修正加えたので、よろしくお願いします。
ミス投稿の際の感想には目を通させていただきましたが、消してしまったので本当に、申し訳ないです。
こちらの不手際で本当に申し訳ないですが、今後とも本作をよろしくお願いします。
私は光家の前に再び立つ。
キュートは、私がリーベル達と話している間に、薬深ちゃんを送り届けに行ったようで、結局聖歌の家に訪問するのは、私だけになった。
本当は、薬深ちゃんに話を共有したり、キュートに隠してたことを聞き出したりもしたかったんだけど、仕方がない。
今必要なのは、聖歌がどうなっているのか、だ。
ブラックルーイの正体は、聖歌の妹……千夜ちゃんだった。
おそらく、聖歌はその事実を知っていて、だから……。
確かめないといけない。
聖歌が、何を見たのか。何がきっかけで、聖歌が学校に登校できなくなってしまったのか。
私は、インターホンをそっと押す。
戦闘に行く前に押した時は、聖歌のお母さんすら扉を開ける気配がなかった。不在だったんだろうか?
そう思い、暫く待ってみる。
……誰も出てこない。
私が立ち寄った時間が悪いのかな?
そんな風にぼんやりと思いながら、もう一度インターホンを押してみる。
………やはり出てこない。
本当に時間帯が悪かった? 時計を見てみる。時刻はすでに17:00を回っていて、この時間帯なら聖歌のお母さんは家にいるはずなんだけど…。
……ここ最近忙しくて家にいない?
けど、そうだとしたら、何で遊美ちゃんは……。
「そうだ。遊美ちゃんに電話をかけてみれば良いんだ」
私はスマホを取り出して、遊美ちゃんへと連絡する。
遊美ちゃんは、暫く聖歌の様子を見てくれていたはず。それなら、何か知っているかもしれない。
暫く電話をかけ続けてみる。
けど、遊美ちゃんは出てくれない。
「おかしいな……。この時間帯……塾にも行ってないはずなんだけど……」
遊美ちゃんは真面目な子だから、夜の時間帯に塾にも通っている。
年頃の少女が夜に1人で出歩くのを危険だと思うかもしれないが、送迎は両親がしてくれるらしいので、そこは心配しなくても大丈夫だそうだ。
けど、この時間帯、まだ遊美ちゃんは塾にも行っていなければ、部活動もしていない。
遊美ちゃんにとってこの時間帯は、友人のために予定を空けている時間であり、また、万が一怪人の被害が出た時に魔法少女に変身して活動するための時間帯なのだから。
友人の多い彼女のことだし、友達とどこかで遊んでいて、連絡に気付いていない可能性もある、けど……。
とにかく、連絡が付かないのなら仕方がない。
私は、もう一度インターホンを押して、付属のスピーカーに話しかけてみる。
「聖歌、私だよ。……ブラックルーイのこと、全部聞いた。聖歌が私に隠してたのも知ってる。けど、私は……私は聖歌の力になりたいよ……だからお願い、開けて」
聖歌に向けて、呼びかけるように声をかける。
……自室にいるだろうし、聞こえていないのかもしれない。
けど、それでも。
何もしないよりは、きっといい。
何も知らない人が見たら、インターホンにひたすら話しかけ続ける変質者に見えているかもしれない。
でも、それでも構わない。
「聖歌…、お願い!」
私は、聖歌がどんな思いでブラックルーイと対面していたのか、全く知らなかった。
事情も知らないで、ブラックルーイをただの悪と切り捨てて……。
無知で無力な私だったけど………だからこそ、今は聖歌の力になりたいと、本気でそう思ってる。
だから、出て欲しい。
そんな気持ちを込めて、呼びかけ続けて数分が経過したときだった。
………光家の、玄関の扉が開いたのは。
「! 聖歌!」
私は思わず駆け出す。
聖歌が、私の呼びかけに応じて出てきてくれたのだ。
そう思い、玄関前まで出向いた私の前に現れたのは……。
「……すみません…。私です」
疲れた顔をした、遊美ちゃんだった。
