いよいよミステリアスムーブ開始!
と行きたいところだが、その前に、なんとなく思い立って試してみようと思ったことがあった。
それが、師匠が言っていた、魔力量を増強させる薬、についてだ。
これを使うと、器がうんたらかんたらでなんだかんだで死んでしまったりするらしいとか言ってたが、俺は思ったのだ。
……分身魔法と併用して使えば、デメリット消えるんじゃね? と。
ということで、俺は広井ちゃんとミステリアスブラックルーイに分身魔法を用いて別れ、実際にお薬を試用してみることにしたのだ。
師匠の隙をついてトイレに行ってる隙にお薬飲んで分身するのは中々スリル満点だった。今頃ミステリアスブラックルーイが師匠と共にミステリアス研修の成果を魔法少女達に披露している頃合いだろう。
そして、気になる結果についてだが。
多分、成功、かな?
生命力が削られる感覚的なものはしない。ただ、3人以上に分身しようとしたけどやっぱやばそうでした。2倍したからいけるもんかとも思ったが、そんな単純なもんでもないのかね。
とにかく、これで分身危険なんじゃね問題と、お薬使いすぎると器やばいね問題は解決できそうだ。
いやーよかったよかった。これで心置きなく『あの悪役娘も実は可愛いところあるんだぜ』作戦を実行できるようになったな。
何気にこうやってプライベートを充実させる時間、分身でもしないと中々取れないから、光堕ちとか関係なく普通に嬉しい。
お外の空気おいちい。
普段はキューティバースちゃんに睨まれながら吸う空気だけど、今日に限ってはそんなことはない。
たくさんの人が往来し、笑い合う中での空気だ。変な緊張感もないし、まさに平和な日常の1コマって感じで。ん〜〜〜〜!
おいちい。
「……広井さん?」
お外の空気を堪能し、さてプライベートを充実させるぞー! と意気込んでいたところ。
まさかまさか、あの日連絡先を交換できず、疎遠になってしまった山吹さんが俺に声をかけてきてくれているではないか!!
わ、わあ! 山吹さん、会いたかったよー!
「山吹さん、こんにちは。また会えるなんて…」
「うん。私も……また会えると思ってなかったから、ちょっとびっくり。ごめんね、あの時は、ちょっとバタバタしてて」
「そうなんだ。あ、そうだ。あの……山吹さんが嫌じゃなかったらでいいんだけど……」
これはチャンスだ。ここで山吹さんと仲良くなるためには、彼女の連絡先を獲得し、今後も遊ぶ約束を取り付けるしかない!
メル友でもいい。とにかく、俺は山吹さんとの繋がりが欲しい。
光堕ちとか関係なく、友達が欲しい!
「? どうしたの?」
「連絡先、交換しない?」
緊張する……。今世、千夜ちゃんとして過ごしてきた時の俺って、結構陽キャだったんすよね。前世じゃそんなことなかったんだけど、知識だけ前借りしてるような状態だったもんで、頭良いって持て囃されて、自信がついたからだろうか?
ともかく、陽キャだった影響か、俺から連絡先を聞かずとも、勝手に連絡先ちょーだーいって寄ってくれる子が多かったから、あんまし連絡先を聞くって経験がないんだよね。そのせいで、山吹さんに連絡先を聞くだけで、死ぬほど緊張してしまう。
いわゆる陰キャな子に話しかけたりはしてたけどさ、当時は陽キャ陰キャ気にしてなかったし、多分基本皆話してくれるもんだと信じて疑わなかったからなぁ……。たまに本気で話すの苦手な子が返事してくれないくらいで、逆に他は皆話に乗ってくれたり、普通に会話を交わしてくれたりしたもんで、自信満々千夜ちゃんだったんだよね。
とまあ、こんな感じだったから、前世の記憶が蘇った今とは状況が違うんすよね。
っと、過去の話はこのくらいにして。
さて、気になる山吹さんの返事は。
「いいよ。ここで会えたのも何かの縁だしね」
やっったあああああああああ!!
お友達げえええええええっと!!
もうやりきったわ。これでミステリアスブラックルーイがミステリアスムーブミスってても今日は満足だわ。
拉致されてから初めてのお友達…!
そ、そうだ、友達になるなら、山吹さんなんてよそよそしい名前で呼びたくはないよね!
「そういえば山吹さん、下の名前はなんていうの? せっかくだから…名前で呼びたいなと思って」
「名前……? あ、そっか。言ってなかったっけ…。私の名前は遊美。山吹遊美だよ」
ゆみ、ゆみちゃんかぁ……。
そういえば、俺が千夜ちゃんとして過ごしていた頃に1番仲が良かった子の名前も遊美だったんだよね。名前で相性とかあったりするのかな?
