「……本当は、貴方よりもブラックルーイの相手をしたいところなんだけど……」
文句を言っても仕方がない。
私達がこの街を守らないといけないのだから。
今、聖歌は動けないのだから。
薬深ちゃんことホワイトをキュートに預けながら、そんな風に考えていた私だったが。
「そうなんだ。じゃあ、ブラックルーイと戦う?」
「へ?」
あっさりとそう言う目の前の少女に、私は思わずポカンとしてしまう。
「どういう…?」
「だって、ブラックルーイと戦いたいんでしょ? 別にいいよ、どっちでも。私は、仕事した感が欲しいだけだし」
よく、分からない。
ブラックルーイも、その目的、素性、何もかもわからなかった。
私は、『ワ・ルーイ』のことを何も知らない。
キュート達妖精のことも、よく分かっていない。
わからないことだらけだ。
聖歌がどうして学校に来れなくなったのかも、知らない。
だから私は、知りたい。
街を守るだけ、それでもよかった。
けど、私はきっと、知らなきゃいけない。
「……貴方は、どうして街を破壊するの? ……『ワ・ルーイ』は、私達とは手を取り合えないの?」
「どうして、か。そういう風に生まれてきたからとしか。……『ワ・ルーイ』は君達とは手を取れないよ。君達の知らないところでも悪事を働いているし、それに、『ワ・ルーイ』は、人の命も尊厳も、何とも思っていない連中だらけだから」
言葉が通じるのに、どうして理解し合えないんだろうか。
ブラックルーイもそうだ。
考え方が根本的に違って、私達とは完全に分かり合えない。
………対話で解決できたのなら、よかったのに。
「……貴方も、そうなの?」
「さあ、どうだろう? けど、人の生き死には面白い。うん、そうだね、人が絶望したり、苦しんでもがいたり、足掻いたりしている姿を見るのは、面白いかな」
「生き死にが面白いって…」
「面白いよ。銃で撃ち合って死んだり、穴に落ちて死んだり、食い殺されたりする姿を見るのはね」
そんなにも、人の死を……まるで鑑賞するみたいに見てきたと、彼女はそう言いたいのだろうか。
人間の生き死にを娯楽のように扱って、それで……。
「……どれくらいの人を……殺したの……」
「さあ? もう覚えてないかな。髭が特徴的なおじさんを100人は穴に落としたし、銃での撃ち合いは何回死んだかわからない。食い殺されたりは、まあ積極的にはなかったかな。食い殺されない方が面白いし。たまに頭潰されたりとか、そういうのもあるね〜」
人の死を、軽くそう語る彼女の姿を見て、私は本当に、『ワ・ルーイ』という組織とは、分かり合うことはできないんだということを実感する。
ブラックルーイが、実は怪人と共に街を襲っている時に、死者を出していないというのは、たまたまだったのだろうか。
私は、そこにブラックルーイとの対話の余地を見出せるかもしれないと、聖歌のことについても、何か分かるかもしれないと、そう思っていたのに…。
「…ブラックルーイも、人を…殺したり、するの…?」
「まだ殺したことないんじゃない? けど、約束はしたよ。一緒にやろうってね。おすすめのを紹介するとも言った。だからそのうち死ぬかもね。たくさん」
……ブラックルーイが人を殺していない。それは、聖歌の希望的観測に過ぎなかったんだろうか?
