スターチススクラッチを庇うために、私は彼女の前方に立ち、幹部トーレストの攻撃を受ける。
魔法少女に変身することで、身体能力は通常の人間のそれを遥かに凌駕しているはずなのに、幹部トーレストの攻撃は重く、彼の攻撃で、私の足が地面に深く沈み込んでしまうほどのものだった。
「っ………」
どうにか耐え忍んだ。けれど、最初の一撃だったから耐えられただけで、攻撃を何度も繰り返し行われれば、いくら魔法少女といえども、無事では済まないだろう。
「『フルーツパラダイス』」
私は魔法を放ち、幹部トーレストから距離を取る。
基本的に、『フルーツパラダイス』はあまり積極的に使いたい魔法ではない。
『フルーツパラダイス』は、様々なフルーツの見た目をした固形の攻撃魔法が四方八方に飛び散り暴れ回る、というものなのだ。けど、この魔法は制御が効かず、仲間の魔法少女にも当たってしまう危険性がある魔法だ。
だから、普段はシャイニングシンガーの『リズライド』で、『フルーツパラダイス』が敵にだけ向かうように調整してもらうんだけど……。
シャイニングシンガーは……聖歌は、今ここにはいない。
『フルーツパラダイス』を使うのは、危険だ。
けれど……。
「……キューティ……」
「スターチス、大丈夫?」
こうでもしないと、スターチスを守れそうになかった。
私の魔法の中で、あの巨体を止めうるのは、『フルーツパラダイス』くらいだったから。
「…………状況的に、私達に、勝ち目は…ない……完全に、流れを………持って……行かれた」
『ライオネルにも連絡していますが、それだけでこの戦況をひっくり返せるかどうか……といったところですわ』
ピュアには2本私の『ストロベリーアロー』が刺さっているし、ストック魔法による牽制も出来ている。
けど、ストック魔法にもデメリットはある。
ストック状態にある弓を解除しない限り、その弓が存在している場所以外で『ストロベリーアロー』を扱うことができないというデメリットが。
勿論、二度目以降の魔法行使は魔力消費量が上昇してしまうため、あまり二度目も同じ魔法を行使するということは多くはない。
そのため、基本的には問題ないのだが……。
「手数が足りない…」
あの巨体を打ち倒すためには、二度目だの何だのと気にしている場合ではない。使える手はいくらでも使った方がいい。
しかし、ピュアへの牽制のために弓を“ストック”させている以上、『ストロベリーアロー』はトーレストに対しては使えない。
「………レディ……ライオネルが………来る………まで……あと、どれくらい?」
『連絡がつきませんわ……仕方ありませんの。どのみちスターチスは戦闘が続行できる状態ではありませんし、私自身が時間稼ぎいたしますわ』
「時間稼ぎって……妖精は戦えないんじゃ?」
『魔法少女のようにはいきませんわ。しかし、私達が貴方達を利用して戦わせているのに、私達自身が何もしないのは、筋が通っていないとは思いませんの?』
「……わかった。私と一緒に戦おう。けど、無理しないでね」
スターチスが動けないのを見てか、レディがリーベル……魔法少女ライオネルグレーテが来るまでの時間稼ぎを手伝ってくれることになった。
戦力として、頼りにできるかと言われると、やっぱり魔法少女ではないから、どうしても物足りなさはあるけれど…。
でも、私は彼女の思いに、ちょっぴり救われた気がした。
1人で戦うより、誰かと一緒に戦った方が、心強いと思うから。
「行くよ、レディ」
『背中は預けましたわ!』
私とレディは、トーレストへと突撃する。
最初にレディがトーレストの前へ出て、彼の攻撃がレディ自身へ向くように誘導する。
レディはおそらく、攻撃手段を持っていない。だから、少しでも私に攻撃が向かないように、できるだけトーレストの攻撃を受けることにしたんだろう。
おかげで、私はトーレストの背後へ回ることができる。
「『ストロベリークラッシュ』」
私は、トーレストの背後から、苺型の魔法弾を放つ。
しかし、彼にはあまり効いていないようだった。
私が攻撃を仕掛けたことにより、トーレストの注目がレディから私へと移る。
そして、トーレストは私目掛けてその拳を振り下ろした。
