ブラックルーイが去った後、幹部の少女もそれに倣うように戦場を去っていき、その場に残された私達は、とりあえず魔法少女としての変身を解除し、互いに自己紹介しあうという流れになっていた。
「私の名前はリーベル=ローゼンベルク。出身はドイツだけど、育ちは日本よ。魔法少女としての名前は、ライオネルグレーテ。よろしくね」
ドイツ人らしい彼女は、フランクに。
「友崎鳴。ベル………リーベルとは、幼い頃からの仲。魔法少女としての名前は、スターチススクラッチ。よろしく」
ダウナーな少女は、淡々と、簡潔に。
『2人と契約している、妖精のレディですわ。よろしくお願いしますの』
そして、彼女達と契約している猫のような妖精は、カーテシーのような仕草をしながら丁寧に私に自己紹介を行ってくれた。
「私は桃乃瀬苺って言います。魔法少女としての名前は、キューティバースです」
私も彼女たちに倣い、自己の紹介を行う。
今日初めて出会った魔法少女、彼女達は、きっと何かを知っている。
聖歌がああなってしまった原因、それに関係しているであろうブラックルーイについて。
私は、探らなければいけない。
そして、その情報を探る上で最も手っ取り早いのは、彼女達から情報を得ることだろう。
「あの……早速で申し訳ないんだけど……、リーベル達は、ブラックルーイについて何か知っているの?」
初対面でいきなり聞くのは失礼かもしれないが、同じ魔法少女である以上、ブラックルーイの話題は避けては通れないし、戦場で出会った仲なのだ。ここでいきなり普段どう過ごしているのか、なんて世間話に花を咲かせる方がおかしい。
そう思った私は、直球に彼女達に問いかけることにした。
「ブラックルーイについてね。もちろん知ってるわ。私達は、ブラックルーイの後を追って、組織のアジトに潜入したもの」
「ベル、あまりベラベラとその話をするのは…」
『……鳴、なんでも抱え込もうとしてしまうのは、貴方の悪い癖ですわ。協力者は多いに越したことはないですもの。彼女にも情報は共有しておくことをおすすめしますわ』
「アジトに潜入……」
「まあ、といっても、盗み出せたのはブラックルーイに関する資料だけで、他は全然だったし。何なら、そのアジトも幹部らしき奴が完全に破壊しちゃったんだけどね」
「でも、凄いよ! 私達じゃ、そんなこと、絶対できなかった」
私や聖歌には、組織のアジトの場所なんてさっぱりで、皆目見当もつかなかった。それを、彼女達は探し当て、さらにはブラックルーイの資料までも持ち出したのだという。
私よりもよっぽど優秀で、頼りになる。彼女達が仲間になってくれるなら、すごく心強いなぁなんて、私は呑気に考える。
…と、それは良いとして、とにかく、ブラックルーイの情報だ。
彼女について、私は知らなければならない。
「まあね、それで、ブラックルーイについて、だっけ」
「うん。ブラックルーイについて、リーベル達が知っていることを私にも教えて欲しいんだ。私の親友のためにも、必要な話だから」
私の言葉を聞いて、リーベルは確認を取るように鳴ちゃんのことを見つめる。
その視線を受けて、鳴ちゃんは首を横に振り、まるで駄目だと、話すなと言っているようだった。
「……鳴、この話は、苺達にも関係のあることなんだよ。全部私達で抱えてはい解決ってわけには…」
「……ベルが言いたいなら、言えば良いよ。私に許可を取る必要はない」
「何その言い方。ま、良いけど。……それじゃあ、ブラックルーイについて、私達が知っていることを話すわ。……ショッキングな話になるから、覚悟して聞いてね」
そうして私は、知ることになる。
今まで対立してきた、底の知れない敵の真実を。
初めて出会った時、どうして聖歌がブラックルーイに反応していたのかを。
「っ……」
息を呑む。
ついに知るのだ。ブラックルーイの正体を。
私は、真剣な眼差しでリーベルのことを見つめる。
やがて彼女は、私が覚悟を決めたことを確認したからか、ドイツ人にしては流暢な日本語で話し始めた。
「……結論から言うと、ブラックルーイは、組織の被害者よ」
「被害者…?」
そうなのだろうか?
彼女は、自分自身の意思で、街の破壊に加担しているようだった。だというのに、被害者…?
