ブラックルーイと幹部の少女が、こちらを見つめる。
詳細は知らないが、ゲームをするだとか何だとか、こちらのことを舐めているとしか思えないような会話をしていたことだけは聞き取れた。
…本当に、私達の存在を、おもちゃか何かだとしか思っていないみたいだ…。
「……ふざけるな…!」
『ワ・ルーイ』は、許されざる悪だ。人のことを何とも思っていない、感情を踏み躙る最低の組織だ。
……絶対に野放しにしてはおけない。……“魔女”にやられっぱなしではいられない。
「それじゃ…やり合おうか。君の相手は、この私…」
そう言って、幹部の少女は私の方へと向かってくる。
私はそれを、自身の右腕に持つダガーで狙う。
「死ね…!」
殺意を込めた一撃。が、当然のようにかわされる。仮にも幹部、この程度でやられてしまうほど、安くはないということか。
「さて……どうしようかな」
「『クイックポイズン』」
『クイックポイズン』は、高速で毒液を発射させる魔法で、対象の皮膚を溶かすほどの強力な毒を相手に押し付けることができる。魔力を使えば、防ぐことはできるが、魔力で防いだ場合、防いだ分相手の魔力は失われる。
“魔女”相手には、魔力が枯渇した状態でこの魔法を使って、彼女の皮膚を溶かし尽くしてやるくらいの気持ちでいたが。
幹部の少女にそれはしない。優しさとか、そういう話でなく、単純に持ち得る手札の中でこの魔法が最適だと判断したというだけだ。
魔力を少しでも削ぐ。倒す目的ではない。私は、苺ちゃんが……キューティバースがここにやってくるまでに、彼女をできるだけ消耗させる。
「『ブラッドテンタクル』」
そして、幹部の少女は、既に私の『クイックポイズン』が危険だと判断していたようで、事前に手を切って出していた血を利用して、触手を作り出し、毒液を防いでいた。
……何も問題はない。彼女の手札を一つ減らせた。それだけでも、十分だろう。
それに、彼女が魔法を使えば、その魔法の行使で発生した魔力の4割を私のものにする『マジックギフト』はいまだ有効だ。
彼女が魔法を使う毎に、私の魔力は蓄積される。そうなれば、一度使った魔法を再度使うだけの魔力を貯めることができるだろう。
「高速毒液噴射。面白いね、それ。使ってみよっと」
「……は?」
「『クイックポイズン』」
幹部の少女が発した瞬間、彼女の手から、毒液が、私目掛けて高速で飛ばされる。
私は咄嗟に、魔力を用いて『クイックポイズン』を防いだ。
それは、いい。
それはいいのだけど…。
「どうして、その魔法を…?」
「どうして? 理由は特にないよ。ただ、私が『模倣の魔』っていう、相手の魔法をコピーできる魔法を持っているだけだから」
「コ、ピー……?」
「そうだよ、コピー。模造品に相応しい魔法でしょ? 『ブラッドテンタクル』も、オクトロア様からパクったやつだし」
人の魔法を真似できる…?
そんな、馬鹿げた魔法が…。
…なら、『マジックギフト』をあの幹部の少女が発動すれば、私の優位性は失われて……。
……いや、彼女の目の前で発動したわけじゃない。なら、まだ『マジックギフト』をコピーされる心配はないはずだ。
けど……。
こいつの前で魔法を使うことは、手札を晒すだけにとどまらず、こいつの魔法のレパートリーを増やしてしまうことにも繋がってしまう。
……生かしておけば生かしておくほど、こいつを倒すのは難しくなる。
……はやく始末しないと。じゃないと、こいつはとんでもない怪物に…!
「次はヒンナ様のを使おうかな。アレを完全模倣は不可能だけど」
「な……」
『…! 逃げるクル! まともにくらえば……』
幹部の少女の手が、機械のように無機質に、それでいて、大砲のような形へと姿を変えていく。
彼女は、無表情で、体が変形しても、何の痛みを感じる様子もなく、ただ自身の手が、原型がなくなるくらいまで変化させる。
クールが警告をするなんて、よっぽどだ。それに、クールが逃げろと言った時点で、私の持つ魔法であの魔法に対処する方法なんてない。
逃げないと…!
