あーあ。バレちゃった。分身で光千夜が二人いたら面倒くさいし、ついでに師匠の自殺願望に釘を刺せるから、死んだふり作戦は良案だと思ってたんだけど。
やっぱり、どこまで行っても俺は俺、私であることに変わりはない、か。前世の記憶がなくとも、俺の目的を言い当ててくるなんてね。けど、やっぱり千夜ちゃんは俺ほど光堕ちに夢中ってわけではないみたいだ。
じゃないと、日常に戻るなんて選択を取るはずがないからね。
「あーちゃん、どういうこと?」
ゆーちゃんの方は、光堕ちについて何も理解していないからか、俺に疑問を投げかけてくる。
ふーむ。どうしたものか。
正直、俺はまだ光堕ちし足りないんだよな。
幹部様を倒したときに感じたもやもや、それは、幹部様がもういないことに対して感じていた心残りだと思っていた。
でも、違う。
俺の中のもやもやは、まだ消えてない。
気づいたんだ。結局俺は、あの光堕ちに満足していないんだって。
幹部様が生きていたとわかった時、確かに幹部様が生きていたことそのものが嬉しかったのはある。けど、あの時俺からもやもやとした感情が消えたのは、きっと、まだ光堕ちを楽しめるんだって、そう思ったからだったんだ。
自分でもどうしようもないと思う。また光堕ちしたところで、多分また更なる光堕ちを追い求めていって、きっと俺は止まらないのだろうから。
けど、もう仕方ないのだ。俺はそういう性質の人間なんだから。
前世で光堕ちに出会ってから、ずっとずっと。
辛い日々の中で、俺にとって一筋の光として差し込んでくれたのが、光堕ちだったんだから。
俺の芯となっている光堕ちを、今更捨て去るなんてこと、できるはずがない。
だから俺は止まらない。次なる光堕ちを求めて、きっと俺はまた、悪役魔法少女をやり続けるのだろう。
「そうだね、私の目的を話そうか。まず、光堕ちについての説明だけど……」
だから俺は、そのことをきちんと話しておこうと思う。ゆーちゃんは親友だし、ゆーちゃんの目的を知ろうっていうなら、まず俺の目的を話すべきだろうと思ったから。
「先輩、全て話すんですね。わかりました。私は全て理解しているので、先輩の話を盗み聞きしている不埒な輩がいないか、私が探っておきます」
「え、ああ、そう……」
光堕ちについての解説に入ろうとしたその時、魔法少女フィルバーグレーネがそんな風に言ってきたので、俺は少し困惑する。……光堕ちについて理解しているのだろうか、どこで知ったんだろ?
「それで、その光堕ちっていうのは……」
「光堕ちっていうのはね……」
俺は光堕ちの概要について、ゆーちゃん達に語る。魔法少女サマーハリケーンは時々意味が分からないといった顔をしていたが、そのたびに千夜ちゃんが補足を入れてくれるため、思ったよりもスムーズに光堕ちの説明をゆーちゃん達にすることができた。
「じゃあ、つまり、あーちゃんは、その、光堕ちっていうのをするために、わざと……?」
「あー。まあ、そうなるね。だから気にしないでよ。私は私の意思で組織に属しているんだから、ゆーちゃんは多分、私のことを助けようとしているんだよね? 大丈夫だよ、私は元気に……」
「ふざけ……ないで……!!」
滞りなく説明が進みそうで安心した最中、声を大きく荒げたのは、ゆーちゃんだった。ゆーちゃんは、癇癪を起したかのように、叫び散らす。
「わざとだった? ふざけないで、ふざけないでよ!! 私がどんな思いで、千夜のこと、心配していたか知らないの? 私が、どうしてこんな風になっちゃったのか、そんなことも知らないで…! 酷い、酷いよあーちゃん。私は、私はこんなに狂わされてしまったのに……!」
