TS魔法少女は光堕ちしたい!!   作:布団から出られない

168 / 168
156転生少女は再び攫われる

 

 

私は目を覚ます。周囲を見渡すと、そこにいたのは私だけではなかった。

 

「千夜、大丈夫?」

 

キュヴァちゃんに、妖愛ちゃん、そして、ヒンナさんにラフ君が、その場にはいた。どうやら先程まで愛結ちゃんと共にいた場所ではないようだ。

 

「愛結ちゃんは……?」

 

私は周りにいたキュヴァちゃん達に、愛結ちゃんの安否を尋ねる。けど、皆顔を伏せて、言いづらそうにするばかりで……。

 

「……現場には、手紙が残されていました。彼女の姿はどこにも見えませんでしたが、それもおそらく……」

 

言いながら、手紙を手渡してきたのは、妖愛ちゃんだった。愛結ちゃんは、遺書でも残していたのだろうか。

私は妖愛ちゃんから手紙を受け取り、静かに手紙に書き記された文章にすらすらと目を通していく。

 

そこには、分身の解除に伴うリスクを避けるため、自身の命を利用して、分身による代償も、リスクも、何もかも帳消しにすること。それに伴って、自身の肉体は塵1つも残らずに私の体へ統合されてしまうこと。そして、愛結ちゃんの記憶は、私には受け継がれないこと。

 

「ルーイ達を探しに行って……。私達が…見つけたのは。その場に倒れる千夜と、周囲に大量にこびりついた血痕だった。……多分、ルーイはあそこで、千夜への移植を…全部済ませたんだと、思う」

 

キュヴァちゃんは、心底辛そうにしながら、ぽつぽつと告げる。

 

「な、何かの間違いじゃ、ないの? 愛結ちゃんは、今もどこかで生きてたりは……」

 

「あの量の出血をして、生き残っていられるとは到底思えません。私も生きている可能性は考えたいところですが、状況が状況ですから。千夜ちゃんの体を調べて、分身による代償の存在が感じられたりしない限りは、死亡したものとみなすのが自然な流れだと思います」

 

妖愛ちゃんは、はっきりとそう言う。多分、私に無駄に希望を抱かせる必要はないと、そう思っているからこそ、現実を見ようとしているのかもしれない。

 

「……」

 

ヒンナさんはずっと黙り込んでいる。愛結ちゃんの死に、どう感じているのだろうか。

愛結ちゃんは言ってた。これは、ヒンナさんのためでもあるって。

 

愛結ちゃんの死で、ヒンナさんから自殺願望がなくなってるといいんだけど。

 

「そっか。愛結ちゃんは、逝ってしまったんだね」

 

正直に言うと、悲しい。文字通り半身がいなくなってしまったんだから。でも、愛結ちゃんは言ってた。

引きずらないでほしいって。

 

だったら、きっと私も、前に進まないとダメなんだ。愛結ちゃんの死を無駄にしないためにも、私は、日常に戻らないといけない。

 

愛結ちゃんが用意してくれた、光堕ちへの道を、私は進まなければいけないんだから。

 

「ルーイ……」

 

目に見えて愛結ちゃんの死にショックを受けているのは、キュヴァちゃんだった。ずっと暗い表情をしていて、ヘアピンすらも外して、髪で顔を隠してしまっている。

 

「キュヴァちゃん、大丈夫?」

 

「…………。大丈夫じゃ、ない。ごめん。しばらく、休む」

 

そう言って、キュヴァちゃんはトボトボとその場から立ち去っていく。私は、立ち去っていくキュヴァちゃんに、何も声をかけることができなかった。

 

『やっぱり、血は抗えない、のか』

 

ラフ君もラフ君で、何か思うところがあるみたいだ。

 

誰もかれも、普段の明るさを取り戻せそうにはない。

その場の空気は、まるでお通夜のようだった。

 

「私、ちょっと外の空気吸ってくるね」

 

その場の雰囲気に耐えられなかった私は、そう告げてその場から立ち去る。ヒンナさんも妖愛ちゃんも、立ち去る私のことを止めようとすることはしなかった。

 

外に出ると、辺りはすっかり夜だった。

周囲は静まり返っていて、周りには誰もいない。

 

騒がしさを感じさせられず、ただ冷たい空気に充てられるだけの空間は、私の心を落ち着かせる。ざわついていた心は、周囲の静けさに合わせて鎮まり、私に冷静な思考を取り戻させてくれる。

 

「愛結ちゃん……」

 

