幹部トーレストが、キューティバースへと突撃しようとする。
が、俺はトーレストの行動を、『ブラックハンド』によって封じ、キューティバースを助ける。
「ブラック……ルーイ」
キューティバースは俺の名を呆然とした顔をしながら呼ぶ。
無理もない。今まで敵対していた相手が、急に助けに入ってきたのだから。
「……ブラックルーイ。どういうこと? どうしてキューティのことを…」
俺がキューティバースの助けに入っていったのを追いかけてきた、ホワイトが俺に問う。
勿論、ここで善の心を手に入れて光堕ち!
なーんて、そんな陳腐な展開はしない。そもそも、光堕ちフラグが立ってないもの。
俺が光堕ちするには、キューティバースなり何なりの魔法少女達による説得や、彼女達の輝きを見せつけられる、という展開の積み重ねが必要だ。
光堕ちフラグのない唐突な光堕ちなど、どこが尊いというのだろうか。
……とはいいつつ、俺は光堕ちなら何でも楽しめる主義ではあるんだけども。
ともかく!
俺が何故キューティバースちゃん達の助けに入ったのか、その理由付けはちゃんとしておく。ここで簡単光堕ち、なんて展開は俺も望んじゃいないのでね。
【希望の象徴たる魔法少女が、人々の希望の象徴でなくなってしまってはそれはそれで困りますからね】
俺は、幹部様の発言を思い出す。
幹部様は、どうして魔法少女が希望の象徴でなくなってしまうと困るのか。
『ワ・ルーイ』の目的は、人々から“絶望”や“恐怖”といった負の感情を集めることだ。そんな負の感情を集めるにおいて、何故魔法少女という存在が希望の象徴である必要があるのか。
それは……。
「魔法少女にいなくなられると、都合が悪いからね」
「都合が悪い? どうして? 私達の存在は、一体『ワ・ルーイ』に何の関係が……」
「私達の目的は人々から”恐怖“や”絶望“といった感情を、負のエネルギーとして入手すること。それを行う上で、最も効率的に”絶望“や”恐怖“を得ようと思ったら、どうすれば良いと思う?」
「最も効率的……それは……」
簡単な話だ。
”絶望“し切った人から、さらに”絶望“を得ようとしたとしても、大したエネルギーは得られないだろう。
けれど、”希望“に満ち溢れた人が、”絶望“してしまったら?
元々”希望“に溢れる人が”絶望“した時の負のエネルギーは、凄まじいものとなるだろう。
つまり……。
「”希望“があるから”絶望“がある。負の感情は、正の感情があって初めて成立する。だから、人々に“希望”を与え、その後に“絶望”してもらう。それが最も効率のいい“絶望”の集め方、というわけ」
実際にはどうなのか知らないけどね。
でも、この理屈って完璧じゃなーい? 幹部君の発言的にも、多分こういうことを意図して言ってたんじゃないかなって気がするし。
「魔法少女が“希望”の象徴だから、より良い”絶望“を、負のエネルギーを得るために、私達が必要ってこと?」
「そういうこと。だから私は今貴方を助けた。負のエネルギーを効率よく得るために」
理由付けは完璧だ。これで、どうして俺がピュアを裏切ったのかについては説明ができる。
それに、共闘して多少なりとも好感度も上げられるしね。
敵対関係が強いほど光堕ちはよくなるものだけど、ただただ敵対するだけで、好感度最底辺のままだと、受け入れ拒否されて光堕ちできない可能性があるからね。ヘイト管理大事よ、大事。
「ルーイちゃーん。どうして魔法少女に加担するのかなー? このままトーレストを暴れさせておけば、俺達確実に勝てたよね? ねえねえどうして?」
「ピュアはああ言ってるけど……?」
「…………」
……えぇーと。
うん、まずあいつを殺してからやるべきだったな、これ。
いやまあ、俺がここで介入しないと、キューティバースちゃん達が危なかったから仕方ないんだけどさ。
うーん……。そうだなぁ……。
「ピュア様、トーレスト様は既に理性を失っています。このまま放置していては、誰かが止めない限り、街を破壊し尽くすだけです」
「そうかなぁ?」
うるせえ黙れ。俺の上司は幹部オクトロア様だぞ! お前幹部君のこと先輩って呼んでたし、幹部様より地位低いだろ! 言いつけるぞ!!
