TS魔法少女は光堕ちしたい!!   作:布団から出られない

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28かつての親友は追い詰められる

 

先日、私は協力関係に持ち込んだ、ドイツ人の魔法少女から、魔法少女ブラックルーイ……千夜に関する情報を入手した。

 

内容は、千夜が、洗脳によって組織に無理矢理従わされた、というもの。

記憶も消され、組織のために働くようにと、そう洗脳されてしまったらしい。

 

だから、あんなにも悪辣で、街を破壊することを目的とする、邪悪な魔法少女に堕ちてしまっていたのかと、私は納得することができた。

 

同時に、洗脳を解くことさえできれば、千夜を元に戻せる。

まだ、取り戻せることができると、希望を抱くこともできた。

 

彼女に協力を持ちかけて、本当に良かったと思う。

良かったとは思うのだが…。

 

気になるのは、先輩だ。

 

キュートに呼ばれて、私は先輩の家へと訪れていた。

何でも、大変なことになった、だとか何とか。

 

先輩の身に、何かあったのかもしれない。

私はそう思い、急いで光という表札が掲げられた家の扉の前に立つ。

 

インターホンを押し、出迎えたのは……。

 

「あら? 遊美ちゃん? どうしたの? 突然訪れて」

 

先輩の母親……。千夜のお母さんだった。

彼女と出会うのは、かなり久しぶりだ。3年ぶり、かもしれない。

確か、千夜が行方不明になって、それで、先輩のお母さんが精神を病んで……。

けど、今はすっかり回復しているみたいだった。

そういえば、先輩の部屋の前にお茶を用意して置いてくれたりしたこともあったっけ? あの頃から、精神的に快調だったのかもしれない。

 

先輩の……千夜のお母さんが、元気そうにしていて安心した。

安心はしたんだけれど…。

 

普段なら、先輩が私を出迎えに来てくれるはず。

けど、先輩は出迎えに来てくれていない。

本当に、先輩の身に何か起こっているのかもしれない。

 

「すみません、ちょっと急用で。中に入っても良いですか?」

 

「良いけど……。多分聖歌、今寝てるみたいだから……。あ、そうだ! ちょうど、聖歌の隣の部屋が空き部屋なのよ。何故か、聖歌が使ってない余分な教科書とか、買ってあげた覚えのないおもちゃが置いてあったりするんだけど……」

 

先輩の隣の部屋。

それは確か、千夜の部屋のはずだ。空き部屋………。それも、そうか。

今はもう、千夜は使っていないから。

 

「空き部屋、ですか…」

 

「そうよ。空き部屋。けど、あそこの部屋に置いてある物、何故か全部捨てる気になれなくてね、そのままにしてあるの。それでもよければ、ぜひ使ってちょうだい」

 

「……捨てれないですよね……。いえ、良いんです。とりあえず、使わせてもらいますね。千夜の部屋」

 

「千夜……? ええ、まあ、空き部屋ならいくらでもどうぞ?」

 

何だか様子がおかしいような気もするが、とりあえず今は先輩を優先しよう。

出迎えにも来ず、キュートが大変なことが起こっていると、先輩の携帯でそう伝えてきたのだ。

 

よっぽどの緊急事態が起こっているに違いない。

私は、慌てて先輩の家の中に入り込む。

先輩のお母さんには悪いが、私は千夜の部屋には入らず、先輩の部屋の前で止まり、2、3回ほどノックをする。

 

『入るっきゅ』

 

そんなキュートの声が聞こえたので、遠慮せずに私は扉を開け、先輩の部屋へと足を踏み入れた。

 

「先輩、一体どうして……」

 

そこには……。

 

千夜と先輩……2人が写った……所謂ツーショットの写真を、愛おしそうに見つめて撫でている先輩の姿があった。

 

「……千夜………あは………あひゃ……」

 

「……キュート……これは……」

 

先輩は、狂ったように笑う。

普段の先輩からは、絶対に漏れ出ることのない声。そんな声を、先輩は発していた。

 

『…とある魔法少女から、ブラックルーイに関する情報を貰ったんだっきゅ』

 

「それって、千夜が洗脳されたとか、そういうの…?」

 

『そうだっきゅ。ブラックルーイが洗脳された情報、そして、ブラックルーイがまさに洗脳をされている様子を記録した映像を、受け取ったんだっきゅ』

 

「まさか………見せたの?」

 

『…………』

 

「どうして、わざわざ先輩に……。先輩の精神が不安定なことくらい、キュートだって分かって!」

 

『これも聖歌のためにしたことっきゅ! もうブラックルーイを助け出すことは不可能なんだっきゅ! だから、ブラックルーイのことを諦めてもらうためにも、決定的な証拠を見せつけて、光千夜という存在を諦めてもらう必要があったんだっきゅ!!』

 

ブラックルーイを助け出すことは不可能?

 

「どういうこと…? 洗脳さえ解ければ、千夜は……」

 

『無駄だっきゅ! 触手の幹部……オクトロアの触手には、対象の記憶や倫理観を破壊する作用があるっきゅ。洗脳され、記憶を消されたブラックルーイは、もう二度と、その洗脳を解くことも、記憶を思い出すことも、できないんだっきゅ』

 

「う……そでしょ………」

 

それはつまり。

もう千夜は……。ブラックルーイから……。

悪の組織から、解放されることはないと、そういうことになるのだろうか…?

