「『ホイップゴースト』!」
私は勢いのままにピュアへと突撃し、攻撃魔法を放つ。
私の放った『ホイップゴースト』達は、ピュアに向かって突撃していく。
『ホイップゴースト』は、言ってしまえば使い魔のような存在だ。
魔力量こそ少ないけれど、魔法少女と同じように魔法を放つこともできる。
そして、魔法少女のように、“一度使った魔法を二度目以降使おうとすると、要求される魔力量が上昇する”というデメリットともいえる性質を有していない。
つまり…。
「『ローズ・アイアン』」
ピュアは薔薇の花で形成された壁のようなものを出現させる。
防御魔法の一種なのだろう。けど……。
私の『ホイップゴースト』は、防御するだけじゃ止まらない。
「へえ、もしかして……」
『ホイップゴースト』は薔薇の防壁に攻撃し続ける。が、すぐにそれが無駄だと悟ったのか、大きく上昇して、壁の上部へと移動した。その後、上空から墜落するようにピュアの元へと突撃していく。
ブラックルーイの時に『ホイップゴースト』が真価を発揮できなかったのは、『ブラックハンド』で無効化されたり、『ブラッドテンタクル』で相殺されたからだ。ただ防御するだけでは、『ホイップゴースト』は防げない。
「『茨』!」
ピュアは蔓のようなものを出現させ、『ホイップゴースト』を退治する。攻撃魔法の一種なのだろう。しかし、『ホイップゴースト』1つでピュアの魔法を2つも消費させ、加えて…。
「『ストロベリーアロー』!」
ピュアの背後へと回ることができた。
壁があったので少々迂回するのに時間がかかったけれど、それでも『ホイップゴースト』が十分な時間を稼いでくれたおかげで、どうにかピュアに対して、確実に『ストロベリーアロー』を打ち込むことができる状況へと持っていくことができた。
「くっ…」
ピュアは私の攻撃に気づいたのか、すぐに『ホイップゴースト』を処理し、『ストロベリーアロー』の対処をしようとする。が、私の『ストロベリーアロー』は、既にピュアのすぐそばまで迫っており、間も無く彼に被弾した。
……勝てる。
ピュアからは、触手の幹部……オクトロアほどの脅威は感じられないし、ブラックルーイと一緒にやって来ていた、あの謎の仮面を被った女性ほど、底がしれないわけでもない。
ましてや、スターチススクラッチ達と初めて出会ったあの戦場にいた、他者の魔法をコピーできる幹部のような厄介さを持ち合わせているわけでもない。
倒せる。幹部ピュアは、私の手で倒すことができる!
「痛いな……。全く、どうしてそんなに怒っているのか、俺には分からないな…。俺はむしろルーイちゃんには優しく接して来た方だよ? 他の幹部達は、ルーイちゃんを薬漬けにしたり、魔法少女の耐久性の確認のためにたくさん魔法を食らわせていじめ抜いたり、魔法少女の再生能力の確認という名目で、皮を剥いだりするような、酷い実験を繰り返して来てたけどね。でも俺がやったことって、ルーイちゃんを愛してあげただけなんだから」
次々と露わになっていく、千夜ちゃんに行われた最悪な実験の数々に、私は『ワ・ルーイ』に対する嫌悪感が増していく。
魔法をその身に浴びせられて、皮を剥ぐ実験をさせられて……想像しただけでも、痛ましい。辛くて苦しいだろうに、痛くて逃げ出したいだろうに、組織の実験に従わざるを得ない。そんな状況に置かれてしまった、千夜ちゃんのことを思うと、どうしても、こいつらを許す気持ちなんて、微塵も生まれてこない。
それに……。
「本当に千夜ちゃんのことを考えてあげるなら、その実験を止めてよ。どうして……どうして千夜ちゃんを救おうとしないの? 千夜ちゃんのためを思うなら、そんな実験やめさせて……聖歌の……元の家族のところに帰してあげてよ!」
愛してあげる、なんて言ってるけど、結局それは、千夜ちゃんのためなんかじゃなくて。
自分の欲望をぶつけたいだけだろう。
愛してあげている、愛を与えてあげているんだと、そうやって正当化して、悪びれる気も一切なく、悪意のない悪意を、千夜ちゃんにぶつけ続ける。
これまで聞いた実験の内容も、相当酷いものだろう。でも、まだ実験という名目があると言われれば、理解したくはないし、納得もしたくはないけど、まだ分かる。
……対して、ピュアのそれは、ただの私利私欲だ。実験という大義名分もなければ、その行為を善だと信じて疑わない。
自分の行為を正当化して、悪辣な行為であるのにも関わらず、それを悪と認めず、あまつさえ相手のためだと豪語する。
吐き気を催す邪悪だ。
私は、目の前のピュアという男のことを、とことん受け付けられないと、心底そう思う。
「そうかな? だって千夜ちゃん、実験嫌がってないし。俺の愛には、ちょっと抵抗があるみたいだけどね。まあ、千夜ちゃん
実験を嫌がっていない?
