「ふわあ〜。寝過ぎたー」
おはようございます。いやー、久々の休暇というのは良いものですね。
今までは実験だの訓練だので、休ませてもらえる暇が全然なかったもんだから、こうやってダラダラできる日々のありがたさを身に沁みて感じてます。
「おはようルーイ。ずいぶん寝てた様ね。幹部の私でも起きてたのに」
そういえば、今日は朝から師匠とアニメを見る約束をしてたんだっけ?
すっかり忘れてた。というか、叩き起こしてくれても良かったのに、師匠、俺が寝てるの見て起こさずにいてくれたんだな…。
「あ、師匠……。すみません、疲れてて……」
「私だって、オクトロアの代わりにやらなきゃいけない業務で忙しくて大変なんだけどね。まあ? 私にかかれば、大したことはないんだけども」
俺は山積みになった資料を見る。
……前と景色が変わらない様な気がするんだけども、師匠ちゃんと働いてる?
触ってすらないような気がするんだけど……。俺とアニメ一緒に見たりとか、そんなことばっかしてない? 大丈夫?
「師匠、私にも手伝える事があったら、言ってくださいね」
「大丈夫大丈夫。ミステリアスをマスターしたこの私なら、この程度の資料30分もあれば整理できるわ」
本当に大丈夫かな……?
というか、30分は流石に見積もり甘過ぎる。いや、まあ言葉のあやというか、それくらい余裕だよって言いたいんだろうけども。
「ま、そんなことはどうでもいいのよ。ルーイ、今日は手伝ってもらう事があるの」
「手伝ってもらう事ですか?」
お、ようやく幹部君に任された仕事をこなす気になったのかな?
大分放置された資料やら何やらが溜まってますけど、今から幹部君が帰ってくるまでに終わらせれますかね?
「そうよ。私は思ったの。……飲食店を経営したいって」
「…………はい?」
「この前食べに行ったお店が美味しくてね。それで、料理の練習をしようと思ったの。けど、食べる人がいないと、料理の評価はしてもらえない。自分でやってもいいけど、やっぱり客観的な評価は大事だと思うのよ」
「そ、そうですか……」
………本気で言ってるのかな。
飲食店って、そんな思い立ったら即行動で簡単にできるようなもんじゃないと思うんだけど。
「そう。そこで、丁度オクトロアから貰ったルーイの食費がある事だし、これを使って、私が料理を作り、ルーイに振る舞う。こうすれば、ルーイの食事と、私の料理修行を同時に行う事ができるの。どうかしら?」
まあ、別にそれをするとなっても、俺は何も困らないから、いいかな。
師匠の料理がゲロまずだった時が怖いけど……。まあ、ミステリアスをあんなにも真剣に研究していた師匠のことだ。料理にも真剣に取り組むだろうし、余計な心配はしなくても良いのかもしれない。
「良い案だと思いますよ。師匠の料理、食べてみたいです」
「よし、そうと決まれば…! といっても、もうルーイの食事代を使って、食材は買ってあるんだけどね〜」
もう使ってたんかい。
まあ、別に良いんだけどさ。
適当に買ってきたものを食べるよりも、師匠の手作り料理の方が、なんとなく嬉しい気持ちで食事ができるような気がするしね。
「さあて、それじゃあ、ヒンナクッキング、はじめるわよ」
「わーい! 師匠、エプロン姿似合ってますよ。かわいいです」
師匠って結構可愛らしい見た目してるんだよね。身長はそこそこあるんだけども、なんかたまに幼さを感じる時があるというか。
まあ、それでもミステリアスムーブをする時は、そんな幼さは一切出さないんだけどさ。
「当然よ。さて、それじゃあ、今回作っていく料理なのだけれど」
師匠は今回料理で使う食材を、キッチンの上に出していく。
「にんじんに、ピーマンに、たまねぎ、赤色の…何これ」
「ええ、そうよ。赤いのはパプリカね。そして、今回作るのは、酢豚、よ!」
「おお! 酢豚! 作れるんですか?」
酢豚かぁ。どんな味だったっけなぁ。
「舐めないでほしいわね。レシピはしっかりと抑えてあるわ。それに、この私にかかれば、酢豚くらい余裕よ」
ほう。師匠の料理スキルがどれほどのものなのか、俺は全く知らないが、師匠の自信を見るに、期待しても良さそうだ。
俺は料理はてんで駄目だったからなぁ……。
あれ、というか、酢豚を作るんなら、豚肉は?
豚肉がないと、酢豚ってはじまらなくないか?
