TVアニメ、漫画、小説。ありとあらゆる分野において、ミステリアス少女に注目して作品を視聴、読了し終えた俺は、ミステリアス少女に憧れを抱いていた。
あの余裕、態度、口調。全てが素晴らしく、あんな風になれたら、と、あの理想像に焦がれてしまうことに、抗える者はいないと思う。
特にweb小説などは、ミステリアスを題材にした作品もあったり、ミステリアスロープレをする作品などがあったりして、それはそれはもうとても面白く、俺は思わず彼ら彼女らに尊敬と憧憬、そして崇拝の念を抱くに至ったのだった。
光堕ちは素晴らしい、俺は光堕ちが大好きだ。
だけど、ミステリアスも好きになっちまった。これからはミステリアス少女ロープレも存分に楽しみたい!!
「師匠、ミステリアスっていいですね………」
俺は幹部ヒンナちゃんのことを、敬意を込めて師匠と呼ぶことにした。
光堕ちしか考えてこなかった俺を、ミステリアスという新分野に連れてきてくれたのだ。もうポンコツ臭がするとか言わない。
「ふふ、どうやらミステリアスの素晴らしさを理解したようね」
「“未知”は素晴らしいです。さっき見たアニメ、特に6話のミースちゃんのミステリアスさが好きで……」
「よく分かってるわね。ミースのミステリアスさにおいて、6話ほど完成されている回はないわ。凡夫は12話が理想とかほざきやがるけど、あれはミースのことを1ミリも理解していない、にわかの発想よ」
「師匠! やはり師匠は分かってますね! ミースのミステリアスは、6話が至高! いや、まあ12話のミステリアスさも好きなんですけど、6話よりもミースの事情が見えてきてますしね……」
今までミステリアス、という属性に着目してアニメを視聴したことはなかったから、新鮮な気分でアニメを楽しむことができた。
前世の世界にはなかったアニメというのもあって、ネタバレなしで楽しめたのもあるだろうが、それ以上に、ミステリアスというものの魅力、それを俺は知ることができた気がした。
「……どうやら、名残惜しいけれど、これでミステリアス研修は終了のようね。あらゆるコンテンツでミステリアスを知り尽くした貴方に、もう教えることはないわ」
「そんな! 私にはまだミステリアスははやいです! 師匠がいないと……!」
「安心していいわ。次に魔法少女達と戦闘する時は、私も一緒についていってあげるから。言ったでしょ? “私との研修を経て、ミステリアスを学び、私と共に魔法少女にミステリアスを披露しに行くのよ”って」
「……師匠!」
組織の幹部ってやっぱり頼りになるんだな。触手幹部君は有能だし、師匠はミステリアスの知識に長け、俺にミステリアスへの覇道を示してくれる。
俺が実は、人質取ったり、魔法少女煽ったりとかしてるんすけどこれミステリアスできますかね? と、問いかけてみれば、師匠は言ってくれたのだ。
1番大切なのは心。心がミステリアスであれば、自ずとミステリアスへの道は開ける、と。
そうだ。俺もそう思う。
光堕ちで大切なのも、心だ。
心が伴っていなければ、光堕ちすることは叶わない。
心を伴わない光堕ちなど、闇堕ちと何ら変わらない、邪道だ。
そう、俺の光堕ち観と、師匠のミステリアス観。
その2つは、見事にマッチしていたのだ!
師匠は、なるべくして俺の師匠になったのだ。
さて、師匠にご指導いただいた今の俺にはもう、怖いものはない。
ミステリアスをする上で、心構えは師匠に教えてもらったし、先人達の知恵により、ミステリアスムーブが何たるか、俺はある程度把握できた。
懸念点など…………。
……よくよく考えたら、あの純白の魔法少女ちゃんとどう戦えばいいんだろう。
魔法少女4人相手取るってだけでも結構難しそうだし、いくら師匠が付いてきてくれるとはいえ、あの『クールポイズン』とかいう魔法を使われると、俺の神経は麻痺し、何もできなくなってしまう。
それがなくても、『マジックギフト』とかいう魔法で、相手は魔力を回復しつつこちらの魔法の威力を軽減させてくるわけで……。
「あの、師匠、少し相談が…」
「相談? どんなミステリアスムーブをするか、とかでしょ? 大丈夫。自分の思うがままに振る舞えば、それが自ずと…」
「いえ、そうじゃなくて。以前私が魔法少女に敗北した時、人質にとった子がたまたま魔法少女だったっていう状況だったじゃないですか」
「そうね。それがどうしたの?」
「……その、お恥ずかしながら私は人質にとっていたその魔法少女の子に敗北したわけでして。………それで、その子が使う魔法が少し厄介なんですよ」
どれほどのミステリアスムーブを見せたところで、結局歯が立たず、あっさりと敗北してしまっては、ミステリアスの風上にも置けない、ただの敗北者に成り下がってしまう。
ミステリアスにおいて大切なのは、”余裕“だ。
純白の子の魔法に焦って対処できないようじゃ、とてもミステリアスなど名乗れはしないだろう。
だからこそ、これはミステリアスムーブをする上で外せない課題だ。
どうせ光堕ちするんだから、最悪勝てなくても良かった今までと違い、ミステリアスムーブにおける敗北は重大な意味を持つ。
そんな重大なこと、師匠に確認をとっておかなければ。
でなければ俺は、絶対に次の戦闘で失敗してしまうだろう。
「厄介、ねえ。どう厄介なの?」
「……いや、色々あるんですけど、1番は神経麻痺させて動けなくさせてくる魔法ですね。あれのせいで前回は空中から紐なしバンジーさせられることになりましたし、敵である魔法少女に助けられるという恥を晒しましたから」
「……神経麻痺させてくる……ね……。ねえ、私が何を専門とする幹部か、分かる?」
? 突然何を問い出すのだろうか、師匠は。
……師匠の専門?
