TS魔法少女は光堕ちしたい!!   作:布団から出られない

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49純白魔法少女は決意する

 

 

いつも通り学校に登校する。けど、気分は晴れやかではない。

 

……私はまた、悪に立ち向かえなかった。

私の魔法を、コピーする幹部。あれの存在が、私の心に動揺をもたらした。

 

“魔女”にも敗れ、組織の幹部にも負け…。

これでは私は、本当に役立たずのままになってしまう。

 

現状では、あの触手の幹部への復讐など、ただの夢物語でしかない。

 

私はもっと、強くならないといけない。

ただの被害者になるなんて、まっぴらごめんなのだから。

 

「薬深ちゃん!」

 

「苺…ちゃん……」

 

少し落ち込んでいた私に、声をかけてきたのは。

私の恩人であり、大切な友人である桃乃瀬苺ちゃんだった。

 

幹部にやられそうになった時に助けてくれたのも苺ちゃんだし、私は苺ちゃんの役に立ちたいと、そう思って魔法少女として戦うことに決めたのに…。

 

今の私じゃ…。

 

「薬深ちゃん、調子はどう? 大丈夫そうかな?」

 

「…うん。全然、大丈夫…。その、怪我とかしてなかったから…」

 

「そっか。よかった〜」

 

苺ちゃんは、この前の戦闘で私が幹部に負けてしまい、無様な姿を晒していた様子を見たからか、私の体調が大丈夫そうか、確認しに来てくれたみたいだった。

 

特に身体的な不調はない。足を挫いて転んでしまったくらいで。

ただ、やはり役に立てなかったという意識は、私の中にいつまでも残っている。

 

私は、苺ちゃんにがんばるって、そう言ったのに…。

結局私は、苺ちゃんに助けられて…。

 

「それで……ごめんね薬深ちゃん、この前のことがあったばっかりで、申し訳ないんだけど、話したいことがあって」

 

「話したいこと?」

 

「うん。……この間、ブラックルーイ達と対峙した時、一緒に戦ってた私達以外の魔法少女がいたでしょ? その子達から聞いた話があって」

 

そういえば、あの時は私達以外にも魔法少女がいたんだっけ。

確か、スターチススクラッチ、とか名乗ってた子がいたような気がする。

一緒に“魔女”を打ち倒そうって感じのことを言った記憶はあるけど、結局私は魔法をコピーしてくる幹部と戦闘することになっちゃったから、一緒に戦ったりはできなかったんだった。

 

にしても、聞いた話って何なんだろう?

 

「えと…どんな話を聞いたの?」

 

「………簡単に言うと、ブラックルーイについて。……薬深ちゃんは、ブラックルーイのことを“魔女”って呼ぶくらい嫌ってるのかもしれないけど……だからこそ、ちゃんと聞いて欲しいんだ。できれば薬深ちゃんにも、協力して欲しいって思ってるから」

 

どうやら、“魔女”についての話らしい。

私は、はっきり言って“魔女”のことが嫌いだ。魔法少女としての力を手に入れているにも関わらず、キューティバースのように人を助けるために自分の時間を削ってまでに献身的に活動するわけでもなく、むしろ悪の組織に加担し、積極的に街の破壊活動を行う、まさに悪の権化ともいえる存在。

そんな奴を、好きになれという方が難しいだろう。

 

けど、そんな“魔女”がどうしたというのだろうか?

もしや…。

 

「“魔女”の正体でも掴んだの?」

 

素性の知れない“魔女”。その正体、身元について判明したというのだろうか。

 

「うん。確かに、ブラックルーイの正体についてはわかってる…。まずはそこから話そっか」

 

正体が分かったのなら、ブラックルーイの所在地、住んでいる家にでも突入して、二度と悪の組織に加担できないように、妖精を引っ張り出して、契約を解除させるべきだ。

 

殺す……とまではいかない。そこまで行ってしまっては、私も“魔女”と同レベルに落ちてしまう。苺ちゃんを見ていて、それはやっちゃいけないことだっていうことは理解できたから。

 

「それで、“魔女”の正体は?」

 

「……ブラックルーイの、本当の名前は……光千夜」

 

「光…?」

 

偶然だろうか。苺ちゃんの親友で、同じく魔法少女をやっている光聖歌と同じ名字だ。この地域で光という姓を持つものを、私は他に知らない。

“魔女”は、少し離れた場所に住んでいる…?

