「幹部様には繋がらなさそうですか?」
「まあ、そうね。相変わらず紙と睨めっこでもしてるのかしらね」
先日、俺は2人の魔法少女に出会った。
ドイツ人で、道案内してきて欲しいと頼み込み、俺をブラックルーイだと疑って襲おうとしてきた少女と、メイド姿で奇襲を仕掛けてきた少女だ。
前者はゆーちゃんと一緒にいる時に狙われたものの、彼女の良心に助けられ、俺は何もされることなく事が済んだ。が、この一件で俺は、自身の『夢幻の魔』が不完全であったことを知った。
元々『夢幻の魔』を知った段階で、『あの悪役娘も実は可愛いところあるんだぜ』作戦は上手くいかないことが判明していたんだが、俺はゆーちゃんとお忍びで遊べるならそれはそれでいいや、な気分で広井愛結としての生活を続けていた。
ところがどっこい。
俺の『夢幻の魔』が不完全だったことで、『あの悪役娘も実は可愛いところあるんだぜ』作戦は続行可能であることが判明した。のだがそれと同時に俺が襲撃されるリスクも大幅に上昇した。
ブラックルーイと広井愛結は別人、という主張を続けたいところだが、それに関しては後者の方の魔法少女が原因で通らない言い訳となってしまっている。
そう、俺はドイツ人魔法少女に襲撃された後に、アジトへとそのまま直帰しようとしたのだが、その帰り道真っ只中で1人の魔法少女からの襲撃を受けたのだ。
魔法少女の衣装はメイド服姿で、一見すると魔法少女には見えなかったから少し反応が遅れてしまい、俺は肩に負傷を負った。
多分、後ろを振り返ってなかったら致命傷になっていたんじゃないかな? と思うくらいに、一切の容赦がない攻撃を俺は喰らっていた。
まあ、そのせいで俺は焦って魔法少女ブラックルーイへと変身してしまったんだけども。
よくよく振り返ってみれば、あのメイド服の少女と共にいたマスコットは、ドイツ人の子と一緒にいたマスコットと全くの同一個体だった。
ドイツ人少女が俺のことを見逃してくれたんだから、彼女にも“やめて! 私無害な一般人なんです!”ってアピールしておけば誤魔化せた可能性があるんだよな。
実際それで襲撃するのをやめてくれるかどうかは分からないが、一回やってみてみるのも良かったのかもしれないなと、少し反省する。
とにかく、まとめると、俺は正体がバレ、広井愛結として振る舞うことが極めて難しい状況に陥ってしまっているわけで……。
師匠や幹部様からすれば、大した問題ではないのかもしれないが、俺にとってこれは死活問題だ。
まず、『あの悪役娘も実は可愛いところあるんだぜ』作戦の実行が不可能になってしまうということ。
これに関しては、『夢幻の魔』が仮に俺も普通の魔法少女と同等レベルの精度だったとしても実行不可能になっていた可能性が高かったため、まあ仕方ないといえば仕方ないのだが、元々やるつもりの作戦だったんだし、できることなら実行したい。
そして、ゆーちゃんと遊べない。
何気に俺は、ゆーちゃんと遊ぶのが結構好きだ。
だって、アジトに引きこもっててもやることないんだよ?