「あっ………」
『ホワイト…!!』
しかし私は、焦るあまりに足を挫いてしまい、その場によろけて転んでしまう。
クールが焦っているのが伝わってきて、私はどうすればいいのかもわからなくなって。
「『グレートデストロイヤー』」
少女の腕から、高度な魔法エネルギーの塊が放出される。
私はただ、迫り来る恐怖に、目を瞑ることしかできない。自身の魔法を模倣され、動揺していたのもあるのだろう。
今の私は、とてつもなく無力だった。
「キュート!」
『…! 苺! 急ぐっきゅ! 今回の敵は、怪人やブラックルーイだけじゃないっきゅ!』
怪人とブラックルーイだけじゃない?
まさか、幹部も……? それじゃ、薬深ちゃん1人じゃ危険だ。急がないと…!
「キュート、いくよ!」
『わかったっきゅ!』
私はキュートに声をかけ、高速で変身を終わらせて魔法少女キューティバースになる。
聖歌や遊美ちゃんが戦えない今、薬深ちゃんが頼りにできるのは私しかいない。心細い中、臆病な自分を押さえ込んで必死に戦っている薬深ちゃんのことを考えると、居ても立っても居られない気持ちだ。
私は走って現場へ急ぐ。
案外、キュートと私が合流した時点は、かなり戦場に近いところに位置していたらしく、2分も立たないうちに薬深ちゃん……ホワイトポイズナーの姿を確認することができた。
けど、彼女は…。
『まずいっきゅ! あの魔法は…!』
「や…ホワイトちゃん!」
ホワイトは、地べたに尻を付いていた。
彼女に、まるで銃口を向けるように、砲弾型になった手を向けている少女の姿を見て、私は咄嗟に、ホワイトを守らなければと、そう思い…。
『キューティ! 危険っきゅ!』
キュートの警告も無視して、私はホワイトを抱きかかえ、勢いのままに横合いへと転げ落ちるようにして、少女の砲弾から逃れた。
『ほっ……間一髪だったっきゅ』
少女の砲弾からは、魔力の塊でできたビームのようなものが噴射されていて、アレを食らっていれば、今頃私はどうなっていたのか、想像するだけでも恐ろしい。
「やっぱり、幹部最強火力は完璧には模倣できないか…。あれじゃアジトを破壊するほどの威力には届かないね」
「貴方は…?」
「……自己紹介が必要? まあ、別に減るものじゃないしね。私は幹部キュヴァ。全ての魔法をコピーできる『模倣の魔』を持ってる。……どう? 絶望した?」
全ての魔法をコピー……。さっきの魔法も、誰かの魔法を模倣したものなんだろう。
……魔法少女は、一度の戦闘で、一回使った魔法を二度目に使おうとすると、魔力の要求量が急激に増加してしまうという仕様がある。だから、自分の持っている魔法の使いどきは、よく考えておかないといけない。
彼女は幹部で、魔法少女ではない。けど、魔法の仕組みは魔法少女とそう大きくは変わらないはずだ。なら、魔法少女と同様に、どこでどの魔法を使うべきかは何となくでも決めておいた方が良いのだけど…。
全ての魔法をコピーできるのなら、その心配はない。
加えて、相手と同じ魔法を繰り出すことができるのだから、相手の魔法を相殺することだって容易なはず。
かなり厄介な相手だと思う。
……私や薬深ちゃん……ホワイトでは、相手にするのは難しいだろう。
……遊美ちゃんのように…………ムーンノウシーカーのように、特定の魔法を持たないような魔法少女であれば、目の前の少女のようなコピー持ちにも対応できるのかもしれないけど…。
この場に、ムーンノウシーカーはいない。
私達だけで、彼女に対抗しなければいけない。
「……本当は、貴方よりもブラックルーイの相手をしたいところなんだけど……」
文句を言っても仕方がない。
私達がこの街を守らないといけないのだから。
今、聖歌は動けないのだから。
本当はもうちょいあるけど一旦区切る