そう思考を巡らせる私だったが、そんな私に、苺ちゃんは冷や水を浴びせるかのように告げた。

 

「聖歌の妹、だよ」

 

「……は……?」

 

有りえない。だとすれば、光聖歌は……魔法少女シャイニングシンガーは、“悪”に加担しているということに?

そんなはず、ない。正義の味方であるはずの魔法少女が、悪に加担だなんて…そんなの……。

 

「落ち着いて聞いて。これには、事情があって…」

 

「事情があっても、悪に加担することは許されない。……身内だからといって、それが許されるわけじゃ!」

 

「薬深ちゃん、落ち着いて。ちゃんと私の話を聞いて。……薬深ちゃんがどうするかは、私の話を全部聞いてから、決めて欲しい」

 

力強い目で見つめられながら言われたことで、私は思わず押し黙る。

……そうだ。

苺ちゃんが、悪に屈するわけがない。彼女は、私の大切な友人であると同時に、尊敬する魔法少女であり、闇に呑まれそうになっていた私を救ってくれた、命の恩人なのだから。

 

「わかった」

 

「……ありがとう薬深ちゃん。……それで、どうしてブラックルーイ…千夜ちゃんが、『ワ・ルーイ』に加担してるか何だけど……」

 

シャイニングシンガーは、この事実をどう受け止めているのだろう。妹が悪事に加担している様子を見て、何も思わないのだろうか。

そもそも、“魔女”は悪事に加担して、姉や両親が心配するという発想は…。

 

「千夜ちゃんは……3年前に『ワ・ルーイ』に拉致されて、それで……組織の洗脳によって、街を破壊する悪の魔法少女にされてしまったの」

 

「………へ?」

 

拉致? 洗脳?

予想だにしていなかった答えに、私の脳はしばらくフリーズしてしまった。

 

少し頭の中を整理して、一つ一つの情報を私の中で咀嚼していく。

拉致、洗脳、その線を考えていなかった私は、その意味を理解するのに時間がかかった。

けど、ゆっくり時間をかけて、私が導き出した結論は……。

 

「それじゃあ……“魔女”は……ブラックルーイは……組織の……被害者…?」

 

組織は、少女を拉致、誘拐しようとしていた。それは、私のことを狙っていたこともあって、明らかだ。そして、クールは言っていた。少女を狙うのは、魔法少女の力を奪うことが目的なんじゃないかって。

 

その奪い方。私は、てっきり魔法だけを取り出して、自分の力に変えるとか、そういう方法で魔法少女の力を奪うつもりなんだと、そう認識していた。

 

けど、それがもし、魔法少女そのものを洗脳することで、魔法少女の力を手に入れると、そういう発想をしていたのならば……。

 

点と点が、繋がる。

理屈は、通る。“魔女”が……ブラックルーイが被害者であるという説に、説得力が生じる。

 

考えてみれば、私の時もそうだった。

触手の幹部の触手を受け入れた時、私の記憶や倫理観は失われた。

あんなことができるなら、洗脳くらいできたっておかしくはない。

 

「うん。そうだよ。聖歌の妹……ブラックルーイは……千夜ちゃんは……。『ワ・ルーイ』の、被害者なんだ」

 

「そんな……」

 

苺ちゃんが、嘘をついているという線はない。彼女は真っ直ぐで、純粋で、私のことを助けてくれる最高のヒロインなんだから。

 

けど、そうだとすれば、ブラックルーイが被害者であるというのは、事実であるということで。

 

「……そっか、もう、私よりも酷い目にあった子がいたんだ……」

 

私と同じような目に遭わせない。そう思って奮闘していた私だったが、ブラックルーイは既に、私よりも残酷な目に遭っていたのだ。私は被害者を出さないと、そう誓っていた時、既にもう被害者は出てしまっていたのだ。

 

やっぱり、私は無力だ。

何一つ守れない。

何の役にも立てない。

 

昔から、グズで間抜けで、コミュ障で…。

私なんか…。

 

「私よりも酷い目…?」

 

「苺ちゃん、どうしたの?」

 

「いや、今の言葉、どういう意味かなって」

 

……そっか。そういえば私は、触手の幹部に脳を弄られかけていたことを苺ちゃん達に直接話してはいないんだっけ。

私を助けた時に目撃しているものだと思っていたけど、そもそも奴の触手の効果も知らないだろうし、話しておくべきだったかもしれない。

 