それって…。
「ミステリアス?」
「違う違う。それは趣味よ。私の担当は魔法科学。魔法と科学を混ぜ合わせ、より優れた技術を生み出すことを専門としているの」
【私はヒンナ。『ワ・ルーイ』の幹部の1人で、魔法科学の研究中ってところよ】
そういえば、自己紹介の時にそんなことを言っていたな。
魔法科学、か。
この世界、割と魔法少女達とかフリフリドレスにマスコットと、ファンタジーな世界観をしているわけだが、言われてみれば師匠はファンタジーはファンタジーでも、SFチックなファンタジーって感じの雰囲気を持っている気がする。
初めて見た時の印象も、メカメカしてんなぁ……だったし。
「そして、今私が身につけているこのパワードスーツ。これは、私が担当する魔法科学において、機械工学を担当している部下が作り上げたものなの。優秀でしょ?」
「……いまいち凄さが伝わってこないんですけど、ただ、師匠がスムーズに動いているのを見るに、着心地? はよさそうですね」
「ま、言葉じゃわからないか。それで、私達は表向き、一般企業として世間に貢献しているの。それぞれの幹部は、完全に自分のやりたいことをやってるわけだから、どうしても利益を上げていかないと、立ちいかなくなるしね」
そうそう。幹部達って基本的に自分の趣味? に夢中というか。『ワ・ルーイ』のためにもなりはするんだけど本質は自分達のしたいこと、だったりするんだよね。
確か1人会社倒産させてた気がするけど、まあ、そういう感じで個人主義? なのだ。
ただ、触手幹部君は『ワ・ルーイ』のための業務しかしてないんだけどね。他の幹部達がやらないから、触手幹部君が『ワ・ルーイ』の業務を請け負って何とかカバーしてくれてるっていう理由だったりするんだけど。
「そして、私達はその利益を上げる目的で、とあるモノを開発したの……。それが、体が不自由な人でも、体を自由に動かすことができる、魔法肢体補助装甲! これがあれば、仮に魔法によって神経を封じられたとしても、貴方は四肢を動かすことができるわ!」
「おお!! それです! まさに求めていたもの! それがあれば、『クールポイズン』も怖くない!」
魔力量を増やす薬の時は、思ったより役に立たないなと感じたけど、前言撤回だ。
やはり師匠は師匠だった!
もうポンコツだなんて呼ばない。やっぱり、幹部って優秀なんだな!
「ふふふ! そうでしょうそうでしょう! なんか、魔法がないと使えない欠陥品だとかなんとか言ってたけど、魔法少女ならその点も問題なし! その人質魔法少女に、魔法少女ブラックルーイのミステリアスを知らしめてやりましょう!」
「はい! 師匠!」
「そうと決まれば早速実践よ! 今から怪人を解き放ち、魔法少女達を誘き寄せるわ。そこで颯爽と現れる、ミステリアスに溢れた謎の仮面少女と、おまけの魔法少女ブラックルーイ! くくく……今から楽しみで仕方がないわ!」
あれ、そういえば俺って休暇中………。
休暇中に勝手に怪人使って暴れ回ってもいいんだっけ?
……まあ、師匠も幹部だし、大丈夫でしょ。
見ておけよ純白の魔法少女!!
師匠に教わったミステリアス、存分にお前に叩きつけてやるぜ!!
こいつらの面倒見なきゃいけない触手幹部君…。