愛結ちゃんの光堕ちレールに従って、私は光堕ちを果たした。
一応、日常に戻る、ということにはなっていたんだけど、残念ながらすぐに、というわけにはいかなかった。
というのも、どうやらキュートが私の母親の記憶から私に関する記憶を忘却させていたらしく、私がすぐに家に帰ることはできなかった。なので、私は一旦ヒンナさんの元で世話になることになり、お姉ちゃん達には遊美の家に住ませてもらっている、というように説明している。
ヒンナさんとの関係をお姉ちゃん達に知られると、色々と説明が面倒だし、ヒンナさんのところにはキュヴァちゃんもいる。まだクロマックも『ワ・ルーイ』も健在である現状、いくら幹部であるイグニスが知っているとはいっても、キュヴァちゃんが生存していることはできるだけ知られない方が良い。
以上のことから、私は事情を知っている遊美に口裏を合わせてもらい、ヒンナさんに面倒を見てもらう形で日常を送っている。
「千夜ちゃん、もう学校には慣れた?」
「あ、うん。遊美もいてくれるし、皆いい子だから。結構慣れてきました」
そして、今日も私は学校へと通っていた。今の私は、魔法少女キューティバースの正体である苺先輩と、彼女の友人で魔法少女ホワイトポイズナーである白沢薬深ちゃんに、お姉ちゃん、そして遊美を含めた合計5人で学校に登校していた。
彼女らと仲良くなった経緯について、なんだけど。
私自身、愛結ちゃんを光堕ちさせる、ってことを割と今の生きがいとしているんだけど。それを行う上で、やっぱり魔法少女として悪の組織と戦うってことは必要になってくるわけでして。
どうせ魔法少女として戦うのなら、魔法少女キューティバース達と一緒に『ワ・ルーイ』と戦ったりしててもいいかな、と思って、今現在私はキューティ達と一緒に打倒『ワ・ルーイ』を掲げて一緒に行動するようになっているというわけだ。もちろん、対愛結ちゃんの時は彼女達とは別行動で、愛結ちゃんの存在がバレないようにしながら戦うことにはなるんだけどね。
「千夜、困ったことがあったらいつでも言って。先輩として、いつでも力になるから」
「薬深はむしろ千夜に面倒を見てもらっている機会の方が多いように感じるのだけれど……?」
「あはは、どっちが年上か分からないですね。苺先輩は、ああみえてちゃんと先輩してるんですけど」
「ああ見えてって……。私はちゃんと頼りがいのある先輩をやってるつもりなんだけどなぁ……」
薬深ちゃんは、同じ組織の被害者ということから、私に仲間意識を抱いているのか、結構な頻度で私に構ってくる。
まあ、彼女が組織に対して恐ろしいほどの憎悪を抱いていることは、これまで彼女達と幾度となく戦って理解していたし、自身も被害者であるからか、同じ境遇の者にかなり肩入れしてしまうのだろうなということも納得だ。
そんなに彼女と戦っていないだろうって?
実はそうでもないんだよね。私の頭の中には、彼女との初めての戦闘も記憶として残っている。
最初は凄く憎まれていたよね。逃げ遅れた一般人と思いきや、まさか魔法少女だったなんて。
そう。私には今までの記憶がある。
それはきっと、愛結ちゃんの心臓が、私の体の中に取り込まれたからだろう。私は、失っていた記憶を全て取り戻した。
前世のことも、魔法少女ブラックルーイとして活動してきた今までの全てのことも。
だから私は、知っている。彼女達と戦ってきた記憶もあるし、何なら夕音叔母さんやキュヴァちゃん達と初めて出会った時の記憶もある。
ただ、それでもやっぱり、私と愛結ちゃんの性格は、全く同じというわけじゃない。
愛結ちゃんは多分、前世の人格の影響を多大に受けているんだろう。だからこそ、光堕ちへの想いが私よりも強いし、周囲のためにその欲望を捨てるという選択を取ることができなかった。
私の場合は、前世の記憶はただの記憶でしかなく、あくまで私自身は光千夜であるという意識が強かったからか、愛結ちゃんのように、光堕ちのために再び悪の組織に~、なんて思考には至らなかった。
まあ、それでもブラックルーイとして活動していたころの記憶に関しては、広井大介の意識が強かった期間もあるのに、その期間の記憶は経験として私の記憶に残っているから、なんとも不思議な気持ちなんだけどね。
