苺先輩がならしたインターホンは、全部無視した。
インターホンがなれば、自然と先輩の母親が扉を開けてしまうので、それを阻止するために、先輩の母親は私の魔術で昏睡させた。
【…勉強、頑張ってね!】
先輩の気遣いが、私の心を締め付ける。
私は、学校にいない。授業も、受けていない。
私はただ、先輩の様子が気になって……。
キュートが私のそばにいたのも、そのためだ。
キュートは、先輩が壊れてから、ずっと先輩の元を離れようとはしなかった。
どうにかして、壊れた先輩を元通りにしようと言葉を投げかけるキュートだったが、先輩にその言葉は一切届いていなかった。
私も、1日中ずっといるというわけではないが、それでも、様子を見ていて、改善の兆しが全く見られないことだけは分かる。
今日聖歌の様子見に行ってみるね! なんて、そんな文字列が並んだメッセージアプリを見て、私はもう、どうすればいいのかわからなくなる。
「あーちゃん、連絡取れないな……」
先輩が壊れてしまってから、あーちゃんとは連絡が取れなくなっていた。
それは、神様からの天罰のように思えた。
………きっと、私が壊れた先輩を視界に入れないためにあーちゃんを利用しているということが、神様には、全部筒抜けになっているはずだから。
私は、天に強いられている。
目の前の現実を受け止めろ。先輩を見捨てるな。ちゃんと向き合えって。
それに私は、あーちゃんと仲良くなることで、千夜のことを忘れていたんだと思う。
千夜が、もう2度と私の親友には戻らないのだと知った時、先輩と違って、私の精神が壊れることはなかった。
それはきっと、私にはまだあーちゃんがいるからだって、そう思っていたからで…。
「本当に醜いな、私って……」
最低だ。千夜もあーちゃんも、私にとっては大切な友人だ。そこに優劣なんてないし、代わりなんて存在しない。だというのに、私は……。
あーちゃんを優先して、千夜を切り捨てるという思考を、無意識下で行っていたんだ。
もう手の施しようがないんだから、仕方がないと。
壊れている先輩を見て、精神的に辛いのだから、そういう発想になるのも当然だと。
私は、こんなに醜い私を、無意識に正当化していた。
今日、苺先輩は先輩の様子を見にやってくる。
流石にもう、誤魔化せないだろう。
決めなければならない。
先輩の記憶を消すのか、先輩の記憶を保持したまま、洗いざらい全部苺先輩にぶちまけてしまうのか。
「教えて……あーちゃん……」
もう1人の親友にも、私の声が届くことはない。
純白魔法少女の登場により、俺は一気に不利になる。
メイド服の魔法少女を追い詰めた『ブラッドフィッシュ』は純白ちゃんによって封じられてしまったし、万全の純白ちゃんと違い、俺はメイド服の魔法少女との戦闘で多少なりとも消耗している。
……そろそろ、キュヴァちゃんにはゲームをやめてこちらの援護にまわって欲しいところではあるのだが……。
「『ギフト・イン・スピア』」
「っ……。『ブラックハンド』」
純白ちゃんが放った魔法に対して、俺は相殺するような形で『ブラックハンド』を繰り出す。
……まだ前回の“絶望”は尾を引いているみたいだ。純白ちゃんの放った『ギフト・イン・スピア』は速度があまりなく、俺の元へ届く寸前に、どこか怯んでいるみたいに、失速していた。
そこに俺の『ブラックハンド』を絡めることで、どうにか彼女の魔法を無効化することができたのだが……。
「『マジックギフト』『クールポイズン』」
「連続は聞いてなっ…」
『マジックギフト』は、確か相手の魔法の4割を吸収する魔法なんだっけ?