ちよとゆみは相性が良い、とか。
い、いやまあ、ゆみちゃんからすれば俺なんて全然仲良くないだろうけど…。
「広井さんは?」
「へ?」
「広井さんのお名前、まだ聞いたことなかったなって」
……そっか。俺も名前言ってなかったんだった。
んーそうだな。千夜は駄目。んで前なんて名前考えてたっけなー……。
なんか魚みたいな名前が候補に上がってた気がする。
魚、なんだっけ。
愛がどうたらとか言ってて………あーそうだ、思い出した。
「あゆだよ。広井あゆ。愛に結ぶで、あゆ」
「あゆちゃん、かぁ……。可愛い名前だね」
「えへへ、まあね。ゆみちゃんも可愛い名前で素敵だよ。あっ、そうだ! ゆーちゃんって呼んでも良い?」
「えっ?」
……あ、やばい、ついテンションが上がって、いきなりあだ名なんてつけようと……。なんと烏滸がましい真似を……。ゆみちゃんからしたら、俺なんてただの知り合いCちゃんくらいの感覚だろうに…。
「あ、え、えっと、ご、ごめんね! いきなりあだ名なんて、困るよね…!」
「ううん! 全然大丈夫だよ! むしろ、仲良くしようとしてくれてるんだって思って、嬉しかったから」
ああああああ!!!
ゆーちゃん天使か!? ニコニコ笑顔で俺のクソキモ距離感バグを許容してくれるなんて…!
絶対友達多いよ。絶対。
友達tierがあったら俺はF tierとかだよ。なんならZだよZ。
でもいいんだ。これから仲良くしてもらうもん。
1番になれなくても、そこそこ仲良いC tierくらいの友達になれたら万々歳なんだもん。
「それじゃあ、私もあゆちゃんのこと、あだ名で呼んじゃおうかな」
「い、いいよ、どんとこい!」
「どんとこいって……あはは、面白いね、あゆちゃん。んーそうだなー……。あーちゃんとかかな?」
あーちゃん、ね〜。俺がゆみちゃんをゆーちゃん呼びして、ゆみちゃんが俺をあーちゃん呼びする。
なんだかこれ、仲良しみたいじゃない?
え、本当にいいんですか? もうこんなん友達tierSくらいの距離感ですやん!
いいんだな? いいんだよな? やるぞ俺は? ゆーちゃんと最高の友達ライフ送るぞ?
「いいね、あーちゃん。気に入った! じゃあ、私があーちゃん、ゆみちゃんがゆーちゃんで!」
「呼び方がなんだか、姉妹みたいだね」
「姉妹、姉妹かぁ……じゃあ、ゆーちゃんが妹かなぁ……」
「え、何で? 私ってそんなに幼く見える?」
「だってゆーちゃん可愛いし。姉か妹かって言われたら、妹かなぁって」
俺って飢えてたんだな……。
そりゃそうだわ。千夜ちゃん時代あんだけ友達に囲まれてたのに、拉致されたら友達0だもんな。
3年間はずっとアジトにいたし、最近だって会話をしたの魔法少女とか組織の幹部とかだし。
「それで……あーちゃん、せっかく、久しぶりに会えたところで悪いんだけど……」
「? 何、どうしたの?」
「私、これから用事があるんだ。だから、今日はあんまりあーちゃんと話せなくて…」
……まあ、約束してたわけでもないしな。
ゆーちゃんにはゆーちゃんの予定があるだろうし、それを分身して暇人してる俺が邪魔するわけにもいかない。
「そっか。それじゃ、ゆーちゃんがよかったら、また遊びに誘ってよ。私もこの辺に住んでるから、声かけてくれればいつでも会いに行けるし」
「うん。分かった。ごめんね」
「謝らなくて良いよ。嬉しかったし、あだ名を受け入れてくれたの」
「そっか。それじゃあ、また今度!」
「うん! それじゃあね〜!」
……大丈夫かな?
俺、キモくなかったかな…?
いきなりゆーちゃん呼びはやばいよな……。
うわああああどうしよ……。内心あいつきっも………とか思われてたらどうしよう……!
だって仕方ないじゃん! 久しぶりに友達になれそうで……しかもそれがこの前会話した子だったからさぁ!!!
分かってるんだよ距離近いって、でも抑えらんないの! もー!
はー。今頃分身のブラックルーイは悠々とミステリアスムーブでもしてんだろうな……。
……うわあ……脳内反省会始まりそう……。くっそーこういう時、かつての陽キャの千夜ちゃんな振る舞いができたらなー……。
まあいいや。
ミステリアスムーブ決めて清々しい顔してる俺の分身に、俺のクソ雑魚コミュニケーションの記憶をぶち込んで恥ずかしい思いさせてやる。
覚悟しておけもう1人の俺!
本当に陽キャだったんか…?