そんなこんなで思考を働かせつつ、苺先輩達と会話を交わしていたら、いつの間にやら学校についていたみたいで。
「あ、それじゃ私達はこっちだから。千夜ちゃん、またね!」
「遊美、千夜をよろしくね」
「千夜、もしいじめてくる奴がいたら、言ってほしい。私がガツンと言ってやるから」
苺先輩、お姉ちゃん、薬深ちゃんの3人は、それぞれ手を振りながらそう言い、別れを告げる。
「よーし、行こっか遊美。まーた紫暮先輩に見つかってスカート丈の注意されたら面倒くさいし」
「千夜って真面目なのか不真面目なのか分かんないよね。いや、基本は真面目なんだけど」
「私は至って真面目だよ。でも、真面目ちゃんもたまには息抜きが必要なのです」
「……あーちゃんみたいに悪の組織を立ち上げるとか言い出さないでよ? 息抜きはほどほどでお願いしたいから」
「大丈夫だよ。というかどの道、愛結ちゃんを光堕ちさせるって決めた以上は、私がそうなるわけにはいかないからね」
私は遊美となんて事のない会話を交えながら、教室へと向かっていく。
幸いにも、私と遊美は同じクラスにしてもらうことができたので、学校に通いだして孤立する、なんて状況になることはなかった。むしろ、遊美の顔が広かったのも相まって、私は学校でたくさんの友人に囲まれて、毎日楽しく過ごすことができている。
逆に、放課後に遊びに誘ってくれる子が多くて、困っちゃってるんだよね。
遊びに誘ってくれるのはありがたいんだけど、魔法少女として活動する以上、放課後の時間や休日は普通の子より自由にはいかないし、なにより……。
「そういえば、今日あーちゃん、千夜のところ寄るって言ってたよ。キュヴァちゃんとゲームの約束してるんだってさ」
「そうなんだ。じゃあ、今日は早めに帰らないとね」
悪の組織で活動することになった愛結ちゃんと会える時間は、できるだけ確保したいという気持ちと、ヒンナさんのところで過ごしているキュヴァちゃんとの時間も大切にしたいなって思ってたからね。他の友達には申し訳ないんだけどさ。
「ん、そうだ。遊美も来る? 丁度4人でできるゲームをキュヴァちゃんが買ってきててさ。最近ラフ君は昼夜逆転してるし、ヒンナさんは仕事に没頭してるから、遊美が来てくれると丁度いいなって思ってたんだけど」
ラフ君は、ぼくはエリートだからーが口癖の割にはポテチとコーラを両脇に添えながら自堕落な生活を送っている。本当に大丈夫なの? と思うけど、ぼくはエリート妖精だから大丈夫なんだ!って言って聞かないので本当に困る。いつか更生させてあげないとなぁ。
反対に、ヒンナさんはもう自殺をしよう、なんて考えていないみたいだった。キュヴァちゃんが言うには、ルーシアって女性のおかげらしいんだけど。
誰なんだろう。もしかして、ヒンナさんの親しい人とかなのかな? ヒンナさんの親友って夕音叔母さんのイメージがあったんだけど、他にもいたんだろうか。
まあ、多分それだけじゃなくて、愛結ちゃんの死んだふりがかなり堪えたみたいだったけどね。
愛結ちゃんが死んだふりをしたことがトラウマになったのか、あれ以降ヒンナさんが私やキュヴァちゃんに対してめちゃくちゃ過保護になっちゃったんだよね。門限にめちゃくちゃ厳しいし、友達と遊びに行くって言ったら、その友達の情報を余すところなく調べようとするくらいには。
まあ、それもあって私はキュヴァちゃんや愛結ちゃん、妖愛ちゃんや遊美以外の友達と遊ぶって機会を作らないようにしてるっていうのもあるんだよね。
「私は夜風と予定があるからパスかな。『ユートピア』の件でね」
「そっか。まあ、なら仕方ないね。うーん、妖愛ちゃん誘うかぁ」
遊美以外にも友人はいる。が、私が学校内で一番仲が良いのは、やっぱり遊美だ。だから学校生活の大半は、遊美と過ごしていることが多い。
それを示すかのように、私の今日の学校生活も、遊美と会話をしたり、一緒に行動しているうちに一瞬で過ぎ去ってしまったのだから。
「千夜ちゃんばいばーい」
「ちよっぺさよならー」
「ゆみ、ちよ。おつかれさま。またあしたねー」
クラスメイト達は各々、私達に別れの挨拶を送り、私達もそれに返しながら、教室から出る。
苺先輩たちにヒンナさんの居所がバレてしまってはまずいので、いつもはこのまま遊美と二人で下校するのだが、今回は違った。
