頭がふわふわとする。
……んー。こういう、眠気ある状態でふわふわしとくのって、なんか良いんだよね。
なんでだろ?
『ルーイちゃん、ぼくの言うこと、聞いてくれる?』
「んあ? いいよ。何でも言ってよ、ラフ」
『うん! それじゃあ………今からルーイちゃんに刷り込みをするね』
すりこみ? なにそれ、すべりこみ?
『ルーイちゃんは、ぼくの声を聞くと幸せになる』
「私は、ラフの声を聞くと幸せになる」
ふーん。そうなんだ。俺ってラフの声好きなのかな? 別に好みの声ってわけじゃないはずなんだけど。
んーでも、純真無垢で可愛らしい声ではあるような気がする。気がするだけだけど。
『1番幸せな時間を思い浮かべてみて。それと同じくらいに、ぼくとの時間が幸福なものになっていくよ、ほら、ほら……』
1番幸せな時間、かぁ。
そりゃもちろん、今まで敵対してきた悪役が、正義側の魔法少女の光パワーによって光堕ちさせられる展開を拝めた時だよね!
あの瞬間を想像したら……ふへ……ふへへ……!
『よし、これでルーイちゃんはぼくの声で幸せになれるね。それじゃあ、試すよ。……ねえ、ルーイちゃん』
ラフは俺の耳元へとやってきて、囁くように俺のことを呼ぶ。
その声に、俺は……。
「んほーーー!!! たまんねぇ!!!!!」
興奮のあまり、頭を打ちつける。
この感覚、そうだ! 光堕ちを拝んだ時と同じ! この胸の高鳴りは!
『え、えぇ……? い、一体こいつはどんな時に1番幸せを感じてたんだ…?』
特に何が尊いのかはわからないが、なんかなんとなく尊さを感じてきた気がする。心なしか、鼓動もはやくなってきて……。
「ぐはっ!!」
『吐血!? なんで!? なんで幸せを感じたら吐血するの!!? どうなってるんだ!? 意味がわからない!!』
尊さゲージが限界突破した。もう止まらない。俺はもう、止まれない。
「あばばばばばば」
鼓動がどんどんはやくなっていく。
まるで加速するように。
ドクドク、ドクドクと。
『な、こ、鼓動の音がここまで聞こえてくる! どんどんはやくなって……これ大丈夫なやつ? し、死なない? 普通の人間の鼓動の速度じゃない気がするんだけど!?』
可愛くて、可憐で、かっこよくて……あれ? 誰のこと言ってるんだ?
ラフかな…? でも違う気もするし、でもラフといる時間が幸福なような気もする。どうなってるんだろう……。もしかして……これが………恋…?
「そんな…! 人間と妖精の禁断の恋なんて……! 駄目! 駄目なのぉぉ!!」
『何言ってるんだこいつ! 駄目だ! やっぱりなし! ルーイちゃんはぼくの声では幸福を感じることはできない! ぼくの声で幸福を感じることはない! ぼくに恋することもない! はい復唱!』
「私はラフの声では幸福を感じることができない。ラフの声で幸福を感じることはない。ラフに恋することもない」
無意識に口が動く。自分でも何を言っているのかは、よく分からない。
けど、さっきのような胸の高鳴りは、もうなかった。
鼓動も、通常通りのものになっている。
『ぼくの“支配の魔”は優秀だけど、幸福を感じさせるには幸福だった時の記憶を引っ張ってこなきゃいけないし、そのせいでその時の記憶と幸福が紐付けされちゃってるんだよな……』
……というか。
俺は何をしてたんだっけ?
何かに尊さを感じていたような気がするんだけど……。
光堕ちか? あれ。光堕ちを感じれるような瞬間ってなんかあったっけ?
そういえば、さっきゲームしてたよね。じゃあ、ゲームだ。
ゲームの中に、光堕ちするキャラがいたんだ!
どんなキャラだったっけ…?
『あまり幸せにし過ぎるととんでもないことになるしなこいつ……。仕方ない、ほどほどの幸せにしておこう』
「ふあ?」
『拉致されたんだっけ? 確か。なら、拉致される前より、拉致された後の方が幸せ度数は低いはずだ。よし! ルーイちゃん、拉致された後で、1番幸福だった時あるよね? その時に感じた幸福と同じくらい、ぼくと一緒にいる時間が幸福に感じるようにするよ』
ラフが何か言っている。けど、俺には何を言っているのか、全く理解できない。
ゲームしようとか、そんな感じのこと言ってるのかな?
まあ、いいや。ふわふわ気持ちいい。
『ルーイちゃん、ぼくと一緒にいて幸せ?』
うん、幸せだよ。ラフと一緒にいると、なんだか楽しいなぁ。
……この感覚、どこかで……。確か、師匠と一緒に……。
「残念ながら、私には効かないの」
『へあ!?』
「ふふ……」
最近ミステリアスムーブできてないなぁ。
純白ちゃんに対してのミステリアスムーブは、本当に決まった! って感じがしたんだけど…。
『ど、どういうことだ!? ぼくの洗脳は、さっき確かに効いていたはず……一度効いたなら、内容を変えても大丈夫なはずなのに……』
「ええ、そうよ。実際に私は、前回とは何も変わっていないもの」
人質取ったのも、わざとってことにしてたんだよね。
口調変えて、実は今までの全部演技でした〜で押し通したんだけど。
いや〜あの時の演技力は我ながら素晴らしかったね!
