チャイムが鳴る。
その音と共に、生徒達が一斉に席から立ち、礼を行い、各々が好き勝手に言葉を発し出す。
昼食の時間になり、持参した弁当を開けたり、購買で昼食を購入しに行ったりと、各々で空腹を満たすために、食を求める。
私は、朝作った自家製手作り弁当を机の上に出す。
…けど、今日の私は、その弁当を食べきれそうにもなかった。
「薬深ちゃん、一緒にご飯食べよ?」
「あ……苺ちゃん……うん……わかった……」
私は、最近同じ魔法少女であることが判明した、同じクラスの白沢薬深ちゃんに声をかける。
そのまま、薬深ちゃんの席と、私の席をくっつけて、私が持参した弁当をその上に広げる。
「いただきます!」
「い、いただきます…」
これが最近の私の日課。
薬深ちゃんと、2人でご飯を食べる。
少し前までは、そこに聖歌も加わって、3人で食事を取っていた。けど、最近の聖歌は学校を休んでいて……。
「……光さん……今日も来てないね……」
「うん。そうだね…。せっかく沢山作ってきたのに、これじゃ食べきれないや」
薬深ちゃんの食事事情が、結構深刻だったことが判明してから、私は、薬深ちゃんに手作り弁当を作ってあげることになった。
そのついでとして、せっかくだからと、聖歌の分も作って来ようと思ったのがきっかけで、私の手作り弁当は誕生した。のだけど。
最近は、その聖歌が学校に来ないせいで、弁当のおかずがあまりがちになってしまっていた。
仕方なく、私が帰ってからお母さんやお父さん、1つ下の弟と一緒に、夜ご飯のおまけで食べたりしているんだけど…。
「光さん、今日も来ていませんね」
「……
一時期は、授業をサボりがちな私や聖歌に対して、口うるさく言ってくるような人だった。のだけど、聖歌が最近学校に来れておらず、また、聖歌が学校に来ないことで、少し気に病んでいる私の様子を見たからか。
普段の態度からは考えられないほど、私に対しての彼女の対応は甘くなっていた。
「……普段からしばしば授業をサボってはいましたが、欠席ということは今までありませんでした。成績も良く、課題も期限を守っていた。そんな彼女が、ここ数日、貴女に何の連絡もなしに休むなんて……。何かあったのでは?」
「うん、そうだね。……いつもの聖歌だったら、休むにしても、私に連絡くらいはくれたと思う」
聖歌が来なくなって、当然私は心配したんだけど、遊美ちゃんが様子を見ててくれてるっていうから、とりあえず私は、薬深ちゃんと仲良くすることにしようと、そう思って学校生活を送ってきた。
……けど、数日経っても学校へやってこないことから、只事ではないことが起こっていることは確かだ。遊美ちゃんは、絶対に大丈夫だから、全部任せてほしいと、全て解決できる算段が整っているんだと、そう私に言っていた。
けれど……聖歌は私の親友なのだ。
いくら遊美ちゃんが見てくれるからといって、親友の私が何もしないというのは、薄情だろう。
「……今日、聖歌の家に寄ってみる。どうしてここ数日休んでいたのか、聞けそうだったら聞いてみるよ」
「……分かりました。では、今日のプリント類は一つ下の彼女ではなく、桃乃瀬さんに渡しておきますね」
「うん。ありがとう紫暮さん」
紫暮さんは、私の言葉を聞いて、とりあえずは大丈夫そうだと思ったからか、自身の座席について弁当を取り出し、昼食を食べ出した。
…聖歌の身に何が起こったのか、それは分からない。
……どうして、何も言ってくれなかったんだろう。どうして、私に何か隠し事をしていたんだろう。
一言でも言ってくれれば、私は……何でも聖歌の力になってあげたのに。
「い、苺ちゃん……。それって、私も……」
「……薬深ちゃんも行きたいの? 別にいいけど…」
聖歌と薬深ちゃんは、別にそれほど仲が良いというわけでもない。
私と薬深ちゃんは、ここ数日でそれなりに交流をしてはいるが、聖歌は薬深ちゃんとほとんど接点がないのだ。
そんな状態で、薬深ちゃんが家へやってきたところで、聖歌は応じてくれるのだろうか。
……少し不安が残る、けど、もし聖歌が嫌がったら、その時は、申し訳ないけど薬深ちゃんには帰ってもらおう。