ゆーちゃんは、昔俺が仲良くしていた親友の少女、遊美だった。それを知った時、驚きと同時に納得もしていた。
一緒に過ごしていてあんなにも楽しく感じたのは、きっと親友だったからなんだと。
けど、ゆーちゃんはそのせいで、苦しんだのだろう。
「ゆーちゃん……」
「あーちゃんが、悪いんだから。もう、あーちゃんの好きにはさせない。あーちゃん、私をおかしくした責任、とってよ」
ゆーちゃんの瞳に眠る闇は、どこまでも深い。
俺がわざと悪の組織に属している。それがゆーちゃんには許せなかったのだろう。心配している友人が、わざと心配されるような状況に身を置いていた、そんなこと知ったら、怒るのは当然だ。けど、ゆーちゃんはそれ以上に、何か……。
深い闇を抱えているように、見えた。その闇がなんなのか、俺は知らない。けど、きっと俺は知らなきゃいけない。
ゆーちゃんがこうなったのは、きっと俺の責任なんだろうから。
「ゆーちゃん、聞かせてよ。ゆーちゃんが、私のせいでどうおかしくなったのかを」
そう話す俺を、ゆーちゃんは親の仇でも見るかのように睨みつける。そして、自身の内に抱えていた闇を、少しずつ表に出していく。
俺の存在で、ゆーちゃんがどうおかしくなってしまったのか、俺はそれを、たっぷりと聞かされることになった。
まず、最初は純粋に、親友として俺がいなくなってしまったことを悲しんでいたらしい。
それを聞いて初めて、俺は周囲に与えてしまった影響を認識した。
認識したうえで、きっと俺は光堕ちの欲望を優先するんだろうなとも思った。
そして、転機が訪れる。
ゆーちゃんは、ある日。俺が洗脳装置によって洗脳されてしまうビデオを見てしまったらしい。
正直、洗脳されてアホみたいな姿さらしてるのは恥ずかしいし、見られたくないなぁなんて思っていたんだけどね。ゆーちゃんには見られてしまったみたいだ。
俺的には、あんなみっともない姿、この世から消してしまいたいなんて思っていたんだけど、どうやらゆーちゃんはそれが良かったらしくて……。
ゆーちゃんが言うには、何でもそつなくこなせて、クラスの中心人物だった俺が、無様な姿をさらけ出している様子が、とんでもなく刺さってしまったらしい。何が良いのか、俺にはまったくわからないんだが。
多分、俺を失ってしまったことで、おかしくなってしまったんだろうと思う。俺を大切に想う気持ちが強かったからこそ、俺が洗脳される姿を見てられなかったんじゃないかな。だからこそ、それを自分の癖とすることで、自身の心を守ったんじゃないだろうか。なんて、これは俺の勝手な憶測でしかないけど。
でも、ゆーちゃん自身も、おかしくなってしまったって自認してたんだ。本当は俺と純粋な親友として交流していきたかったし、親友に自身の欲望をぶつけるような、そんな醜い女の子にはなりたくなかったんだと。
涙を流しながら、ゆーちゃんは語っていった。
だからこそ、分身魔法の存在を知ったとき、ゆーちゃんは思ったらしい。
片方には自分の欲望をぶつけて、もう片方とは純粋な親友として交流していけばいいと。
どうにも、俺こと広井愛結には、自分の欲望をぶつけてもいいと、そう肯定されたことがあるらしい。俺には全くそんな記憶はないんだが、多分ぼーっとして適当に返事したとかなんだろう。そして、ゆーちゃんはそれを本気にしたんだとか。
一度抱いてしまった欲望は、留まるところを知らない。ゆーちゃんは、それ以来ずっと、俺がひどい目に合う姿を妄想したり、夢に見たりしていて、抑えられなかったらしい。それについては、俺も共感できた。俺だって、光堕ちへの欲望を止めることはできなかった。
キュヴァちゃんや師匠、千夜ちゃんを悲しませると知って尚、俺は更なる光堕ちを求めて死んだふり作戦を実行しようとしていたのだから。
