【本編完結】TS魔法少女は光堕ちしたい!! 作:布団から出られない
さて、ゆーちゃんと共に、光堕ちを目指すことになったわけだけども。
それを行う上で、まずはどこかしらの組織に属さなければいけないわけで……。
クロマック君が健在だし、『ワ・ルーイ』にもう一度所属させてもらうって手も考えたけど。
それをすると、当然魔法少女キューティバース達との戦闘を避けられないし、千夜ちゃんは光堕ちを済ませているにも関わらず、ブラックルーイが再び現れる、なんていう奇妙な状況を作り出すことになってしまう。つまり、『ワ・ルーイ』とは別の組織を作り出す必要があるわけで。
「私の『ユートピア』を使えばー?」
てな感じで、夜風が作った組織、『ユートピア』を利用して、悪の組織の活動を行うことになった。
現在の構成員は、俺、ゆーちゃん、夜風、そしてドーンの4名だ。
魔法少女フィルバーグレーネは、「私は先輩の邪魔をしたくないので!」とか言って、組織には入らなかった。結局あの子はなんだったんだろう。
ともかく、現状だと組織として弱すぎる。4名だけじゃやれることは限られてるし、そもそもゆーちゃんと夜風の目的は光堕ちでも何でもない。ドーンはよくわからないし。
そういうわけで、とりあえず俺達は戦力補強を行うことから始めることにした。
そこで、勧誘を行ったのが……。
「僕たちを呼んで、どうするつもりなんだ?」
組織の幹部であるイコル、そして、彼の側近である湿島さんに。
「えとえと、う、べ、別に私は裏切ったつもりじゃなくてぇ……。オクトロアに誘われたからちょっと手を貸してただけでぇ……」
オドオドとした少女、メェナだった。
何故呼んだのが彼らだったのか、についてだけど。
組織の幹部だと師匠やイグニスなんかもいる。だけど、正直師匠をこき使いたくはないし、イグニスはちょっと怖い。キュヴァちゃん殺そうとしてるから個人的に相容れない相手でもあるしね。結果、比較的話の通じそうなイコルと湿島さんに話をすることにしたのだ。ただ、メェナは夜風の個人的な伝手で呼んだだけなので、俺はノータッチである。
さて、イコル達を勧誘する上で、必要になってくるのは、彼らへのメリットの提示だ。
イコルは『ワ・ルーイ』の幹部だ。つまり、俺が行っているのは引き抜きになる。『ワ・ルーイ』よりも良い条件、それを提示して、イコルを引き抜く。
「まあ、端的に告げると、勧誘だよ」
俺は新たな悪の組織を立ち上げること、そして、新たな組織の構成員として、イコル達を勧誘したいことを告げる。
しかし、すぐには納得できなかったみたいで、困惑しながら湿島さんが質問を投げかけてきた。
「何故悪の組織を立ち上げようと? 貴方はむしろ、悪の組織から抜け出したかったのでは?」
素直に光堕ちしたいから、って語ってもいいんだけど、相手はイコルと湿島さんだ。できればこちらの真意に気付かれない方がやりやすいだろう。
「そんなこと知りたい? 細かいことは気にしなくていいよ。ただ、こちらの提示する条件と、『ワ・ルーイ』の労働条件、どちらの方が良いか、自分で判断して決めてもらおうと思ってね」
俺の言葉に、イコルも湿島さんも、警戒の色を見せている。
まあ、すぐに納得はできないだろうね。
ふむ。どういう形で彼らを納得させていこうか。
まず、『ワ・ルーイ』の目的は、負の感情のエネルギーを集めること、なんだけど。
何故負の感情を集めているのか。
そこから、何だよな。そこがわからなければ、良い条件の提示なんてできないだろう。だからまずは、探る。
「ゆーちゃん、どうしようか」
「…………イコルが食いつく餌を提示できればいいんだよね? 夜風、わかる?」
「ん? あー。まあ、一応は私も過去に組織に属していた過去はあるからね。だからまあ、何となくはわかるよ」
俺達はひそひそと作戦会議を行う。俺一人だけじゃ上手く情報は引き出せないだろう。けど、ゆーちゃんとなら。ジェネちゃんの娘の夜風もいれば。きっと、得れるものがあるはずだ。
「まあ、母親が絡んだ話くらいだけどね、私が組織について知ってる情報って」
「それでもいいよ。とにかく話してみて」
「そうだね。イコルは確か、過去に揉めてるらしいんだよ。敵対する魔法少女を、メェナが殺しかけたっていう事件があってね」
メェナってそこまでやってたんだ?
見逃してあげてもいいって思ってたけど、誰かを殺してしまう可能性があるなら、手元において管理しておいた方が良いかもしれないな。
にしても、メェナが魔法少女を殺しかけたことで、イコルが揉めたってことは…。
「イコルは魔法少女の殺害を、よく思ってない?」
「いや、そもそも『ワ・ルーイ』の方針として、基本的には死人を出さないようにするって決まってるから、単純に規則を守ったってだけじゃない?」
そうなんだ。『ワ・ルーイ』に所属してきたのに、今の今までそんなこと全然知らなかったや。
ん? でもそれなら、規則に従って処分すればいいだけで。わざわざ揉める必要はなくないか?
