「私もヒンナちゃんと仲良くなりたくて、ヒンナちゃんのミステリアス趣味に理解を示そうとしてるんだけどね〜」
幹部会議の時から、ジェネちゃんミステリアス仮面付けてたもんなぁ。なんで師匠ってジェネちゃんのこと苦手なんだろ?
あれかな、魔法少女だから?
というか…。
「ジェネちゃんって、昔魔法少女として組織と闘ってたり…?」
「してた時期もあったかなぁ。もう覚えてないよ。あんまり楽しくなかったんじゃないかな、その時は」
「じゃあ、その時に師匠と敵対してたりでもしてた感じ?」
「かもね〜」
なるほど。
昔師匠とジェネちゃんは敵同士だったんだ。それで、師匠からすれば、ジェネちゃんがいきなり味方になって、今まで敵だった相手がゆえに、どう接すれば良いのか分からなくなっている、ということだな。
そう考えると、なんだか納得がいく気がした。
どうもジェネちゃんがふわふわとした解答をしているのが気になるところではあるけども。
「ま、私とヒンナちゃんの話はどうでもいいんだよ。大事なのは、ルーイちゃんの体のこと。今、ルーイちゃんの体には、明らかに不調が出てる。応急処置として、私が契約しているラフと契約する、っていう手段があるけど、ルーイちゃんはどうしたい?」
「今すぐ契約しないと、命に関わるとか、そういうのないんですよね?」
「まあ、今のところはね。本当に危なくなったら、その腕輪型転移魔法機ですぐに帰って来てもらえればいいかな」
なるほど。現状の代償だと、死に至るようなものではない、ということだろうか。
そういうことならば…。
「わかりました。じゃあ、ラフとの契約はなしで。ギリギリまで粘ります」
ラフと契約しちゃったら、多分ジェネちゃんと同陣営で動かざるを得ないだろうし、今ラフと契約すると、動きが制限されてしまうのでよろしくない。だから、一旦は断っておこう。
「そっか。まあ、私の方もあともう一息で、何か掴めそうな感じはするんだよね……。だから、もう少し待ってもらえれば、なんとか……」
「期待して待ってます」
「……それと、彼女の相手もしてあげなよ」
ジェネちゃんはそう言って、俺の後方を指差す。
「へ?」
俺はジェネちゃんが指差した方向へと、顔を向ける。
「ふぅ……。置いて行かれた時はちょっとびっくりしたけど、腕輪型転移魔法機の魔法をストックしておいて助かった」
「きゅ、キュヴァ……」
「何の合図もなしに急に離脱し始めたから、どうしたのかなって」
俺が戦場に置いてきてしまった少女、キュヴァの姿が、そこにはあった。
そうだ、何の連絡もなしに、俺が勝手に離脱してしまったから……。そりゃ困るよね。うん。
「キュヴァ様、この度は誠に申し訳ございませんでした。わたくし、ブラックルーイは、全身全霊を持って謝罪を……」
「キュヴァでいいよ。それと、謝罪もいらない。別に、自由に離脱してもらっても何も問題はないから」
そう言いながら彼女は、自身の懐を探り出して、何かゲーム機のようなものを取り出す。
「一緒にゲームするって約束したけど、あいにくこれしか持ち合わせがなくて、約束を果たせそうにない。ただ、ふと、ジェネシステネーブル様の元で飼ってると噂の妖精がゲーム機に囲まれたニート生活を満喫しているということを思い出したので、このアジトにやってきた」
ラフの話って、組織内で共有してたっけ?
少なくとも師匠は知らなかったような……。じゃあ、ジェネちゃんはキュヴァちゃんには情報を与えてるってことなんだろうか?
それとも案外、そこまで隠してるってわけでもない? 師匠や俺にもあっさり話してたし…。
というか、もしかして……。
「もしかして……一緒にゲームするためにここに?」
「うん。だって約束したしね。何かおかしい? そっちが先にフレンドリーに接して来た癖に、こちらから距離詰めると逃げちゃう感じなんだ? 追われるよりも追いたいタイプ?」
「……んまあ、追いたい方ではあるかもしれない」
確かに約束したけども……。それって、戦いが終わったらすぐにやりましょうってことだったんだ。予定合う日に一緒にやろうねー的な感じだと思ってた。
まあ、俺も拉致されてから……というか、光千夜としてゲームに触れる機会はあまり多くなかったし、久々にがっつりゲームするというのも悪くないかもしれない。
「そっか、なら私帰るね」
「待って待って! せっかく来てくれたんだし、どうせなら一緒にゲームしよう! うん、それがいいよ」
「…なるほど? やっぱり追う方が好みなんだね」
いや、そういうのじゃないんだけどなぁ……。
「ゲーム機の類は全部ラフのところに置いてあるからね。好きに使っても良いよ。けど、一つだけ、絶対に守ってほしいことがあって」
俺とキュヴァちゃんは、ジェネちゃんに連れられ、再び妖精ラフが監禁されている場所へと足を運ぶ。
そこには、やはりガラス張りにされた部屋で、無邪気にゲームで遊んでいる妖精の姿が、いつでも監視できるような状態で晒されていた。
「守ってほしいこと、って?」
「絶対に目は合わせないこと。……もし目を合わせてしまったら、すぐに私のことを呼んでほしい。無邪気に見えるけど、あの妖精は危険だから」
ジェネちゃんは真剣な表情でそう言う。
あれかな? 本人には悪気ないんだけど、目を合わせると自動で発動しちゃう能力的なのがあるとか?
