「愛結、ちゃん、どういうこと? どうして死んだふりなんか……」
「私も聞こうかな。あーちゃんは、何がしたいの?」
理解が追い付かない。どうして、死んだふりをする必要があったの?そもそも、分身の代償の件は嘘だったの?
私の頭は、さっきから混乱するばかりで、明確な答えを自分自身で導き出すだけの思考力を発揮できていない。だから、ただ聞くことしかできない。そんな私を見てか、愛結ちゃんはぽつりぽつりと、丁寧に語り出す。
「どこから話そうかな。そうだねー、まず、分身の代償があるから、分身を解除するか、片方の心臓を移植する必要があるって話はしたよね?」
「うん。その話は聞いたけど。それは事実なの?」
「事実だよ。実際、私は千夜ちゃんに心臓を移植したからね。分身による代償は、もうないはずだよ」
分身の代償について、嘘はなかったということだ。じゃあ、どのみち愛結ちゃんの心臓を移植してもらうか、分身を解除するか、どちらかを選択する必要はあったということになる。でも、それじゃあ……。
「どうして愛結ちゃんは生きてるの? そもそも、生きているならなんで姿をくらませたりなんかしたの?」
心臓を移植してもなお、何かしらの手段で生きながらえていたのなら、私達の前に姿を現したって良かったはずだ。実際、キュヴァちゃんやヒンナさんは、愛結ちゃんの死にショックを受けていたのだから。彼女達にいらぬ心配を与えないためにも、顔見せくらいはしておくべきだったんじゃないだろうか?
なのに、どうして死を偽装したのか。それが私には分からなかった。
「それにもちゃんと理由があるんだ。まず、どうして私がこうして生きているのか、についてだよね。それについては、『模倣の魔』が関係してくるんだよ」
『模倣の魔』。かつてキュヴァちゃんが扱っていた魔法で、他者の魔法をコピーできる魔法。その力の根源は、”魔核”にあって、今はオクトロア様が持っているはず……。
その『模倣の魔』が、何か関係しているというのだろうか。
……オクトロア様から、譲り受けたとか?
そういえば、愛結ちゃんはキューティやシャイニングに変身して、彼女らが扱う魔法を使っていた。それが、『模倣の魔』によるものだった?
愛結ちゃんは私の元に来る前にオクトロア様のところへ向かっているはずだし、そこで”魔核”を受け取っていたとしても何らおかしくはないはず……。
じゃあ……。
「愛結ちゃんの中には、”魔核”があるの?」
「そうだよ、正解。私が『妖の魔』や他の魔法少女の魔法を扱うことができたのは、”魔核”を自分の心臓にしたことで、『模倣の魔』を扱えるようになったからなんだよね」
なるほど。”魔核”を自分の心臓に……。だから私に心臓を移植しても、愛結ちゃんは生きていられたんだ。
それについては理解できた。でも。
「じゃあ、どうして死んだふり作戦なんかしたの?」
「ふむ。じゃあ、聞くけど、私達は、どうしてキュヴァちゃんから”魔核”を取り除こうとしてたんだっけ?」
「それは……。あ……」
キュヴァちゃんか”魔核”を取り除いたのは、そうしないとキュヴァちゃんを救えないから。そもそも、”魔核”に『ワ・ルーイ』の首領であるクロマックが遠隔で機能を停止させる細工を施されていて、かつ、”魔核”を使って生きていられる余命は1年間しかなかったからだ。
つまり、今の愛結ちゃんは……。
「ま、そういうことだよ。今の私は、クロマック様にいつ命を奪われたっておかしくないし、”魔核”だっていつまでもつかわからない。だから、遅かれ早かれ私は死んじゃうんだよ。そんな状態で、生きてるから大丈夫、なんて言えないでしょ? どのみち私は死ぬんだから、それなら、千夜ちゃんに心臓を移植した時点で死んだってことにしておいた方が、きっといいと思ったから」
そっか。
きっと、愛結ちゃんは、変に余命のことを伝えて、1年間そのことで私達が悩み続けるよりも、自身の死という情報を、早い段階で私達に受け止めさせて、乗り越えてもらおうと、そう考えていたのだろう。
どのみち死ぬのなら、できるだけ周りが悲しまない選択を、と。
それでも”魔核”を使っていたのは、どこかで生きていたいという気持ちがあったからか。誰にも気にされず、余生を過ごしたいとでも考えていたのか。
それは私には分からない。
けど、愛結ちゃんが私達の前から姿を消した理由には、納得はしたくないけど、理解することはできた。
「なに、それ……。じゃあ、あーちゃんは結局死ぬってことなの? なん、なの……。ふざけないでよ……」
