TS魔法少女は光堕ちしたい!!   作:布団から出られない

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21 後輩少女は決意する

 

「…………えと、初めまして。白沢薬深(しらさわやくみ)といいます。……クールに契約してもらって、その……一応魔法少女やらせてもらってます」

 

『クーはクールというクル。……クーは仲良しごっこがしたいわけじゃないクルから、会話には期待しないで欲しいクル』

 

先輩と情報の共有を済ませた後、苺先輩や新人の魔法少女にも情報の共有を行うために、私達は苺先輩の家へと集合していた。

 

妖精であるキュートや、新人の魔法少女の子と契約している妖精、クールも、同様にこの場に出席してもらっている。

 

そして、今は新人の魔法少女の子………白沢薬深さんに自己紹介をしてもらっているところだった。

 

彼女は苺先輩のクラスメイトであるらしく、先輩達は前から面識自体はあったらしいのだが、私は彼女のことを深く知らず、触手の見た目をした幹部に襲われていたところを助けた時や、ブラックルーイ……千夜に人質に取られていた時に顔を合わせた程度だったので、実質初めての邂逅ということになる。

 

実際、白沢さんからすれば変身前の私とは初対面だろうし。

 

クールの方は、私達との会話に興味なさげで、眠たそうにあくびすらしていた。

情報共有に価値を感じていないのかもしれない。

 

「私は山吹遊美です。キュートに契約してもらって、魔法少女ムーンノウシーカーとして、街を守らせてもらってます」

 

白沢さんは、苺先輩達と同い年、つまり私よりも年上になる。魔法少女歴としては私の方が長いのだが、私は基本的に年上には、敬語で話すようにしているため、魔法少女として先輩であるからといって、偉そうな態度を取ったりはしない。

 

むしろ、初戦でブラックルーイを追い詰めていた彼女の実力を見れば、ポテンシャルは私よりもあることが分かるわけなのだから。

 

「それで、遊美ちゃん。ブラックルーイの正体や目的について、何か分かりそうだった?」

 

「まず、以前ブラックルーイが語っていたことについて、ですが……。白沢さんが魔法少女と分かった上で人質に取った。これについては、“事実”です」

 

「……やっぱり、私達はブラックルーイの手のひらの上で踊らされていたんだね」

 

苺先輩が、私の言葉を素直に信じる様子を見て、チクリと胸が痛む感覚がする。

……先輩と共にこそこそと情報共有をしていた時点で、苺先輩に不誠実だということは理解している。だというのに、面と向かって嘘をつくと、どうしても純真な彼女を騙してしまっているという罪悪感が湧いてしまう。

 

けど、これは必要な嘘だ。

先輩達が、安定して魔法少女としての活動を行うためには、先輩達の心を乱してしまうような情報は、なるべく与えない方がいい。

 

「けど、これで分かったこともあるのよ。ブラックルーイは、一般人を人質に取るほど、卑劣な存在じゃないってこと」

 

「先輩、それは……」

 

『聖歌、それは根拠がないっきゅ。性善説を信じるのは自由っきゅけど…』

 

「なら説明してあげるわ。そう。白沢さんが魔法少女だったからこそ、ブラックルーイは人質を取るという手段をとった。けれど、本来の彼女ならそんなことはないわ。ブラックルーイ自体は、人質を取るほど外道な存在じゃない。彼女には、彼女なりの信念が……」

 

……先輩が、ブラックルーイを……千夜を助けたいという気持ちはよく分かる。けど、仮に千夜が本当に炙り出す目的で人質を取っていたのだとしても、それが千夜が一般人を人質に取らないということに繋がるわけではない。

 

先輩の考えは、どう考えても希望的観測でしかなく、それでいて…。

 

「どうして………そこまで“魔女”の肩を持つの?」

 

「……そうだよ聖歌。ブラックルーイは、何もかも謎に包まれてる。一般人は人質に取らないなんて、そんなの、分からないよ」

 

どう考えても不自然だ。どうしてわざわざ敵であるブラックルーイを好意的に見るような発言をするのか。そんなの、事情を知らない苺先輩や白沢さんからすれば、不可解で仕方がないだろう。

 

先輩が、何かを知っているという事が、2人に悟られかねない。

 

「そ、それは……」

 

「……ブラックルーイは、今まで一般市民の怪我人を出していません。ブラックルーイが出現する以前の怪人被害には、何名か怪我人が出ていましたが、ブラックルーイが怪人と共に街を破壊しにやってきた時に、人的被害は基本的にありません。あったとして、それは私達魔法少女達が戦闘によって負った負傷に限られます。だから、推測ではありますが、ブラックルーイは一般市民には手を出さないのではないかという仮説が立てられるんです」

 

「確かに、言われてみれば……そうなのかもしれないけど……」

 

これは事実だ。ブラックルーイと怪人が共にやってきた時に、人的被害は起きていない。

多分、千夜だった時の理性が、そうさせているんだろうと思う。千夜は、優しかったから。

 

だけど、多分それは無意識なものなんだと思う。結局、人に被害を加えていなくても、街に被害は生じてしまっているし、実際、千夜は白沢さんという一般人を人質に取った。

結果的に彼女は魔法少女だったわけだが、千夜は間違いなく白沢さんを一般人だと認識した上で人質に取っている。

 

千夜の理性は、絶対的なものではない。そして、先輩の理想の状態……ただ、見捨てられてやさぐれているだけの状態なわけでも、断じてない。

 

