「ルーイちゃん!!!」
んあ…? 何だっけ、俺は確か……。
「あれ? ジェネちゃん?」
目を覚ますと、俺の目の前にはジェネちゃんの顔があって……。
何で? 俺さっきまでラフと一緒に、何て、そんな風に思って周りを見渡してみると、そこには…。
「何か弁明はある?」
『ぼ、ぼくそんなつもりじゃなくて……。ほ、本当なんだよ! この力は、無意識に発動しちゃうんだ! 信じてよキュヴァちゃん!』
「残念だけど、私にはその『支配の魔』は効かない。……あれれ? おかしいなぁ? この『支配の魔』、どうやら任意で発動する類の魔法っぽいけど? どうして無意識に発動しちゃうんだろ? ね、ラフ君」
ラフとキュヴァちゃんの姿が。
キュヴァちゃんはラフを糾弾するように武器を向け、ラフは必死にキュヴァちゃんに許しを乞うている、そんな光景が、俺の目には映し出されていた。
「『支配の魔』……?」
「何も気にしなくて良いんだよ、ルーイちゃんは、寝てただけだから。キュヴァちゃんとラフは、ゲームの話でもしているんじゃないかな? とにかく、今日はもう疲れているみたいだし、ゆっくり休んできなよ」
「……んー。うん。そうする」
そっかぁ。なんか、急に眠たくなってきたなぁ何て思ってたんだよな。
もしかしてこれも代償の影響?
急に眠気が来るの辛いな。まあけど、俺はラフとは契約しない。何故かって? 光堕ちできなくなるからさ。
「うん、ゆっくり休みなよ。代償のこともあるしね」
俺はジェネちゃんの言葉を背に、そのままラフの部屋から退室する。
ジェネちゃんがいるから当然かもしれないが、ロックは解除されてるみたいだね。
「うーん、でも不思議と今は眠たくないんだよなぁ……」
ぐっすり眠ってしまった影響だろうか。
何だか今はサッパリしていて、完全に目が覚めている状態だ。
だとすれば、多分今寝ようとしても眠れないような気がする。
にしても、なんか妖精と一緒にいると幸せな気持ちになる、みたいな夢を見た気がするんだよね。
そういえば、昔もそんなことがあったような…?
んーでも昔に妖精と出会ってたなら、俺誘拐前から魔法少女に変身しててもおかしくないはずだしな……。
まあ、どうでもいっか!
「うーん。あ、そうだ! これからの光堕ちのプランを練ろう! チャートを立てて、その通りに光堕ちできるように、しっかり対策を立てるんだ!」
よし、そうと決まれば早速…。
しくじった……。
ブラックルーイを支配し、そのままキュヴァという女も支配する。2人を利用して、この空間から抜け出す。
そういう作戦だったのに……。
ブラックルーイに全部乱された! 何なんだあの人間は!!
数々の奇行、演技にしか見えない記憶の再現……。ことごとくあいつに乱された…。
結果的にキュヴァには『支配の魔』が効かなかったわけだけど、だとしても、ブラックルーイがあんなおかしなやつでなければ、今頃刷り込みは完了して、キュヴァに勘付かれることも、夕音にバレることもなかったというのに!!
くそ……。
「さて、ありがとうキュヴァちゃん。気付いてくれて」
「……ラフ君、ゲームを一緒にするのは楽しかったよ。あとはジェネシステネーブル様がどういう反応を見せるかだけど……。まあ、死なないようにだけ祈っておくよ。じゃあね」
キュヴァという女、こいつにはぼくの『支配の魔』が効かなかった。
理由はわからない。しかし、夕音以外にも、ぼくの『支配の魔』が通用しない存在がいるなんて……。
『夕音、ち、ちがうんだ……。ぼく……ルーイちゃんやキュヴァちゃんと、楽しく遊びたかっただけで……』
「じゃあ、どうして『支配の魔』が発動してるんだろうね? キュヴァちゃんの話だと、あれは任意で発動するタイプの魔法らしいじゃない? ねえラフ。どうして?」
夕音は、ぼくに圧をかけてくる。
……分かっているんだろう。ぼくが、ブラックルーイに『支配の魔』を使って、手駒にしようとしていたことを。
………クソ……。何もかも上手くいかなかった。
全部全部、夕音のせいだ……。
突然ぼくの前に現れて、契約しようなんて言ってきた時は、なんのつもりかと思っていたけど……。
まさか、ぼくを監禁して研究するためだったなんて…!