どの口が言うんだ。それは……それは………!
「お前達が洗脳して、そうさせただけでしょ!? ふざけないで……そんなの、そんなの許せない…!」
『い、苺……』
愛に抵抗があるだとか、初だとか、そんな軽いもので済ませて、それで千夜ちゃんの体を弄んで………その上、自分たちで洗脳しておいて、実験を嫌がっていないんだから良いんじゃないかって、そう主張する目の前の男に、私の怒りはとうとう頂点に達する。
今まで生きて来た中で、こんなにも誰かに対して怒りを露わにしたことは、なかったかもしれない。
私が声を荒げる様子を見て、キュートも驚いているくらいだ。
きっと、今の私は、鬼の形相にでもなっているんだろう。
「『ストロベリーアローⅡ』!!」
「なっ、その魔法、既に使ったはずじゃ!」
魔法少女には、一度の戦闘において、一回使った魔法を二回目以降使おうとすると、魔力消費量が一回目よりも大きく上昇した状態で魔法が行使されるという性質がある。そのため、一度の戦闘において、魔法少女は基本的に同じ魔法を使うことはない。
……と、それが共通認識なのかもしれない。
けど、別に使えないわけじゃないし、私の場合は……。
『苺……』
「ストック魔法。それが私の魔法の性質」
『ストロベリーアロー』は、少し特殊な性質を持つ魔法だ。
空中に桃色の弓を出現させ、そこから矢を放つ魔法、なのだが。
ここで出現させて桃色の弓は、しばらく待機状態……すなわち、その場で静止させられる。
この状態を、“ストック”と呼び、暫くの時間が経過するまで、『ストロベリーアロー』
を放つために必要な桃色の弓は、“ストック”され続ける。
そして、“ストック”している間は、同じように『ストロベリーアロー』を放っても、一回目に『ストロベリーアロー』を放った時と同じ魔力消費量で『ストロベリーアロー』を放つことができる。
これが私の“ストック魔法”の仕組みだ。
ピュアは、私が同じ魔法を使うわけがないと思って、油断していたのだろう。
その体にはしっかりと2本の矢が突き刺されていて、彼は壁にもたれかかるようにしてなんとか立つことができているという状態だった。
「しく……じったな……先輩なら……その辺りの情報も……収集していたんだろうけど……これ……は……」
『苺、ピュアを捕まえるっきゅ! 捕まえて拷問して、組織のことを洗いざらい吐かせるっきゅ!』
触手によって倫理観を破壊されてしまっているからか、キュートはとんでもないことを口走る。
けれど、不思議と抵抗は感じなかった。
目の前のピュアという男のことを、私は心底受け付けられないと、そう感じていたからだろう。
けど…。
「駄目だよ、キュート。そんなことしたら、私達も『ワ・ルーイ』と同じになっちゃう。私達ができるのは、悪い奴らを懲らしめて、捕まえることまで。それ以上は、やっちゃいけないんだよ」
千夜ちゃんのされた仕打ちを考えれば、拷問なんていくらしてもお釣りが出るくらいだと、私はそう思う。けど、千夜ちゃんがされて来たことを、私が他の誰かにやってしまっていたら、きっと私には、千夜ちゃんを救う権利はないと思う。
私が胸を張って、千夜ちゃんのことを救いに来たと、そう言い切るために。私は、組織と同じようなことはしない。
奴らと同じ非道な人間になんて、なってやらない。
私は、私のやり方で……奴らを……『ワ・ルーイ』を壊滅させる。だから、まずは目の前のこいつを……。
「く……あはははは!! 俺を捕まえるとか、拷問するとか、そんなこと言ってる暇あるのかな? 君達に」
『何を…』
「俺ばっかりに構ってて良いの? 周りをみなよ、周りを」
そうか、私がピュアに構っている間に、薬深ちゃん達は…!
すぐに私は周囲を見渡し、薬深ちゃん達がどうなっているかを確認する。
薬深ちゃんは……ホワイトは、ブラックルーイと戦闘していた。けれど、どうも押され気味みたいで……。
トラウマがあるからだろうか、それとも、ブラックルーイが被害者で、救わなければならない存在だと認識したからだろうか。いずれにせよ、どうにも攻めきれていないという印象だった。
ピュアを拘束し終えたら、カバーに入ってあげた方がいいかもしれない。
次に私は、スターチススクラッチの方を見る。
そこには……。
「あっ……」
血まみれになりながら、巨人に蹂躙されている彼女の姿が、あった。
「君が俺にかまけている間に、彼女は必死にトーレストから街を守ろうとして、傷だらけになりながら戦っていたんだ。可哀想に。君が俺なんかに構わなければ、こんなことにはならなかったのに」
……今すぐ、助けに向かわないと。
じゃないと、スターチスが死んじゃう!
『あ、苺! 待つっきゅ! まだピュアが!』
私は再び駆け出す。
ピュアを拘束することさえ忘れて。