いや、実験とか、訓練とか、やろうと思えばできるんだけどさ。ぶっちゃけ実験なんて二度とごめんだし、訓練はわざわざ休暇中にやりたくない。
まあ、最近は師匠がいるから、一緒にアニメ見たりはできるだろうけどさ。
でも、師匠だってアニメばっかり見てるわけでもないからね。何かしらやるべき事をやってる感は出してるんだよ師匠も。
多分、自分のやりたい事だけやってて、幹部君から頼まれた業務には一切手をつけてないんじゃないかなって思うんだけどね。
まあ、長くなったけど、とにかく俺はもう一度広井愛結として外を出歩きたいのだ。そして今は、そのために師匠に土下座してまで頼み込んで、幹部様に連絡してもらっているところである。
幹部様なら、何とかしてくれるかもしれないからね。
「駄目よ。繋がらないわ。……ま、繋がったら繋がったで、“業務の進捗は?”とかつまらないことを聞いてくるんでしょうし、私としてはむしろ繋がらない方がありがたいというか…」
「じゃ、じゃあ他の幹部で頼れる人とかいないんですか? ほら、もはや過去に戻って全部やり直しできるみたいな能力持ちがいたりとか」
「そんなのいないわ。大体、他の幹部っていっても、私が頼って力を貸してくれる奴なんて……あの女……いや、あの変人なら、請け負ってはくれるだろうけど……。あいつに頼るのは癪なのよね…」
つまり頼ったら力を貸してくれる幹部はいるってこと?
女とか言ってたし、あのセクハラ野郎ではないだろう。なら大歓迎だ。
「師匠、その人でいいんで、繋いでくださいよー。私この不安を解消しないとアニメ見る気にも漫画読む気にもなれないんですよ〜。このままじゃ師匠と一緒に過ごす時間も減っちゃいますよ?」
「……くっ……。けどね、あいつはやなの! 多分ルーイも、あいつと出会ったら嫌悪感を抱くと思うわ。気持ち悪いし」
「そこをなんとか……」
「駄目なものは駄目………ルーイ!」
師匠にどうにか他幹部への協力を取り付けてもらえるように必死に懇願していた俺だが、突然の衝撃に、思わず体は軽く吹き飛び、俺の口は冷たい地面とキスをする。
わお、ファーストキスは地面の味。
なんて軽口を脳内に思い浮かべていたのも束の間。
おそらく俺を突き飛ばしたのは師匠であろうということに思い至った俺は、彼女を師匠に、糾弾するために、先程までいた場所の方へと顔を向けたのだが……。
「師匠…?」
そこには。
無数の銃弾に蜂の巣にされ、大きく後方へと飛ばされている師匠の姿があった。
俺は脳の理解が追いつかずに、一瞬フリーズする。
なぜ師匠が倒れているのか、なぜ突然銃声が鳴り響き、無数の弾が師匠を襲ったのか。
すぐに足りない頭をフル回転させ、フリーズしかけていた体を動かす。
「敵襲…!」
やがて俺の頭は一つの結論を導き出す。
しかし、周囲を見渡しても、敵の姿はどこにも見当たらない。
「一体どこから…」
死角はない。そんな場所、わざわざ用意されていない。なら、師匠はどこから撃たれた? 敵がどこにもいないということはない。ならば、見えない敵?
「妖魔を使うか」
俺は懐に蓄えていた妖魔を解き放ち、不可視の敵がどこにいるのかを探らせつつ、自身も周囲を警戒する。
不自然に妖魔達が避けていたり、何か視線を向けていたりする場所を見つけると、すぐさま俺はそこに狙いを定め……。
「『ブラックハンド』」
拘束するための魔法を放つ。黒い両の手は、俺には見えない何かを掴んで拘束し、そして、その力で、不可視の敵の正体をあらわにした。
そこにいたのは……。
「……昨日の?」
先日俺とゆーちゃんを襲撃したドイツ人の魔法少女、その人が、今回の敵の正体だった。
「……ちっ……バレたか」
ドイツ人の少女の正体が明らかになった途端、そのすぐ近くでそう言葉を吐き捨てる、メイド服の魔法少女の姿も、あらわになっていく。
今回の襲撃者は、1人だけではなかったようだ。
「私は拘束されても問題ない。だから合理的。そうよね、スターチス」
「本当はレディに生贄になって欲しかったところですけど、及第点ですよ、お嬢様」
「それ本当に慣れないわ」
「何の話ですかお嬢様。とにかく、ブラックルーイを追い詰めますよ」
2対1。1人拘束してるとはいえ、彼女がその手に持つのは銃。遠距離攻撃型の魔法少女だ。だとすれば、こちら側が圧倒的に不利。
最初に師匠がやられたのが痛かったな。
って、そういえば師匠は!?