それに、夕音はぼくがいなくとも魔法を行使する術を持っている。
例えば、腕輪型転移魔法機みたいな、道具によって魔法を行使するものだったり…。
夕音は、最悪ぼくとの契約が切れてもいいとすら思っている。それは多分、ブラックルーイを手中に収めているからだろう。
ブラックルーイさえいれば、魔法少女の研究はできる。だから、ぼくとの契約は、夕音との交渉材料になり得ない。
つまり、ぼくに必要なのは、ブラックルーイの身柄。夕音と交渉するための権利だったんだ。
けど、それも失敗に終わった。それに、夕音が大切にしているブラックルーイに手を出したのだ。もう夕音は、ぼくに慈悲は与えないだろう。
「純真無垢なふりして、よくもまあここまでやってくれたものだよ。私は今、してやられた気分さ」
『夕……音…?』
夕音の纏う雰囲気が、どことなくいつもと違う、冷酷で、無慈悲なものへと変化していく。
ぼくは、こんな夕音の姿、見たことがない。
「ラフ、妖精とは、皆君のように無邪気な振る舞いをしながら、その実腹黒だったりするのかい? それとも、妖精にも個性があって、我々と同じように、それぞれの思想や感情に基づいて動いているのかな? 教えてほしい」
夕音は、少し興味関心があるといった様子で、ぼくにそう尋ねてくる。
……それは、本心からくるものなのか、それとも……。
『妖精にも、個性がある。けど、皆この世界にやってきた目的は同じで……』
「まあ、そんなところだろうとは思っていたけど、心底つまらない解答だ。所詮は獣か」
『……ご、ごめんね夕音。ぼく、つい魔がさしちゃって……』
「まだその小芝居を続けるんだね。もうとっくに通用しないって分かってる癖に。……私の気まぐれで自我を残してやっているだけだというのに、少々調子に乗らせすぎたかな?」
夕音の上から目線の物言いに、ぼくは物凄くイラついてしまう。
下等な人間風情が、ぼくたちに使役されるだけの、道具が…。
ぼくたちを見下ろして……見下して………。
屈辱だ! こんな……ぼくたちのために使い潰されるだけの存在が…!
ぼくは選ばれたエリートなんだ。
この世界に、下等な人間に力を分け与えてやれる、優秀な妖精なんだ! それを、それを……こんなやつに…!
「まあ、別に構わないよ。君の末路は決まっている。研究に付き合ってくれて助かったよ、モルモット君」
『貴様……! 言わせておけば……!』
「ようやく本性を表したようだね。私としてはそっちの方が好ましいよ。だって、相応しいじゃないか。感情を制御できず、ただ怒りのままに振る舞うことしかできない、まさに獣だ。君はその見た目に相応しい振る舞いを、今している」
この、心の底から、ぼくを見下し、嘲笑うような夕音の態度は、誰が見ても生意気で、腹立たしいものだっただろう。
けど、ここで怒りを露わにすれば、それこそ夕音の言う通り、ただの獣としての振る舞いになってしまう。
ぼくはただ、口を塞ぐことしかできない。
「これで何の役にも立たないようなら、きっと君は今ここで果てていたことだろう。けど、喜ぶと良い。君は、私の実験のために有効な使い方ができると判明した」
『ぼ、ぼくは役に立ったと…? な、なら今回のことも、見逃して…!』
「何を言ってるのか分からないな。君はブラックルーイに手を出した。それは許されざることだ。彼女の脳には、洗脳によるダメージが既に入っているというのに……。お前が『支配の魔』を使えば、更にそれが蓄積されるかもしれない……」
『だ、大丈夫だよ。ぼくの“支配の魔”は、脳を傷つけるものじゃないから……』
「そういう問題じゃない。ブラックルーイを……彼女を……貴様らが自身の私利私欲のために使い潰すこと、それが私は許せない」
そうだ……。夕音は、ブラックルーイのためにも、ぼくを研究対象として利用していたんだ。そんなブラックルーイに手を出したと知られれば………。夕音の怒りを買うのは当然だ。
『……あ、あやまるよ! ぼくが悪かった! この通りだ!』
「謝っても無駄だよ。君がどれだけ謝罪しようが、君の結末は変わらない。君はここで、朽ち果てる。例え君が今日ブラックルーイに手を出さなかったとしても、これは決まっていたことなんだよ」
こいつ……最初からぼくを生かすつもりなんてなかったんだ…!
やっぱり人間は薄汚い下等生物だ。
腹黒で、嘘つきで……信用のならない外道ども。
こんな奴らに手を貸さなきゃいけないなんて、イカれている!
進んで人間達の味方をしている同族もいるが、理解できない。
どうしてこんな奴らに肩入れするのか。
そんな価値、こいつらにはないというのに…!
有効に活用されるべきなのは、ぼくじゃなくて人間共だろうが!!
許せない……! 許せない許せない……!!
「死ね、ケダモノ。私とブラックルーイのために」
ふざけるな…! いつか見下ろしてやる! 踏みつけてやる!
貴様らのような下等生物に…! ぼくが…! このぼくが!!!!