まあ、とにかくジェネちゃんが言うのなら、その指示には従っておいた方がいいだろう。彼女は俺の叔母だし、俺のことを少なからず大切に思ってくれている。なら、俺の不利益になるようなことはしないはずだ。
「わかった。じゃあ、遊んでくるね」
ジェネちゃんは俺はそう言う姿を見てから、ラフを閉じ込めている扉のロックを一時的に解除する。
「キュヴァちゃんも、ルーイちゃんのことをお願いね。それじゃあ、2時間くらい経ったら様子見にくるから」
そう言って、ジェネちゃんは俺とキュヴァちゃんを部屋に入れた後、ドアロックをかけ、そのままこの場から立ち去っていった。
この場に残されたのは、俺とキュヴァちゃん、そして妖精のラフだけとなった。
『ぼくと遊んでくれるのは、君達?』
「はじめまして。といっても、前に一度顔は見せてるんだけども。私の名前はブラックルーイ、よろしくラフ」
「私はキュヴァ。それで、どんなゲームがあるの?」
『えーとねー。ちょっと待ってねー』
ラフは散らかった部屋から、あれでもないこれでもないと、散乱したゲームカセット達を漁り続ける。
スマホゲーとか、オンラインでできるゲームがないのは、ネット環境に繋がないことによって、外界と交信をとることを封じているのだろう。
割と古めなゲーム機種がちょこちょこあって、中々遊びごたえのありそうなものがいっぱいあった。
『あった! これとかどう? ぼくのお気に入りのゲームなんだけど』
そういって取り出したのは、有名な2D横スクロール型のアクションゲームだった。
「髭のおじさんが沢山死ぬやつだね」
「言い方!」
『うん! そうだよ! この髭のおじさんが死ぬ時に流れる音楽が好きで! だからぼく、たくさんおじさんを殺したよ!』
「この髭のおじさん、断末魔も面白いんだよね」
『ちょっと間抜けなあの声ね、ぼくもすき』
「いやそれそういうゲームじゃないんよ……」
ゲームの楽しみ方間違ってない? なんかこの子ら共感してるけど、普通の楽しみ方じゃないからねそれ。
というか、ラフ君や、妖精が口に出しちゃいけない言葉を発してますよ貴方。
「失礼しちゃうなぁ。ゲームの楽しみ方なんて人それぞれなのに。ね、ラフ君」
『そうだよ、人それぞれにゲームの楽しみ方があるんだから、それを否定しちゃ駄目だよ!』
「申し訳ありませんでした」
何でこいつら結託してるんだ…。というか、キュヴァちゃんや、あんた俺に急にフレンドリーとか言ってきてたけど、貴方も大概では?