「遊美ちゃん、聖歌の家に来てたんだね」
「……そうですね。来てました」
私は、遊美ちゃんと共に、聖歌の部屋の前まで移動する。
……聖歌は、ここで……。
私は、ノックをしてみて、聖歌から返事がこないか、一応試してみる。
……当然のように、返答はなかった。
「……遊美ちゃん、開けても大丈夫そうかな?」
「……苺先輩が、覚悟できたのなら、開けてください」
「………うん、出来てるよ」
私は、遊美ちゃんに確認を取ってから、そっと聖歌の部屋の前にある扉のドアノブに手をかけ、優しく、あまり音を立てないようにして開く。
扉が開き、まず真っ先に視界に飛び込んできたのは…。
「聖歌……」
手入れの行き届いていないボサボサの髪で、浮ついたようにぶつぶつと独り言を話す、変わり果てた親友の姿だった。
『どうして、つれてきたんだっきゅ………』
「……私には、どうすれば良いのか分からなかった。もう、分からないから、だから……」
「…キュート? どうして……薬深ちゃんを送って行ったんじゃ……」
そして、その場には何故かキュートもいた。
キュートは、まるで聖歌を守る騎士のように寄り添っていて、姫を守護する妖精さんのようでもあった。
『それならクールに任せたっきゅ。キューは聖歌のことが心配で……』
そっか。キュートもキュートなりに、聖歌のことを心配していたみたいだ。
けど、一体どうして、聖歌はこんなことに……。
「聖歌? 聞こえてる? 私だよ」
「チ…………ョ……」
私の声は、聖歌には届いていないみたいだった。
私は、こんなになってしまっている親友の状態にも気付けずに、呑気に登校していたんだ。
「聖歌……ごめんね………私……聖歌のこと、全然見てあげられてなかった」
薬深ちゃんがいたから、なんて、そんなの言い訳にしかならない。薬深ちゃんとも仲良くする。それは大事だ。けど、だからといって、親友である聖歌のことを蔑ろにするべきではなかった。
……もっと、ブラックルーイの存在に疑問を持ち続けていれば。
ブラックルーイに対する考察を、自分なりにでも出そうとしていれば…。
聖歌の状態にも、気付けたのだろうか。
そう思うと、私はやるせない気持ちになる。
「聖歌、ごめんね……」
私は、何も聴こえていない聖歌の背中を抱きしめる。
私の声も、感触も、体温も……何一つ彼女には伝わっていないのかもしれない。
けど、私は、今の聖歌を見て、抱きしめずにはいられなかったんだ。
それにしても……。
聖歌がここまで壊れてしまうなんて、一体、どうして……。
【ブラックルーイの……光千夜の洗脳の様子を記録した映像は、貴方の契約妖精……キュートに渡してありますわ…。そしておそらく……キュートは、光聖歌へその映像を渡していると思われますの。……くれぐれも、中身を視聴する際は、慎重にお願いしますわ】
まさか……。
「キュート、もしかして、聖歌に………ブラックルーイの映像を、渡したの……?」
「苺先輩……どこから、そのことを…?」
「リーベル達……戦闘中に出会った他の魔法少女の子達に聞いたの。そこで、ブラックルーイの正体と、その映像のことを聞かされて……。それで、キュート、どうなの?」
私はキュートを見つめる。
その映像、リーベル達の反応から見るに、かなりショッキングなものらしい。
それを見せていたのなら、おそらくそれが聖歌が壊れてしまった原因だろう。
『そうっきゅ。聖歌には……もうキッパリブラックルーイのことは諦めてもらおうと思って、それで……聖歌に、光千夜が洗脳されてしまう映像を見せつけたんだっきゅ』
そして、私の予想通り、キュートは聖歌に映像を見せている様子だった。けど、キュートが話す中で、私は一つ気になることがあった。
……ブラックルーイのことを諦めてもらおうと思った、という部分についてだ。
一体……どういう……。