だから、間違っても、“ブラックルーイは人に被害を及ぼさないから大丈夫だ”なんて思考はしてはいけないのだ。

けど、千夜の件を苺先輩に悟られないために、今先輩がした失言を私がフォローせざるを得なかった。本当は、苺先輩には、ブラックルーイは外道なやつだと認識したままでいてくれた方が、良かったんだけど…。

 

「先輩、ブラックルーイについては私が説明しますから…」

 

「大丈夫よ遊美。私は分かってるから。……ブラックルーイは、説得すればきっと分かってくれる。本当は、そんなに悪いやつじゃないのよ。さっき遊美が言ったように、人に被害が及ばないように、ちゃんと配慮してる。それに、白沢さんにトドメをささなかったでしょ?」

 

『聖歌。そんなことはないと思うっきゅ。聖歌が他人を信じたい良い子なのは知ってるっきゅ。実際、ニュースで犯罪者を見たりしても、絶対に何か事情があったんだと、そう考えてしまう性格なのも理解してるっきゅ。だけど、今回は…』

 

「……うん。遊美ちゃんの言った根拠も、聖歌のいう理屈も、確かに分からなくはないけど……でも、ブラックルーイの価値観とは、多分私達、合わないと思うんだ。分かり合えないっていうか…」

 

「キュート、苺、大丈夫だから。私、人を見る目はあるんだから。私の目を信じて?」

 

……駄目だ。多分もう先輩は、ブラックルーイが千夜であり、本当に、見捨てた時のことを謝罪し、仲直りをすれば、それで元通りになれると。

そう信じて疑わない状態になってしまっている。

 

盲信することで、心を保とうとしているのだろう。

 

まさか、ここまでとは。

 

先輩の考えを改めさせることは、できない。それで心が保たれているというのなら、今はそれでいい。そして、これ以上話させると、苺先輩達に勘ぐられてしまう。

一旦、先輩にはだまっていてもらわないと。

 

「……そうは思えない。あの“魔女”、私が”絶望”したから、見逃したんだと思う。魔法少女から得られる“絶望“のエネルギーは、きっと大きいだろうから。生かした理由も、きっとそれ」

 

「そうです。ブラックルーイに善性があるというのは、あくまで希望的観測です。人に被害が及んでいないというのも、暫定の話ではあります。私達は、ブラックルーイのことを何も知りませんから」

 

「ブラックルーイに、善性はないと思う。あいつは、“魔女”だから」

 

「けど……」

 

「先輩、彼女は……」

 

私は、先輩へとアイコンタクトを送る。

白沢さんは、ブラックルーイにかなり敵意を抱いている。事前の話し合いで、白沢さんの扱いについては既に話し合っていたのだ。

 

私達は千夜のことを知ってる。けれど、彼女は知らない。だから、ブラックルーイを助けたいだとか、その手の発言はできる限り控えておいた方がいいかもしれないと。

 

先輩は私の言いたい事が伝わったのか、話を続けようとした口を閉じる。

 

正直、白沢さんがいてくれて助かったかもしれない。

もし彼女がいなければ、先輩はそのまま、ブラックルーイは悪い奴じゃない、絶対に助けるべきだという論調で苺先輩にプレゼンでもしていたところだっただろう。

 

白沢さんの存在は、今の先輩のストッパーとなってくれている。

頑固そうだから、ブラックルーイへの見解を曲げることもなさそうだし、そういう意味で、先輩は彼女に話をするのは無駄だと判断してくれるのだから。

 

……凄く疲れる。けど、これも皆のためだ。私が頑張らないといけない。

 

「とにかく、現状ではブラックルーイの正体は不明。だけど、説得できるかもしれないから、無力化できそうだったらしよう、って、そういう感じでいいのかな?」

 

「はい、そうなります。けど、1番は街の被害を抑えること。これが大切なので。あくまでブラックルーイの無力化は、余裕があれば、に留めておきましょう」

 

先輩が私をジロリと見つめている。

……おそらく、ブラックルーイ………千夜の無力化の優先順位を下げたことに、思うところがあったのだろう。

 

……多分、もう先輩の中ではシナリオが固まってしまっているんだ。

ブラックルーイを無力化して、説得して…。

 

それで、元の仲良し姉妹に戻れると。

もう、その結末が、先輩の中で確定してしまっている状態なんだろう。

 

それは、先輩が勝手に理想を掲げて行き着いた結論に過ぎない。私が、ブラックルーイは嘘をついていないと……あの時嘘をついてしまったから、行き着いてしまった結論なのだ。

 

だから、それは叶わない。

 

……もし、今の状態で本当にブラックルーイを無力化できたとして…。

 

…その時きっと、先輩は、千夜がどうしようもない状態にあると突きつけられることになるだろう。

 

元通りになれると、そう信じて有頂天になっている先輩が、その事実を叩きつけられてしまえば……。

 

多分先輩は、壊れる。

 

それだけは、避けなければならない。

だから……。

 

「……余裕があれば、とは言いますけど、勿論、ブラックルーイの無力化は、積極的に行っていきたいと考えてます。もしかしたら、彼女を味方につけることもできるかもしれませんから」

 

一応、先輩が納得するようフォローを入れつつ、私は今回の話し合いの結論をつける。

 

……ブラックルーイの無力化は、行わない。

それをすれば、先輩の心が壊れてしまうから。

 

無力化を行うよりも先に、私がやるんだ。……千夜がああなってしまった原因を探り、解決策を模索する。

 

……私のついた嘘が、先輩を傷つけてしまう前に。

 




また遊美ちゃん回になってしまった
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