 

そんなの、そんなの……。

 

「うそ……だ……」

 

『嘘じゃないっきゅ』

 

「……本当に…? じゃあ、それじゃあ……」

 

先輩の方を見つめる。

先輩も同じように、ブラックルーイを……千夜を救い出せないと、そう告げられて、うちのめされてしまったのだろうか。

 

気持ちは、分かる。

私だって、考えたくもない。

千夜が、もう二度と私に笑いかけてくれないなど。

 

もう、私の親友はどこにもいないなどと。

そんなこと、考えたくもない。

 

「……千夜は……もう……」

 

『………諦めは、ついたっきゅ?』

 

諦めろ、そう言われて、諦められるほど、私は千夜の存在を軽くしていない。

けど、もう、どうしようもないのなら…。

 

「手の施しようがないのなら……諦めるしか、ないと思う」

 

そういう、結論になってしまう。

 

……先輩に、過度な期待を持たせるべきではなかったのかもしれない。

最初から、洗脳されている可能性等、組織に何かしら手を加えられている可能性を、伝えておくべきだった。

 

私が事前に対策すること前提で、先輩に必要な情報を伝えず、甘い夢を見させてしまったから。

 

だから先輩は、壊れてしまった。

 

どうしようもない現実にうちのめされて。

ありもしない、夢みたいな空想を、完膚なきまでに破壊されて。

 

そのせいで、先輩は……。

 

「……ごめんなさい、先輩。私の……せいで…」

 

『遊美はしっかりしていて助かるっきゅ。……そんな遊美に、頼みがあるんだっきゅ』

 

「……何?」

 

キュートもキュートだ。先輩に伝える前に、一言私にでも相談してくれれば良かったものを。どうして……。

 

いや、私も同じか。

 

勝手に、伝える情報を取捨選択して、先輩を蚊帳の外にして……。

 

ああ、何も変わらない。

私だって、必要な情報を共有してこなかったじゃないか。

だからこれは、自業自得だ。

だからキュートは、何も悪くな……

 

『キューと協力して、聖歌の記憶を消して欲しいんだっきゅ!』

 

「…………は?」

 

『苺には、ブラックルーイの情報を教えるわけにはいかないっきゅ。だから、これは遊美にしか頼めないことっきゅ』

 

記憶を、消す…?

 

「キュート? 一体……何を言って……」

 

『聖歌のお母さんの時は、これで上手くいったんだっきゅ! 千夜に関する記憶を消したら、聖歌のお母さんのメンタルは安定したんだっきゅ! だから、聖歌も同じように……』

 

「聖歌のお母さんの時……? 千夜に関する記憶を消した…? それって……」

 

【あ、そうだ! ちょうど、聖歌の隣の部屋が空き部屋なのよ。何故か、聖歌が使ってない余分な教科書とか、買ってあげた覚えのないおもちゃが置いてあったりするんだけど……】

 

先輩のお母さんの、発言の違和感。

 

【千夜……? ええ、まあ、空き部屋ならいくらでもどうぞ?】

 

千夜の名を出しても、あまりピンときていない様子だった、彼女の様子。

あの、違和感の正体は……。

 

「キュート……先輩の……千夜のお母さんの記憶を……消したの?」

 

『そうっきゅ。聖歌のお母さんのメンタルを安定させるためには、それが最善策だったっきゅ』

 

拉致されて、洗脳されて、本来の優しい性格からは考えられないような、破壊の限りを尽くす悪に堕とされて。

その上、母親からも忘れ去られる。

……千夜は……千夜の人生って、一体何だったの?

 

どうして……どうしてそんな目に……。

 

『だから、聖歌の精神を安定させるために、協力するっきゅ! 聖歌から、ブラックルーイの……光千夜の記憶を消すんだっきゅ!』

 

「そんなの………」

 

できるわけがない。

先輩の精神は、心配だ。

壊れてしまっている先輩を見るのは、辛い。けど……。

 

これ以上、千夜の存在を……。

千夜が生きて来た意味を……奪わないでほしい…。

 

先輩の記憶からも千夜が忘れ去られたら……。

一体誰が、誰が千夜を……!

 

家族から忘れられて……。

 

私しか、千夜を覚えていられないなんて……そんなの……。

 

「キュート……私には……できない…! 先輩から、千夜の記憶を奪うなんて……」

 

『どうしてだっきゅ!? 聖歌のためには、記憶を消さなくちゃいけないんだっきゅ! 分かってほしいっきゅ! キューとキューの契約した魔法少女がいないと、記憶消去は行えないんだっきゅ! もし精神が壊れても、記憶を消せばなんとかなる、そう思ったからキューは…!』

 

「体と、精神は大事だよ……壊れたら、確かに致命的だと思う。分かる……分かるけど……でも……人には……人間には! 尊厳だってあるの!! 体と心だけじゃない! 守るべき尊厳が、誰にだってあるの!!」

 

『じゃあ遊美は、聖歌がどうなったって良いっていうんだっきゅね?』

 

「違う……違うよキュート…。私には、選べない……。責任を持てない………。先輩の記憶から……千夜の存在を消したくない……だから………」

 

『………わかったきゅ。遊美の意思がそうなら、もう仕方がないっきゅ。………聖歌のことは、このままにするっきゅ。けど、いつか遊美が聖歌の精神を………心を取り戻してあげたいと思ったなら……その時は、キューに言ってほしいっきゅ』

 

そうだよ。

私には、選べない。

 

先輩の心と、千夜の生きた証。

どちらかを、選択しろなんて。

 

…………千夜ならきっと、先輩の心を優先する。先輩ならきっと、千夜の記憶を優先する。

 

私は………どちらにも、立てない。

何も……できない……。

 

「どう……して………」

 

何で、こんなことになってしまったんだろう。

 

こんなことなら、最初から……。

 

「………助けて………苺先輩……」

 

私はもはや、助けを求めてはいけない、これ以上巻き込んではいけない、苺先輩の名前を出してしまうほどに。

 

心を追い詰められてしまっていた。




助けて苺ちゃん!
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