「…いっつつ……クソ……こ……のっ……小娘が!!」
あ、無事だった。そうだよね。普段から分厚い装甲身につけてるもんね。防弾チョッキみたいに銃弾から身を守ってもらえてたって感じか。
にしても師匠、かなりブチギレていらっしゃる。
ミステリアス研修の時のあのミステリアスさはどこへ…?
「ちっ……生きてたか、しぶといね」
「殺すのはなしよ、スターチス。私も、彼女が装甲を身につけているのを分かってて撃ったんだから」
『銃弾を使ったのはわざとのようですわね。スターチスが殺しを行う前に、バレること承知でライオネルは行動したようですわ』
「…悪い?」
「はぁ…。おそらく相手は幹部クラスですお嬢様。一般人が洗脳されて戦わされているとかならともかく、幹部クラスの敵を殺さない理由は、特段ありません。まあ、お嬢様の指示ならば、従いますが」
さっきから殺すだの殺さないだの、かなり物騒な話をしてるなぁ。
この感じ、キューティバース達は来てなさそう?
キューティバースちゃん良い子そうだもんね。殺すとか絶対許さなさそう。
まあ、俺が光堕ちしたら少なくともクロマック君には死んでもらうんだけどね。
師匠とかは好きだし、なんか良い感じに死んだふりとかでもしてもらおうかな?
もしくは直接クロマック君叩きに行って、組織崩壊だけすればそれでOKかもしれない。
ま、とはいえ今のところ師匠と幹部様以外の幹部は全員殺す予定ではあるんだけどね〜。
「私を殺す? 自惚れもいい加減にしろ。お前ら程度が、この私を殺せると思うなよ!! 思い上がるな三下が!!!」
師匠、ミステリアスが、ミステリアスの仮面が崩れていきますー!
駄目ですよ師匠! キレちゃ相手の思う壺ですよ〜師匠ー!
駄目だ。本当にブチギレモードに入ってる。
師匠、普段ポンコツなイメージしかなかったけど、怒る時は怒るんだね。
あ、もちろんミステリアスムーブに関しては尊敬してるよ? 今それも崩壊中だけどね。
「すべて消し炭にしてやる……」
師匠の右手の装甲が、形を変え、まるで大砲のように変化を遂げていく。
「……あれは………」
『危険ですわ! この威力、アジトごと私達を!』
「な……お嬢様、ここは一旦退避を…」
「ちょ、私拘束されてるんだけど!? 動けな……」
師匠は、魔力を右手に一点集中させ、何か大技を放とうとしているみたいだった。
これ、当たったら死ぬかな?
師匠、結構やばい大魔法使おうとしてる感じしない?
……ドイツ人魔法少女の『ブラックハンド』は解除しておこう。流石に死なれるのは嫌だからね。
「あ、解けた!」
『早く逃げますわよ!!』
「全部消し炭になれー!!!! 『グレート・デストロイヤー』!!!!!!!」
「師匠、文字通り全部消し炭になりましたね」
「……そうね。今日の昼ご飯も丸焦げになったわ」
俺達がいたアジトは、師匠の手によってまっくろくろすけ。全部総じて焦げた黒い塊へとその姿を変貌させてしまっていた。
師匠が手に持つ卵焼きも、見事に真っ黒焦げ焦げ。とても食べられるような状態ではない。というかよく原型保ってたな師匠の卵焼き。宇宙最強の卵焼きじゃないか?
