、成功させようか」

 

「やーーっとかー。これで失敗したら、私もう協力しないからね?」

 

「先輩! あの! これはやりすぎじゃないですか? 先輩痛がってますし、ダメですよ。大事な先輩の体に傷がついたら大変じゃないですか」

 

夜風と魅夜も、どこからか現れてくる。

 

もう、私を助けてくれる愛結ちゃんはいない。

 

「だ……れか……」

 

ヒンナさんもラフ君も、きっと愛結ちゃんの死にショックを受けているからか。

連れ去られていく私の姿に気付くことはなく。

 

「千夜、本当に、ごめん。でも、もう戻れないんだ」

 

私は遊美達に再び攫われることになってしまった。

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