さて、ミステリアスムーブをこなし、分身と合流してアジトに戻ってきたのはいいものの、少し困ったことがあった。
それは……。
「ルーイさん。私は休暇と言ったはずなのですが、何故、魔法少女と交戦しているのですか? それも、怪人や妖魔を無駄に使ってまで」
「……幹部様、これには深いワケが……」
「深かろうと浅かろうと関係ありません。貴方が休暇でありながら魔法少女と交戦し、怪人や妖魔という貴重な戦力を使い潰したというのは事実なんですからね」
「はい、その通りです。申し訳ないです」
ごもっともである。基本幹部様の言うことで間違っていることなどない。
けど、今回の場合は師匠に言われたからっていうのもあるからね。幹部様に素直に言えば、ある程度師匠に責任を押し付けることもできるんじゃないかと思うんだ。
確かに、俺は師匠のことはミステリアスムーブの師匠として尊敬こそしているが、俺の面倒を見てくれているのは幹部様だし、そもそも俺に怪人や妖魔を使い潰させるような状況を作り出したのは師匠なので、心は痛まない。
「して、何か弁明は?」
流石は幹部様。一方的に叱りつけるだけではなくて、俺に言い訳の機会も与えてくれる。
これだから幹部様は嫌いになれないんだ。『ワ・ルーイ』に忠誠を誓うことはないけど、幹部君は割と良い面があるので、できる範囲でなら指示には従いたい。
「師匠……ヒンナ様に“ミステリアスムーブを見せにいくぞ”と言われましたので、共に魔法少女達の元へ行き、ミステリアスムーブを見せつけに行っていました。怪人や妖魔も、ヒンナ様が使い潰す許可を下さったので……」
「………まあ、そんなところだろうとは思っていましたが……」
はぁ…と、クソデカ溜息を吐きながら呆れたように幹部様は言う。
師匠はミステリアスへの知見では確かに尊敬できるのだが、多分『ワ・ルーイ』の幹部という立場として見てみると、あまり宜しい振る舞いをされていないと思う。
幹部君も、今まで師匠には頭を悩ませてきたのだろうな。
「……でもでも、幹部様、一応魔法少女から“絶望”を得ることはできたんですよ。一般市民の“絶望”よりも、魔法少女の“絶望”の方が、エネルギー的なアレは良いですよね?」
「エネルギー的なアレって何ですか。まあ、一般人の“絶望”よりもより良いという部分は否定しません」
「ですよね、なら……」
「ですが、私達は計画的に“絶望”や“悲しみ”などの負のエネルギーを収集するようにしています。ルーイさんが戦闘を行うと、確かに魔法少女から負の感情のエネルギーを得やすく、また効率も良いので非常に助かってはいます……」
だからルーイさんにも感謝はしています。と、幹部君は俺へのフォローを入れつつも、どうして怪人や妖魔を使い潰されると困るのか、その説明を続ける。
「……が、それはそれとして怪人や妖魔を使い潰されると、他の怪人で代替したり、破壊計画が狂ったりしてしまうという事態に陥ります。私ができる限りカバーしていますが、それでもなるべく計画は狂わせたくないのですよ」
つまり、俺が好き勝手に怪人や妖魔を使い潰すと、その皺寄せは幹部様に行き着くということになる。
俺が好きなように振る舞えば振る舞うほど、幹部様の業務量は増えてしまうのだ。
流石にそれは申し訳ない。幹部様には世話になっているし、俺の身も守ってくれている。恩を仇で返すような真似を、俺はしたくはない。
「幹部様のお手を煩わしてしまい申し訳ありません。怪人も妖魔も、これからは大切に使うようにします」
「ルーイさんはどこぞの暇人と違って物分かりが良くて助かりますね。今後は気をつけてください。………さて、それでは、次は貴方についてですよ、ヒンナさん」
「ギクっ……」
「休暇中のルーイさんを連れ回し、怪人や妖魔を使い潰させた責任、どう取らせてあげましょうか」
「な、何よ! 仮にも私も組織の幹部! 怪人や妖魔を好きにする自由くらいあるでしょ! 何が問題なのよ!」
「怪人や妖魔の管理権限は私にあります。何ならルーイさんの管理権限も私が持ち合わせているんですよ。ルーイさんは幹部という立場であるヒンナさんに指示されたという事情があるのでまだ分かります。ですが貴方は、幹部という立場にありながら、同僚である私の許可も得ずに、身勝手に、無断で、怪人や妖魔という貴重な戦力を浪費しましたよね?」
師匠、諦めるんだな。こうなった幹部君は止められない。
まあ、仮にも組織の幹部なのだし、そこまで厳しい処分は受けないだろう。しっかりお叱りを受けて、俺と一緒に反省しような。
「だああああ! うるさいうるさいうるさい!! ネチネチネチネチと…! ただ業務に専念するだけ、そんなつまらない生、私は認めない。大体、成果は上げてきたわけでしょ? ちょっと計画からズレたくらいいいじゃない。過程ばっか見て結果が出なかったら意味ないし。楽しんで、それで成果を上げた。何でこれで文句を言う必要があるのかしら?」