「話してなかったけど、昔、苺ちゃんに助けられた時、私は、触手の幹部の男の被害に遭ってて」

 

「っ……それって……」

 

「触手の男の触手を、私の脳に入れられた。すぐに苺ちゃん達が助けに来てくれたから、多分大丈夫だったんだと思うけど」

 

逃げ出せす、ただひたすらに蹂躙され、尊厳を踏み躙られる感覚。

不快感、嫌悪感、恐怖。その全てが、今でも私の中に根強く残っている。

 

だからこそ、こんな思いはもう、誰にもさせたくはないって、そう思ってたのに。

 

「……大丈夫なの? なんともなかった?」

 

「たまに物忘れが激しくなるのと……少し倫理観は壊れたかもしれない。触手を脳に入れられてから、悪人を傷つけることに抵抗を感じなくなったから」

 

私の言葉を聞いて、苺ちゃんの顔がくしゃりと歪む。

私の話を聞いて、心を痛めているのだろう。苺ちゃんは、優しいから。他人のために頑張れる、良い子だから。

 

「ごめんね……! 気付いてあげられなかった…。私……薬深ちゃんのこと、ちゃんと助けられてなかった……。私は……間に合ったものだって……そう思ってたのに……全然……」

 

苺ちゃんはその目に涙を浮かべながら、私の体を抱きしめる。その姿は、いつもの苺ちゃんと違って、弱々しく見えて。

そんなに、自分を責めないで欲しい。苺ちゃんのおかげで、私が助けられたことは、確かなのだから。それに……。

 

「……あの体験をしなかったら、私は多分、魔法少女になんてなってない。今もここで、病弱な体で普通に学校生活を送ってたんだと思う。けど、きっとそんな日々、私には退屈だった」

 

「薬深ちゃん…」

 

「私が、魔法少女になろうって思ったから、苺ちゃんと友達になれたし、今、学校に来るのが楽しいって、そう思えてる。だから、私は、後悔なんてしてない。あの時私を助けてくれて、ありがとう」

 

私は無力で、臆病で、人のために動けるような人間ではなかった。

悪を倒そうなんて、そんな発想すら浮かばなくて、誰かがやってくれれば、それでいいと、そう思うような、薄情な人間でもあった。

 

倫理観が破壊されてない私だって、人として出来たものじゃなかった。なら、今の方がよっぽどマシなのかもしれない。

 

「薬深ちゃん……、本当に、大丈夫、なの…?」

 

「うん。だって、今学校、普通に来れてるから…」

 

「……それなら、いいんだけど……」

 

苺ちゃんは、少し不安そうにこちらを見ながら、そう呟く。

……余計な心配をかけてしまったかもしれない。

 

……ああ、そうだ。

ここで燻っていたら、苺ちゃんに心配をかけてしまう。

苺ちゃんだって、人間なんだから。さっきみたいに、弱々しい一面だって、あるのかもしれない。そんな時、誰も頼れる人がいなかったら、苺ちゃんは、1人で苦しむことになってしまう。

それに……。

 

「もし、ブラックルーイが…私と同じような被害者だったのなら……私は、ブラックルーイを助けてあげたいと思う」

 

“魔女”と散々罵っておいて、何を今更と、そう思うかもしれない。

私は、悪が許せなかったから。

あんな非道な真似をするものが、憎かったから。

 

けれど、もし苺ちゃんが間に合ってなかったら、私も、ブラックルーイのようになってしまっていたのかもしれない。

そう思うと、他人事とは思えない。

何より、私と同様に酷い目にあった子を、いつまでも苦しみの渦中にいさせるわけにはいかない。

 

「薬深ちゃん…」

 

失敗ばかりの私だったけど。

でも、だからこそ、今度こそは……。

 

「苺ちゃん、私、苺ちゃんの力になりたい。……ブラックルーイを、救ってあげたい。だから……」

 

「……そうだね…。ありがとう薬深ちゃん。私から、言わせてもらうね…。薬深ちゃん、お願い、私に力を貸して」

 

言いながら、苺ちゃんは私に手を差し出す。

私は、その手を取って。

 

「わかった。私に任せて。必ず、苺ちゃんの力になるから」

 

今度こそ、力強くそう誓った。

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