それとも、死人を出さないようにするっていうのは口だけで、実際にはそんなことなかったとか?
実際、幹部様はキュヴァちゃんから”魔核”を取り出そうとしていたけど、その結果キュヴァちゃんが死んでしまうことについては気にする素振りを見せていなかった。
クロマック君に従うつもりがなかったからなんだろうけど、どちらにせよ、『ワ・ルーイ』に所属している幹部の殺しに対する認識が甘いのならば、イコルがそれに対して憤って揉めたということも考えられる。
イコルが悪の組織に何を求めているのかはわからないけど、提示できる条件に不殺を加えておくか。どのみち、誰かを殺そうなんて考えは俺達には微塵もないわけだし。
まあ、なんとかなるさ。最悪、イコルの引き抜きに失敗したって悪の組織はやれるわけだしね。
「私達の組織の方針として、一応は不殺を掲げるつもりではあるんだよね」
「不殺、か。それは『ワ・ルーイ』も掲げているが、お前達の組織は何かまた違うのか?」
「『ワ・ルーイ』は形だけでしょ。実際に不殺を貫こうと考えている奴なんていないよ。幹部様はキュヴァちゃんを殺しかけたし、師匠は必要であれば他人を殺すだろうからね」
実際、師匠って最初俺を使いつぶすつもりでいたみたいだし、他人が生きようが死のうが、それが自分の身近な存在でなければどうでもいいってタイプだろうから。俺の言っていることは何も間違っていないはずだ。
「なるほどな。だけど、分かってるのか? 悪の組織になるということは、他者を傷つけるということだ。いくら不殺を貫こうといったって、負の感情を得るためには、それ相応のストレスを他者に与える必要がある。それとも、他人を弄ぶのが好きな口か?」
ほーん。そういう考え方なんだ。『ワ・ルーイ』に所属している幹部は皆、負の感情エネルギー得るぜ! それで民間人が苦しんでも気にしないぜ! なスタンスだと思ってたけど、イコルはそうでもないんだな。まあ、そうでもなければ不殺に拘ろうなんて思わないか。
割と優しいのか? だとすれば、アプローチの方向性は…。
「いや、そういうわけじゃないけど。まあ、でもやっぱり負の感情を得る必要はあるよね。そこもちゃんと考えてはいるよ。確かに、他者に不快な思いを与えなきゃいけないことには変わりないんだけど。建物を壊したり、人を傷つけたりだとか、そういうことはしないつもり。例えば、食べ歩きの邪魔したりだとか、街を歩くカップルの間に挟まってデートを邪魔したりだとか、そういう小悪党として、チマチマとした負の感情を集めるつもりなんだよね」
「…小悪党、か…」
「ルーイさん、貴方もしや、我々の事情に勘付いて…」
湿島さんが、何かを呟く。我々の事情?
いや、そんなの一切分かってないんだけど。
でも、情報戦では有利に立ち回りたい。知ったかぶりを貫いて、お前たちの事情は全部知ってるぞって姿勢を貫いていくとしよう。
「事情は当然把握してるよ。それで、どうかな? まだ納得できない点があるなら、聞くけど」
イコルと湿島さんは、二人でコソコソと何かを話し合っている。
しばらく会話を続けていたが、話し合いがすんだのか、やがてイコルがこちらを向いて、こちらに言葉を投げかけてくる。
「僕の方針について話したい。こちらからも提案したいことがある。互いに擦り合わせをしよう」
どうやら、俺の提示条件はイコルのお眼鏡にかなったらしい。正直イコル達の事情なんてものは知らないが、『ワ・ルーイ』からの引き抜きは、どうやら成功しそうだった。
俺達は個室に移動し、話し合うことにした。ちなみにメェナは夜風に脅されて、びくびくしながらも俺達に協力してくれると言ってくれた。まあ、教育は必要だろうけど。
イコルは、宣言通り擦り合わせを行うためか、自分の事情について、順に語り出す。
「知っての通り、僕達『ワ・ルーイ』の目的は、負の感情のエネルギーを集めることだ。それは、僕達の世界のエネルギー源となっているからね」
「ん? うん」
イコル達の世界のエネルギー源?
