【本編完結】TS魔法少女は光堕ちしたい!! 作:布団から出られない
【EX】転生少女は、正義の少女達を曇らせる
私の日常は、順調だ。
朝起きて、キュートの手伝いを受けながら、お母さんが作ったご飯を食べて、お姉ちゃんと一緒に学校へと通う。
道中で薬深ちゃんや苺先輩、そして遊美と合流して、なんて事のない、どうでも良い世間話を交わしながら、ダラダラと歩いて学校に通う。
そんな、平和で、何事も起きなくて、ただ日々を過ごしていく、穏やかな日常を、私は送っていた。
幸いにも、『ワ・ルーイ』の活動は縮小気味らしく、目立った怪人被害は起きていないし、私達魔法少女が出撃しなければいけない事態なんて全く起きていない。
まあ、遠い街ではまだ怪人被害が出ているんだろうけど、その場所には別に魔法少女がいるんだろうし、私達が対処するにはあくまで『ワ・ルーイ』で、他の悪の組織は管轄外だ。そもそも、いるのかどうかも、私達は認識することができていないのだから。
とは言っても、私は『ユートピア』に所属する愛結ちゃんや遊美、それに夜風を光堕ちさせなきゃいけないっていうのはあるんだけどね。
「ところで、千夜。元の家に戻ったって聞いたけど、調子はどうなの?」
「薬深ちゃん。うん、順調だよ。不思議だよね、3年いなかったはずなのに、数日過ごしてたら前みたいにまるで今までずっと過ごしてた、みたいな感覚に陥ったもん。人間の体って案外覚えているものなんだね」
「そう。それならよかった…。けど、そっか、3年……」
薬深ちゃんは私が3年間『ワ・ルーイ』に囚われていたという事実を思い出したからか、悲しそうな表情をする。
まずい、このままじゃ空気が……。えーと、なんとかしないと……。
「えーとね、薬深ちゃん、心配してくれるのは嬉しいんだけど、私思うんだよね。薬深ちゃんも、病院に入院してて、ずっと動けない時期があったって言ってたでしょ? だから、同じだなって思ってて」
「同じ?」
「そう。確かに私は『ワ・ルーイ』に3年間を奪われたことになるんだけど、でも、薬深ちゃんみたいに病気でろくに遊べなかったって子はいるだろうし、世間には虐待を受けてまともに生活できていない子だっている。いじめに遭っている子だっているだろうし、そもそも生まれて来れてない子だっている。そう考えたら、私って恵まれてるなぁって思って。それに、薬深ちゃんがいてくれるから、そんなに疎外感もないしね」
私は努めて明るく振る舞う。本当に気にしていないのだから、そのことで薬深ちゃん達の頭を悩ませるのはごめんだ。だから、全力で私は気にしてないですよーアピールをしておく。
そんな私の気持ちが伝わったのか、薬深ちゃんはふっと微笑んで。
「千夜は、強いね。私は、そんな風には考えられなかった。ただ、復讐だけを考えて………。私より、ずっと大人だよ」
「そうかな? まあ、私の近くには完璧超人なお姉ちゃんがいたからね! ハイスペお姉ちゃんを見習ってきた私の心には0.2お姉ちゃん成分が入ってるから、それでちょっと大人に見えるのかも?」
「私の成分って、何よそれ……」
お姉ちゃんが呆れたような声を出しているが、他の皆は私の戯言だと聞き流したのか、特にお姉ちゃん成分について触れることはなかった。くそぅ、お姉ちゃん成分は存在するのに…。
「にしても、ここ最近、『ワ・ルーイ』の動きは本当に少なくなったよね〜。やっぱり千夜ちゃんがオクトロアを倒してくれたおかげかな?」
「まあ、『ワ・ルーイ』はオクトロア様が回してたからねー。オクトロア様のおかげで回ってた組織が、オクトロア様がいなくなった途端に回らなくなるのは、まあ当然と言えば当然というか……」
「千夜……」
私が苺先輩と話していると、突然お姉ちゃんが私の顔を心配そうに見つめてくる。
なになに? 私の顔に埃でもついてた?それか。
「もしかして、ほっぺにご飯粒ついてる?」
「いえ、そういうわけじゃないのだけど…。千夜、もう一度さっきの話、お願いしても良いかしら?」
?
「えーと、オクトロア様が…」
「やっぱり……」
「???」
「千夜、自覚はないの? 貴方は、自分のことを洗脳して、モルモットとして使い潰そうとした幹部のことを、未だに様付けで呼んでしまっている。本来なら、憎んで、恨むべき相手のことを、貴方は、嬉々として語ってしまっている…きっと……」
「っ……。まだ完全には、組織の洗脳が抜け切ってない……!」
え、あ、いや。
普通に癖が抜けてないだけなんですけど………。
んー、でも私が何言っても通じないよね、これ。まあ仕方ないかぁ。洗脳されてるフリして悪役魔法少女を演じてたんだから、まあ、こればっかりは自業自得と言わざるを得ないね…。
遊美はなんとなく事情を察しているのか、冷めた目でお姉ちゃんを見つめている。遊美さーん? お姉ちゃんのことそんな目で見ないでねー? 事情知らないから仕方ないんだよー?