遊美の体が、ぷるぷると震えている。きっと、目の前の現実が受け止められないのだろう。
私だってそうだ。せっかくまた会えたのに、あと1年しか余命がないなんて…。
「キュヴァちゃんには、内緒にしててね。変に私が生きてるってこと伝えて、期待させちゃっても悪いしさ」
「気持ちは、わかるよ。できるだけ、自分の死を引きずる時間を少なくしてほしいんだよね。わかるけど…。でも、私は、それが正しいとは思えない。残り1年で、もっと思い出を作ることだってできるでしょ? せっかく光堕ちを果たしたなら、お姉ちゃん達とも一緒に……」
愛結ちゃんの意思は既に固まっているのか、彼女はふるふると首を振り、私の言葉を否定する。
隣から遊美が歯ぎしりをしているような音が聞こえてくる。悔しいのだろうか。
「復讐対象にしようと思ってたけど、死んじゃうのかー。残念。けどま、片方残ってるし、私の目的達成の上では問題ないかなー。で、魅夜はどう思ってるのさ?」
「あー、そのレベルですか。いいですよ、その認識でいればいいんです。私には先輩の意図は伝わってますからね。ま、貴方達には理解できないでしょうけど。というか、私がそれを話すと先輩の目的が達成できなくなってしまいますから」
魅夜は魅夜で、何か勘違いでもしているのか、愛結ちゃんの死を聞いても一切動揺することはないらしい。そもそも私は彼女の目的を知らないし、気にすることでもないのかもしれないが…。
愛結ちゃんの目的も何も、そんなの、自分の死で誰かが悲しむ時間を少しでもなくしたいっていう、ただそれだけのことで……。あれ……?
そもそも、それで何で死んだふりをする必要があったんだろう?
だって、別に残りの1年間を、私達に何も伝えずに一緒に過ごしたってかまわないわけで。
私達に心配をできるだけかけさせたくないのであれば……。
例えば、1年間過ごしていく中で、自分の余命が近付いてきたなと思ったなら、夢ができたから海外へ行くとか、そういう方向性でのお別れをする。とか、もっとうまいやり方はあったはずだ。
じゃあ、なんで愛結ちゃんはそうしなかったんだろう?
そもそも、自分の余命があと1年しかないとあきらめているのもおかしな話なんじゃないだろうか。
だって、実際それで悩んでいたキュヴァちゃんを救ったのは、愛結ちゃんじゃないか。
なら、自分の命を、キュヴァちゃんの時と同じように救済することだってできたはずだ。
なのに、それをしなかった。ということは、愛結ちゃんには、何か別の、私達以外の理由で、目的があるはずで……。
「あの、魅夜、ちゃん? 愛結ちゃんの目的について、魅夜ちゃんは何だと予想しているのか、教えてくれたらありがたいんだけど……」
「そんなの決まってますよ。先輩は、やみお……危ない。私は先輩のために伝えませんよ。私は、先輩のやりたいことを尊重すると決めているので。あれ? でもこっちの先輩も目的は同じ? じゃあ教えても大丈夫? い、いえ、でも、同じ存在なら同じ思考回路を持っているはずですし、盗み聞きされるリスクを考えれば、私から伝えなくても大丈夫なはず。先輩、えーと、私の名前を呼んでくれた方の先輩、申し訳ないですが、私からは何も伝えられません。ですが、答えはきっと、先輩の中にあるはずですよ」
答えは、私の中に……?
愛結ちゃんの目的、その答えは、何?
愛結ちゃんのやりたいこと、愛結ちゃんの芯にあるもの。それって……。
「ひかり、おち……?」
「っ!」
そうだ。ずっとそうだった。愛結ちゃんはずっとずっとずーーーっと。光堕ちのために生きてきていた。
すでにそれを果たして、だから私に心臓を移植したのだと思った。
魔法少女達と合流している手筈も整えていることから、確かに光堕ちは成功していたのだろう。
けど、もし。
その光堕ちに満足していなかったとしたら?
まだ、自分の望む”光堕ち”の経験を得れていないのだとしたら?
そうだとすれば、説明がつく。
「そっか。そういうことだったんだ。……ねえ、愛結ちゃん。もしかして……。もう一度、どこか別の場所で、光堕ち、しようとしてる?」
「ぐっ!!」
愛結ちゃんは私の発言に、ひどく動揺したかのように喉を詰まらせる。
そっか。やっぱりそうだったんだ。
理解した。
きっと愛結ちゃんは。
一度の光堕ちじゃ満足できず、私達との関係をリセットした状態で、もう一度、光堕ちをやり直そうとしている。
ちなみに魅夜ちゃんは『先輩は多分死んだふりしてどこか別の場所で悪役ロールプレイをやり直すつもりなんだ! 流石は先輩! 悪役の鑑!!』とか思ってました。ほぼ正解。