私を生かそうとして、自らの命を投げうつなんて。

 

確かに、愛結ちゃんは、光堕ちさえできれば、己の生死について一切気にしてなさそうな雰囲気があった。

だったら、目的を達成した後、私のために命を投げうつという選択を取ったっておかしくはない。

 

理解はできるし、説明もできる。愛結ちゃんならそんなこと絶対にしないなんて、そんな風には言えない。

 

それに、私は無意識ながら、愛結ちゃんとの繋がりをなんとなく、感じていた。

言葉を交わさずとも、互いに顔を見合わせれば、ある程度何となく言いたいことが伝わるくらいに、私と愛結ちゃんは不思議な力で繋がっていた。

 

でも、今は、そんな不思議な繋がりは一切感じていない。

それはきっと、私が記憶以外の愛結ちゃんのすべてを受け継いでしまったからで…。

 

「リスクがあったんだとしても、私は愛結ちゃんと二人で生きていく日常の方が、ずっとよかった……」

 

残される側の気持ちも、考えてほしい。

そんな風に考えてしまって、初めて気づく。

 

「そっか、きっと私も…………」

 

私は、組織に拉致されて、お姉ちゃんのことを置き去りにした。

それなのに、私は光堕ちを楽しもうだなんて、ウキウキしてて……。

 

「じゃあ、これはきっと、私への罰だね」

 

お姉ちゃんや、遊美。きっとたくさんの人を、私は悲しませてしまったんだろう。そういう人たちの気持ちを、私はもっと考えてあげるべきだったんだと思う。

 

【千夜がいなくなってから。ずっとずっとずーっとずーーーーっと。…苦しかった。私に初めて話しかけてくれた千夜が、私が他人と関われるように手を尽くしてくれた千夜が。ずっとそばにいてくれた千夜が、いなくなっちゃったんだから。…千夜はさ、きっと軽く見てるんだよね。周りの人にどれだけ好かれてたか、自覚してないんだ。ひどいよ、最低だよ。ねえ、千夜。千夜がいなくなって、それでおかしくなっちゃった人なんて、いくらでもいるんだよ? 私もそう。千夜のせいでおかしくなっちゃった。私の中の大切なもの、全部ぐちゃぐちゃになっちゃった】

 

あの時の遊美の言葉は、きっと真実だ。色々と変わってしまった親友だけど、間違いなく、この時の遊美は、私の知っている遊美だった。

 

私は、たくさんの人を残して、行ってしまったんだ。だからきっと、愛結ちゃんにも置いて行かれることになってしまうんだろう。

 

「……。ちゃんと、お姉ちゃん達と向き合わないと。愛結ちゃんはきっと、それに気づかせてくれたんだよ。だから…………」

 

私は無理矢理にも自分を納得させようとする。けど、やっぱり愛結ちゃんの死は受け入れられなくて…………。

 

「……千夜」

 

そんな風に、1人で愛結ちゃんのことを想っていた私に、1人の少女が声をかけてくる。

聞き覚えのある声。私の知っている声。

 

彼女は、私の親友で……。

 

「……遊美?」

 

「分身の件は、片がついたみたいだね。……記憶は共有されてないの?」

 

「……されてないよ。愛結ちゃんは、分身解除のリスクも考えて、自らの命を使って、私の分身魔法についての問題を解決してくれたんだから」

 

私の言葉に、遊美は驚いたかのように顔をあげる。心底驚いたかのような表情だった。

 

「なに、それ…。それじゃあ、そんなの……!」

 

ひどく動揺したかのように頭を抱える遊美。夜風や魅夜は、来ていないのだろうか?

 

そもそも、遊美の目的って一体……。

 

「おかしい、でしょ。私にあんなこと言っておいて、死んで逃げようっていうの? そんなの、そんなの……。許さない。私をおかしくして置いて、その責任を取らないなんて、そんなの通らないでしょ。ふざけてる。こんなの、全部間違ってる……。ねえ、千夜もそう思うでしょ?」

 

「え……」

 

「私、本当は千夜と純粋な親友として接したかったんだよ。歪な関係でいたくなかった。誰にも恥じなく、自慢できるくらいの関係でいたかった。なのに、なのに、全部おかしくなって……。ねえ、千夜ちゃん、責任、とってよ。ねえ……!」

 

遊美は錯乱したかのように私の胸倉を掴んでくる。何が遊美を狂わせたのか、私には何もわからない。わからないけど。

 