「師匠、豚肉は……?」
「ああ。それなら今下味を付けているところよ。大事だからね、下味」
師匠、既に料理始めてたんですね…。
行動力の塊だ。……いや、そっか。多分、俺が寝ている間に色々やってたんだ。もう昼の時間帯だし、昼食を酢豚にしようとでも考えていたのだろう。
「さて、それじゃあまずは手を洗いましょうか。それから……」
俺と師匠は、手を洗う。
なんで俺も洗っているのか、についてだが、今回は俺はただの味見役だけでなく、師匠の料理手伝いも行うことになっているらしい。
俺、料理全然できないけど、大丈夫?
「はい、それじゃあルーイ、にんじんをピーラーでむいてね」
「はぁい」
俺はにんじんの皮をピーラーでむきむきする。
中々むけなくて、ちょっとピーラーに力を加えて、無理矢理にんじんの皮を剥こうとする。が、上手くできなくて、中々苦戦してしまうことに……。
「……やっぱ私がやるわ。ルーイのピーラーの使い方見てると、危なっかしいのよ」
料理経験がないからか、ちょっとピーラーの使い方が拙かったらしく、師匠は痺れを切らして俺からにんじんとピーラーを取り上げた。
でもこの感じ、師匠の方は料理下手というわけでもなさそうだな。
「それで、このにんじんは、適当に切ります」
「適当?」
「まあ乱切りってやつよ。ピーマンとかパプリカとかも、まあ雑にパパッと切っちゃって……」
師匠は手際良く、次々と食材を切り刻んでいく。
玉ねぎを切っている時、師匠の顔が、><ってなっててちょっと可愛かったのは内緒である。
「それで、にんじんは茹でておかないと……」
そういって、師匠はにんじんを茹で出す。手際良く進んでいて、みていてこれ俺いる? ってなってる状態だ。
まあ、ピーラーの使い方を見た時点で、もう師匠は俺に手伝いをさせるつもりなど毛頭なかったのかもしれないが。
「ルーイはもう食卓についておいて大丈夫よ。私が酢豚を作り終わるまで、お腹を空かせて待ってなさい」
あ、戦力外通告いただきました。
というわけで、俺は素直にキッチンから去り、師匠の言う通り食卓につく。
「塩と醤油で………あとは片栗粉と………」
師匠の作る酢豚がどんなものか、お腹を空かせながら楽しみに待つことにした。
「じゃじゃーん、ヒンナ様特製、ミステリアス酢豚よ。今日はこれが貴方の昼飯になるんだから、ありがたく食べなさい」
「わーいやったー! ところで師匠、どこにミステリアス要素が?」
「私が作った時点で十分ミステリアスよ。ほら、どうせあのオクトロアの用意したしょーもないのしか食べた事がないんでしょ? たまにはちゃんとしたものも食べなさい」
そういって師匠が俺の目の前に置いた酢豚は、とても美味しそうで……。
そういや俺、なんだかんだでまともな食事を取るの、3年ぶりなのかもしれない。
いや、まあ幹部君が出張に行ってからはコンビニで適当に買ったものを食べたりとかしてたんだけども。
けど、こういう誰かの手料理っていうのは、本当に久しぶりだ。
「いただきます!」
俺は手を合わせ、感謝の気持ちを込めながら、師匠の手料理を食べる。
………美味しい。
酢豚なんて本当に何年ぶりに食べたんだろうってくらいだけど、それでも、ああ、そういえばこんな味してたなって、なんだか懐かしい気持ちになった。
「師匠……美味しいです……」
「そうでしょそうでしょ………って泣いてる!?」
「うぅ………美味しい………」
「え、えぇ……オクトロアの用意したあれ、そんなに不味かったの…?」
「いや、あれはあれで良いんですけど、やっぱり師匠の作った手料理が美味しくてぇ……」
「ま、まあ、これからは修行ついでに手料理振る舞ってあげるから。そんなに毎回泣いてちゃ、食べれないでしょ。ほら、良い加減泣き止みなさい」
「すみません………ひぐ………」
感極まって思わず泣いてしまったが、今まで食べてきたものが不味かったとか、断じてそういうわけではない。ただ、普通に師匠の作る料理が美味しいなって。
うーん。幹部君が出張して最初はどうなることかと思っていたが、食事面に関しては、むしろ師匠に頼んだ方が美味しく食べられるので良かったのかもしれない。
あ、でも。
「師匠、仕事の方は…?」
「え……?」
「仕事は、進んでいますか…?」
「……………まあ、ぼちぼち?」
うーん。
仕事の方は進んでなさそうだなーこれは。
……ま、未来の幹部君がどうにかしてくれるだろうし。
俺は美味しい手料理を振る舞ってもらえるし。
師匠はこのままでいいや。
「師匠。ごちそうさまでした」
「はいはい。お粗末さまでした」