「キュート、説明して。ブラックルーイは聖歌の妹なんでしょ? それを諦めてもらうって、どうして……」
『だって、ブラックルーイはもう手遅れなんだっきゅ! 組織に洗脳されて、記憶も失われて、倫理観さえも改造されたんだっきゅ。組織にあそこまでされた時点で、もうブラックルーイを光千夜に戻すことは絶対に不可能なんだっきゅ!!』
……聖歌が壊れてしまった理由が、分かった。
妹が洗脳されている映像を見せつけられて。
身近にいたはずの妖精のキュートに、その妹を諦めろと告げられて……。
もうどうにもできないのだと、辛い現実を叩き込まれて……それで……。
「……キュート……どうして……。そんなことしたら、聖歌の精神がおかしくなっちゃうことくらい、わかるでしょ?」
『もしそうなったとしても、聖歌の記憶を消せば良いだけっきゅ! 光千夜の記憶を消せば、もう何も悩むことはないっきゅ』
「それは違うよ! 大切な妹との記憶を消されて……そんなので幸せになるなんて……間違ってる……おかしいよ……」
「苺先輩……」
私にも、弟がいる。
喧嘩もするし、時にはお互いのことが嫌になることもあるけど。
今までの弟との記憶が消えたら、そんな悲しいことはないと、きっと私はそう思う。
聖歌だって、きっと同じ気持ちなはずだ。
『心の傷になるっきゅ。その記憶を残しておけば、一生聖歌は光千夜のことで苦しみ続けることになるっきゅ。そうなるくらいなら……。そうだっきゅ!! もう苺にもバレてしまったのなら、しょうがないっきゅ! 苺! キューと協力して、聖歌の記憶を消してくれるっきゅ?』
可愛らしい声をしながら、キュートは残酷な選択を私に迫ってくる。
……その提案に、私は……。
「そんなの…駄目だよ! 記憶を消すなんて、却下! キュートは、キュートはもうちょっと、聖歌の気持ちに寄り添ってあげてよ…。キュートには兄弟姉妹がいないから、分からないのかもしれないけど……それでも、もうちょっと想像力を働かせるくらいできないの……?」
全力で否定する。人の記憶を、勝手な善意で無許可に奪うなんてこと、許されない。百歩譲ったとしても、聖歌に許可を取ってから行うべきだと私は思う。
けど、聖歌の今の状態を見るに、許可を取ることなんて絶対に不可能だろうし、キュートの提案を私が受け入れることはない。
『苺は酷い奴だっきゅ! 遊美はまだ、“尊厳”とか、理解のできる理屈を並べ立てていたっきゅ。けど、苺のそれはただの感情論っきゅ! そんな一時の感情だけで、一生聖歌を苦しませたいなら、好きにすれば良いっきゅ!!』
……どうして、人間に感情があるのか。
理屈は、大切だ。法やルールは、理屈で、論理立てて構成されている。そこに感情を絡ませ過ぎてしまうと、きっとそのシステムは崩壊してしまう。
けど……。
「……感情も、大切だよ。感情がなくなったら、私達はただの機械だよ。感情を度外視しちゃったら、それこそ私達は……“生きてない”。死んでいるも同然だよ…」
『……苺のまっすぐさには、感服するっきゅ。いいっきゅ。苺がその選択をするなら、キューはそれを尊重するっきゅ。けど、きっと、聖歌は一生苦しみ続けることになるっきゅ。それでもいいなら……』
……確かに、妹との記憶を全て消せば、聖歌はここまで致命的に壊れてしまわずに済んだのだろう。
けど、それは……姉としての聖歌を殺すことに等しい。
聖歌から、姉であり続ける権利を、無闇矢鱈に奪っていいわけがない。
……けど、記憶を消さないことで、聖歌が苦しみ続ける、その理屈も、確かにその通りだとは思う。だから……。
「……私が……私がブラックルーイを……光千夜を取り戻す。彼女を救い出して、もう一度、聖歌と笑い合っていけるようにする。聖歌がもう苦しまないように、もう一度、聖歌が姉になれるように」
ブラックルーイを………千夜ちゃんを救い出すことができれば。