えーと、ちょっとまってね。
…………。ふむ。
多分だけど、そもそもイコル達、『ワ・ルーイ』に所属している幹部は、人間じゃない。
そしてイコルの口ぶりから、彼らは異世界からこの世界にやってきたのだろう。
そして、負の感情のエネルギーを集めることが目的ということは知っていたけど、”僕達の世界のエネルギー源となっている”ということは……。
「あーちゃん、どういうこと? 『ワ・ルーイ』が集めるエネルギーが、どうなってるって?」
「『ワ・ルーイ』の幹部達は、元々私達とは異なる世界からやってきてたんだよ。それで、イコル達が言ってたエネルギー源っていうのは……」
「私達の世界でいう、ガスや電気に相当するものです。つまり、イコル様達にとって、人間の負のエネルギーを集める行為は、私達の世界でいう、原子力発電や、風力発電に相当するわけです」
俺が推測でゆーちゃんに解説しようとしたところ、湿島さんが横から解説を挟んでくれる。正直、俺の推測に自身があったわけじゃないから、湿島さんから解答を提供してくれたのはありがたかった。
イコル達は俺がイコル達の事情を理解しているという前提で話を進めていたから、俺が知ったかぶりをしていたとばれるのはまずかったしね。
「そういうことだ。つまり、僕は僕の世界のエネルギーのために、君達の世界を害することを決めた。自分の世界と君たちの世界を天秤にかけて、僕は自分の世界を優先することを選択したんだ」
その言葉には、後悔のようなものが含まれているような気がした。
ああ、そういうことか。
「イコル様は、心優しい方でした。ですが、負のエネルギーを集めるためにこちらの世界にやってきた組織のほとんどは、この世界の住人を気遣う心は全くない者ばかりで。自分の世界のためにという大義名分を掲げて、この世界を好きに破壊し、愉しんでいるんですよ」
語る湿島さんの拳は、ぷるぷると震えている。
やっぱり、そうなんだ。
イコル達はきっと、この世界の住人のことも気にかけている。けど、イコルの同郷の他の者で、そう考える者は、いないか、少ないのだろう。
けど、自分の世界のためにエネルギーは集めなければならない。だから、せめて不殺を貫いている『ワ・ルーイ』に所属しようと、そう判断したんだろう。
「なら、変えてやればいいんだよ」
「変えてやる、といいますと?」
「こっちの世界の住人が、できるだけ被害を被らなくて、かつ、イコル達の世界の住人が、十分なエネルギーを得ることができるように」
「悪の組織は、『ワ・ルーイ』だけじゃない。他の組織だって存在している。全て変えるなんて、不可能だ」
「いーや、全部変えるよ。別に悪の組織をやめさせようとは言わない。けど、全部小悪党に変えて、こっちの世界の被害を最小限にしつつ、イコル達の世界のエネルギー供給も果たす。そんな世界に、私が変える」
「自分が何を言っているのか、わかっているのか? 事態は、そんな簡単では……」
口で言うほど簡単ではないことは理解している。でも、そんなの今更だ。
俺は、この世界に生まれてから、ずっと光堕ちをするために生きてきた。
前世で俺の心を救ってくれた光堕ちの当事者に、俺自身がなりたいと、そう強く思ったからだ。
でも、俺の心は、一度光堕ちしたくらいじゃ満たされなかった。
どこかで、分かってた。俺の、独りよがりで、他人よりも自分を優先して、自己中心的な振舞い方をしていちゃ、本当の”光堕ち”なんて出来ないんだって。
俺が行ってきたのは、光堕ちの模倣でしかないんだって。
だから俺は満足していなかった。俺がしたのは、疑似的な光堕ちであって、真の光堕ちではなかったのだから。
俺の光堕ち願望は、一生満たされないものになるかもしれない。そんな恐怖すらあった。
でも。
俺は諦めるつもりはない。
俺が本当に満足できるその時まで、俺は光堕ちに向かって進み続けると決めている。
それに。
「お姉ちゃんや魔法少女達、それに、キュヴァちゃんや千夜ちゃんが過ごすこの世界を、私は守りたいから。だから、頑張るよ」
光堕ち以外にも、俺が動き続ける理由はある。
俺が出会ってきた、友達や家族のために。
そういう意識が、光堕ちのためになくなったわけではないから。
「そうか」
不思議と、真の光堕ちができないなんて不安はもうなかった。
それは、もう一人の私が、俺を光堕ちさせてくれると約束してくれたからかもしれないし、善性に溢れた魔法少女達と触れ合ったり、一緒にゲームをしてくれる友達ができたからかもしれない。
一緒にバカをやってくれる師匠や、天国で見守ってくれているジェネちゃんや幹部様がいるからかもしれない。
ただ、なんとなくだけど、俺の未来は明るい気がした。
「それで、どうする? イコルは、『ユートピア』に入るの? 入らないの?」
「湿島」
「私は、イコル様の意思を尊重しますよ」
湿島さんの言葉に、イコルは少しの間、頭を悩ませていたが、やがて決心がついたのか、俺の手をそっと握ってくる。
「君の賭けに乗ろう。僕も、これ以上の悲劇はもう目にしたくはない」
「了解」
俺は俺の目的のために動く。真の光堕ちのために、そして、この世界で出会った、友達や家族のために。俺は、裏の世界で生きていく。悪の組織に所属する魔法少女として、最高の光堕ちを求めて。
だから。
「
「あーちゃん?」
「なんでもないよゆーちゃん。それじゃ、いこっか」
俺はゆーちゃんの手を取り、進んでいく。
親友と共に、悪の道へと。
いつか訪れる、光堕ちの時を求めて。
クロマック君涙目不可避
次回はエピローグ:光千夜となります。
エピローグとしては次回の方が適してるかも。