「……流石にこれはまずいですよ師匠。多分大事な書類とかも全部丸焦げです。早く整理して幹部様に渡しておかなかったから…」
「しょ、しょうがないでしょ!? 私にだってやるべきことはあるのよ! く、大体、悪いのはあの二人組よ! いきなり奇襲を仕掛けてきて……。あーくそ! 思い出したら腹立ってきた」
「まあ、多分その2人も丸焦げなので、責任は全部師匠に行きますね。幹部様、何て言われるかなー」
まあ、二人組の魔法少女が逃げてたのはバッチリ確認してるからね。実際には丸焦げになった魔法少女はいないんだけども。
「く、ただでさえ前のやらかしでオクトロアに弱みを握られているというのに……ねえルーイ、これ全部ルーイがやったことにしてくれない? 私これ以上オクトロアに借りを作りたくないのよ!」
蜂の巣にされた時、あれ多分俺を庇って代わりに銃弾受けてくれてたんだよな。
そう考えたら、師匠は命の恩人なわけで、あれ俺が喰らってたらやばかったし。
まあ、ドイツ人少女の口ぶり的に殺すつもりはもとより無かったみたいだから、案外大丈夫なのかもしれんけど。
それでも、師匠が俺を守ってくれたのは事実なわけで…。
「まあ、師匠にはお世話になってますしね。罪を被ることくらいはやってあげますよ」
「やった! って、喜んでいないわ。当然の結論ね。今までご飯も作ってあげてたし、うん、当然ね」
「でも多分、私にはアジトを破壊する力はないので、幹部様が見たら速攻師匠がやったってバレると思いますけどねー」
「……ルーイ、今から特訓よ。貴方には、建物一つ分壊せるくらいに強くなってもらうわ」
「んな無茶な…」
私とスターチススクラッチ……鳴は、幹部級の女の攻撃から何とか無傷で逃げ出すことに成功し、近場の路地で休息を取っていた。
「……危なかった。本当に、あとちょっと遅かったらどうなってたわからないわ…」
「……ベル、だから言ったでしょ? 幹部クラスのあの女はあそこで仕留めておくべきだった。あれだけの火力を出力することができる敵、絶対に生かしておくべきではない」
「……でも……」
私は、殺したくはない。
誰かを殺したその先にある平和を求めることが、本当の正義だとは思えない。
何より、親友に……鳴に殺しの罪を背負わせたくはない。
だから私は……。
『まあ、過ぎたことを責めても仕方ありませんわ。幸か不幸か、あのアジトを壊滅にまで追い込むことができたのですから』
「まあ、ね。死人も出なかったし、アジト内にいた従業員は全員拘束できた。まあ、及第点なんじゃない? ねえ、鳴」
「そんなわけがない。結局、あのアジトから得られたのは、このブラックルーイに関する情報が載った資料とビデオだけ。他のアジトの情報や、幹部についての情報。組織の計画。そのすべてを入手することができなかった。作戦は成功とは言い難い」
『とは言いますが……。あのアジト、ほとんど重要な資料は持ち去られていたようでしたわ。……まるで、誰かに襲撃されることが分かっていたかのように……。少し不自然に感じましたわ』
アジトといっても、複数あるもののうちの一つだろうし、重要な資料をずっと一つのアジトに置いておく、なんてことは流石にしないんじゃないだろうか、と私は思う。
不自然とは言うが、逆に今日攻め入ったアジトで全ての情報が載った資料を入手できる方が不自然なんじゃないかと、個人的に私は思うのだけれど。
「なら、ブラックルーイの資料を置いていくなんてヘマはしない。偶然、重要な資料があのアジトに残っていなかっただけ。もしくは、私達が見つけていないだけで、あの女幹部級のあいつの攻撃で、全部消し去られたと考えるのが妥当だと思う」
「……とにかく、そのブラックルーイの資料? みたいなのを確認しない? ここでは何だし、一旦私か鳴の家で」
「……そうだね。情報整理は大事。一旦、この資料の内容の確認と、ビデオの再生をベルの家で行う。レディもそれでいい?」
「了解いたしましたわ」
やったぜ