そうすれば、聖歌の壊れてしまった心も、少しずつ癒えていくだろう。
それに、千夜ちゃんのことを救える。
悪の組織の被害者を、救い出すことができる。
それは、私が魔法少女としての力を振るうための、十分な理由になる。
誰もが幸せな、ハッピーエンドを迎えることができるなら。
それが1番良いに決まってる。
そう思って、私はキュートにまっすぐ、私の思いを伝える。けど……。
『苺の純粋さは、失いたくないっきゅ。けれど、これはどうしようもなく残酷な事実なんだっきゅ。純粋さだけでは覆せない、ただの現実なんだっきゅ。ブラックルーイは救えない。オクトロアの触手によって破壊された記憶は、二度と元には戻らない。破壊された倫理観が戻ることはなく、残虐性が失われることもないっきゅ』
キュートは納得してくれない。感情なんて、綺麗事なんてごめんだと、切り捨てるかのように捲し立てる様子に、今のキュートに、感情的に訴えても無駄なのだと、私は悟る。なら……。
「ねえ、知ってる? ……脳って……まだまだ研究が未発達で、未知数な分野なんだって」
そうだ。思い出せ私。
ブラックルーイと対面した時、彼女は、どういう反応を見せていた?
「だからさ、失われた記憶が、実は残ってた。そんなことも、あり得るんじゃないかなって、私はそう思うんだ」
光千夜は……。
千夜ちゃんは……。
【知ってるの? だったら、教えて。今、聖歌は!】
【し……知らない! 知らない知らない知らない!! そ、そんな名前! 知るわけ……】
まだ、残ってる。
ブラックルーイは………聖歌の名前に、明らかに反応してた。
ブラックルーイの中には、まだ、光千夜の……千夜ちゃんの部分が残っているんだ。
『ありえないっきゅ! 科学では説明のつかない話なんだっきゅ! キューやオクトロア達の分野は、魔法の話で…!』
「キュートのそれは、机上の空論だよ。試してみなくちゃ分からない。……私は、やれるだけやる。聖歌が、妹との記憶を失わずに、幸せでいられるように。……何もせずに諦めるなんて、そんなの嫌だから。それに……魔法でだって、脳のことはそこまで説明できないんじゃないの?」
『っ………それは……』
「………私も………千夜と、もう一度……」
『……! キューは……キューは……』
「もし私が失敗したら、その時は………大人しくキュートに従う。けど、私は諦めるつもりはないから。……だから、それまでは協力して。キュートだって、皆がハッピーな世界の方が素敵だって、そう思うでしょ?」
キュートは、黙り込む。
……キュートにはキュートなりの、価値観や正義、理屈や理論ってものがあるのかもしれない。
けど、私はそれに共感できなかった。
『………苺には、純粋なままでいて欲しかったんだっきゅ。それは本当のことなんだっきゅ。けど、分かってくれないのなら、仕方ないっきゅ。………遊美、苺にも、あの映像を見せつけてやるっきゅ! 苺にも一度、現実というものを見せてやらないといけないんだっきゅ!!』
「キュート! 駄目! 苺先輩にそれを見せてしまったら…!」
映像……。聖歌が壊れるきっかけになった、千夜ちゃんが洗脳される様子を撮ったもの。
……どのみち、見ようとは思っていた。
聖歌のことを助けようとしているのに、聖歌が壊れたきっかけに触れないなんて、そんなのただの口だけ偽善者だと思うから。
だから……。
「いいよ、その映像、見る。けど、私の想いは変わらないから」
『どうしようもない現実もあるんだっきゅ。これも苺のためなんだっきゅ』
「苺先輩は、汚い世界を知らないんです! だからそうやって、平気でいられるだけなんですよ……。駄目です……見ないでください……苺先輩まで壊れてしまったら、私は……」
不安そうな目で私に縋り付くようにそう言う遊美ちゃんの肩に、そっと手を添える。
「大丈夫だよ。遊美ちゃん。私は、大丈夫だから」