なんたってキューティバースちゃん達完全に騙されてたもん。
『どういうことだ!? 前回と変わっていない? ならなぜ、今回はぼくの“支配の魔”が効いていないんだ!?』
「演技をやめた、が正しいわ。そうね……あえて言うなら、前回の戦いは、勝つ必要がなかったものだから」
でも、純白ちゃんはちょっといじめすぎちゃったかなーって気がする。
もうちょっと優しめにしてあげたほうがよかったんかね。でも、手加減するとそれはそれで殺してきそうだからなーあの子。力加減って難しいよね。
『そうか! 確かに、1番幸福な記憶であんな奇行に走るとは思えない……。まさか、ぼくを欺くために、あえて狂人のふりを!?』
「ええそうよ。まんまと引っかかってくれて助かったわ」
ああ、でも、キュヴァちゃんと一緒に行動することになるなら、もうミステリアスムーブはできないのかな?
うーん。まあ、もとより俺の光堕ち目的とは関係ないものだし、師匠は悲しむかもしれないけど、まあしゃーないか。
『ぼくの力の範囲を探るために、あえて……。貴様……! とことんぼくをコケにして!!』
「チェックメイト、ね。これで分かったでしょう?」
『ふざけるな! ぼくはエリート妖精だぞ! 下等な人間風情が、このぼくに歯向かうなんて……』
師匠も最近ミステリアスムーブしてないしね。もうポンコツムーブしかしてない。
誤ってアジトは破壊してしまうし、ジェネちゃんのこと嫌いとか言う割に尻拭いしてもらってるし……。
うん、最初はミステリアスの先輩って感じだったけど、今やポンコツの権化って感じだ。
次は何をやらかすんだろうか。
「師匠、どうでしたでしょうか、私のミステリアスムーブは」
『は?』
「師匠…?」
師匠が銃弾で撃たれた時とかは、大丈夫かな?ってなったけどね。その後アジト破壊し出すもんだから驚いたけどさ。
『ま……さか……これは、幸福な時の記憶が呼び起こされているだけ…?』
あれ? そういえば俺、今何してるんだっけ?
……ああ、そっか。キュヴァちゃんやラフと一緒にゲームしてるんだった。忘れてた忘れてた。それで、キュヴァちゃんはトイレに行っていて、俺はラフと一緒に…。
「意外と奥が深いね、このゲーム」
『やっぱりそうか……。ふ、ふぅ……驚かせやがって…。……動揺したせいで、まだ刷り込みが全然完了できてないな…。このままじゃ……キュヴァちゃんがトイレから帰ってきて……』
「ふぅー。ミッションコンプリート。でかいのが出た。小中大で言うなら特大うんk」
『そ、それ以上言うのはやめよっか、キュヴァちゃん』
なんか眠たくなってきた。
「ただいま、ラフ君。あれ? どうしてぼーっとしているの? 君。……えーと……。ルーイ? おーい。便秘かー?」
『る、ルーイちゃんはゲームのしすぎで疲れたんだよ、ほら、目がちょっと赤くなってるでしょ? ぼ、ぼくの目も見てよ〜。すっかり赤くなっちゃって、充血しちゃってるんだ! ほら!』
「本当だ。目赤いね」
『うん。……て、あれ? 何で……?』
「?」
んー。あれ? 何してたっけ? 確か、ラフとモンスターで対戦して、負けて……。
キュヴァちゃんがトイレ行ってるから、待っとこうみたいな話だったっけ?
んー。なんか、そんな感じだった気がする。
『い、いや、大丈夫なはず……。キュヴァちゃん、君は、ぼくと一緒にいると幸福な気持ちになれる。はい、復唱』
「……は??」
『そ、そんな……効いてない…? ほ、本当に…? い、いや、さっきと同じだ! きっと幸福な記憶が呼び起こされているに違いない! 大丈夫、大丈夫』
「……なるほどね。ラフ君が何をしようとしていたのかは知らないけど、とりあえず、ジェネシステネーブル様を呼ぶね」
『ま、待って! ぼく、何もしてな…』
「とりあえずコピー。……へー、『支配の魔』かぁ。ジェネシス様に言い訳できるといいね?」
『ち、違っ! ぼくは……ね、ねえ、そうだよね! ルーイちゃん!』
キュヴァちゃん遅いなぁ……。
もういいや。眠たいから寝ようっと。
おやすみー……。
すやすや。
なんとなく勘違いタグいるかもなと思ったので付けときました。
明日は変則で6時9時投稿の二本立てになります。