そして、泣きじゃくるゆーちゃんの姿を見て。俺は思ったんだ。
この子を狂わせてしまった責任は、俺がとらなきゃいけないと。
「ゆーちゃん、泣かないでよ」
「泣かないで? どの口が……!」
「わかったよ、ゆーちゃん。ゆーちゃんの欲望は、私が叶えてあげるよ。私が洗脳されたり、ひどい目に遭ったりする姿がみたいんだよね? だったら、私はそれを受け入れるよ」
「なにを、言って……」
「ゆーちゃんの欲望は全部受け止めるし、ゆーちゃんのすることは全部許すよ。私に欲望をぶつけて、もう一人の私とは、純粋な親友としての関係を築けばいい。ね、簡単でしょ?」
「私は、あーちゃんのことをたくさん傷つけようとしてるんだよ? 酷い目に合わせるって、どういうことだか分ってるの?」
「……私ってさ、光堕ちのためならどんな過程も厭わないんだよね。組織による洗脳も、実験も光堕ちのためだと思えば苦じゃなかったし。私は全部受け止めるよ。ゆーちゃんから受けるひどい仕打ちも、光堕ちに利用するから。そうすれば、winwinでしょ? だから、気にしなくていい。ゆーちゃんは、欲望のままにふるまっていいんだよ」
「なん、で……」
ゆーちゃんは、ボロボロに泣いている。きっと、俺を傷つけること、それを肯定することに、ずっと頭を悩ませ続けていたんだろう。
俺がたくさん、ゆーちゃんを傷つけてしまったんだ。だったら、今度は俺が傷つけられる番だ。
それに。
俺は光堕ちのために、散々好き勝手やってきたんだ。だったら、ゆーちゃんだって自分の欲望のために好き勝手やることが許されたっていいはずなんだ。
だから俺は。
ゆーちゃんの体を抱きしめて、ゆーちゃんのことを肯定する。
ゆーちゃんが抱えていたもの。そんなものすべて捨てて。
好きに生きていいんだよって、そう伝える。
その意図が伝わったのか。
ゆーちゃんの体から、力が抜ける。
「本当にいいの? 私は、私の欲望のためならなんでも……」
「好きにしていいよ。まあ、多分私だっていやなことはあるけどさ。でも、光堕ちに昇華できるって思ったら、割となんでも耐えれるからさ。だから、好きに欲望をぶちまけてよ。もう、そんなことで苦しまなくていいんだから」
「う……ひぐっ……うわあああぁあぁぁぁあぁん!!!!」
ゆーちゃんは幼い子供みたいに、大きな声で泣きじゃくる。それは、しばらくの間続いた。
たくさん泣いて、涙で顔がぐちゃぐちゃになって。
かわいい顔も台無しになるぐらいに、ゆーちゃんは人目を気にせずに只管泣き続けていた。
それはきっと、今までの苦しさから解放されたからこそのものなのだろう。
そうして、ゆーちゃんが泣き止んだ頃になると。見回りに行っていたフィルバーも帰ってきていて、何事かという顔でこちらを見つめてきていた。
「ちょっとね」
俺は一言彼女にそう告げると。彼女は「まあ先輩がいるし問題はないですね」なんて謎の信頼を俺に寄せながら勝手に納得していた。あの子は何なの?
一応、俺の光堕ちの旅に、ゆーちゃんも協力してくれる、ということにはなった。ゆーちゃんはゆーちゃんで、俺のことを好き勝手したいって欲望があるみたいだから。
さて、あとは……。
「ねえ、愛結ちゃん、ちょっといい?」
千夜ちゃんを納得させられるかどうか、だけかな。
一応、俺と同一存在であるわけだけど。
前世の記憶がある俺に対して、千夜ちゃんには前世の記憶がない。それに、今まで経験してきたことにも若干の違いが生じているし、交友関係も、そこまで多くないとはいえ俺とは若干の違いがある。
納得してもらえるかどうかはわからない。
けど、とにかく当たって砕けろだ。
「それじゃあ、話そうか、私達の今後について」