でも、じゃあ何で聖歌はあんなに、ブラックルーイのことを……。
「ブラックルーイは、まだ人を殺してないわ」
幹部の少女、彼女と対話をしている私の耳に、後方から聞いたことのない声が届く。
思わず私が振り向くと、そこには、赤い髪をサイドテールにした、私と同じ魔法少女の子がいた。
彼女の後方には、怪人が倒れ込んでいる。
……どうやら、彼女が怪人を倒してくれていたようだ。
「貴方は……?」
「はじめましてキューティバース。私は魔法少女ライオネルグレーテ。ライオネルって呼んでくれるといいわ」
ライオネルグレーテ。そう名乗った彼女は、私の肩に手を置く。
どうして私のことを知っているのか、面識あったかな…? なんて風に思考を巡らせる。けど、心当たりは特になかった。
「ライオネル、さん? その、ブラックルーイが人を殺してないというのは…」
「ちょっとね。話すとショックを受けるかもしれないから、あまり詳しくは話せないんだけど。……とにかく、ブラックルーイは、私達と同じ魔法少女で……同じ人間。幹部達とは違うわ。あとさん付けはいらないわよ」
同じ魔法少女で、同じ人間。
………幹部達とは違う。
目の前の、人の死を何とも思っていない、それどころか、娯楽として消費しているような、彼女とは違うと。
聖歌は、ブラックルーイが現れた時から、様子がおかしくなりはじめていた。
ここ数日、学校に来れていない聖歌に、何か理由があるとすれば。
それはおそらく、ブラックルーイ関連になるだろう。
手がかりがあるとすれば、多分それしかない。
目の前の、人の生死を娯楽として消費する幹部の少女も放っておくわけにはいかない。
けど、あの幹部の少女は、どうも本気で私達を潰しにかかるつもりはないように思える。なら……。
「ライオネル、私、少しブラックルーイに聞きたいことがあるんだけど………あの子の相手、お願いできる?」
「ブラックルーイに…? いいけど…」
私は、つい先ほど出会ったばかりの魔法少女ライオネルグレーテに、幹部の少女の相手をお願いする。
そして、もう1人、メイド服姿の、これまた私の知らない魔法少女と戦っているブラックルーイのところへ行く。
とりあえず、彼女の耳に、私の声が届くところまで。
「……ブラックルーイ!!!」
突然の私の大きな声に、ブラックルーイはびくりと体を震わせ、こちらに目を向ける。
同様に、メイド服姿の魔法少女も、私の方に注目し出した。
「……私は貴方に、聞きたいことがある!」
「……? い、いいけど」
「レディ、これは、どうすれば…?」
『わかりませんわ。とりあえず、見守ってみることをおすすめしますわ』
メイド服の魔法少女と彼女の妖精は、私の様子を見守ることに決めてくれたようだ。
……聖歌の様子は、今日見に行くつもりではあった。
けど、遊美ちゃんがそばにいながらも、何日も学校に来れていない状況というのは、あの聖歌のことを考えると、やっぱり流石におかしいと思う。
だから、少しでも、何か……。
「………」
言ってもいいものか、悩む。
これを言えば、魔法少女シャイニングシンガーの正体を、バラすことに繋がってしまうかもしれない。
けど……もし、何か。
何か掴めるなら…!
「貴方は……光聖歌……この名前について、何か知ってる?」
「………え?」
明らかに動揺するブラックルーイの姿を見て。
私は、やっぱり何かあるんだと確信する。
「知ってるの? だったら、教えて。今、聖歌は!」
「し……知らない! 知らない知らない知らない!! そ、そんな名前! 知るわけ……」
「レディ、これはもしや……」
『ええ、まさか記憶が……?』
メイド服の魔法少女も、なにかに気づいた様子で、妖精と話し込んでいる。けど、今は彼女らに構っている場合じゃない。
そう思い、さらにブラックルーイに質問を投げかけようとした、その時だった。
「頭……が………痛っ………」
ブラックルーイが、突然頭を押さえだしたのだ。
「……? ど、どうしたの? 一体、何が…」
「……やっぱり、何か仕込まれてたみたい。レディ、これはもう…」
『そ、そんな……』
メイド服姿の魔法少女は、何かを知っている…?
ブラックルーイのみに起こっている、何かを……。
「……今日は…お、しまい……。怪人もやられたし……じゃあね」
「待って!」
ブラックルーイは、私が呼び止めるのも気に止めず、この場所から去っていく。
……聖歌とブラックルーイの間には、やはり何かがある……?
…聖歌に、問い詰めなきゃいけない。おそらく、遊美ちゃんも何か知っているんだろう。
それに……。
「私は、どうすれば……」
『……私にも、何が何だか……』
彼女達にも。