遊美がそうなった原因に、少なくとも私が関係しているのであろうことだけは、確かだった。

 

「遊美、あの……」

 

「千夜、私、もう止まれないから」

 

遊美は私の腹を蹴りつける。愛結ちゃんに殴られた箇所と同じところを蹴り上げられたためか、二重の痛みによって私はその場に蹲ってしまう。

 

「痛っ……!」

 

「倒れこむ姿も…………。ああ、ごめん千夜。どうしてこうなっちゃったんだろう。もう止まれない。ごめんね。本当は、こんなつもりじゃなかったのに、でも、どうしようもないの、もう止まれないの。だから、ごめんね」

 

言いながら、遊美は2度、3度と私を蹴りつける。散々私を痛めつけておきながら、同時に謝罪も行う様子は、まるでDV彼氏のようだった。

 

「遊……み……」

 

「夜風、魅夜。お待たせ。今度こそ、成功させようか」

 

「やーーっとかー。これで失敗したら、私もう協力しないからね?」

 

「先輩! あの! これはやりすぎじゃないですか? 先輩痛がってますし、ダメですよ。大事な先輩の体に傷がついたら大変じゃないですか」

 

夜風と魅夜も、どこからか現れてくる。

 

もう、私を助けてくれる愛結ちゃんはいない。

 

「だ……れか……」

 

ヒンナさんもラフ君も、きっと愛結ちゃんの死にショックを受けているからか。

連れ去られていく私の姿に気付くことはなく。

 

「千夜、本当に、ごめん。でも、もう戻れないんだ」

 

私は遊美達に再び攫われることになってしまった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

デメリット有りの能力で、可愛い子達を曇らせたいぞ!(作者:片桐きな粉)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

「契約のエリュジーン」▼深夜帯の大人気アニメ。少年少女その他が契約モンスターと悪を倒していく...王道のファンタジー。▼そんな世界に転生してしまった。女の子として。▼見渡そうとしても動けないし、死ぬ直前だったけど、契約をすることによって免れました。自らデメリットを背負って。▼全ては可愛い子が可愛い子に愛されたいという欲望のために▼尚、契約モンスターからは『も…


総合評価:6867/評価:8.41/連載:42話/更新日時:2026年06月16日(火) 18:38 小説情報

進化したら人外系お姉さんになる雑魚モンスの俺、飼い主♀の性癖を破壊する(作者:霧夢龍人)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

なお、しっかりと飼い主♀に襲われる模様。▼カクヨム、なろうでも連載してます▼R18版投稿しました↓↓↓▼https://syosetu.org/novel/410361/#


総合評価:10542/評価:8.4/連載:110話/更新日時:2026年06月15日(月) 17:55 小説情報

最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 (作者:でかそう)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

辺境の地で現れる最強の黒騎士。▼街行く人々から畏怖される黒騎士の正体は、異世界から転生してしまった俺であった。▼更にひょんなことで女体化してしまった俺は、周りの目を盗んでは黒騎士に変身して日夜人々を守っているのだが、どうやっても黒騎士の評価が良くなる事は無い。▼それ所か益々周りの人間から嫌われてしまう黒騎士。▼何故ここまで嫌われているのか!?▼このままじゃ黒…


総合評価:1962/評価:7.07/連載:185話/更新日時:2026年08月13日(木) 08:53 小説情報

アイドルが群雄割拠する世界にTS転生したので闇堕ちした天才アイドルみたいなムーブする(作者:音塚雪見)(オリジナル現代/日常)

歌って踊れるアイドルが多すぎる世界にTS転生した俺。▼人前に出るのは苦手だし、自分がアイドルになるのは無理。▼ということで闇落ちした天才アイドルみたいなムーブをして遊びます。▼──そしたらなんか主人公みたいなキラキラ女子に絡まれてるんだが!?▼ええい俺には悩みとかないから放っておいてくれ!!!!▼小説家になろう様とカクヨム様にも投稿はじめました。


総合評価:10378/評価:8.12/完結:58話/更新日時:2026年03月06日(金) 12:23 小説情報

TS転生した俺は魔法少女になれないらしい(作者:環状線EX)(オリジナル現代/冒険・バトル)

 キャラクリで好みの女を作ったら昨今流行の魔法少女が題材のゲームにそのキャラとして転生した話。でも、魔法少女って言うのは一見さんは良いけどイチモツさんはお断りらしい。


総合評価:5601/評価:8.17/連載:66話/更新日時:2026年08月11日(火) 17:46 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>