攻撃魔法ではない。それに、『クールポイズン』も対策済みだ。焦ることなど……。
「……くらえ!」
「っ!」
『クールポイズン』は大丈夫だと、そう安心していた俺の喉元に、純白ちゃんが隠し持っていたダガーが襲いかかってきた。
間一髪で避けた、が、彼女は武器も持っていたのか……。
それに、彼女の魔法の性質的に、あれにも毒が仕込まれている可能性が高い。いくら浅い傷でも、くらってしまえば何が起こるか分からない。
「ホワイトポイズナー。助かった。ありがとう。援護する」
「………ところで、貴方は…?」
気付けば、メイド服の魔法少女が純白ちゃんの隣にまで来ていた。
街を破壊する怪人の対処はしなくていいのだろうか、と思い、怪人の方を見てみる。すると……。
「なるほど、援軍が来たわけだ」
俺の視線の先には、異形の見た目をした人形の化け物と、おそらくドイツ人の、赤い髪を持った魔法少女が戦闘している様子が映し出されていた。
つまり、完全に形勢は逆転したというわけだ。
「……私は魔法少女スターチススクラッチ。貴方と同じ魔法少女。そして……ブラックルーイを倒す使命を負った者」
「……そうなんだ。……わかった。スターチス、街を守るために、あの悪辣な”魔女“を一緒に倒そう」
「…………………それが、正義なら……」
純白ちゃんと、それとメイド服あらためスターチススクラッチは俺という敵を前にしながら会話を交えるほどの余裕を見せる。
完全に向こうのペースに持って行かれた。さっきまでは俺が優勢だったのにね。
さて、どうしたものか。
純白ちゃんの様子を見るに、前回の”絶望“の影響で、まだ俺のことを怯えている節があるようだから、そこにつけ入ればなんとか、といったところだろうか…。
少々心苦しいが、多分純白ちゃん俺のこと殺す気でかかってくるだろうし、スターチスも結構殺意マシマシっぽいからね。俺だって命は惜しい。少し怖がらせるくらいは許してくれ。
なんて、純白ちゃんをいじめる覚悟を決めたその時だった。
「よっと。追加の魔法少女、来たみたいだね。呼んでくれればよかったのに」
「あ、キュヴァさん…」
「キュヴァでいいよ。立場同じだし」
俺が心を鬼にして、純白ちゃんをいじめる覚悟を決める裏でゲームに夢中になっていたキュヴァちゃんが、丁度戦場へと戻ってきてくれていたのだ。
もっとはやく来いとか、そもそもサボるなよとか、言いたいことはたくさんあるが、ともかく、俺が少女のトラウマを刺激していじめるような最悪な魔法少女にならずに済んだみたいだ。
え? 人質取ったことある時点で最悪だって? それはそう。
「……ホワイトポイズナー、気をつけて、あいつは幹部で…」
「幹部!? あいつが……」
スターチスと純白ちゃんは何やらボソボソと会話しだしたみたいだ。キュヴァちゃんの再登場に戸惑っているんだろうか?
まあ、純白ちゃんは初邂逅だろうしね。
「それで、どっちとやる? 私はどっちとでもいいよ。どうせ変わらないし」
キュヴァちゃんは俺に選択を委ねてくる。
…んー。純白ちゃんは俺のこと怖がってるし、あんまり俺と戦わせて怖がらせちゃうと可哀想かな。スターチスは元々殺意マシマシタイプだろうし、俺と戦うことに躊躇なんてないだろう。だから……。
「メイドの方かな。キュヴァは白い方で」
「ん。おっけー。それじゃ、一仕事行きますか。労働の後のゲームは最高だからね」
あ、意外とそういう感じなんだ。てっきり、労働なんてだるいー働きたくないでござるー! とか、働いたら負けかなと思ってる、的なタイプだと思ってました……。
「ずっと休日より、労働の後の休暇の方が良いみたいなのと一緒かな?」
「んーまあそんな感じ? それに、ずっとゲームしてても目に悪いしね」
そういうの気にするのね。意外と健康的?
「……確かにキュヴァって右目隠れてるから、左目に負担かかって、ずっとゲームしてたら目疲れそうだしね」
「急にフレンドリーになったね君」
「え、駄目?」
えーだってキュヴァでいいよって……。いやまあ仲良くしようとは言われてなかったけども。
「いや、別に良いけど。今度一緒にゲームする?」
「え、いいの? する!」
「……わかった。今度おすすめのやらせてあげる」
やったー。