怪人を街に解き放ち、それに対処するキューティバース達の姿を見る。
人数は3。キューティバース、シャイニングシンガー、そして純白ちゃんだ。
黄色の子……確かムーンなんとかちゃんは基本別行動なんだろうか? 今まで後から合流パターンしか見たことない気がする。
さて、どう登場しようか。
ミステリアスムーブをする上で、登場シーンというのは重要なものである。
余裕を醸し出しながら悠々と参戦するためには、まずはバレないこと。
この場にやってきているとバレずに、いつの間にか来ていた! を演出するのが大事だ。
来た時間を悟らせず、どこからやってきたのかも不明。まさに“未知”。ミステリアスを演出する。
どのタイミングで姿を出せば良いんだろうか…。
「師匠、どうしましょう?」
「ん? 怪人倒された後に出れば良いんじゃない?」
師匠はそう言う。良いのかな? この前は……。
【怪人や妖魔も、我々に取っては立派な戦力です。貴方が我々にとって比較的重要な戦力であることは事実ですが、だからと言って怪人や妖魔を無闇矢鱈に使い潰す行為は、いただけないですね。もう少し慎重に、怪人や妖魔を利用していただきたい】
幹部様にこう言われてたんだけど……。怪人使い潰しちゃって良いのか?
怒られたばっかだし、早速幹部様のアドバイスに背くのは嫌なんだけど……。
……んーまあ、師匠も幹部だし、幹部の命令なら、大丈夫だろう。
「あ、言ってるうちに怪人が……師匠」
「そうね。今だわ。怪人が倒された今この瞬間、怪人と入れ替わるようにして私達が参上するのよ!」
俺は師匠と共に、颯爽とキューティバース達の前に姿を現す。
キューティバースは俺を睨みつけるように見据え、シャイニングシンガーは動揺。純白ちゃんは相変わらず俺に対して殺意を向けてきていた。
「ブラックルーイ……」
「キューティ、前に言ったとおり、私が…」
「私は貴方達の意思を尊重する」
キューティバースとシャイニングシンガーが言葉を交わし、純白ちゃんはそれを見守っている。純白ちゃんは結構殺意マシマシでいきなり攻撃仕掛けてくるタイプだと思ってたけど、割と理性的な面もあるっぽいな。
ちゃんとキューティバースとシャイニングシンガーの意見を聞いてから行動しようとしているように見えるし。
「ふふ…」
「ブラックルーイ、貴方は私が…!」
シャイニングシンガーは、俺に向かって真っ直ぐ直進してくる。
うーん、まだ覚醒イベントがあったってわけじゃなさそうだけど、少しは前向きになれたのかね? どちらにせよ、今日のシャイニングシンガーの相手は俺ではなく。
「貴方の相手は私よ、シャイニングシンガー」
師匠がするんだよね。
これはあらかじめ俺と師匠で相談して決めていたことでもある。そして、今日の俺の相手は……。
「先日はどうも。宣言通り、リベンジマッチをしに来たわ。貴方に」
純白ちゃんだ。
俺は前回、純白ちゃんに大敗している。つまり、俺は純白ちゃんに格付けチェックをされてしまっている状態なのだ。
純白魔法少女>魔法少女ブラックルーイという図式が出来上がってしまっている。まずはそれを払拭しなければならない。
「できれば意思を尊重してあげたいところだったけど、状況が状況だし、仕方ない。ブラックルーイ、お前はここで私が果てさせる。クール」
『要望は何クル?』
「『浮遊の魔』。『ブラックハンド』は使わせない」
『了解クル』
純白ちゃんはマスコット君、クールに要望して、『浮遊の魔』をつけてもらったようだ。
空中戦を所望するということかな?
前回と同じ状況に持ち込んでくれるのは、正直ありがたい。同じ状況下で、前とは違うんだってことを明確に示すことができれば、格付けもひっくり返しやすい。
「キュート! 私にも!」
『分かったっきゅ!』
純白魔法少女に続くように、キューティバースも空中へと参戦しようとする。
…流石に2対1に持ち込まれるのはしんどい。ので。
「『ブラックハンド』」
キューティバースちゃんには地上で拘束されておいてもらおう。
俺と純白ちゃんのタイマンは、誰にも邪魔させはしない!