『ぼくのおすすめは、これかな。妖精を育成して戦うゲーム! 魔法少女とは逆だね! 人が妖精を使役するんだ。面白いよね〜』
「対戦もあるし、マルチ可能だね。でもいいの? 私勝っちゃうけど」
『ふふん! ぼくがどれくらいゲームに時間を費やしてると思ってるんだ! そうだなぁ。せっかくだし、ぼくとルーイちゃんで一回対戦してみようか』
そう言って、ラフは俺にゲーム機を渡してくる。
なるほどね、俺もこのゲームは遊んだ記憶がある。確かターン制コマンドバトルで、1ターンに1回、モンスターに命令して、技を繰り出させることができるゲームだったはずだ。モンスターによって相性とかもあるんだけど、当時相性とかあんまり理解してなくて、とりあえず適当にやってた覚えがあるなぁ。
「……まあ、多分負けるんだろうけど、せっかくだしやってみるよ」
『解説はこのぼく! ラフと』
「キュヴァちゃんでお届けしまーす」
「何で対戦相手が解説役に回ってるんだろ……」
とりあえず、俺は見た目が好きだなぁと思うモンスターを適当にパーティに入れる。
好きなモンスターをパーティに入れ終わったら、いよいよ対戦開始だ。
「はい。バトルスタート」
『くっくっく……まずはぼくのターン! 妖精にはね、それぞれ得意なものと苦手なものがあるんだ』
「ふむふむ……」
『例えば、火を扱うのが得意な妖精は、火を扱う技を、他の妖精が使った時よりも強く使えたりするんだ。そして、他の妖精から火を使う技をくらっても、ダメージは軽減されるんだよ。これが妖精の相性ってやつだね』
そう言いながらラフのモンスターが繰り出したのは、火の技。
そして俺が使っているモンスターの見た目は、虫のような見た目をしている。
飛んで火に入る夏の虫、という言葉があるように、虫は火に強いわけではない。
というか、生き物って基本的に火には弱いだろう。
当然のように、俺の使っていた虫のモンスターは、ラフが使っているモンスターの火の技によって丸焦げにされ、戦闘不能になってしまった。
「わお。早速やられちゃった。……火のモンスターか……なら……」
俺は火のモンスターに強いであろう、水のモンスターを使うことにした。
そして、次は俺のターン。
火のモンスターに強い技を使うなら、水を扱う技を使った方が良いだろう。そう思い、俺は水の技を選択し、モンスターは俺の指示に従って、水の技を繰り出す。が……。
『ふっふっふ、読んでいたよ。交代!』
「このゲーム、基本1対1で、1ターンに1行動なんだけど、技を選択する以外にも、他のモンスターに交代するって行動もできる。だから、相性不利な相手には、交代した方がいいね」
俺の選択した水の技は、交代したモンスターにはあまり相性が良くなかったらしく、あまりダメージを与えることができなかった。
「んー、意外と奥が深いね、このゲーム」
『くっくっく……そうだろう! 色々な妖精がいて、本当に面白いんだよ、このゲーム』
言いながら、ラフはどんどん俺を追い詰めていく。
交代や技の選択。
一つ一つ堅実にラフは選んでいき、俺は徐々に追い詰められる。
そして……。
『これで、終わり!』
ラフが選択した、最後の技。それによって、俺の手元に残っていた最後のモンスターが倒れてしまう。
結果は、ラフの圧勝。
俺のモンスターは、ラフのモンスターを1匹も倒すことができずに、逆に全て倒され尽くしてしまった。
「完敗だ……」
『まだまだ甘いな。ま、所詮はこの程度。ぼくにはかなわないね』
残念なことに、俺は何も言い返せない。だって俺、敗北者だから。
って、あれ…?
「キュヴァは?」
『トイレって言って出て行ったよ』
「あれ? でも扉にロックかけてないっけ?」
『ぼくの部屋の中にトイレがあるんだよ、ほら、あそこ』
ラフが指差した方向には、扉が一つ用意されていて、どうやらそこがトイレの場所らしかった。
まあ、それもそうか。ずっと閉じ込めてるんだから、そりゃトイレする場所も……。
妖精ってトイレするの?
『ところでルーイちゃん、ぼくのお気に入りのモンスターがいるんだけど、そのモンスター、ぼくにそっくりなんだ!』
「へー、どんなの?」
『んーとね、あ、このモンスターなんだけど、ほら、目元とか特にそっくりじゃない?』
ラフの言う通り、確かにモンスターの見た目は、ラフに結構似通っている。けど、目元そんなに似てるかな?
ぱっと見似てるけど…。
「似てる……のかなぁ?」
『似てるよ! ほら、目元とか特に! ほら、ぼくの目を見てみてよ!』
俺はラフに言われた通りに、モンスターの目元を見てから、ラフの目元を見て、見比べてみる。
「うん、確かになんだか……似てる……ような………」
あれ…? 何だか……意識が……。
『そうだよ。ね、ルーイちゃん。このゲーム、面白いんだけど、少しおかしなところもあるんだよね』
「ふぇ? そうなの…?」
ふわふわする。けど、何だか気持ちいい。
んー。眠たくなってきたのかなぁ。
『うん、だって、人間が妖精を使役してるんだよ? そんなのおかしくない? だって、
……確かに、ラフの言う通りだ。
魔法少女って、妖精と契約して、それで力を得てるわけだし。
妖精の指示に従わないのは、おかしいよね。
……あれ? そうなのかな…?
『人間が妖精に従うべき、そうだよね?』
でも、ラフが言ってるなら、そうなのかなぁ……。
『ルーイちゃんも、人間だよね? だったら、妖精であるぼくの言うことは、聞かないとね?』
確かに……そうだなぁ。ラフの言うことは聞かないと……。だから……。俺は…。
『良い子だよルーイちゃん、ほら、ぼくの指示に従って……』
ああ、まあいいや。
なんか、心地良いし。
このまま、身を委ねていれば……。