「そんな……それじゃあ………」
「………まだ洗脳の効果が多少なりとも残っているのなら、次に組織に襲われた時、より警戒しておかないといけない。……洗脳の残り香を利用されて、また『ワ・ルーイ』にでも利用されたら……」
苺先輩と薬深ちゃんも、私のことを心配してくれているらしい。うーん、杞憂なんだけどなぁ………。
「………大丈夫よ。私はもう、千夜の手を2度と放さないと決めたから。もう2度と、千夜をあんな目には遭わせないわ。もしまた千夜を利用するつもりなら、地獄の底まで追いかけて……」
「私も、千夜のことは全力で守る。2度と組織の使い捨てのコマになんてさせてやらない………。あいつらに地獄を見せて、千夜を狙ったことを後悔させる」
お姉ちゃんは大切な妹が組織にさらわれてしまう恐怖からか、そして、薬深ちゃんは組織への深い憎悪からか。
とてつもなく恐ろしい表情をしながら、物騒なことを口にする。
……えーと、正義感が強いのはわかるし、私のためを思ってくれてるのはわかるんだけど……苺先輩も若干引いてますよー? もしもーし?
……遊美は知らんぷりしてるし……。あーもう、ちょっとフォローくらい入れてよばかぁ……。
「……まあ、千夜ちゃんのことは私達で全力で守ろうね! ……あっ! そうそう、そういえば、今日の授業のテストについてなんだけど……」
しかし、流石は苺先輩といったところか。
空気が変な感じになりそうなのを察知してか、私についての話題を早々に切り上げて、今日の学校についての話を持ち込んできた。
日常の話になり、私はホッと一息つく。
苺先輩は、私に向けてウインクしてきていた。
………ああ、私が困ってそうだと思って、話題の転換を図ってくれたのか。
え、何この先輩。イケメン、惚れそう。
いや、惚れないけど。
「そういえば、千夜は勉強ついていけてるの?」
今まで面倒だと思っていたからか、会話に入ってこなかった遊美が私に話しかけてきた。
確かに、私には3年のブランクがある。が……。
「お姉ちゃんが教えてくれてるからね。まあ、なんだかんだでついていけてるよ」
それと、前世の記憶バフが多少かかっているのもありがたい。といっても、遠い過去の記憶って感じなので、本当に多少のバフでしかないのだけど。
「そっか。先輩に、ね、………でも先輩も忙しいだろうし、良かったら私が教えようか?」
「んー」
どうしようかなぁ……。
確かに、お姉ちゃんはわかりやすくてありがたいんだけど。
私、キュヴァちゃんにも勉強教えたいんだよね。
だってほら、あの子学校通ってないし。
多分基本の四則演算もできない状態だろうからさ。
だから、お姉ちゃんに教えてもらっている現状は、ヒンナさんの所に行きづらくて、ちょっとキュヴァちゃんとコンタクトを取りづらいといいますか……。
あ、そうだ!
「どうするの? 千夜。私は別にどっちでも良いけど」
「……お願いしても良い? というか、もしあれだったらキュヴァちゃんに勉強教えてあげてほしいなって思うんだけど」
「………千夜、あの………」
名案だ!
かつては遊美より私の方が頭が良かった。けど、3年のブランクを経て、遊美は私よりも上のランクへと駆け上がっている。
ならば!
お姉ちゃんの勉強は、私が受けて、キュヴァちゃんの勉強を遊美が見る。
この布陣が、ベストなんじゃないだろうか?
うんうん! 私って冴えてるね!
3年のブランクを経ているとはいえ、やっぱり私の頭脳は……。
「………っ………」
気づけば、その場は凍りついていて……。
苺先輩は、とても辛そうな表情を見せていて、お姉ちゃんは、驚いた目で私のことを見つめている。薬深ちゃんもまた、絶望したかのような表情を私に向けてきていた。
…………あれ? 私また何かやっちゃいました……?
「……千夜ちゃん……キュヴァちゃんは……もう………」
「…………千夜………明るく振る舞ってはいたけど………やっぱり…………」
「………………『ワ・ルーイ』め………!!」
………えーと……。
私は遊美の方を見る。
遊美は、呆れたような目で私のことを見つめていた。
…………………えー………。
そうだよね……。苺先輩達視点、キュヴァちゃんって死んでるわけで、そんな死んでる子に対して、勉強を教えてあげてほしいってお願いするのって、側から見たらそれは……。
「………ごめんね、千夜ちゃん。そうだね、キュヴァちゃんにも、勉強、教えてあげないとね。きっと、学校にも行ってないだろうから………」
苺先輩の声は、辛そうに震えていた。
「………まあ、あれね。私も、機会があれば、キュヴァ……に勉強を教えるわ。………ええ………」
お姉ちゃんの声は、困惑の色を隠せていなかった。
「…………大丈夫、だから………」
薬深ちゃんは、私の背中を優しくさすってくれていた。
………あの………なんですかこの地獄みたいな空気……。
どうしてこんなことになってるんですか?
いや、まあ私が光堕ちのためにダラダラと悪役やってたせいなんだけどさぁ!!
でも、どうしよ本当これ。
私は暖かい光に包まれて平和な日常を過ごしたかっただけなのに……。
「……どんまい、千夜」
そう言葉を告げる遊美は、面白そうな目で私のことを見ていた。
………あー、そっか。昔の私だったらこんなポカする機会なかったし、それで物珍しくて面白いと思ってるんだ……!
く……。こういう時に助けてくれないなんて、親友の癖になんて薄情なやつなんだ……!
「………えーと、キュヴァちゃんは学校に通ってるんだっけ…?」
誰か。
「ははは……えーと……」
「………入学前、だったかしら? それで、事前に千夜が勉強を教えようとしていた………で合ってるかしら」
誰か……。
「………大丈夫、キュヴァは存在してたから。ちゃんと、確かに……」
誰でも良いから、助けてくれませんか?
地獄みたいな空気で、やばいです。
…………自業自得……?
そっかぁ………。
はぁ………。
愛結ちゃん。
愛結ちゃんが用意してくれた光堕ちのレール。
…………結構整備不良だったよ。