「千夜、ちょっといい?」
お姉ちゃんが、私の教室の前で待っていたのだ。
私は少し驚きつつも、お姉ちゃんの言葉に返事をする。
「お姉ちゃん? どうしたの?」
「話があるの。今日、私の家に来てくれる?」
「えーと。友達と遊ぶ約束してるから、どういう用事かにもよるかなーって」
「大事な話よ。友達には申し訳ないけれど、お願い。遊美にはあらかじめ説明してあるから」
んー。そっか。まあ、キュヴァちゃんにはいつでも会えるし、愛結ちゃんも割と頻繁に顔を出しに来てくれるからね。それに、遊美にも話を通してあるなら、よっぽど大事な話なんだろうなって思うし。だから、愛結ちゃんとキュヴァちゃんに断りの連絡だけ入れて、っと。よし。
「わかった! 友達には連絡入れとくね」
「私達はお邪魔になるだろうから、先に帰ってるね」
「千夜、遊美、聖歌。また明日」
苺先輩と薬深ちゃんは、そう言って私達に別れをつげる。
私達もまた、彼女らに同じように別れを告げ、お姉ちゃんと共に、私のかつての自宅。お母さんや、キュートがいるであろう家へと向かうことになった。
「私はお邪魔虫だろうから。ここからは家族水入らずで、ね」
遊美は気を使ったのか、お姉ちゃんの家に着いた途端、私に一言告げて、一歩引いていた。
「ありがとう遊美」
「気にしないでください先輩。私も、千夜がようやくこの家に帰れると思うと、嬉しくて仕方がないので」
やっぱり。
大事な話というのは、私が自宅に帰れるようになった、ということだったのだろう。
つまり、お母さんの記憶について、ひと段落ついたということだ。
まあ、そもそもキュートがお母さんの記憶を忘却させた理由が、私の失踪によってお母さんの精神が壊れてしまいそうだったから、っていうのがあるから、そう簡単には解決しないんだろうけどさ。
……本当に、私の失踪によって、いろんな人の人生に影響を与えてしまったんだなと。
お母さんも、お姉ちゃんも、遊美も。
私のせいで、色々と迷惑をかけてしまった。本当に、私がやってしまったことは罪深い。
これからは、周りを大切に。……自分のことを大切に、生きていこうかなって思う。
自分がいかに愛されているのか、その自覚が、私には足りていなかったと思うし。自分の身を犠牲にして、周りを構成させる。かつての私は、それが素晴らしいことだと考えていたけど、結局、私を大切に想う人がいる以上、それは自己満足でしかないと気付いたから。
「千夜、行きましょう」
「うん」
私は、自宅の扉を開ける。
そこには……。
「おかえり、千夜」
『おかえりっきゅ。千夜』
穏やかな表情で、私を迎えてくれる家族たちがいた。
お母さんに、妖精のキュート。
「お母さんに、キュート。久しぶり」
そして、
お姉ちゃん。
お姉ちゃんは、私のことを、そっと抱きしめる。
「千夜、おかえりなさい」
「うん。ただいま。皆」
ただいま。お姉ちゃん。
私は、家族の温かい体に包まれながら。
ただ温かい光に、身をゆだねていく。
そこに、暗い闇なんてものはない。
私の身は、本当の意味で光に堕ちたのだろう。
「お姉ちゃん」
「何?」
「これから、たくさん思い出を作ろうね。私がいなくなった3年分の……いや、それ以上の!」
「そう、ね。失った時間は取り戻せないけれど。きっと、今の私達なら、それ以上の平和な日常を送れると思うわ」
もう、私が悪役の魔法少女になることはない。
私の光堕ちは、ここで終了だ。
失った3年間は、取り戻せないけど。
でも、最初は不可抗力とはいえ、私が選んだ選択なのだ。
だから、失った期間を嘆くことはない。
だって、これからもっと楽しい思い出を、作っていくのだから。
だから、私はこの暖かい光家で過ごしていく。
もう2度と、闇に包まれない、この光の中で。
光千夜の物語は、ここで終了となります。ここまで読んで来てくださった方、ありがとうございました。ここまで執筆を続けられたのは、間違いなく応援してくださった皆様のおかげです。お世辞とかではなく本当に、感想とかがそのまま原動力になってました。本当にありがとうございます。
色々と語りたいこともありますが、後書きで語るのは風情がないので多くは語らないこととします。