「ブラックルーイは、この町で普通に生まれて、普通の少女として生きてきた、ただの一般人だった。……けど、彼女はある日、街で、怪人……いえ、厳密には、妖魔かしらね。それに襲われたのよ」
「……それで、どうしてブラックルーイは組織に…?」
「……そうね。妖魔に襲われた後、その少女は、組織に拉致されたの。そこで……恐ろしい目に……」
リーベルの顔が曇る。段々と、顔色が悪くなってきているのが、付き合いの浅い私でもわかる。恐ろしい目とは、一体…。
「……洗脳装置。……人体を拘束して、脳に触手のようなものを入れ込み、記憶の消去と、倫理観の欠如。そして、組織への忠誠を植え付ける、恐ろしい装置。少女は、その装置に無理矢理繋がれて……」
「洗脳……装置…?」
ブラックルーイは、自分の意思で、街を破壊していると言っていた。
それは、紛れもない真実だ。
だから私は、ブラックルーイが、性格の捻じ曲がった、悪辣で、理解の及ばない存在なのだと思っていた。
事実、それも間違いではないのだろう。
けど、それが……組織に歪まされたものなのだとしたら?
洗脳によって、本来やりたくもなかったことを、嬉々としてやるように変えられてしまったのだとしたら?
「そんな……そんなのって……」
「……彼女は、装置に繋がれている時、必死に助けを求めていたわ。愛する家族や、友人に。けど……あいつらは……組織の奴らは、それすらも踏み躙って……!」
「ベル、少し感情的になりすぎてる。……今は、彼女に説明している途中だから、少し落ち着いて」
「ええ、ごめんなさい。あの映像のことを思い出したら、やっぱり冷静にはいられなくて……」
「映像…?」
ふとリーベルが溢したその単語に、私は思わず反応する。
映像とは何なのだろうか?
まさか、洗脳している時の映像でも残っているというのだろうか?
まさか、そんな趣味の悪いこと…。
『被害者の少女が、実際に洗脳装置に繋がれて、洗脳されている様子を記録した映像のことですわ。胸糞が悪いので、あまり見ることはおすすめしませんの』
「レディ! それは」
『鳴、あの映像を見させないために、貴方があえてその存在を知らせようとしなかったことは理解していますわ。けれど、彼女にだってその映像を見るか見ないか選択する権利くらいはありますのよ』
「その映像……私が見ても良いの?」
「やめておいた方がいい。貴方みたいに、優しい世界で生きてきたような、平和ボケした人間には刺激が強すぎる」
「まあ、そうね。正直、あの映像は、私ももう二度と見たくはないと思ってるわ。……あんなの、酷すぎる……」
彼女達がそれほどまでに嫌悪するくらいの映像。
一体、どれほど酷い光景が映されているのだろうか。
『……私も、進んで見たいとは思いませんわ。ですから、映像を視聴するかしないかは、貴方の判断にお任せしますの。けれど、その前に、知っておかなくてはならないことがありますわ』
リーベル達の契約妖精、レディは、一呼吸おいて、私のことを気遣いながら、話を続ける。
『……ブラックルーイの正体。組織の洗脳による被害者。彼女は……貴方のよく知る、光聖歌に関係している人物』
「え……?」
『……そうですわ。彼女の正体は、光聖歌の妹………光千夜……ですの』
点と点が、繋がった気がした。
どうして、聖歌はブラックルーイを前にすると、いつもと様子が違うように見えたのか。
何故、学校に来れないような状況に陥ってしまっているのか。
それが、今…。
「……私、行かないと」
「行くって、どこに?」
「聖歌のところに。私、何にも知らなかった。知らないままで、聖歌が傷ついてるのにも気付かなくて……だから……」
『……わかりましたわ。それでは一つ、最後に伝えておかなければならないことがありますわ』
「……うん」
『ブラックルーイの……光千夜の洗脳の様子を記録した映像は、貴方の契約妖精……キュートに渡してありますわ…。そしておそらく……キュートは、光聖歌へその映像を渡していると思われますの。……くれぐれも、中身を視聴する際は、慎重にお願いしますわ』
レディは私のことを気遣い、最後にそう言葉を残してくれる。
……キュートも、知ってたんだ。私にはそんな素ぶり、一切見せなかったくせに。
……後で全部問いただしてやろう。今は薬深ちゃんの様子を見ているところだから、無理だろうけど。
「リーベルに鳴ちゃん、それにレディ。私に、ブラックルーイの話を聞かせてくれてありがとう。……同じ魔法少女同士、今後も協力していけたらいいなって思ってるから、その……これからもよろしくお願いします」
私はリーベル達に向けて深く頭を下げ、感謝の気持ちを述べる。
……ブラックルーイの正体、いまだに、頭の中で整理がついていない。
けど、とにかく、今は聖歌のことだ。
私は、リーベル達に別れを告げ、急いで聖歌の家へと向かう。
……今まで、聖歌にはたくさん世話になってきた。
だから今度は、私が…!
「待ってて聖歌。今行くから!」