師匠……。確かに結果を出すのは大事だけどさ…。
それだけじゃきっと組織って回らないと思うんだよね。
俺も師匠と一緒になってミステリアスのためにって幹部君の許可も得ずに魔法少女達と戦闘したのはあんまり良くなかったよなって思ってる。
俺も責任を感じてるんだ。だから……。
「師匠、今回に関しては、私達に非があります。勿論、ミステリアスが何たるか、それを教えてくださり、実際に実践させていただく機会をいただけたことに、大変感謝はしています。けど、幹部様だって忙しいながらも、組織のためにと色々考えてくださっているんです。幹部様の思いを考えれば、一言でも謝っておいた方が良いかと…」
「それじゃ、何? 貴方は、ミステリアスムーブが出来なくても構わないって言うの?」
俺がしたいのは光堕ちだからなぁ。勿論、ミステリアスムーブも楽しみたいと思うし、やめろと言われたらちょっぴり悲しい気持ちになるけれど…。
「それを行うことが、幹部様にとって迷惑になるのなら、出来なくても構いません」
ま、光堕ちやめろと言われたらちょっとまったー! だけどね。
ミステリアスムーブなら、まあ出来なくてもしゃあないかくらいの気持ちなんだよね。師匠には申し訳ないが。
「正しい判断ですね。貴方もルーイさんを見習ってください」
「……あんた、やったわね?」
「?」
「こっちの話。とにかく、少なくとも私は、ミステリアスムーブが出来ないなんてごめんなのよ。それが出来ないのなら、この組織を裏切って、私1人で行動してやってもいいわ」
それは困る。師匠と一緒にミステリアスムーブしたいしな。というか、変に離脱されて第三勢力とかになられたらややこしいし。
光堕ちはやめてね? 俺の立場がなくなっちゃうからね? まじで。
「師匠、今回の問題点は、許可なく戦闘を行ったことです。ミステリアスムーブ自体は、幹部様も否定していませんし、今回はごめんなさいで、次からは許可を取ってからミステリアスムーブを見せつけに行きましょう」
「ぐぬぬ………」
「………まあ、ルーイさんに免じて、貴方の罪は軽くしておきますよ。今回は」
俺が師匠を宥めている姿を見ていてか、幹部様はやれやれと、そんな雰囲気を醸し出しながら、渋々といった様子で師匠の減刑を宣言した。
………うん? 師匠って刑罰下される予定だったんだっけ?
「ですが、こちらが貴方の行動で迷惑を被ったのも事実……。そこでヒンナさん、貴方には、暫くこのアジトで滞在してもらいます」
「……は?」
「私暫く出張するんですよ。クロマック様も、暫く別のアジトへと移動されますしね。勿論、業務はこちらでも行っておきますが…。こちらにはルーイさんがいます。なので、彼女の面倒と、このアジトの管理を、貴方に任せておきたいと思ったのです」
え、幹部君出張するん? 全然知らんかった。初耳だわ。
クロマック君がアジトからいなくなるのは、まあどうせあの首領何もしてないし気にもならんのやけど、幹部君がいないとなるとどうなるのかちょっと不安だな。基本俺の管理権限持ってお世話してくれてたの幹部君だからね。食事用意してくれてたのも幹部君だし。
ま、代わりに師匠がいてくれるならあんま寂しくもないかな。
「…冗談じゃない。私には私の業務があるの。こちらの業務にまで手を回せないわ」
「いや、部下に任せてアニメや漫画を見漁ってるだけでしょう貴方。気付いていないとでも思いましたか? 寧ろ今まで見逃してあげてたのを感謝してほしいくらいです」
「………じ、実はあれは必要な業務なの! 色々な作品に触れることで、より多くの負の感情を集めるための手段を模索するための…!」
目が泳いでる……。仮面つけてても瞳孔は追えるんだよね。
どっからどう見ても嘘っぱちってわかるような嘘のつき方をしてる……。師匠、お得意のミステリアスムーブはどうしたのです……。
「まあ、そういうことにしておきましょうか。ともかく、貴方がこのアジトで業務をこなすのは決定事項なので」
「し、師匠……。仕方ないですよ、こればっかりは。ほら、手伝えそうなら私も手伝いますから……」
「ああそうそう。ルーイさんはまだ休暇中ですので、業務が終われば彼女と一緒にアニメや漫画を楽しむこともできますよ」
「……それをはやく言いなさいよオクトロア!」
「あと、ルーイさんの食事代はヒンナさんに渡しておきますね。私が不在だと、ルーイさんに今まで手配していた食事は手配できなくなるので……」
幹部君の用意してくれるあの肉みたいな食べ物結構美味しくて好きだったんだけどなー。ま、たまには違う食事も悪くないか。というかよく同じ物食べ続けて飽きなかったよな俺。
「ったく、しょうがないわね、ルーイは私がいないと駄目だから、面倒くらい見てあげるわ」
ちょっろ。師匠ちょっろ。これが本当に悪の組織の幹部の姿なんですか……?
「はい! 師匠がいると心強いです!」
まあ、実際師匠と一緒にアニメ見たりするのも楽しいし。
何でもいいや。