「街を破壊し尽くし、好きなように人々が殺害されては、我々が欲する負のエネルギーを得るのは困難になります。ここでトーレスト様にトドメを刺すのが、懸命な判断かと」
「またまた〜! 別に好きなように暴れさせてもいいと思うけどね〜。ま、ルーイちゃんがそうしたいなら、俺はわざわざ止めたりはできないかな。先輩の命令かもしれないしね」
ていうことは、トーレスト君は始末しちゃってもオッケー!ってことかな? にしてもうざいなこいつ。
まあ、言質は取った。これで、俺が幹部様にこっぴどく叱られることも多分ないだろう。
「まあ、そういうことらしいから」
「本当に、組織の考えなの? ねえ、ブラックルーイ、貴方、本当は……」
ちょちょちょ、はやいよそれは!
まだ、”敵かもしれないけど、なんか共闘してくれた! 良い子なのかも…?“くらいのポジションの方がいいんだよ。もう、“敵だけど本当は良い子で、心の奥底では正義の魔法少女になりたいと思ってるんだ!”になっちゃってそう。もうちょっと敵役やりたいんだけどなぁ…。
「協力してくれるなら、今はそれでいい。そうでしょ? キューティ」
「……そうだね……。わかった」
まあ、いいや。
後でバッドでガールな行動して、“敵なん共かも”ポジに戻すぞ。略して“なんかも”ポジってね。
「さて、キューティバース。トーレスト様……いや、トーレストを倒すのに、何か策はある?」
「策……特には……」
「キューティ、それにブラックルーイ。あの大男は、魔法が扱えない。あのいけ好かない男がそう言ってた記憶がある」
「魔法が扱えない?」
そうだっけ?
確か……。
【とにかく、魔法こそ扱えなくなるけど、…………】
そんな感じのこと言ってたな。確かに、幹部トーレストは魔法を扱うことができない。
けど、スターチススクラッチやキューティバースがボロボロになるくらいだ。魔法がなくとも、そのフィジカルが凄まじいんだろう。
「うん。だから、あいつの動きさえ封じれば。……私の『クールポイズン』なら、それができる」
「でも、動きを封じても、それって結局、ブラックルーイが今『ブラックハンド』でトーレストの動きを止めているのと、状況的には変わらないんじゃ…?」
「『ブラックハンド』による拘束は一時的なものだし、私がずっと『ブラックハンド』を発動してなきゃならない。けど、『クールポイズン』で完全に動きを封じれば、とりあえずトーレストが危害を加えてくる心配はなくなるから、状況自体は変わるよ」
「そっか、確かにそうだね。わかった。それじゃ、ブラックルーイが『ブラックハンド』でトーレストを拘束している間に、ホワイトが『クールポイズン』を打ち込んで、トーレストを無力化するって流れでいいかな?」
「うん、それでいいと思う」
ただ、『クールポイズン』も永続ってわけじゃないしなぁ。俺も初めてホワイトポイズナーに出会ったときに『クールポイズン』を食らったけど、1日あれば魔法の効果は切れるし。
だから、本当に一時凌ぎでしかない。
本当の意味で、トーレストの脅威を退けるためには、トーレストを倒す必要がある。
「キューティ、トーレストをただ止めるだけじゃ、街は救えない。トーレストを倒さなければ、トーレストは再び動き出し、ただその力を壊すためだけに振るうだけだよ」
「それは……」
「私とホワイトポイズナーがトーレストを無力化する間に、考えておいてね。行くよ、ホワイト」
「……わかった」
秘技、丸投げ大作戦!
まあ、無力化したならタコ殴りでもいいと思うけど、なんか嫌だしなぁ。
さて、俺は『ブラックハンド』を維持し続けることに注力する。
さらっと会話やってのけてたけど、トーレストってば力強いんだよ。
その証拠に、トーレストは俺の『ブラックハンド』に押さえつけられながらも、全力で抵抗し、何とかして暴れて、拘束から逃れようとしている。
普段よりも『ブラックハンド』に割く魔力量を多くすることで、どうにか抑え込んでるんだけど、今の状態でも、下手に近づくのは危険だ。
ホワイトポイズナーは、中々安全に『クールポイズン』を打ち込むタイミングが掴めないみたいだった。
仕方ない。ちょっと無理しちゃおうかな。
俺は懐から『ブラックナイフ』を取り出し、自身の体に傷をつける。
リスカがしたかったわけじゃない。これは、俺の魔法の発動条件になる。
「『ブラッドフィッシュ』」
俺の流した血液から、小さな魚達が生まれる。魚達はトーレストの周囲を動き回り、彼の注意を惹きつける。
「ホワイト!」
「うん。いける! 『クールポイズン』」
トーレストが『ブラッドフィッシュ』に夢中になっている隙に、ホワイトはトーレストの背後に回り、彼に『クールポイズン』を打ち込む。
これで、トーレストの無力化は完了した。