「ちっ……使われたか……」
「言ったでしょう? リベンジマッチって。私は貴方と1対1で正々堂々と戦いたいのよ」
「……正々堂々……前回あんなことをしておいて、よくそんな事が言える。それに、口調も変えてきて………気持ちが悪い」
純白ちゃんは心底俺のことを嫌悪しているかのような表情を俺に見せてくれる。
うん、当たり前だけど、しっかり俺は敵として認定されているみたいだね。
さて、純白ちゃんが空中戦を仕掛けようというのなら、俺もそれに乗ろう。相手のフィールドに引き込まれてなお余裕を崩さないというのは、ミステリアスムーブに繋がるだろうからね。
ということで、俺は『浮遊の魔』なるものを使い(呼び方は魔法少女達がそう言ってたから俺もそう呼ぶことにした)、純白ちゃん同様に空中へと躍り出る。
「構わないでしょ? 貴方は前回私を打ち破った。なら、今回も同じようにすれば良いだけでしょう。それとも………私に怯えているのかしら?」
俺は挑発的な笑みを浮かべて、純白ちゃんを煽る。
彼女は理性的な面もあるのかもしれないが、キューティバースちゃん達と比べれば感情的な部分が強い傾向にあるように思える。
だから、煽れば乗ってくれるはず……。
「好きに言わせておけば…!!」
案の定、彼女は俺の挑発に乗って、こちらに向かって全力で空中を駆け出していた。
シャイニングシンガーは師匠が相手をし、キューティバースは拘束済み。
俺は純白ちゃんに集中して、彼女を打倒すれば良い。
実に簡単な仕事だ。相手の手札はある程度見た。勿論、同じくらいこちらも手札を晒してはいるんだが。
が、今の俺はミステリアス研修を終え、師匠の補助を受けている状態なのだ。
前の俺とは違うということを、とくと味合わせてやる。
「皆!!」
と、そんな風に心の中で意気込んでいたのは良いものの、そういえば魔法少女はもう1人いたのだということを失念していた。
……魔法少女、ムーン……なんとか。
いつも遅れる形で戦場へとやってくる彼女は、今回もまた今までと同様に他の魔法少女よりも後から現場に合流しに来ていた。
2対1は困る。
ということで、俺は妖魔達を取り出し、適当にムーンちゃんにぶつけておく。
……妖魔を無闇矢鱈に使うなと言う幹部君の顔が思い浮かぶが、まあ最悪師匠に許可を貰ったとでも言えば良い。実際、師匠はミステリアスムーブをする上で必要ならOKって言ってくれるだろうし。
「悪手だな! 自ら生命線を断つとは! 『クールポイズン』」
『クールポイズン』。
前回はこれによって体の神経を麻痺させられ、空中から落っこちるという痴態を晒すことになった。
だが、今回は違う。魔法肢体補助装甲。師匠から貰ったこれがあれば、俺には……。
「……? 何故…?」
「『クールポイズン』。体の神経を麻痺させ、魔法の行使も封じる魔法。確かに、強力な魔法ね。けど……残念ながら、私には効かないの」
「前は効いたはず…! 一体何がどうなって……。クール!」
『クーも分からないクル……。ブラックルーイは、前回と何も変わらないように見えるクル』
魔法肢体補助装甲は、他の者には見えなくなるというステルス機能を持つ、高性能な装甲だ。だから、純白ちゃんから見た俺は、以前の俺と全く変わりない状況にうつっているはず。じゃあ、何故効かないのか? 何が前と違うのか。当然、そのような疑問は浮かび上がってくるはずだろう。
「ええ、そうよ。実際に私は、前回とは何も変わっていないもの」
「……口調が変わってる。絡繰はそれ? けど……口調を変えて何が変わると……」
そういやミステリアスムーブする上で口調は変えてたんだっけか。
まあ、そんな些細な違いはどうでも良いのである。
「口調を変えた、というよりかは、演技をやめた、が正しいわ。そうね……あえて言うなら、前回の戦いは、勝つ必要がなかったものだから」
ぜーんぶ後付け。というか、ミステリアスムーブをする上で都合の悪い事実をねじ伏せるための理論だ。通用するかどうかは知らない。けど、俺は知ってる。
ミステリアスとは、心で行うものだ。
俺は師匠に様々なことを教わった。俺のミステリアスムーブは、ここから始まるんだ。
『ブラックハンド』によって拘束されてしまっていた私は、白沢さん……魔法少女ホワイトポイズナーと、ブラックルーイの戦いを、ただ見守る事しかできなかった。
「勝つ必要がなかった? 一体、どういう……」
「そうよ。だってあの時、既に目標は達成していたもの」
ブラックルーイの纏う雰囲気が、以前のものとは異なっている。
ホワイトポイズナーの猛攻に、焦りながら対処していたブラックルーイとは、全く違う。
あの時のような焦りはなく、代わりに彼女からは、余裕が溢れ出ているのを私は感じ取った。
「目標は達成していた…? 街の破壊は十分できたと?」
「勿論、それも重要な務め。だけれど、あの時の私達の目的は、それじゃない。私達の目的は………潜伏している魔法少女を、炙り出す事」
……潜伏している魔法少女を炙り出す?
確かに、白沢さんはこの前まで、魔法少女に変身することはなかった。
潜伏していた、と言えるだろう。けど、ブラックルーイはそれが分かっていたと、そう言うのだろうか?