魔法を放ったばかりの私は、すぐには回避動作に移れず、そのまま……。
『っ! 危ないですわ!!』
レディが代わりにトーレストの攻撃を受け止めることによって、私自身は何のダメージを負うこともなく、そのまま、レディは私のはるか後方へと吹き飛ばされていった。
「レディ!!」
レディは地面を転がっていき、そのまま倒れ込んで動かなくなってしまった。
スターチスの変身が解除されていないことから、レディが死んだ、ということはないのだろうけど……。
「そんな……」
共に戦おうと、戦う力を持っていないにも関わらず、そう提案してくれた彼女が、こうもあっさりとやられてしまったという事実に、私は焦りを隠せない。
本来は戦闘する力を持っていないのだから、当然の帰結ではある。けど、危機的状況で手を貸してくれたレディの存在は、私にとってありがたかったし、心強かった。だからこそ、そんなレディがやられてしまったという事実に、私は動揺してしまう。
ライオネルグレーテには、連絡がついていない。
遊美ちゃんにも、連絡はしていない。
聖歌も、壊れてしまって、動ける状況ではない。
……このままじゃ、私は……。
「あう……ぐがぁ!!」
トーレストは、再び私に向けて拳を振るう。私はその攻撃から逃れる、が…。
「くっ……」
トーレストの拳は、地面へと直撃し、その衝撃で、回避行動をとっていたはずの私の体は大きく揺さぶられ、壁へと打ち付けられてしまう。
「痛っ…!」
そして、トーレストの猛攻は、まだ終わらない。壁に打ち付けられた私に、追いうちをかけるように、トーレストは壁に向けて突進してくる。
痛みに悶えながら、私は何とか右側に転がり込むようにしてトーレストの突進攻撃から逃れる。
けれど、壁に打ち付けられたことによって負った傷が、回避のための転倒によってさらに酷くなり、一瞬にして、私の体は傷だらけになってしまっていた。
壁に大きくめり込んだことで、暫く動きを取れずにいたトーレストだったが、そんな無防備なトーレストを見ても、私は彼に魔法を放とうとは思えなかった。
彼が、ピュアによる被害者だから……ではなく。
ただ、どうすれば彼に勝てるのか、それが私には、全く思い浮かばなかったからだった。
気付けば、私の思考は、どうすれば彼を倒せるのか、ではなくて。
どうすれば、彼の攻撃から、スターチス達を守れるか、というものへと、変化してしまっていた。
やがて、トーレストは破壊した壁から再び私の前へと姿を現す。
私は、そんな彼に何の対抗策も持たないまま、ただがむしゃらに戦うことしかできない。
どうすればいい?
どう戦えば、スターチスやレディを守れる?
私は、どうすれば……。
「キュー、ティ…、来…る…」
スターチスが、ボロボロの体で、うまく言葉が紡げないながらも、私に警告を伝える。
瞬間、トーレストは、私目掛けて猛突進を仕掛けてきた。
近くには、スターチス。
避ければ、彼女が犠牲になる……。
「……なんで……私……」
焦りすぎた。立ち位置をちゃんと考えてなかった。私は、目の前のトーレストに気を取られるあまり、スターチス達に被害が及ばないように立ち回ることを失念していたのだ。
さっき、トーレストを倒すことから、スターチス達を守ることに、思考を切り替えたばかりだというのに。
「……それなら!」
私は切り替える。
避ければスターチスに被害が及ぶ。なら、自分の身を犠牲にしてでも、トーレストを止めるしかない。
私は、地面に足を踏み締め、全力でトーレストを迎え入れる体勢を整える。
衝撃に備え、魔力を防御のために回し、少しでも人体への被害を抑えれるように……。
しかし……。
「……躾がなってないよ」
「………どう……して……」
私が、トーレストの猛突進を受けることは、なかった。
トーレストは、沼のようなものから這い出た、黒い両の手によって、その動きを封じられていたのだ。
私は、その魔法を知っている。
私は、彼女が何者かを、知っている。
「キューティバース。一時休戦にしよう」
「ブラック……ルーイ」
私を助けたのは。
私と敵対しているはずの魔法少女、ブラックルーイだった。