『………』
「どうしたの? クール」
『別に何でもないクル。……薬深は、光聖歌と仲良くしたいクルか?』
「……苺ちゃんの友達だから。私も、仲良くできたらいいなって…」
薬深ちゃんは、確かにはじめて、魔法少女だと判明した時は、かなり過激なように思えた。
ブラックルーイを“魔女”と称し、親の仇かのように憎悪して、殺意を込めて戦う様は、まるでバーサーカーのようで、同じようにブラックルーイに不快感を覚えていたあの時の私ですら、少し引いてしまうほどに、彼女の気迫はすごかった。
けど、実際に接してみると、それは彼女の一側面。何なら、本来の彼女ですらなかったんだなと感じさせられた。
彼女の本質は、臆病で、人と接するのが怖くて。
けど、誰かと仲良くしたい。そんな、ちょっと寂しがり屋なかわいい女の子だったのだ。
私が少し話しかけただけでも嬉しそうにはにかむ様子からは、魔法少女として戦っていたあの時の様子など、微塵も連想できないほど、彼女は可愛らしく、それでいて守ってあげたくなるような、そんな子だった。
「私も、薬深ちゃんと聖歌が仲良くなってくれたら、嬉しいなって思う。けど……」
「わ、わかってるよ。……私は、光さんとは仲良くないから…。でも、何もしないのは、嫌なの…。いつまでも、臆病なままじゃ……駄目、だと思うから。……苺ちゃんが私に話しかけてくれたみたいに、私も…」
元々卑屈な考え方をしがちだったらしい薬深ちゃんだったが、最近は私と接していくうちに、それなりに前向きに生きていくことを心がけ出したみたいで。
「そっか。……きっと、聖歌も喜んでくれるよ」
そんな彼女の思いを、あまり無碍にはしたくない。だから私は、彼女の同行を快く許可することにした。
…聖歌が、どんな状態かは分からない。だから、あまり考えなしに薬深ちゃんと聖歌を会わせてしまうと、2人とも傷つけてしまう可能性がある。
だから、初めは私が聖歌と話して、慎重に、薬深ちゃんがいても大丈夫か、確認を取ろう。
遊美ちゃんにも連絡して、先に先輩に話を通しておいてもらうのもいいかもしれない。
そうと決まれば……。
『……これからも光聖歌や桃乃瀬苺と交流を続けていきたいのなら、伝えておきたいことがあるクル』
「クール?」
「……どうしたんですか?」
『……怪人が出たクル』
「え、そんな! それじゃ、はやく向かわなきゃ!」
「あ、私、も……」
薬深ちゃんについていた妖精、クールが、怪人の出現を報告してくる。
今、私の近くにはキュートがいない。だから、私が今から戦場に向かおうにも、変身する手段がない。となれば……。
「薬深ちゃん…」
「……あ………私……は……」
薬深ちゃんの体は、ブルブルと震えている。
この前の戦闘で、ブラックルーイにやられたことを思い出したのだろう。
元々、彼女は臆病な性格だ。
ブラックルーイに敗北した時のことを思い出せば、怖くなってしまうのも当然なのかもしれない。
……なら…。
「大丈夫だよ、薬深ちゃん、私、1人でもやれるから」
私が行くしかない。
多分、キュートだって怪人が現れたなら、現場に向かうはずだ。
絶対にキュートがその場にいるという保証はない。
けど、今動けるのは、私だけなのだ。
遊美ちゃんだって、魔法少女としての活動は、そこまで積極的なわけじゃないし。
だから………。
「私も! ………私も、行く、から…」
「薬深ちゃん……」
「……苺ちゃんと、せっかく仲良くなったんだもん……。私も……私も苺ちゃんの力になりたい…。臆病なままは、嫌なの……」
『……それが薬深の答えクルね』
「うん。だからクール、力を貸して」
『了解クル』
薬深ちゃんは、怯えながらも、立ち向かうことを選んでくれた。
なら、私も…!
「行こう、薬深ちゃん!」
「うん」
私と薬深ちゃんは、急いで教室を出ていく。
「ちょ、ちょっと! 桃乃瀬さん! 白沢さん! もうすぐ数学の授業が……! ……まったく……光さんのことがあるからと、優しめに対応しておけばこれですか…!!」
学級委員長の言葉は聞こえなかったことにして、私と薬深ちゃんは、駆け足で戦場へと足を運ぶのだった。