「どういう事?」
「身に覚えはない? 触手を持つ男に、追いかけ回された覚えは。ふふ……どうして貴方が彼に狙われていたのか、それは、貴方に魔法少女の素質があったから。貴方はもう既に、組織にマークされていたのよ」
………なら、人質に取ったあの時点で、ブラックルーイは彼女が魔法少女であることを把握していた、ということだろうか。
いや、だとしても、分かっていたのなら尚更、何故わざわざ人質に取るという行為を行って、彼女を刺激してしまったんだろう。
……分からない。
「……なら、私の正体は既に知っていたはず。どうしてわざわざ人質になんて……」
「魔法少女には、認識阻害の魔法が掛けられているそうじゃない? だとすれば、たとえ貴方に魔法少女の才能があるということは分かっても、貴方が何の魔法少女であるのか、どんな妖精と契約しているのか、その全ては分からない。ここまで言えば、分かるわよね?」
……そうか。
つまり、組織は白沢さんがどんな魔法少女に変身して、どんな魔法を使って、そして、どんな妖精と契約しているのか、それが知りたかったんだ。
目の前で変身する姿を目撃すれば、いくら『夢幻の魔』があるとは言え、魔法少女や組織の幹部なら変身前と変身後の姿が結びつくようになってしまう。
「……私を人質に取ったのは、わざとだと? ふざけるな…! 言い訳はよせ、あの時お前は、確かにキューティバースに追い詰められて…」
「本当にそうだと思う? 事実、貴方の『クールポイズン』は私には通用しなかった。私が敗北したのは、演技だったと、そうは思わない?」
「………わざと、やられていた……? ま、さか……私の魔法が通用しなければ、臆病な私は、手札を見せず、すぐに逃げに徹する………。私がどんな魔法を使うのか探るために、わざと弱いふりを……?」
「?……ああ、ええそうよ。まんまと引っかかってくれて助かったわ」
「ふ……ざけるな!!!!!」
ホワイトポイズナーは激昂し、ブラックルーイに向かう。
私も、不自然だとは思っていた。
ブラックルーイの最後の捨て台詞。
あれは演技染みていて、心の奥底で思っていたから漏れ出た本音、というわけでもなさそうだった。
わざと悪辣に、私達とは対立する存在かと示したいがだけの、安っぽい捨て台詞にしか見えなかった。
……私達はずっと、ブラックルーイの掌の上で踊らされていただけだったのだ。
考えてみれば、ブラックルーイはその正体、素性が明らかにならなかった。契約している妖精も不明だ。存在が不可解だと、私はそう思っていたじゃないか。
……やっぱり、ブラックルーイは侮れない。
相容れないのは確かだ。けど、逆に言えばそれ以外は何一つ分からない。
……ホワイトポイズナーも、平静さを失い、ブラックルーイに押され気味になっている。
……これも、想定済み……。
ブラックルーイの底は知れない。
私達を欺き、そして翻弄する。
………私は、強くならないといけない。
ブラックルーイという強敵に、打ち勝つために。
彼女の掌の上で、転がされないために。
俺は純白ちゃんを追い詰める。
本人も臆病だと言っていたし、そのことから推測するに、彼女は精神があまり強い方ではないらしい。
俺の手のひらの上で転がされていたのかもしれないと、そういう考えが頭に浮かんだ途端、動揺し、以前とは比べ物にならないくらいに弱体化していた。
そして、そんな彼女を打ち負かすことは、俺に取って朝飯前となっていた。
「……あ……どう……して……」
「チェックメイト、ね。これで分かったでしょう? 私に取っては、キューティバースも貴方も、大した脅威ではないのよ」
「あ………ああ……」
「さて、敗北した魔法少女がどうなるか。分からないわけではないわよね?」
俺は純白ちゃんの耳元に口を近づけ、囁くように耳に吹きかける。
「やだ………やだ………」
「負けてしまったもの。当然の結果よね」
「……助け……クール! クール!」
「クール、ね。その子なら、もう」
俺は手に持っていたマスコットを、彼女の顔前で晒し上げる。
マスコット君は彼女の精神を安定させかねないので、あらかじめ気絶させておいた。
「あ………いや…! いや!!!! いやあああ!!!!!」
彼女の顔が、絶望に染め上げられる。
……これで格付けは完了しただろう。
まあ、純白ちゃんの精神がまともな状態でやり合ってたら、ここまでの状況にはなっていないだろうけどね。
ともかく、これ以上いじめるのは可哀想だし、ここで彼女をコロコロしたり、必要以上に痛めつけるのは、あまりにやり過ぎになる。だから、ここいらで終わりにしときましょうか。
「ふふ。怖がらなくていいわ。もう、貴方に用はないもの。………良い“絶望”をありがとう。魔法少女の“絶望”は、きっと組織に大きく貢献してくれるわ。それじゃあ、ね」
「あ………」
そうして俺は悠然とその場を去っていく。師匠はシャイニングシンガーを軽くいなし、キューティバースもムーンちゃんも動けない。撤退の準備は万全だった。
「また戦える日を楽しみにしてるわ」
そうして俺は師匠と共に、戦場を去るのであった。
「師匠、どうでしたでしょうか、私のミステリアスムーブは」
「ま、50点くらい? ちょっとセリフが多すぎるのよ。相手にもっと話させて、それで簡潔にまとめられた文章を投げかける方が、クールでミステリアスだわ」
「うっ……もっと精進します……」
ただ、俺のミステリアスムーブは、まだまだ改善が必要になりそうだった。
勝手に勘違いしてくれたりしたぞ!
そういえば、嘘を見抜ける魔法少女がいたような……?